英雄伝説~光と闇の軌跡~(FC篇)
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第42話
その後展望台につき、景色を楽しみながら食事をし終えたエステル達はリフィア達と合流するために宿酒場に行こうとした所、少女が探していた男の子らしき人物とエステルがぶつかった。その時、男の子に遊撃士の紋章を盗まれたと気付いたヨシュアはエステルにその事を指摘し、男の子を探して村の住民に聞いて廻った結果、近くの孤児院に住む男の子とわかり、遊撃士の紋章を取り返すためにエステルとヨシュアはマノリア村の近くにある孤児院に向かった。
~マーシア孤児院~
エステルとヨシュアが孤児院の土地に入ると、そこにはエステルのバッジを盗んだ男の子を含め3人の子供がいた。
「クラムったらどこに行ってたのよ、もう!クローゼお姉ちゃん、すごく心配してたんだからね!」
3人の中で唯一女の子のマリィが帽子を被った男の子――クラムを怒っていた。
「へへ、まあいいじゃんか。おかげでスッゲェものが手に入ったんだからさ。」
「なんなの、クラムちゃん?」
得意げにしているクラムにもう一人の男の子――ダニエルが首を傾げて尋ねた。
「にひひ、見て驚くなよ~。ノンキそうなお姉ちゃんから、まんまと拝借したんだけど……」
「……だ~れがノンキですって?」
「へっ……」
ダニエルとマリィに自慢しようとしていたクラムだったが、聞き覚えのある声に驚いて振り向いた。振り向くとそこには遊撃士の紋章の持ち主であるエステルとヨシュアがいた。
「ゲッ、どうしてここに……!」
エステルの顔を見てクラムはあせった。
「ふふん。遊撃士をなめないでよね。あんたみたいな悪ガキがどこに居るのかなんてすーぐに判っちゃうんだから!」
「く、くそー……。捕まってたまるかってんだ!」
「こらっ、待ちなさーい!」
クラムが逃げ出し、エステルが声を上げてクラムを追いかけ回した。
「あのう、お兄さん……。どうなっちゃてるんですか?」
「クラムちゃん、また何かやったの~?」
エステルに追いかけ回されているクラムを見て事情を知っていそうなヨシュアに2人は尋ねた。
「ええっと……騒がしくしちゃってゴメンね。」
尋ねられたヨシュアは苦笑して答えた。そして逃げていたクラムがついにエステルに捕まった。
「ちくしょ~!離せっ、離せってば~っ!児童ギャクタイで訴えるぞっ!」
エステルに捕まえられたクラムは悪あがきをするかのように、暴れて叫んだ。
「な~にしゃらくさい事言ってくれちゃってるかなぁ。あたしの紋章、さっさと返しなさいっての!」
「オイラが取ったっていう証拠でもあんのかよ!」
「証拠はないけど……。こうして調べれば判るわよ!」
反論するクラムにエステルはクラムの脇腹をくすぐった。
「ひゃはは……!や、やめろよ!くすぐったいだろ!エッチ!乱暴オンナ!」
「ほれほれ、抵抗はやめて出すもの出しなさいっての……」
少しの間、クラムの脇腹をくすぐっていたエステルだったがその時、少女の声がした。
「ジーク!」
少女の声がした後、白ハヤブサがエステルの目の前を通り過ぎた。
「わわっ!?なんなの今の!?」
エステルは目の前に通った白ハヤブサに驚いてくすぐる手を止めて、声がした方向を見た。するといつの間にか白ハヤブサを肩に止まらせたマノリア村でぶつかった制服の少女が厳しい表情をエステルに向けていた。
「その子から離れて下さい!それ以上、乱暴をするなら私が相手になりま………………………………あら?」
少女はエステルの顔を見ると目を丸くした。
「あ、さっきの……」
エステルも同じように目を丸くした。
「マノリアでお会いした……」
「ピュイ?」
「助けて、クローゼお姉ちゃん!オイラ、何もしてないのにこの姉ちゃんがいじめるんだ!」
肩に乗った白ハヤブサと共に首を傾げている少女――クロ―ゼにクラムは助けを求めた。
「な、なにが何もしてないよ!あたしの紋章を取ったくせに!」
「へん、だったら証拠を見せてみろよ!」
クラムの言葉に頭に来たエステルはまた捕まえようとしたが、クラムは素早く避けた。
「あ、くすぐるのは無しだかんな。」
「うぬぬぬ~……」
エステルは悔しそうな表情でクラムを見た。
「やあ、また会ったね。」
「あ、その節はどうも……。すみません、私てっきり強盗が入ったのかと思って……。あの、それでどういった事情なんでしょう?」
クロ―ゼは事情を知っていそうなヨシュアに困った表情で尋ねた。
「クローゼお姉ちゃん。そんなの決まってるわよ。どーせ、クラムがまた悪さでもしたんでしょ。」
「ねー、おねえちゃん。もうアップルパイできた~?」
そこにマリィが口をはさみ、ダニエルは今の状況とは関係のないことを言った。
