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英雄伝説~運命が改変された少年の行く道~(閃Ⅰ篇)

作者:sorano
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第27話

町での依頼を終えたリィン達は手配魔獣退治の為に”オーロックス峡谷道”の探索を始め、退治依頼をされた魔獣を見つけた。



~オーロックス峡谷道~



(あれか……)

魔獣を見つけたリィンは表情を引き締め

(て、手強そうですね……)

エマは不安そうな表情をし

(……ん。そこそこの戦闘力っぽい。)

(ですが相手は一体なのですから、全員で協力すればそれほど苦戦する事はないと思います。)

フィーとツーヤはそれぞれ助言した。

(……おい。)

その時ユーシスはマキアスに視線を向け

(ああ、わかっている……ARCUSの”戦術リンク”……いいかげん成功させないとな。)

視線を向けられたマキアスは頷いた。



(二人とも……)

(―――悪いが、僕ら二人をアタッカーに回してもらうぞ。)

(せいぜい大船に乗った気分でいるがいい。)

(マキアスさん、ユーシスさん……)

(…………………)

(大丈夫かな……?)

(……わかった。準備ができしだい仕掛けよう。)

そして準備を整え終えたリィン達はユーシスとマキアスをアタッカーにして魔獣に戦闘をしかけた。二人の戦術リンクは最初のあたりはちゃんと結ばれて連携もできていたが、途中から戦術リンクが切れ、その事がきっかけでチームの連携が崩れかけたがすぐに立て直し、リィン達の攻撃によって魔獣は地面に倒れた。



「はあっ……はあっ………」

「………………」

戦闘を終えて疲労が溜まっているマキアスは息を切らせ、ユーシスは唇を噛みしめた。

「……手強かったな。」

「え、ええ……でも何とかなりました。」

リィンの言葉にエマは頷き

「……前の実技テストみたいにツーヤのカバーがなかったらギリギリだったと思うけど。」

「フィ、フィーさん。」

静かな表情で呟いたフィーの言葉を聞いたツーヤは遠回しにマキアスとユーシス事に気付いて冷や汗をかきながら連携がくずれかけた原因となった二人を見つめた。



「どういうつもりだ……ユーシス・アルバレア……どうしてあんなタイミングで戦術リンクが途切れる……?」

「こちらの台詞だ……マキアス・レーグニッツ……戦術リンクの断絶……明らかに貴様の側からだろうが。」

そしてマキアスとユーシスは互いににらみ合った後それぞれの襟首を掴み

「一度協力すると言っておきながら腹の底では平民を馬鹿にする……結局それが貴族の考え方なんだろう!」

「阿呆が……!その決めつけと視野の狭さこそが全ての原因だとなぜ気付かない……!」

今に殴り合いの喧嘩を始めそうな険悪な雰囲気をさらけ出し始めた!



「よせ、二人とも……!」

「お、落ち着いて下さい……!」

「しかもここは安全な街と違って、いつ魔獣が襲ってくるかわからないところですよ……!」

二人の様子を見たリィン、エマ、ツーヤはそれぞれ制止の声を上げたが

「うるさい、君達には関係ない!」

「この際、どちらが上か徹底的に思い知らせてやろう!」

二人はリィン達の言葉を無視して喧嘩を始めようとした。



「くっ……」

その様子を見たリィンは唇を噛みしめたが

「……!」

「っ……」

「!」

ある気配に気付き、フィーやツーヤと共に表情を引き締めた。



「間に合え……!」

「……!」

「な……!」

(あら。)

そしてリィンが突如つかみ合っている二人を左右に押し、リィンの行動に二人が驚き、ベルフェゴールが目を丸くしたその時、なんと先程倒したはずの魔獣が起き上がってリィンの背中に飛び掛かった!

「……ぐっ……」

魔獣の鋭い爪で背中を斬られたリィンは呻き声を上げて地面に膝をつき

「リ、リィンさん……!?」

その様子を見たエマは心配そうな表情で声を上げた。



「ひゅっ……」

「十六夜――――」

その時フィーは跳躍して魔獣の頭に乗り、ツーヤは抜刀の構えをし

「とどめ。」

「”破”!!」

フィーは軍用ナイフで魔獣の頭を突きさしてその場から離れ、ツーヤは抜刀すると共に強烈な一撃を魔獣に叩き込み、二人の攻撃を受けた魔獣は悲鳴を上げて再び地面に倒れた!



