英雄伝説~運命が改変された少年の行く道~(閃Ⅰ篇)
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第48話
~ノルドの集落~
「……お、美味しい……」
「ええ……初めて食べる味ですが……凄く美味しいです。」
ウォーゼル家が用意した郷土料理の美味しさにエマとプリネは驚き
「これ、どんな風に味付けしてるんですか!?」
アリサは興味ありげな表情でファトマに尋ねた。
「キジ肉を、岩塩と香草で包み焼きしてるの。帝国の方の口には合わないかもしれないけど。」
「とんでもない……どれも凄く美味しいです。この炙った串焼きも味が深くて美味いなぁ……」
謙遜している様子のファトマの言葉に首を横に振って答えたリィンは串焼きを美味しそうに食べた。
「あ、それはカバブっていう羊肉を串焼きにした料理です。」
美味しそうに食べているリィンにトーマは説明し
「……どの品もとても美味しく頂いている。他の地方に行った班に申し訳ないくらいの味だ。」
「ええ……他の班の方達用のお土産に持って帰ってあげたいくらいですよ。」
満足な様子で食事しているユーシスと共にプリネは微笑みながらファトマを見つめた。
「ふふっ、よかった。精霊様達はいかがですか?」
二人の言葉に微笑んだファトマはリィン達と共に食事しているフィニリィ達に視線を向けた。
「美味しく頂かせてもらっていますわ。ミルモも貴女達に用意してもらったそちらの果物にとても満足していると言っていますわ。」
「…………♪」
フィニリィはファトマに微笑み、ミルモは嬉しそうな表情で目の前にある果物を一生懸命食べ続け
「うむ、美味であるぞ!古くから受け継がれてきた歴史を感じさせる素晴らしき郷土料理だ!」
「そうね。こんな美味しい郷土料理は久しぶりよ。」
「えへへ、この鶏肉を使った料理、凄く美味しいよ♪」
(というか鳥翼族が鶏料理を口にするのって共食いにならないのかしら?)
アムドシアスは料理を称賛し、アムドシアスの称賛に人間の姿になっているベルフェゴールは頷き、ペルルは美味しそうに目の前の料理を食べ、ペルルが食べている鶏肉を使った料理を見たプリネは冷や汗をかいて表情を引き攣らせた。
「えっと、すみません。ミルモ達の分まで用意してもらって……」
「ふふっ、気にしないで下さい。自然の恵みを頂いて生活をしている私達としては精霊様の来訪はとても光栄なことですし、異種族の方達も異世界からわざわざこんな辺境にまでいらっしゃったのですからおもてなしをしないと失礼ですし。」
申し訳なさそうな表情をしているアリサにファトマは微笑みながら答え
「えへへ、おかーさんのゴハン、だいにんきだねー。セーレイさまたちもオイシイっていってるし。」
リリは嬉しそうな表情でファトマを見つめた。
「長旅で疲れていたのもあるのだろう。ノルド料理は疲労に効く滋養の高いものが多いからな。」
「なるほど、確かに身体の芯から効いてくるような。」
ラカンの説明を聞いたリィンは納得した様子で頷き
「……あとでレシピを聞いてシャロンにも教えてあげようかしら。」
アリサは興味ありげな表情で考え込んでいた。
「あのあの、こちらのお茶も召し上がってくださいっ。ノルドハーブを使った消化にいいお茶でっ……」
「ふふ、ありがとう。」
「ほっとするような懐かしい味ですね……」
その後夕食を終えたリィン達はラカンからノルド高原についての説明を受けていた。
「―――このノルドの地はある意味、とても自由な場所だ。帝国人である君達には新鮮であり、不便でもあるだろう。だが、そんな場所であっても君達と関係がないわけではない。」
「士官学院を創設したドライケルス大帝……ですね。」
「”獅子戦役”においてこの地で挙兵した逸話ですか。」
ラカンの話を聞いたエマとリィンはそれぞれノルド高原と士官学院の関係を思い出した。
「ああ、ノルドの民の間でも伝承として語り継がれている。そして戦役が終わった後、ノルドの民は、彼の継いだ帝国と長きに渡る友情を誓い合った。その善き関係が、今日に至るまで継いでいるというわけだ。」
「なるほど、ノルドの地は正確には帝国領ではない……」
「共に誓い合った隣人同士というわけですね。」
「とても素敵な関係ですね。」
説明を聞いていたユーシスとリィンはそれぞれ頷き、プリネは微笑んだ。
