英雄伝説~運命が改変された少年の行く道~(閃Ⅰ篇)
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第3章~鉄路を越えて ~蒼穹の大地~ 第39話
6月15日―――
6月中旬―――若葉の季節を過ぎたトリスタでは珍しく長雨が続いていた。各地で実習を終えたリィン達”Ⅶ組”メンバーは通常の授業に戻っていた。目の回るほど忙しい日々と、ついて行くのでやっとの授業にようやく慣れてきた頃……かねてより告知されていたイベントがリィン達全員を待ち受けていた。
~トールズ士官学院・1年Ⅶ組~
「さて―――前から予告した通り、明日から”中間試験”になるわ。ま、基本は座学のテストだからあたしやレーヴェには何の力にもなれないけど。一応、それぞれ試験官として温かく見守るからせいぜい頑張ってちょうだい。」
「―――くれぐれもカンニングなどの不正行為をしないように。……まあ、俺の目を誤魔化せたらある意味称賛すべきかもしれんが。」
サラ教官の説明に続くようにレーヴェは答えた後口元に笑みを浮かべ
「完全に他人事ですね……」
「私達の成績が悪かったら教頭に嫌味を言われるんじゃ?」
二人の話を聞いたリィンとアリサは呆れ
「レーヴェがわたし達のクラスの試験官にならないように、今から女神に祈っておこうかな。」
「フィ、フィーさん……」
(というかその女神の一族は不正行為を許さないエステルさんだから、祈っても無駄……というか逆に天罰を降しに来ると思いますけど……)
レーヴェから視線を外して呟いたフィーの言葉を聞いたツーヤは冷や汗をかき、プリネは苦笑していた。
「フフン、このクラスにはけっこう成績優秀者が多いしね。せいぜい結果を楽しみにさせてもらうわ。そうそう、試験結果の発表は来週の水曜日よ。個人別の総合順位も掲示板に貼りだされるから。」
「成績で恥をかきたくないのなら、せいぜい頑張る事だな。」
「レ、レーヴェ……」
(レーヴェさんも完全に他人事ですね……)
サラ教官と共に答えたレーヴェの話を聞いたプリネは冷や汗をかき、ツーヤは呆れた表情をしていた。
「はあ……憂鬱だなぁ。」
「……超絶めんどくさい。」
二人の説明を聞いたエリオットは疲れた表情で溜息を吐き、フィーはジト目になり
「むむ、今度こそはエマ君に勝たなくては……」
「あはは……」
マキアスに名指しされたエマは苦笑していた。
「―――それともう一つ。クラスごとの平均点なんかも発表されたりするのよね~。」
「クラスごとの平均点……」
「フン、クラス同士の対抗心に火をつけるのが狙いか。」
「なんか、露骨なやり方ですよね……」
「ふむ、それはそれでやり甲斐がありそうだ。」
「そうですね。クラスが一丸となって勉強するきっかけにもなりますし。」
サラ教官の話を聞いたガイウスは考え込み、ユーシスは鼻を鳴らしてツーヤと共に呆れた表情をし、ラウラとプリネはそれぞれ興味ありげな表情をしていた。
「さて、まだ昼過ぎだけど今日のHRは以上よ。残って試験勉強でもするか寮に帰るかは君達に任せるわ。委員長、挨拶して。」
「はい。起立―――礼。」
そしてHRが終わるとリィン達は全員集合した。
「は~、どうしようかな。どの教化も心配だけど特に数学が厳しそうなんだよね。」
「だったら僕が見てもいいぞ?復習をするつもりだったし、まあ、片手間でよければだが。」
不安そうな表情をしているエリオットの話を聞いたマキアスは申し出
「え、ホント?やったぁ、助かるよ!」
マキアスの申し出を聞いたエリオットは嬉しそうな表情をした。
「オレは帝国史がやや不安だな。一応、授業で習ったところは把握できているとは思うが……」
「よかったら付き合おう。代わりと言ってはなんだが軍事学の設問を手伝ってくれ。」
「ああ、喜んで。」
一方ガイウスとユーシスも互いに共に勉強する事を約束した。
「フィーちゃんも、よかったら試験勉強に付き合いますか?」
「……むう。面倒だけど付き合う。」
エマに微笑まれたフィーは頬を膨らませながら頷き
「あ、だったら私もご一緒させてほしいかも。古典がちょっと不安なのよね。」
「あたしもお願いします。歴史や古典が不安ですので……」
「ええ、喜んで。よかったらラウラさんとプリネさんもご一緒しませんか?」
アリサとツーヤの頼みに頷いたエマはプリネとラウラに視線を向けた。
「ええ、いいですよ。」
エマの誘いにプリネは頷いたが
「いや……―――せっかくだが今日は遠慮しておこう。少々、個人的に復習しておきたい教科があってな。先に失礼する。」
ラウラは一瞬フィーに視線を向けた後誘いを断り、教室から出て行った。
「……?どうしたのかしら?」
「何だか、いつものラウラさんらしくありませんでしたね。」
ラウラの様子にアリサとツーヤは首を傾げ
「そうですね……」
「何かあるのでしょうか……?」
「……………………」
エマとプリネは考え込み、フィーはラウラに視線を向けて黙り込み
(今、一瞬フィーのことを見ていたような……?)