「ふう。」

「今度こそ終わりですね。」

攻撃を終えた二人はそれぞれ安堵の溜息を吐き

「っ……やったか。」

「リィンさん……!大丈夫ですか!?」

エマは心配そうな表情でリィンにかけよった。



「お、おい……」

「……大丈夫なのか?」

その時リィンに助けられた二人はそれぞれリィンを心配し

「ああ……大した傷じゃないさ。まさか生きてたとは……俺も甘かったよ。」

心配されたリィンは肩を落として呟いた。



「あたしも甘かったですからお互い様です。」

「……わたしも迂闊。でも、もう完全に沈黙していると思う。」

「「………………………」」

リィンがケガをした理由が自分達の喧嘩が原因だとわかっていたマキアスとユーシスはそれぞれ目を伏せて黙り込んでいた。

「―――とにかく傷を今すぐ治しますので上着を脱いでください。」

そしてツーヤはリィンに治癒魔術をかけた。



「―――うん、大丈夫だ。ありがとうございます、ツーヤさん。」

「いえ、大した事はしていませんよ。」

「魔術って便利だね。攻撃、回復、補助とアーツ並みに種類が豊富で万能だし、威力や効果もアーツより高いし。」

「………………」

フィーが呟いた言葉を聞いたエマは複雑そうな表情をし

「すまない、その……」

「……完全に俺達のせいだな。」

傷を癒す様子を見守っていたマキアスとユーシスはそれぞれ暗い表情で謝罪した。



「いや、気にしないでくれ。気付かなかったのは俺のミスでもあるし……とにかく二人に怪我がなくて良かった。」

「……君は…………」

「………………」

(あら♪どうやらご主人様は女殺しじゃなくて、とんでもない人タラシのようね♪)

