英雄伝説~焔の軌跡~ リメイク
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第25話
~封印区画・最下層・最深部~
「………やはり来たか。何となく君達が来るのではないかと思ったよ。」
エステル達が最奥の部屋に到着するとリシャール大佐が穏やかな笑みを浮かべながら振り向いてエステル達を見つめていた。
「リシャール大佐……。あたしたち、女王様に頼まれてあなたの計画を止めに来たわ。」
「まだ『ゴスペル』は稼働させていないみたいですね。今なら……まだ間に合います。」
「ふふ、それはできんよ。」
ヨシュアの忠告を聞いたリシャール大佐は静かな笑みを浮かべて首を横に振った。
「な、なんでよ!?そもそも『輝く環』って何!?そんなもの手に入れてどうしようっていうのよ!?」
「かつて古代人は天より授かった『七の至宝(セプト=テリオン)』の力を借りて海と大地と天空を支配したという。その至宝のひとつが『輝く環』だ。もし、それが本当に実在していたのだとしたら……。国家にとって、それがどういう意味を持つか君たちに分かるかね?」
「こ、国家にとって……」
リシャール大佐に問いかけられたエステルは訳がわからず戸惑い
「周辺諸国に対抗する強力な武器を手に入れる……。――――つまり、そういう事か。」
かつて故郷の兵器としての役割を担っていたルークはすぐに察して複雑そうな表情で呟き
「なるほどな………リベール程の小国がカルバードやエレボニア等の大国に対抗する手段を手に入れる為に今回の事件を起こしたのか。」
「確かに、『七の至宝(セプト=テリオン)』を上手く利用すれば、国家間の力関係を変える事も、できます。」
「ったく、とんでもねえ古代遺物だな………(まさか先生やアリオス達は最終的には”至宝”を手に入れようとしてんのか……?)」
ルークの推測を聞いたバダックとアリエッタは納得した様子で頷き、フレンは溜息を吐いた後真剣な表情で考え込んだ。
「その通り……。知っての通り、このリベールは周辺諸国に国力で劣っている。人口はカルバードの5分の1程度。兵力に至っては、エレボニアのわずか8分の1にしかすぎない。唯一誇れる技術力の優位はいつまでも保てるわけではない。二度と侵略を受けないためにも我々には決定的な力が必要なのだよ。」
「だ、だからといってそんな古代の代物をアテにしなくてもいいじゃないの!10年前の戦争だって何とかなったんでしょう!?」
リシャール大佐の話を聞いたエステルはリシャール大佐を思いとどまらせようと必死の表情で声を上げたが
「あの侵略を撃退できたのはカシウス・ブライトがいたからだ。だが、彼は軍を辞めた。国を守る英雄は去ったのだ。そして、奇跡というものは女神と彼女に愛された英雄にしか起こすことはできない……」
エステルの想いは届かず、リシャール大佐は悲痛そうな表情で否定した。
「だから私は、情報部を作った。諜報戦で他国に一歩先んじることもそうだが……あらゆる情報網を駆使してリベールに決定的な力を与えられるものを探したのだよ。リベールが苦境に陥った時にふたたび奇跡を起こせるようにね。」
「それって……奇跡なのかな?」
「なに……?」
「えっと、あたしたちは遊撃士でみんなの大切なものを守るのがお仕事だけど……。でも、守るといってもただ一方的に守るだけじゃない。どちらかというと、みんなの守りたいという気持ちを一緒に支えてあげるという感じなの。」
「それが……どうしたのかね?」
エステルが突如口にした話に理解できないリシャール大佐は眉を顰めて尋ね
「父さんだって、別に1人で帝国軍をやっつけたわけじゃない。色々な人と助け合いながら必死に国を守ろうとしたんでしょ?みんながお互いを支え合ったから結果的に、戦争は終わってくれた。大佐だってその1人だったのよね?」
「………………………………」
「今、あたしたちがここにいる事だって同じだと思う。大佐の陰謀を知った時はかなり途方に暮れちゃったけど……。それでも、色々な人に助けられながらここまでたどり着くことができたわ。それだって、奇跡だと思わない?」
「………………………………」
エステルが次々と口にする正論に驚き、目を見開いて黙っていた。
