英雄伝説~光と闇の軌跡~(FC篇)
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第59話
~ルーアン市長邸・2階大広間~
ダルモアが飼っていた巨大魔獣達は手強く、手配魔獣並の強さであり、さすがのエステル達も苦戦した。
「「ぐる!」」
「くっ!」
「っつ!」
突進しながらの角での攻撃にエステルとヨシュアはそれぞれの武器で防御したが、魔獣達の力が強く押されていた。
「やば……!」
どんどん押されて、角が自分に迫っている事に気付いたエステルは焦った。
「エステル!一端下がろう!力比べでは僕達が不利だ!」
「わかった!」
ヨシュアの指示に頷いたエステルは武器を退いて、一端下がったが
「「ガウッ!」」
「いたっ!?」
「くっ!?」
その隙を逃さず襲いかかった魔獣達の攻撃を受けてしまい、身体に傷が出来て苦悶の声を上げた。
「このっ!」
「せいっ!」
攻撃を受けた後、反撃をした2人だったが魔獣達は後ろに跳んで回避した。
「癒しの水よ……彼らの傷を癒したまえ………ラ・ティアラ!」
そこにクローゼの回復アーツが発動し、エステルとヨシュアの傷を治した。
「ありがとう、クローゼ。」
傷を治したクローゼにエステルはお礼を言った。
「いえ。……それにしても2体の巨大魔獣はやっかいですね………」
「そうだね……何か手は……そうだ!エステル、召喚をしてくれないかい!?」
「いいけど……誰を召喚するの?」
「……目には目を。獣には獣だよ、エステル。」
「!わかったわ!……サエラブ!」
(……我の出番か。)
ヨシュアの言葉を理解したエステルはサエラブを召喚した。
「一人で一体を任せてもいい!?あいつら結構手強いのよ!」
(フン。あのような人間に飼われた犬ごとき、我のみで十分だ!一体ごときすぐに葬るから、お前達も残りの一体をとっとと葬るがいい。)
「了解!」
そしてサエラブは魔獣の一匹に炎の玉をぶつけた!
(喰らえ!)
「ぐる!?」
炎の玉を受けた魔獣は悲鳴を上げてのけ反った。
「ガウッ!」
仲間が傷つけられた事に気付いたもう一体の魔獣がサエラブに襲いかかろうとしたが
「いっけ~!火弾!」
「ガウッ!?……うるる……!」
エステルが放った魔術を受けて、魔術を放ったエステルに標的を変えた。
「「時の刃よ、水よ!!ソウルブラー、アクアブリード!!」」
「ガァッ!?」
さらにそこにヨシュアとクローゼが発動させたアーツが当たった。
「あんたの相手はこっちよ!」
「うるるる……!」
エステルの挑発を受けて、もう一体の魔獣は標的をエステル達に変えて襲いかかった。
「……大地の力よ、我が仇名す者の力を我の元に……!地脈の吸収!!」
「うるっ!?」
さらにエステルの魔術によって、魔術によって発生した木の根が魔獣に絡み付き魔獣は身動きが出来なかった。
「はっ、朧!」
「えい、やあ、はあ!」
「うるっ!?」
そこにヨシュアとクローゼが挟み撃ちにするかのようにそれぞれクラフトを放って傷を増やした。さらにそのすぐ後絡み付いている木の根が光った。
「うるっ……!?ガァァっ!?」
魔術の木の根によって力を吸い取られた魔獣は叫び声を上げた。
「行くよ……!ふん!はっ……はっ………断骨剣!!」
「ガァッ!?」
そして追撃をするかのようにヨシュアのSクラフトが全て決まり、魔獣に致命傷を与えた。
「……水流よ、吹きあがれ!……ブルーインパクト!」
「うるっ!?」
さらにクローゼのアーツが発動し、アーツによってできた水流が魔獣を宙に浮き上がらせた後、水流がなくなると魔獣は地面に落ちて来た。さらに落ちて来た魔獣を狙って、エステルが棒に魔力によってできた雷を帯びさせてSクラフトを放った!
「これで決める………ハァァァァァァ!雷波!無双撃!」
「ガァァァァァッ………!」
クローゼのアーツによって全身濡れていた魔獣はエステルの放った雷を帯びた攻撃によって感電し、さらに技の威力も相まって断末魔を上げながら消滅した。
一方一人で魔獣を相手にしていたサエラブは自分が相手をしている魔獣の異変を感じ取った。
「ぐるっ!?ぐるるるるっ!」
(む?奴の気配が少し変わった………!)