リィンの言葉を聞いたマキアスとユーシスはそれぞれ驚きの表情でリィンを見つめ、ベルフェゴールはからかいの表情になっていた。その後オーロックス砦に向かった。

~クロイツェン州領邦軍拠点・オーロックス砦~



「こ、これは………」

「凄いな……」

オーロックス砦に到着したリィンとマキアスは砦がさらけ出す雰囲気に呑まれた。

「”オーロックス砦”……帝国東部、クロイツェン州の治安を守る『領邦軍』拠点ですね。」

「ちょっと予想外。ベースは古い砦だけど大規模に改造されてるね。」

「さすがは四大名門の一角を敵の刃から守る拠点と言った所ですか……」

エマは静かな表情で呟き、フィーは目を丸くし、ツーヤは真剣な表情でオーロックス砦を見つめていた。



「………………」

一方オーロックス砦の事を一番良く知っていると思われるユーシスは呆けた表情で砦を見つめ

「ユーシス、どうしたんだ?」

ユーシスの様子に気付いたリィンは尋ねた。

「いや、何でもない。とっとと魔獣の事を報告しに行くぞ。」

「……?」

そしてリィン達が少し進むと貨物列車が砦内へと入って行った。



「……………」

その様子をユーシスは目を細めて見つめ

「あ、あれは……!?」

「バ、バリアハートからの貨物列車みたいですけど……」

マキアスは驚き、エマは戸惑いながら貨物列車を見つめた。



「……積荷は”戦車”か。それもかなりの重戦車みたいだけど……」

「RF(ラインフォルト)が生産している最新鋭の主力戦車。”18(アハツェン)”だね。」

「……メンフィル帝国軍でも採用されている戦車です。」

リィンの疑問にフィーは答え、フィーの説明にツーヤは真剣な表情で補足した。

「………………」

その時無言で通り過ぎて行く列車を睨んでいたユーシスは砦に向かって歩き出し

「お、おい……?」

ユーシスの行動にマキアスは戸惑った。

「……グズグズするな。とっとと用事を済ませるぞ。」

「くっ、あいつ……」

「と、とにかく私達も行きましょう。」

「そうだな……」

そしてリィン達は砦の出入り口を守る領邦軍の兵士達に近づいた。



「お前達は……」

「制服……?そう言えば。」

「自分達はトールズ士官学院、”Ⅶ組”の者です。」

「……こちらで出した魔獣退治の報告に寄らせてもらった。」

「お前達が……」

「話には聞いていたが、子供までいるのか……」

リィンとマキアスの報告を聞いた兵士達は驚きの表情でリィン達を見つめた。



「む。」

兵士達に視線を向けられたフィーは頬を膨らませ

「その、指定された魔獣は先程何とか退治しました。この場で報告をする形で構いませんか?」

エマは遠慮気味に尋ねた。



「ああ、それは構わんが……」

「お前達、本当にあれを倒せたのか?」

「ええ、何とか。」

「……まあ、手こずりはしたが。」

「軽傷は負いましたが、全員無事で撃破しました。」

「ふむ、大したものだな。動きが素早い上に獰猛だからつい放置してしまっていてな。」

リィンやマキアス、ツーヤの報告を聞いた兵士の一人は感心し

「装甲車で行き来する分はまったく実害はなかったが……さすがに学生に回していいか、少々心配だったもんでな。」

もう一人の兵士は目を丸くしてリィン達を見回した。



「そうだったんですか……」

「フン……いい訓練になったとだけは言っておこう。」

「……?」

「へ……」

ユーシスの声を聞いた兵士達は呆け

「!!」

「ユ、ユーシス様!?どうしてこんな所に……ハッ、その制服、もしや……!」

やがてユーシスを確認すると顔色を変え、ユーシスはリィン達の前に出た。



「見ての通り、ちょうど実習でバリアハートに戻ってきている。あくまで士官学院の一学生。彼らと同じように扱ってくれ。」

「は。」

「了解であります!」

(凄いな……)

(……フン、領邦軍にまで顔が利くというわけか。)

ユーシスの指示に敬礼をして答えた兵士達の様子を見たリィンは驚き、マキアスは呆れた。



「それよりも……先程の列車はなんだ?」

「ああ、ご覧になりましたか。いやぁ、ついに我が領邦軍にも戦車が配備され始めましてね!」

「やはり装甲車と戦車では装甲と火力が段違いですし……いつまでも正規軍の連中に大きな顔をさせておけませんよ!」

「ええ!それにこれならケルディックに要塞を建設しているンフィル軍にも対抗できますよ!ケルディックには”空の王者”の二つ名で恐れられている”竜騎士(ドラゴンナイト)”の部隊も配備されているそうですが……戦車の前にはひとたまりもないでしょうな!」

真剣な表情のユーシスの質問に兵士達はそれぞれ嬉しそうな表情で答えた。



「「……………………」」

兵士達の話を聞いたマキアスは呆け、ツーヤは真剣な表情で黙り込んでいた。

「……口を慎め。既に耳に入っていると思うが俺のクラスメイトの中にはメンフィル帝国の皇族、貴族出身の留学生もいる。ケルディックの件のように再びメンフィル帝国ともめてアルバレア公爵家の品格を下げるつもりか?」

「い、いえ!」

「め、めっそうもございません!」

嬉しそうな表情で説明していた兵士達だったがユーシスの忠告に慌てた様子で答えた。



「………見たところ、砦の方も大幅に改修されたようだが?」

「ええ、つい先月に大規模な工事がありました。ちょっとやそっとの砲撃ではビクともしないそうです。」

「いずれは対空防御も大幅に強化される予定です!我らがクロイツェン州の誇り……どうか楽しみにして頂けると!」

「……ああ。―――用件は済んだ。バリアハートに戻るぞ。」

兵士達の言葉を重々しい様子を纏って受け取ったユーシスは兵達に背を向けた。

「そうだな……」

「そろそろ夕刻ですし……」

「ラジャ。」

「それじゃあ行きましょうか。」

「……………………」

そしてリィン達はバリアハートへと戻り始めたがマキアスが呼び止めた。



「待て……!これはどういうことだ!?」

「マ、マキアスさん……」

ユーシスを睨むマキアスの様子をエマは心配そうな表情で見つめ

「………………」

ユーシスは何も答えず黙り込んでいた。



「共和国と国境を接しているクロスベル方面やメンフィル帝国と国境を接しているケルディック方面はともかく……!どうして地方の領邦軍なんかに最新の戦車が必要になるんだ!?おまけに砦を大幅に改造して、対空防御まで備えるなんて……さすがに常軌を逸しているぞ!?」

