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納豆ジェネレーション

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4部分:第四章


第四章

「それを食べればすぐになおります」
「一体どういう病気なのかしら、本当に」
「だよね」
 千賀子と淳は顔を見合わせて言い合う。とりあえず全くもって奇妙な病気であるということだけはわかるがそれでも納得することはできなかった。
「まあそれでもよ」
「だよね。治療法がわかったし」
 二人はそのことにまずはほっとした。これで健吾は助かると思ったからだ。
 ところがであった。当の健吾は。今残されている力の限り大声を出してそれを拒むのだった。
「冗談やないで、そんなん」
「けれど納豆食べたらなおるんですよ」
「納豆みたいなもん食えるかいっ」
 お医者さんの言葉にも従おうとしない。
「そんなもん。食うたら死んでまうわ」
「食べたら助かるんですよ」
 お医者さんはあくまで抵抗する彼に対して冷静に告げる。
「納豆を食べたら」
「それでも食うてたまるかい」 
 彼は従おうとしない。
「そんなもん食う位ならこのまま死んでまうわ」
「困りましたね。御主人納豆が嫌いなんですか」
「はい、実は」
 千賀子が申し訳なさそうにお医者さんに答える。
「生粋の関西人で。とにかく納豆だけは駄目でして」
「今頃珍しい人ですなあ、それは」
 お医者さんも言葉のニュアンスからどうやら関西人らしいがそれでも首を傾げずにはいられないようであった。
「納豆を食べられない関西人なんて」
「主人の世代がそうだったらしくて」
「しかしそうも言ってはいられないんでしょ」
 お医者さんの言葉はここでも冷静であった。
「本当に食べないと死んでしまうんですよ」
「どうしてもですか」
「そうです、納豆しかありません」
 治療法はということであった。
「あの糸を引いた納豆であればそれで」
「じゃあどうしましょうか」
「まあこういう場合はです」
 お医者さんは特に焦らずに言うのだった。
「やり方がありますから」
「あるんですか」
「こういう患者さんも多いんで」
 薬を飲むことを嫌う患者ということであるらしい。
「任せて下さい」
「わかりました。それじゃあ」
「御願いします」
「何があっても食わんからな」
 その話の横で健吾は相変わらずの態度であった。
「死んでもな。このまま死んだるわ」
 しかしお医者さんは特に困った顔を見せてはいなかった。冷静にその場を後にしてそのうえでこの時はそのまま部屋を後にした。そして暫くして昼食を持って来た。それはサンドイッチであった。
「諦めたんやな」
 健吾はそのサンドイッチを見てまずは微笑んで言った。
「そや、わしは何があっても納豆だけは食わへんからな」
「あの、サンドイッチはこの人の好物ですけれど」
「けれどこれは」
「大丈夫ですよ」
 お医者さんは微笑んで千賀子と淳に答えるのだった。
「御安心下さい」
「御安心下さいって」
「納豆じゃないのに」
「ですから御安心下さい」
 お医者さんの笑みは二人の不安な言葉を聞いても変わらなかった。
「御覧になられていればわかりますから」
「そうなんですか。それじゃあ」
「それで任せますけれど」
 二人はここではお医者さんに任せることにした。そうして様子を見守ることにした。健吾はまずはそのサンドイッチを受け取ってすぐに食べはじめた。食べるのは瞬く間でそのうえで言うのだった。
 
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