英雄伝説~光と闇の軌跡~(FC篇)
しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。
ページ下へ移動
第2章~白き花のマドリガル~ 第37話
シェラザード達を見送ったエステル達は次の推薦状を貰うために新たな街、ルーアンに向かって歩いていた。
~西ボース街道~
「それにしても……本当に定期船は使わなくていいのかい?歩いて行ったらかなりの遠回りになると思うけど。」
「さっきも言ったけど、父さんの言葉も一理あるわよ。『まずは自分が守るべき場所を実際に歩いて確かめてみろ』って言葉。」
定期船を使わず歩いてルーアンを目指すつもりのエステルにヨシュアは尋ねたが、エステルは笑って答えた。
「まあ、僕はいいんだけどね。リフィア達のことも一応考えて言ってる?」
「あ……そう言えば、今更だけどリフィア達は歩いて次の街に行くのは大丈夫?結構歩くと思うけど……」
「余を誰だと思っている?幼少の頃より国中を駆けまわった余にとって造作もないわ!」
「歩くのはめんどくさいけど、みんなとおしゃべりできるからエヴリーヌはいいよ~。」
「私も鍛えてはいますから、大丈夫ですから心配は無用です。この旅はエステルさん達の修行でもあるんですから、私達のせいでお二人の修行内容を変えさせはしませんから安心して下さい。」
「そっか……そう言えばサエラブ、あれからどうしているんだろう?」
エステルは空賊団のアジトで共に戦い、いつの間にか姿を消していたサエラブのことを思い出して呟いた。
「僕達がリフィア達と合流する道すがらいなかったから、きっと人に見つかる前にどこかに行ったんじゃないかな?下手したら僕達以上に知能がありそうだから人間に姿を見られたら怖がられると思ったんじゃないかい?」
「それはそうなんだけど……」
「ん?エステル。お前、”炎狐”と出会ったのか?」
エステル達から聞き覚えのある懐かしい名前が出て来てリフィアは首を傾げて聞いた。
「うん。ボクっ娘達と戦った時、いきなり現れていっしょに戦ってくれたんだ!」
「後、首領達を追う時も道を塞ぐ手下達を相手にしてくれたんだ。……それにしてもリフィアが知っているということはそっちの世界の生物なのかい?」
リフィアの疑問にエステルは胸をはって答え、ヨシュアはサエラブの事を知っていそうなリフィアに聞き返した。
「うむ。とは言ってもレスぺレントに住む生物ではない。レスぺレント、アヴァタール地方より遥か南――セテトリ地方の”工匠都市”ユイドラの近くの火山に住む幻獣だ。以前余とエヴリーヌが共に戦った仲間――ウィルフレドと共に戦っていたからよく覚えている。」
「”工匠都市”って何??」
リフィアから聞き覚えのない言葉が出て来て、エステルは聞き返した。
「”工匠都市”とはその名の通りさまざまな職人によって治められているいる都市だ。ユイドラの近辺には”工匠会”に管理され、さまざまな材料の宝庫となる場所があるからな。余も時間があればもっと行ってみたかったものだ。」
「エヴリーヌもあそこは結構気にいっていたよ。葡萄が凄く甘いんだよね~。……ん~……思い出したら、セテトリ地方の葡萄が食べたくなっちゃったよ!」
「へぇ……職人によって治められている都市か……ルーアンの次にある都市、ツァイス市に少し似ているね。」
リフィアの説明を聞き、ヨシュアは感心した様子で答えた。
「それだけではないぞ。今のユイドラはある意味メンフィルと同じ考え方をしているからいいのだ!」
「それってどんな考えなの?」
胸をはって答えるリフィアの言葉に疑問を持ったエステルは尋ねた。
「”全ての種族と協力し合って生活をする”。これが今のユイドラの領主であり”工匠”の中で最高の称号、”匠王”ウィルフレド・ディオンの考えだ!余もかの者に依頼をしたことがあったが、職人としての腕はもちろん、さまざまな種族を集める求心力、武芸も中々のものだったぞ。特にお互い相容れないはずの天使と睡魔族が共に戦っているのを見た時はさすがの余も驚いたぞ。余とエヴリーヌが去った後も我が祖国メンフィルが集めた情報によれば天使の中でも中位に冠する天使や精霊の中でも王族に値する精霊や”雷竜”、”歪魔”それに”死神”、果ては古代の”魔神”ソロモン72柱の一柱すら力を貸したというしな。」