ある事が気になったリィンはラウラが去って行く様子を見つめていた。
「ねえねえ、リィン。」
「っと、どうした?」
その時エリオットに呼ばれ、エリオットに視線を向けた。
「リィンはこのまま寮に帰っちゃうの?」
「よかったら一緒に試験対策でもするか?」
「そうだな……とりあえず、すぐには帰らないつもりだよ。もしかしたら、どちらかにお邪魔させてもらうかもしれない。」
「ああ、了解だ。」
「気が向いたら来るがいい。」
その後リィンは学院内を回ってクラスメイト達やトワやアンゼリカと共に試験対策の勉強をした後寮に帰る為に学院を出た。
「もし……」
リィンが傘をさして学院を出ようとするとリィンを呼び止める声が聞こえた。すると正面から一人のメイドがリィンに近づいてきた。
「雨の中、お呼び止めして申し訳ありません。こちらの学院の学院長室はその建物でよろしいでしょうか?」
「あ、はい。本校舎の1階右翼ですね。受付の人は帰ったかな……よかったら案内しましょうか?」
「ふふっ……ありがとうございます。ですが、そこまでお手を煩わせるわけには参りません。それでは失礼します―――リィン様。」
リィンの申し出を遠慮したメイドはスカートを摘み上げて会釈をした後入口に近づき、傘をしまうと再びリィンに一礼をして校舎内へと入って行った。
「……………………………」
メイドが去るとリィンは黙って考え込み
(あら♪もしかして好みのタイプだったのかしら♪)
「違うから。それより……今の人、俺の名前を呼んでいたよな……?」
ベルフェゴールの念話に呆れた表情で答えた後考え込んだ。
「あら、リィン?」
その時アリサが近づいてきた。
「アリサか。そっちも帰りなのか?」
「ええ、エマやプリネ達はまだ残って勉強していくみたいだけど。私の方は寮に戻って明日に備えることにするわ。」
「そうか……えっと、せっかくだから一緒に帰るか?」
「そ、そうね。」
リィンの申し出にアリサは頬をやや赤らめた後リィンと共に下校し始めた。
~トリスタ~
「その、考えてみたら2人で帰ることなんて珍しいわね。」
リィンと共に下校しているアリサはリィンから僅かに視線を逸らして呟き
「そう言えば……ハハ、ひょっとしたらこれも雨の日のおかげかな?」
(あら♪)
苦笑しながら言ったリィンの言葉を聞いたベルフェゴールはからかいの表情になった。
「…………………………貴方、よく天然って言われることない?」
一方アリサはジト目でリィンを見つめた後尋ね
「へ……?うーん、別にそんなことは。ああ、でもなぜか妹達には何度か言われた事があったな。」
尋ねられたリィンは首を傾げた後双子の姉妹に言われた時の事を思い出した。
「はあ……その妹さん達とは気が合いそうな気がするわね。」
「???」
(フフ、ご主人様に射止められた者同士としてかしら?)