魔獣から違和感を感じて、サエラブは警戒した。
「ぐるっ!」
(む!先ほどより動きがよくなっただと!?)
動きがさっきより素早くなった魔獣にサエラブは驚いたが、冷静に突進してくる魔獣を迎え撃った。
「ぐるっ!」
(むん!)
角による攻撃をサエラブは爪で受け止めた。サエラブの爪と魔獣の角はお互い押しあって、自分の敵を攻撃しようとしたが、勝負は拮抗していた。
(……なるほど。先ほどエステル達が葬った魔獣の咆哮によって仲間を強化させたか……ただでは死なぬという訳か………)
サエラブは敵が強くなった理由を冷静に推測した。そして勝負がつかないと思った魔獣は一端後ろに跳び、角をサエラブに向けて助走をして突進する態勢に入った。
(フン……一気に勝負をつける気か……ならば、その選択がどれほど愚かである事を思いしらせてやろう……!)
魔獣の態勢を見て、サエラブは鼻をならした後飛び掛かる態勢になり、自らの身体に炎を纏った!
「ぐるっ!」
(フン!)
助走した事によってさらに勢いをました魔獣の突進攻撃にサエラブは炎を纏った身体で飛び掛かって応戦した。
「ギャン!?ガァァァァァッ!?」
サエラブの炎を纏った突進クラフト――”炎狐強襲”の威力に負けた魔獣は壁まで吹っ飛ばされた後、体が燃えて悲鳴をあげた。
(終わりだっ!)
「ガッ………ガァァァァァッ………!」
サエラブに喉元を噛まれた魔獣はエステル達が倒した魔獣のように断末魔をあげながら消滅した。
(フン。………どうやら、終わりのようだな………)
魔獣の消滅を確認したサエラブはダルモアに武器を突きつけたエステル達を見た。
「ば、馬鹿な……。私の可愛い番犬たちが……。貴様ら、よくもやってくれたな!」
自分の飼っていた魔獣達がやられた事にダルモアは怒鳴った。
「はあはあ……。それはこっちの台詞だっての!」
「遊撃士協会規約に基づきあなたを現行犯で逮捕します。投降した方が身のためですよ。」
「ふふふふふ……。こうなっては仕方ない……奥の手を使わせてもらうぞ!」
エステル達に追い詰められたダルモアは懐から杖を出した。
「え!?」
「杖……?」
何かあると思ったエステル達は慌ててダルモアを取り押さえようとしたが
「時よ、凍えよ!」
ダルモアが杖を掲げて叫ぶと、杖の宝石部分が妖しく光り、エステル達の動きを止めた。
「か、身体が動かない……!」
(ぐっ……!体が……!)
「こ、これは……導力魔法なのか?」
「ち、違います……。これは恐らく『古代遺物』の力!」
「なんだあ、そりゃあ!?」
身動きが出来なくなったエステルやサエラブは驚いた後なんとか体を動かそうとしたが動かなかった。杖の光の正体をにヨシュアは信じられない顔で推測して言ったが、クローゼが確信を持った表情で答え、それを聞いたナイアルは驚いた。
「ほう、クローゼ君は博識だな。これぞ、わがダルモア家に伝わる家宝、アーティファクト『封じの宝杖』……。一定範囲内にいる者の動きを完全に停止する力があるのだよ。」
クローゼの説明にダルモアは凶悪な表情で感心した後、杖の正体を言った。
「な、なんてデタラメな力……」
「こんな強力なアーティファクトが教会に回収されずに残っていたのか……」
杖の力にエステルは驚き、ヨシュアはダルモアの予想外の切り札に無念を感じた。
「フフ、さすがは古代文明の叡智の結晶……。戦術オーブメントごときとは比較にならぬ力を備えている。もっとも、1つの機能しか持っていないのが難点だがね。」
杖を自慢したダルモアは懐から銃を出して、エステル達に近寄った。。
「仕方ないから、君たちの始末は私自らの手で行ってあげよう。ククク……光栄に思うのだな。まずはそうだな……生意気な小娘から始めて……」
ダルモアは凶悪な表情で銃をエステル突きつけて言った。
「むっ、何が生意気よ!」
(…………………)
銃を突きつけられてもエステルは強気な態度で言い返した。契約者の窮地を救うためにもサエラブは冷静になり、ダルモアの隙を窺った。
「最後に賢しらな小娘の息の根を止めるとしようか?」
「………………………………」
同じように銃を突きつけられたクローゼは動じず、ダルモアを厳しい表情で見た。
「ククク……さっきの威勢はどうした?命ごいでもすれば助けてやらんでもないぞ?」
「だ、誰があんたなんかに……」
「汚い手で……るな……」
「なに?」
(む………!この気配は……!)