「確か話によるとエルフを娶ったそうですよね、リフィアお姉様。」
「うむ。ちなみに余があ奴らと会った時からエルフと恋仲だったぞ。それにすでに子も産まれたそうだからな。……あれほどの者が人間としての生を終えることを考えると残念なんだがな……」
「そうですね、特に妻となったエルフの方にとってはつらい事でしょうね……」
残念そうな表情のリフィアに同意したプリネは悲しそうな表情をした。
「う~ん。そうかな?」
一方エステルは首を傾げて答えた。
「ほう?それはどういう意味だ、エステル。」
エステルの答えを聞いたリフィアは興味深そうに聞いた。
「えっと……その前に聞きたいんだけど、そのエルフって種族も長寿なのよね?」
「うむ。彼らは余達”闇夜の眷属”より”魔神”を除いて長寿とも言われておる。」
「そっか……確かに好きだった人がいなくなって、自分だけ生き続けるのはつらいと思うよ?でも、あたしが思うに多分2人もそのことも考えた上で結婚したんじゃないかな。それにさ、そのウィルフレドっていう人の考えを奥さんがずっと覚え続けてくれるんじゃない?そして奥さんが住んでいる街も奥さんがいる限り、ずっと”全ての種族と共存して生活する。”の考えを守ってくれるんじゃないかな?
それに子供だっているんでしょ?その子供を夫の代わりに母親としてずっと見守っていけるんだから、つらいことばかりじゃないとあたしは思うよ?」
「「「「「……………………」」」」」
「あ、あれ?みんなどうしたの??」
驚いた表情で自分を見るヨシュアやリフィア達を見て、エステルは慌てて聞き返した。
「いや……そんな前向きな考えがあるとは思わなくて、僕を含めてみんな驚いていたんだよ。」
「ええ。……フフ、私は自分の伴侶は寿命の関係で少なくても人間の方はやめておこうかと思っていましたけど、エステルさんの考えを聞いたら少し考え直そうと思いましたよ。人間でありながら異種族と結ばれた時の利点を思いつくなんて、さすがエステルさんですね。」
「や、やだなぁ。照れるじゃない……」
ヨシュアやプリネに褒められたエステルは照れて笑った。
(……まさかあの2人が我や”仙狐様”を含め戦友達の前で結納を挙げた際、我らの前で宣言した永遠の約束をお前が考え付くとは、さすがの我も驚いたぞ。エステル。)
「へ……あ!サエラブじゃない!いつの間に!?」
聞き覚えのある念話にエステルは驚き、振り向くといつの間にかエステル達の前にサエラブがいた。
「この方が話に聞いていた”炎狐”ですか……」
初めて見る幻獣にプリネは興味深そうに見た。
「おお、お前はウィルフレドの所にいた”炎狐”ではないか!久しぶりだな!」
「久しぶりだね。」
懐かしい人物の関係者にリフィアとエヴリーヌは話しかけた。
(……久しいな。それにしてもお前達が北の魔族大国の王族とは思わなかったぞ。ウィルは少なくともお前が貴族の類であることには疑っていたがな……)
「正体を隠していたのは余達にとってお忍びの旅になるからな。それに一応皇族として他国に許可もなく歩く廻る訳にもいかなったからな。結局お前達には正体を明かさず去ってしまって、すまなかったな。」
(……別にいい、我には関係ないことだ。我がお前達の前に姿を現したのはエステル、お前に用があるからだ。)
「あ……ボクッ娘達と戦った時の約束だね。何かあたしに頼みたいことがあるって言ってたわよね?あたしにできることならなんでもいいわ!あたしの頼みを聞いてくれたっていう報酬を貰っているんだから遊撃士としてあなたの依頼を受けるわ!」
サエラブの念話にドルンと戦った時の約束を思い出したエステルは何をすればいいか尋ねた。
(では、手短に用件だけ伝える。エステル、我と契約しろ。)
「へ!?」
サエラブの念話にエステルは驚いて声を出した。
(どうした、そのような声を出して。以外か?)