「でも……それは奇跡でも何でもなくて……。あたしたちが普通に持っている可能性なんじゃないかって思うの。もし、これから先、戦争みたいなことが起こっても……。みんながお互いに支え合えれば何でも切り抜けられる気がする。わけの分からない古代の力よりそっちの方が確実よ、絶対に!」
「エステル………」
「ああ………俺達は俺達の力で未来を切り開いていくんだ!」
「みんなと協力して行くことが一番、です。」
太陽のような笑顔を浮かべるエステルの言葉にヨシュアは微笑み、フレンは口元に笑みを浮かべて頷き、アリエッタは静かな表情で頷き
「フッ、16歳でまさかこれ程の”器”とは。さすがはあのカシウスの娘と言った所か。お前も少しは見習ったらどうだ?」
「うっせ!余計なお世話だよ!」
バダックはエステルの”器”に感心した後からかいの意味も込めて口元に笑みを浮かべてルークに視線を向け、視線を向けられたルークは声を上げてバダックを睨んだ。
「フフ……強いな、君は。だが皆が皆、君のように強くなれるわけではないのだよ。目の前にある強大な力……。その誘惑に抗うことは難しい。そして私は、この時にために今まで周到に準備を進めてきた。今更、どうして引き返せようか。」
一方リシャール大佐はエステルの”器”に感心しつつ、自分の”器”の無さに皮肉気に笑いながら答えた。
「………………………………。……ひとつ、教えてください。どうして大佐は……この場所を知っていたのですか?」
「なに……?」
「女王陛下すら存在を知らなかった禁断の力が眠っている古代遺跡……。ましてや、宝物庫から真下にエレベーターを建造すればその最上層にたどり着けるなんて……。あなたの情報網を駆使したって知りえるとは思えないんです。」
「それは……」
ヨシュアの突然の質問にリシャール大佐は答えが見つからず口ごもった。
「違う……!あなたは、僕の質問に答えることができないんだ!」
「!!!」
「ど、どういうこと……?」
そして図星を言い当てられたリシャール大佐は表情を歪め、エステルは戸惑い
「ただあなたは、この場所に『輝く環』という強大な遺物が眠っていると確信していた。そして、その黒いオーブメントを使えば手に入ると思い込んでいたんだ。だけど、そう考えるようになったきっかけがどうしても思い出せない。そうなんでしょう!?」
「………………………………」
(まさか………”白面”の仕業、ですか………?)
ヨシュアの推測を聞いたリシャール大佐は反論せず黙り込み、心当たりがあるアリエッタは厳しい表情で黙り込んでいた。
「お、おいおい。それってまさか………」
「―――何者かによって操られているという訳か。」
「となると”真の黒幕”がどっかに存在するって訳か……!」
一方ルークは戸惑い、バダックの呟いた言葉に頷いたフレンは厳しい表情をした。
「それがどうしたというのだ!強大な力の実在はこの地下遺跡が証明している!人形兵器にしても現代の技術では製作不可能だ!ならば私は……私が選んだ道を征くだけだ!」
するとその時自棄になったかのように叫んだリシャール大佐は自分の左右に大型の人形兵器を呼び出し、同時に”ゴスペル”と名付けられた黒のオーブメントが妖しく光り出した。
「あ……!」
「君たちの言葉が真実ならば私を退けてみるがいい……。それが叶わないのであれば所詮は、青臭い理想にすぎん。」
リシャール大佐は決意の表情で腰に刺してある東方独特の製法で作られてある剣―――『刀』といわれる特殊な形状をした剣の柄に手を置いてルーク達を見つめた。
「とくと見せてやろう!『剣聖』より受け継ぎし技を!」
「言ってくれるじゃない!」
「だったらこちらも遠慮なく行かせてもらいます!」
「師匠直伝の”アルバート流”、そして老師直伝の”八葉一刀流”、受けてみな!」
「『獅子王』の力、とくと見せてやろう!」
「同じ『剣聖』の”アイツ”と比べるとどっちが強いのか、このトンファーで確かめてやるよ!」
「イオン様とアリエッタの敵なら、誰であろうと絶対に倒す、です……!」
そしてルーク達とリシャール大佐のそれぞれの信念をかけた最終決戦が始まった………!
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