エステルにゆっくりと近付いて行くダルモアに向かってヨシュアは途切れた声で呟いた。ヨシュアの言葉が気になったダルモアは聞き返し、サエラブはヨシュアからただならぬ気配を感じた。
「汚い手でエステルに触るな……。もしも……毛ほどでも傷付けてみろ……。ありとあらゆる方法を使ってあんたを八つ裂きにしてやる……」
ダルモアに向かってヨシュアは誰にも見せた事のないような冷酷な眼差しでダルモアを睨んだ。
「な……」
ヨシュアの睨みにダルモアは気圧されて後ずさった。
「ヨ、ヨシュア……」
「ヨシュアさん……」
(なんという強烈な負の気………!小僧……貴様、何者だ………!)
ヨシュアの言葉と表情にエステル達は驚き、サエラブはヨシュアの正体が何者か怪しく思った。
「ゆ、指一本も動かせぬくせに意気がりおってからに……。いいだろう!貴様の始末を先にしてやる!」
後ずさったダルモアは気を取り直して標的をヨシュアに変えた。
「や、止めなさいよっ!ヨシュアを傷付けたら絶対に許さないんだからねっ!」
「………………………………」
銃を突きつけられてもヨシュアは冷酷な表情でダルモアを睨み続けた。
「ヨシュアさん!」
ヨシュアの窮地にクローゼは叫んだ。
「死ね。」
ダルモアが銃の引き金に指をかけた時
「だめえええええええっ!!!!」
エステルが叫んだその時、エステルの胸元から黒い光が放たれた。
「な……!」
黒い光にダルモアは驚き、後退した。そして黒い光は部屋全体に広がり、エステル達の体が動くようになった。
「な、なぬううううううっ!?」
「身体の自由が……戻った?」
「エステル……今の黒い光は?」
「う、うん……。父さん宛に届いたあの黒いオーブメント……」
エステル達が動けるようになった事にダルモアは驚き、ヨシュアの疑問にエステルは懐からカシウスから預かった謎の黒いオーブメントを出した。
「これが光ったみたいだけど……」
「そ、そんな馬鹿な……。家宝のアーティファクトがこんなことで壊れるものかああ!」
(………そこだ!)
喚いているダルモアの隙を狙ってサエラブは杖を持つ手に向かって飛び掛かった!
「なっ………!」
ダルモアが気付くといつの間にか持っていた杖は強奪したサエラブが口に咥えて、エステル達のところにいた。
「ナイスよ、サエラブ!」
「これでもうあなたの切り札は使えません……現実を見た方がいいんじゃありませんか?」
「そうよ!」
武器を構えたヨシュアに同じるようにエステルは武器を構えた。
「よくも悪趣味なやり方でいたぶってくれたわね~っ!」
「最低です……」
武器を構えながらエステルは怒り、クローゼも武器を構えてダルモアは軽蔑した。
「ううううううううう……。誰が捕まるものかっ!」
武器を突きつけられたダルモアは唸った後、わき目も振らず隠し部屋に入って逃げた。
「ああっ!」
逃げたダルモアを見て、エステルは驚いた。
「追いかけるよ!」
「はい!」
「うん!サエラブ、ありがとう!戻って!」
(ああ。)
サエラブは口に銜えていた杖をその場に置いて、光の玉となってエステルの身体に戻った。そしてエステル達はダルモアを追った。
「ああっ、待ちやがれ!こ、こんなスクープ、逃してたまるかってんだ!」
一足遅れてナイアルがダルモアやエステル達を追って行った。
「うーん……魔獣が、魔獣がああ……」
「やれやれ……寿命が縮みましたぞ……。閣下、大丈夫ですか、閣下……」
部屋に残されたフィリップは安心した後、気絶しているデュナンを介抱した。
隠し部屋に会った梯子を下りて、外に出るとヨットに乗って逃走しているダルモアの姿があった。
「あ、あれは……」
「ダルモア市長のヨットです!」
「ま、待ちなさいっての!」
「このボートで追いかけよう!さあ、2人とも乗って!」
近くにあったボートを見つけたヨシュアはすぐに乗り込み、ボートのエンジンをかけてエステル達にボートに乗るよう促した。
「オッケー!」
「はい!」
「こらー!俺も乗せやがれってんだ!」