「えっと……うん。とりあえずなんであたしと契約したいのか聞いていい?」
(いいだろう。心して聞くがよい。)
そしてサエラブはエステル達に語った。サエラブは自分達”狐炎獣”を束ねる長”仙狐”が新たな世界の登場を、ほかの”仙狐”から聞き”仙狐”同士でその世界のことについて話し合い、自分達のような存在がその世界にいるか、またサエラブ達の長自身がどのような世界か知りたいために誇り高くあまり人間に友好的でない”狐炎獣”の中で唯一人間と交流をしたことがあり、一人の人間を友と認めたサエラブが選ばれ、ゼムリア大陸を調べるために来たことを語った。
「……それにしてもよく異世界の存在を知りましたね?一応異世界の存在は関係者以外機密扱いにしていたんですが……」
プリネはサエラブ達が異世界の存在を知ったことに驚いて尋ねた。
(我らには我らなりの情報の集め方があるとだけ言っておこう。)
「”狐炎獣”の情報の集め方やどうやって我が軍の監視の目を掻い潜ったか余も多少興味があるが今はそれどころではないな。それよりどうするのだ、エステル?」
「え!?う~ん……ねえ、一つ聞いていいかな?なんであたしをあなたの契約者として認めてくれたの?あなた自身も言ってたけどあなた達ってあたし達より賢くて、すっごく誇り高い性格をしているんでしょ?なのになんで??」
リフィアに尋ねられたエステルは迷った後、なぜ自分がサエラブに選ばれたかを聞いた。
(……どこか”我が友”に似ているお前なら力を貸してやってもいいと直感で感じたのだ。それにどの道この世界の人間達の生活を知る必要がある。だったら魔族や精霊を怖がらず友人として扱い、共に戦うお前と契約し、大陸中を廻ったほうが効率がいい。お前と共に歩んでいるのなら人間達の目を気にする必要もないしな。お前は大陸中に散らばる”遊撃士”の一人なのだろう?)
「うん。……と言ってもまだ見習いだけどね。正遊撃士になったら他国でも仕事が出来るから今は修行中よ!」
(ならいい。それにあの赤毛の重剣士も言っていたがお前自身はまだまだだからな。)
「あ、あんですってー!なんでアガットが言ってたことを知っているのよ!?」
サエラブがアガットが言ってたことを出し、それに怒ったエステルは尋ねた。
(……崖の下で騒がしい会話をしていたからな。それで少々興味があったからお前達の会話を聞いていただけだ。)
「……もしかしてラヴィンヌ山道で一瞬だけ視線を感じたのはあなただったんですか?」
一方サエラブの説明を聞いてある事を思い出したヨシュアは尋ねた。
(そうだ。それにしてもあの時は驚いたぞ。この世界の人間が精霊と契約し、友人のように接していたことにな。それどころか”水竜”をも手なずけていたしな。)
「ちょ、ちょっと!なんでヴァレリア湖のことまで……」
サエラブの念話にエステルは驚いて聞いた。
(山道で幼い頃に精霊と契約したと言っていたお前に少々興味があってな……さまざまな所で遠くからお前の行動を見ていた。)
「なんで声をかけてくれないのよ~……まあ、いいわ。それで期間はどれくらいかな?サエラブはこの世界を調べるように言った人にいつか報告するんでしょ?」
サエラブの説明にエステルは呆れた後、いつまで契約してくれるか尋ねた。
(お前が契約している精霊と同じようにお前の生涯の最後まで付き合ってやろう。)
「え!?あたしまだ16歳なのにいいの!?」
(我を誰だと思っている?我は悠久の時を生き、遥か高み”仙狐”を目指す幻獣。高々数十年をお前のために使っても特に支障はない。”仙狐”様もいつまでに帰還してくることを言わなかったしな。それにお前のような存在がいたことを報告すれば”仙狐”様も気にいっている”我が友”のような者がいたことに喜ばれ、こちらの世界の人間のために他の”仙狐”を派遣することも考えるだろうしな。)
「そっか……じゃあ、早速契約をお願いしていいかな?」
(その前に一つだけ聞いておく。エステル、お前は何のために自らに秘めたる力を揮い、我や風の精霊を使役する?)