「あ、もうちょっと待っててね。焼き上がるまで時間がかかるの。」
ダニエルにクロ―ゼは微笑みながら答えた。そしてエステルとクラムが言い争いを始め、どうするべきか迷っていたヨシュア達のところに女性が孤児院から姿を現した。
「あらあら。何ですか、この騒ぎは……」
「テレサ先生!」
姿を現した女性は孤児院を経営するテレサ院長だった。
「詳しい事情は判りませんが……。どうやら、またクラムが何かしでかしたみたいですね。」
「し、失礼だなぁ。オイラ、何もやってないよ。この乱暴な姉ちゃんが言いがかりをつけてきたんだ。」
「だ、誰が乱暴な姉ちゃんよ!」
テレサに自分の事を言われたクラムは言い訳をしたが、エステルがクラムの言い方に青筋を立てて怒鳴った。
「あらあら、困りましたね。クラム……本当にやっていないのですか?」
「うん、あたりまえじゃん!」
困った表情で近付いて尋ねたテレサにクラムは笑顔で答えた。
「女神様にも誓えますか?」
「ち、誓えるよっ!」
「そう……。さっき、バッジみたいな物が子供部屋に落ちていたけど……。あなたの物じゃありませんね?」
「え、だってオイラ、ズボンのポケットに入れて……はっ!」
テレサの言葉にクラムは無意識に答え、誘導された事に気付いて気不味そうな表情をした。
「や、やっぱり~!」
「まあ……」
「見事な誘導ですね……」
バッジを盗んだ事を口にしたクラムにエステルは声を上げ、クロ―ゼとヨシュアはテレサを感心した。
「クラム……。もう言い逃れはできませんよ。取ってしまった物をそちらの方にお返ししなさい。」
「ううううううう……。わかったよ!返せばいいんだろ、返せば!」
クラムは悔しそうな表情でバッジをポケットから出して、エステルに放り投げた。
「わっと……」
「フンだ、あばよっ!」
エステルにバッジを放り投げたクラムはその場から走り去った。
「あっ、クラム君!」
「大丈夫、頭が冷えたらちゃんと戻ってくるでしょう。」
クラムを呼び止めようとしたクロ―ゼにテレサは落ち着いた表情で諭して後、エステルとヨシュアに言った。
「それより……ここで立ち話をするのも何ですね。詳しい話は、お茶を飲みながら伺わせていただけないかしら?」
そしてエステル達はテレサに孤児院の中に招き入れられ、その後ハーブティーとアップルパイをご馳走になったエステルとヨシュアはしばらくの間、テレサやクロ―ゼと世間話をした後宿酒場で待たせているリフィア達の事を思い出し、テレサに別れをつげてクロ―ゼと共に孤児院を出た。
~マーシア孤児院・入口~
「うーん、テレサ院長ってあったかい感じのする人よね」
「そうだね……お母さんって感じの人かな」
「ふふ、子供たちにとっては本当のお母さんと同じですから。」
3人がテレサの事について話していた時、白ハヤブサのジークが来てクロ―ゼの肩に止まった。
「ジーク。待っていてくれたの?」
「ピュイ」
「うん、そうなの。悪い人たちじゃなかったの。エステルさんとヨシュアさんっていってね。あなたも覚えていてくれる?」
「ピューイ!」
「ふふ、いい子ね。」
「す、すごい。その子と喋れるの?」
ジークと会話している風に見えるクロ―ゼを見てエステルは驚いた。
「さすがに喋れませんけど、何が言いたいのかは判ります。お互いの気持ちが通じ合ってるっていうか……」
「ほえ~……」
クロ―ゼの言葉にエステルは感心した。
「相思相愛ってわけだね。」
「はい。」
ヨシュアの言葉をクロ―ゼは否定せず頷いた。
「こんにちは、ジーク。あたしエステル、よろしくね♪」
「ピュイ?……ピュイ―――――ッ」
ジークに話しかけたエステルだったがジークは飛び立って行った。
「ああっ……。しくしく、フラれちゃった。」
「はは、残念だったね。」
「いいもん。あたしにはパズモ達がいるんだから、悔しくなんてないもん!」
ヨシュアの言葉にエステルはすねながら答えた。
「あの……そのパズモという方はエステルさんのお知り合いか何かですか?」
エステルの言葉が気になったクロ―ゼは尋ねた。
「あ、そうだね。見て貰えばわかるわ。……パズモ、サエラブ、テトリ!みんな、出ておいで!」
エステルは自分に同化している精霊達や幻獣を呼んだ。呼ばれたパズモ達はエステル達の前に姿を現した。
「え!?これは一体……!」
初めて見る召喚されたパズモ達の姿の現れ方を見てクロ―ゼは驚いた。
「えへへ……この子があたしが小さい時からずっといっしょにいてくれている友達のパズモよ!」
(よろしくね。)
「えっと……もしかして、妖精……なんですか?」
クロ―ゼはパズモを見て驚いた表情で尋ねた。
「うん。と言ってもこの世界の精霊じゃないよ。パズモもそうだけど、こっちのサエラブやテトリもみんな異世界に住む幻獣や精霊なんだ!」