「ああ、しかし昨今、”カルバード”という東の大国が高原の南東に進出してきた。東に住む一族などは交流を深めているようだが……どうやら、それが少しばかり緊張をもたらしているようだな。」
「……帝国と共和国は昔ながらの宿敵同士ですから。」
「ここ数年、直接的な戦争こそ起きていませんけど……政治・経済的な対立はむしろ深まっていますね。」
「つい最近も、クロスベルで大きな事件が起こったようだが……その背景にも、帝国派と共和国派の対立関係があったと聞いている。確か……その事件の解決を手伝った事がきっかけでメンフィル帝国も”クロスベル問題”に関わるようになったのだったな?」
「ええ……イリーナ様とイリーナ様の祖父であるマクダエル議長の希望で今までお二人の関係は隠していましたが……もはや見過ごせない事態と判断したメンフィル帝国が少しでも”クロスベル問題”を緩和できるように公表し、強引なやり方になりますが介入する事にしたんです。」
ユーシスに視線を向けられたプリネは静かな表情で頷き
「そうだったんですか……」
意外な事実を知ったリィンは目を丸くしてプリネを見つめ
「……………………」
ガイウスは何も答えず黙って父親を見つめていた。
「まあ、とはいえノルドは双方にとっても辺境の地だ。監視塔なども建っているがさほど心配する必要はないだろう。あまり気にせず”特別実習”に集中するといい。」
「わかりました。」
「何でも実習の課題を用意してくださったとか?」
「ああ、一通り用意してある。今日はもう遅いから明日の朝、改めて渡すつもりだ。それと”実習”の範囲だが……少なくても午前の間は南西部に限るのがいいだろう。
「南西部というと……」
「今日、私達が通ってきた場所ですね。」
「何か理由があるのですか?」
ラカンの説明を聞いたユーシスとエマ、プリネはそれぞれ目を丸くし
「ああ、ノルドの地は広い。北にも高原は広がっているがまずは南西を回ることにしよう。」
プリネの疑問に答えたガイウスが提案した。
「ああ、わかった。」
「そうなると、朝の課題はその範囲の物になるんですね?」
「ああ、その通りだ。―――ガイウス、昼頃には戻ってくるようにしておけ。昼餉の際に残りの課題を渡すとしよう。」
「わかった、父さん。」
「それでは、今日のところはこのくらいで休むといいだろう。遊牧民の朝は早い――――ゆっくり休んで疲れを取るといい。」
その後リィン達は明日に迎えて休む為に自分達用に用意された住居に移動した。
「すまないな、男女別で用意できればよかったんだが。」
「ううん、気にしないで。」
「ええ、それにみんなそれぞれ最初の実習の時に同じ部屋で泊まっていますから今更ですよ。」
「リィンさんとユーシスさんなら紳士なのは間違いありませんし。」
謝罪するガイウスにアリサ達―――A班の女子勢は気にしていない事を言い
「フン……当然だ。」
「はは、とにかくありがたく使わせてもらうよ。ガイウスは当然、実家の方で寝るんだろう?」
アリサ達の言葉を当然に受け取っているユーシスを苦笑しながら見ていたリィンはガイウスに尋ねた。
「ああ、妹たちにもせがまれてしまったからな。朝、日の出に合せて起こしに来るが大丈夫か?」
「ええ、何とか。」
「さすがに今日はすぐにでも寝られそうですし―――」
「是非お願いします。」
「構わず起こしに来るがいい。」
「わかった。それでは良い夢を。」
「ああ、おやすみ。」
そしてガイウスは外に出て自分の住居に向かった。
「フッ……何と言うか色々と恵まれている男だな。」
ガイウスが去るとユーシスは静かな笑みを浮かべ
「そうね……食事の時にも思ったけど。素敵なご両親に、可愛らしい兄弟たちか……」
「まさに”理想の家族”といってもおかしくありませんね。」
「それと高原の雄大な光景と自然と共に生きる日々……そういった環境がガイウスさんの悠然とした所を育んだのかもしれませんね。
A班の女子達もそれぞれが感じた事を口にした。
「ハハ、そうだろうな。―――明日は早い。俺達もそろそろ休むか。」
「ああ、異論はないぞ。」
「もうクタクタ……すぐに寝られそうだわ。」
「長時間の列車移動は凄く疲れましたからね……」
「ふふ、それじゃあ着替えたら明かりを消しましょうか。」
その後リィン達は長旅で疲れた身体を休め、明日に備える為にも明かりを消した後すぐにベッドに入って休み始めた…………
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