「……あたしの”力”を揮う理由やあなた達と共に戦う理由は一つ!”闇の聖女”様のように、傷ついて困っている人達を助けるために使うこと!そしていつか聖女様に成長したあたしを見て貰って、その時にお母さんを助けてくれたお礼を言うんだ!」
「エステルさん………」
(フッ……よりにもよって”混沌”を望む女神の僕に憧れるか。クク……”悪”を喰らった我にはちょうどいい。……いいだろう!今より我、サエラブはお前の命果てるまで力になることを誓おう!我が炎、使いこなしてみるがよい!行くぞ!)
「オッケー!いつでも来なさい!」
エステルはかつてパズモと契約したように、両手を広げ胸をはってサエラブを受け止めれるような姿勢なった。そしてサエラブは前足をかがめた後、大きく跳躍してエステルに突っ込みエステルの魔力に同調して消えた。
「これが”契約”か……」
初めて見る使い魔の契約にヨシュアは興味深そうに見て呟いた。
「どうだ、エステル?体に異常はないか?」
リフィアも興味深そうに見た後、エステルの体調を尋ねた。
「うん……サエラブがあたしの魔力に同調した時、一瞬体中が炎が宿ったみたいに凄く熱かったわ。それに何か閃いたわ。……サエラブ!」
何かの感覚を掴んだエステルは生涯を共にする新たな仲間を呼んだ。契約主に呼ばれたサエラブはエステルの身体から光の玉として出て来た後、自分の体を覆うような炎を纏いながら炎の中から出て来た。
「これからよろしくね、サエラブ!」
(この我が契約してやったのだ。我が失望せぬよう精進するがよい。)
「相変わらずえらそうね~……まあいいわ。ねえ、もしかしてあたし、あなたと契約したから炎の魔術が使えるの?」
サエラブの念話に苦笑したエステルはある事に気付きサエラブに尋ねた。
(我は炎の属性を司る幻獣。我と契約した影響は出て当然だ。試しにお前なりの炎を浮かべて放つがよい。)
「わかったわ。………えい!」
エステルはサエラブと共に戦った時、サエラブが口から吐いた火の玉を思い浮かべ片手を前に突き出した。すると突き出した片手から拳ほどの火の玉が出て来て、近くの大きな石に当たって消えた。
「ほう……火炎魔術の初級魔術の”火弾”だな。」
リフィアはエステルが放った火の玉を見て、感心して呟いた。
「凄いな……思い浮かべるだけで新しい魔術が出来るなんて……エステルの野生のカンは本当に驚かされるよ……」
「し、しっつれいね~……でもいいわ。新しい属性の魔術も使えるようになったし!」
感心して呟いたヨシュアにエステルは白目で睨んだ後、喜んだ。そこにプリネが真面目な表情で話しかけた。
「喜んでいるところ悪いんですが……エステルさん、火炎魔術は細心の注意を払って使って下さい。私も魔力で武器に炎を宿す技を持っているからわかるんですが……炎はこの世に留まり続けている邪霊や不死の者達を焼き払い、自然界の属性魔術の中で最も威力が高いのですが、使い方を間違えれば周囲の人達に甚大な被害を与えてしまう恐ろしい属性でもあります。」
「……そう言えばシェラさんも言ってたね。アーツの属性の中で最も気を付けなければならないのは”火”のアーツだって。」
「あ……そっか。使い方を間違ったら火事にもなるし、加減を間違えたら相手に大火傷させてしまうものね……」
プリネとヨシュアの説明に納得したエステルは魔術を放つ両手を見た。
(……炎の扱いは我がいるから、無理してお前が使う必要はないぞ。)
「ううん……絶対使いこなして見せるわ。魔術が使えるとわかったその時に父さんに言われたの。『得てしまった力は間違った方向に使わなければ、心強い力になる。』って。だからあたしに宿った炎の力も正しいことに使ってみせるわ!」
(フッ……その意気だ。我が炎を見事使いこなせるか、見守らせてもらうぞ……)
「うん!」
こうしてエステルは新たな仲間と力を手に入れ、そして次の目的地ルーアンに向かってヨシュアやプリネ達と共に歩き出した………
ページ上へ戻る