エステルとクローゼは素早くボートに乗り込み、遅れてきたため、ボートに乗れなかったナイアルの叫びを背に、たヨシュアはエンジンを全開にしてダルモアのヨットを追い掛けた。
~ルーアン市内~
エステル達を乗せたボートはどんどんダルモアのヨットとの距離に少しづつ縮まって行った
「よーし、近づいてきた!」
「こちらの方が小型な分、船体は軽いみたいですね。」
エステルやクローゼはダルモアに追いつけるかもしれない事に表情を明るくした。
「くっ……しつこいヤツらだ……。これでも喰らえっ!」
近付いて来るエステル達に焦ったダルモアはエステル達に向けて銃を何発も撃った。しかし
「とりゃあっ!」
エステルは棒を自分の目の前で回転させて、銃弾を弾いた。
「な、なにいい!?」
銃弾が全て防がれた事にダルモアは驚いた。
「ふふん、遊撃士を舐めんじゃないわよっ!ヨシュア、そのまま右側につけちゃって!」
「了解。……あれっ?」
ヨシュアがヨットの側面にボートをつけようとしたその時、ダルモアを乗せたヨットが加速した。
「い、いきなり速くなった!?」
「これは……沖合いを流れる風です!」
「まずいな、こうなったらヨットの方が断然有利だ……」
ヨットが速くなった事にエステルは驚き、原因がわかったクローゼが説明し、それを聞いたヨシュアが表情を険しくした。
「あ、あんですってー!?」
「わはは、女神は私の方に微笑みかけてくれたようだな!それではさらばだ、小娘ども!」
そしてダルモアは高笑いをしながらエステル達から逃げて行った。
「冗談じゃないわよ!あと一歩のところで~っ!」
「このままだと高飛びされかねない……。なにか手段は……」
ダルモアに追いつけなかった事にエステルは悔しがり、ヨシュアはダルモアに追いつく手段を考えたその時、上空からエンジン音が聞こえて来た。
「な、なに……?」
「……来た」
謎のエンジン音にエステルは不思議な顔をし、クローゼは静かに呟いた。するとエステル達のボートの上を大きな飛行船が飛んで行った。
「フン、逃げたはいいがこれからどうしたものか……。やはり、軍の手が回る前にエレボニアに高飛びするしかないか。なあに、しばらく我慢すれば『彼』が何とかしてくれる……」
一方逃亡が成功したと思ったダルモアは独り言を呟いた後、念の為に後ろを振り返ると大きな飛行船がダルモアのヨットに向かってきた。
「な、な、なああああああっ!?」
飛行船はダルモアのヨットの進路を塞ぐように着水した。飛行船が着水した衝撃でできた水飛沫により、ダルモアのヨットが停止した。
「な、な、な……。うわあああっ!な、なんだこの飛行船は!王国軍の……いや、この紋章は……」
「……王室親衛隊所属、高速巡洋艦『アルセイユ』。それがこの艦の名前だ。」
飛行船に彫ってある紋章を見て驚くダルモアに答えるように、飛行船から王室親衛隊員達を連れた女性士官が現れて答えた。
「やれやれ……何とか間に合ったみたいだな。」
「蒼と白の軍服……女王陛下の親衛隊だと!?」
女性士官の軍服を見たダルモアは驚いて叫んだ。
「その通り。自分は中隊長を務めるユリア・シュバルツという。ルーアン市長、モーリス・ダルモア殿。放火、傷害、強盗、横領など諸々の容疑で貴殿を逮捕する。」
「これは夢だ……夢に決まっている……。うーん、ブクブクブク……」
女性士官――ユリアの宣告にダルモアはショックを受けてヨットの上で気絶した。そのすぐあとにエステル達のボートが到着した。
「こ、これって……どうなっちゃってるの?」
「ジャンさんが連絡してくれた王国軍の応援だと思うけど……。それにしては来るのが早すぎるような……」
「……ふふ………」
状況を見てエステルとヨシュアは驚き、クローゼはその後ろで静かに笑っていた。
「やあ、遊撃士の諸君。諸君の協力を感謝する。後のことは我々に任せてほしい。」
こうしてマーシア孤児院放火事件とテレサ襲撃を命じた黒幕、ルーアン市長ダルモアは親衛隊員によって身柄を拘束された………
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