「……マキアス……」

「まあ、確かに。」

「フィ、フィーさん。」

マキアスの指摘を聞いたリィンは真剣な表情になり、同意したフィーをツーヤは冷や汗をかきながら見つめた。



「―――貴様にもとっくにわかってるんだろう。これが帝国(エレボニア)の”現状”だと。」

「っ…………」

ユーシスを睨んでいたマキアスだったがユーシスの指摘に息を呑んだ。

「”貴族派”と”革新派”………四大名門による貴族連合と鉄血宰相オズボーンの対立は水面下で激化している……今のがその一端というわけだ。」

「……………………」

ユーシスの説明を聞いたマキアスは何も答えず目を閉じて黙り込み

「噂は聞いていたけど……」

リィンは真剣な表情でユーシスを見つめていた。



「軍備増強を決めたのも俺の父、アルバレア公だろう。だが、その事について俺からコメントするつもりはない。……文句があるなら受け付けてやってもいいが?」

「……いや、いい。そろそろ夕方だ……街に戻るのが先決だろう。」

ユーシスに尋ねられたマキアスは疲れた表情で答えた。

「そうだな……」

「じゃ、行こうか。」

その後リィン達はバリアハートへ向かっていると、サイレンの音が聞こえてきた。



~オーロックス峡谷~



「なんだ……?」

「サイレンの音……みたいですね?」

「これは……砦の方からか?」

「一体何があったんでしょう?」

「……?」

サイレンの音にリィン達が傾げる中何かに気付いたフィーは振り向いて空を見上げた。

「フィー、どうした―――」

そしてフィーが見つめる先をリィン達も見つめると何と謎の人形兵器が浮遊しながら砦からバリアハート方面へと向かって行った。



「………………」

「な、なんだアレは!?このあたりにはあんな鳥が飛んでいるのか!?」

人形兵器が飛び去る所を見ていたエマは呆け、マキアスは信じられない表情で声を上げ

「阿呆が……そんな訳あるか。」

(人形兵器……?という事はまさか”結社”の……?だとしたらあの人形兵器に乗っていた子供はまさか……”執行者”?)

マキアスの言葉を聞いたユーシスは呆れ、ツーヤは真剣な表情で考え込んでいた。



「……今の人が乗っていたね。」

「ああ……子供みたいだったな。」

その時何かに気付いたフィーとリィンは呟き

「な、なんだって!?」

「本当か……?」

二人の言葉を聞いたマキアスとユーシスは驚きの表情で二人を見つめた。



「ああ、さすがに顔はわからなかったけど……」

「信じられません……」

リィンの答えを聞いたエマが驚いていたその時、領邦軍の戦車がリィン達に近づいてリィン達の姿を確認すると停車して兵士達が近づいてきた。



「ユーシス様!」

「お、お帰りになるところでしたか……!」

「一体、何の騒ぎだ。あのサイレンはどうした?」

「そ、それが……つい先ほど、オーロックス砦に侵入者がありまして……」

「そ、それって……」

「さっきの銀色の……」

兵士達の話を聞いたエマは驚き、マキアスは真剣な表情をした。



「み、見たのですか!?」

「その銀色はどちらへ!?」

マキアスの呟きを聞いた兵士達は顔色を変えて尋ね

「……南西の方角へと飛び去って行ったばかりだ。かなりの速度だったぞ。」

「くっ……失礼します。」

「ユーシス様もくれぐれもお気をつけて!」

ユーシスの話を聞くとすぐに戦車に乗り込みその場から去って行った。



「追いつけるとは思えないけど……」

「まあ、わかっていても諦める訳にはいかないんでしょうね。」

フィーが呟いた言葉を聞いたツーヤは苦笑し

「……でも一体なんだったんだ?」

先程見た人形兵器の正体が気になったリィンは首を傾げた。



「そうですね……飛行船でもないのに空を飛べる物体なんて……」

「そんな発明がされたなんて聞いたことがないぞ……?」

エマとマキアスはそれぞれ戸惑いの表情で考え込んでいた。

「…………………まあ、彼らに任せておけ。俺達はあくまで士官学院の実習中の身。逃げた侵入者を捕まえてやる義理も余裕もないだろう。」

「そ、それはそうだが……」

「一応、サラ教官への報告には記した方がよさそうですね。」

ユーシスの言葉を聞いたマキアスは戸惑いの表情で頷き、エマは提案した。



「そうだな……それじゃあそろそろ行こうか。」

そしてリィン達は再びバリアハートへ向かって行った。 
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