「まあ……!そうだったんですか!異世界に住む種族と言えば”闇夜の眷属”しか知りませんでしたが、そのようなお伽噺でしか出てこない存在もいたんですね……!」
「あはは……そんな風に言われると照れちゃいます。」
(フン、くだらん。)
自分達の存在を感動しているクロ―ゼを見てテトリは照れ、サエラブは興味なさげに鼻をならした。
「えっ……今の声は……!?」
クロ―ゼは頭に響く初めてのサエラブによる念話に驚いて辺りを見回した。
「あ、そうか。クロ―ゼさんは念話の事を知らないんだったわね。」
念話に驚いているクロ―ゼにエステルが説明した。
「……そうなんですか。口にすることもなく、お互いの気持ちを伝えあうなんで素敵ですね……!私もエステルさんのようにジークと直に話してみたいです。」
「えへへ、ちょっと照れちゃうな。」
念話の事を理解したクロ―ゼはエステルを尊敬の眼差しで見て、見られたエステルは照れた。
「エステル……自慢する気持ちはわからないでもないけど、プリネ達の事を忘れていない?」
「あ……いっけない!みんな、出て来て早々で悪いんだけど一端戻って!」
(はいはい。)
(……用もなく我を呼ぶでないぞ。)
「わかりました。」
パズモ達はそれぞれまた、光の玉となってエステルの身体に入った。
「じゃ、プリネ達を迎えに行きますか。」
「そうだね。クロ―ゼさんもよかったら途中まで送るよ。」
「ありがとうございます。あの……ルーアンのギルドでしたら私、何回か行った事があります。よかったら案内しましょうか?」
「わ、いいの?すごく助かっちゃうけど。」
「君の方は大丈夫?すぐに学園に戻らなくて。」
クロ―ゼの申し出にエステルは喜び、ヨシュアは確認した。
「はい。今日一日は外出許可を貰っていますから。夜までに戻れば大丈夫です。」
「それじゃ決まりね♪じゃあ、まずはプリネ達と合流しましょうか!」
「?さっきから気になっていたんですが、エステルさんとヨシュアさんのお二人で旅をしていたのではいないのですか?」
エステルの言葉に疑問を持ったクロ―ゼは尋ねた。
「うん。ちょっと事情があってね。メンフィルの貴族の人達と旅をしているんだ!」
「メン……フィル……の……貴族の方……ですか。どうしてエステルさん達と?」
エステル達の同行者の身分を知ったクロ―ゼは一瞬固まった後、気を取り直して尋ねた。
「それは歩きながら話すわ。」
「そんなに緊張しなくても大丈夫だよ。プリネ達は”闇夜の眷属”で貴族だけど僕達と比べて見た目も変わりない人達だし、3人共気さくな人達だからクロ―ゼさんも彼女達とすぐ打解けれるよ。」
緊張しているように見えるクロ―ゼにヨシュアは微笑しながら答えた。そしてクロ―ゼを加えたエステル達は途中でその場からいなくなったクラムから謝罪を受けた後、マノリア村の宿酒場に向かった。
~マノリア村宿酒場・白の木蓮亭~
「おまたせ、3人共。結構待たせちゃったかしら?」
「いいえ、大丈夫ですよ。今、食後の休憩をしていたところでしたから。」
「ん……人が増えてるね。誰?」
エヴリーヌはクロ―ゼを見て尋ねた。
「ジェニス王立学園に通うクロ―ゼ・リンツと申します。エステルさん達とは縁あってルーアンの案内をする事にしました。」
「プリネ・ルーハンスです。将来就く仕事のためにエステルさん達といっしょに旅をしています。よろしくお願いしますね。」
「……私、エヴリーヌ。」
「プリネの姉のリフィアだ。……………ん?クロ―ゼといったな。お前とはどこかで会ったような気がするんだが……」
クロ―ゼの顔をよく見たリフィアは首を傾げて呟いた。
「(え……!?どうしてリフィア殿下がここに……!?じゃあもしかして、こちらの方はリウイ皇帝陛下とペテレーネ様のご息女……!?)えっと……人違いだと思います。私の知り合いの方にメンフィル出身の方はいらっしゃいませんから……」
幼い頃、ある場所で祖母に促されてリフィアと会って挨拶をして、リフィアの正体を知っているクロ―ゼは表情には出さず心の中でリフィアが目の前にいる事に驚き、プリネの名を聞いた後メンフィル皇族の直系――マーシルン家の中で唯一自分と同じぐらいの年の皇女の存在がいた事を思い出し、察しがついて驚いた。そして隠している自分の正体が悟られないために誤魔化した。
「ふむ、そうか。まあいい、それよりルーアンとやらに向かうぞ。今度はどんな街か今から楽しみだ。」
「了解、じゃあ行こうか。みんな。」
リフィアの言葉に頷いたヨシュアは全員にルーアンに向かうよう促した。そしてクロ―ゼを加えたエステル達はルーアンに向かい始めた………
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