疲れた表情で溜息を吐いたアリサの言葉を聞いたリィンは首を傾げ、ベルフェゴールは口元に笑みを浮かべて見つめていた。
「それで、中間試験の自信の方はどうなの?」
「そうだな……やれることはやったけど。ベストを尽くせたかといえばちょっと厳しいかもしれない。」
「ふふ、そっか。」
自分の質問に難しそうな表情で答えるリィンをアリサは微笑みながら見つめた。
「アリサも何気に頭が良いよな。入学試験も、委員長やマキアスの次くらいの成績じゃなかったか?」
「ううん、ユーシスの方がちょっと上だったわね。これでも地元じゃ、トップに近い成績だったんだけど……さすがに帝国は広いなって改めて実感しちゃった。」
リィンの質問に首を横に振って答えたアリサは苦笑した。
「はは、そういうもんか。アリサは確か、ルーレ市の出身って言ってたよな。あの大都市のトップというのもかなり凄いと思うけど。」
「うーん、と言っても日曜学校での成績だから。それを言うならリィンの方が凄いじゃない。」
「俺?」
アリサの言葉を聞いたリィンは首を傾げ
「えっと、プリネ達から貴方達―――”シュバルツァー男爵家”の立場はある程度聞いているわ。」
「”シュバルツァー男爵家”の立場??」
「その……元敵国の貴族だから、忠誠の証として子供のリィン達が幼いのにメンフィル帝国に留学して、軍隊やメイド等何らかの形でメンフィル帝国に仕える事になったって。」
首を傾げているリィンにアリサは言い辛そうな表情で答えた。
「ああ、その事か……とは言っても、誰かに話すような程変わった生活じゃないし、待遇だって毎日朝食と夕食がついている宿屋をわざわざ用意してもらったし、宿自体も治安が行き届いている安全な場所にある綺麗な宿屋で居心地がよかった上宿代はメンフィル帝国が全額負担してくれたから、そんなに酷い生活じゃなかったし……俺達の世界ではおとぎ話の中でしか出てこないような種族もたくさんいる上、魔術もあるから妹は絵本の世界に来たみたいだって、結構喜んでいたよ。」
「そうなんだ。学校とかはどうしていたの?異世界には七耀教会がないから、日曜学校なんてないと思うのだけど……」
「学校はメンフィル帝国が経営している学校に通っていたよ。日曜学校と比べると少しだけ進んでいたから、追いつくのに最初は苦労したし、昼食付きで朝から昼すぎまで授業があったから、慣れない内は戸惑ったよ。」
「へえ……そんなに長い時間勉強する事も驚いたけど、昼食までついているんだ……」
リィンの説明を聞いたアリサは目を丸くした。
「……その、リィン。貴方、私の名前のこと気になったりしないの?」
リィンと共にある程度歩いていたアリサはある事を思い出して申し訳なさそうな表情で尋ね
「ああ……”R”っていうファミリーネームのことか?いや、気になるけど何か事情があるんだろう?」
尋ねられたリィンは考え込んだ後尋ね返した。
「……その、別に大した事情っていうわけじゃ……貴方もそうだけど、フィーの出身とか聞いたら大したことない気がして……」
「うーん、俺はともかく確かにフィーは驚きだったな。――――”猟兵団”の出身か。どんな経緯かは気になるけど。」
アリサの話を聞いたリィンは考え込みながら呟いた。
「なんとなくサラ教官が事情を知っていそうだけど……あの二人、入学式の時から初対面じゃ無いみたいだし。」
「ああ、そうだったな。初対面といえば……さっき不思議な人に会ったんだ。」
「不思議な人?」
「ああ、アリサと会う前にちょっと話したんだけど……」
リィンはアリサと会う前に出会ったメイドの事を話した。
「へえ、貴方の名前を知っていたメイドの人ねぇ。……実は街でナンパしたことがあるとか言わないよね?」
リィンの話を聞いたアリサは目を丸くした後ある事に気付いてジト目になってリィンを見つめ
「ハハ、そんな甲斐性はないって。俺達よりも少し年上か……二十歳すぎくらいの人だったな。」
見つめられたリィンは苦笑しながら答えた。
「二十歳すぎ…………」
リィンの話を聞いたアリサはその場で考え込み
「?どうした?」
アリサの様子を不思議に思ったリィンは尋ねた。
「う、ううん、何でもないの。……そ、そうよね。”彼女”であるハズないわよね。母様のフォローで手一杯だろうしこっちにまで来るなんてことは……」
「???」
自分に言い聞かせるように独り言を呟いているアリサを不思議に思ったリィンは首を傾げた。
「コホン、普通に考えたら第一学生寮で働いている新人のメイドさんじゃない?貴方の名前を知っていたのはちょっとわからないけど。」
「うーん、そうなんだよな。」
その後寮に戻ったリィンは中間試験に備えて勉強をした後、翌日に備えて眠り始めた。
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