英雄伝説~焔の軌跡~ リメイク
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第9話
ルークがツァイスから去った後、レンはカシウスが手配した遊撃士と毎日連絡をとりつつ、ロレントに戻る機会を考え込んでいた。
~ツァイス市内~
(ふう……アーシアお姉さんの話だと未だに、異常なし……ね。別にいいんだけど、ママの危険は早く取り除きたいわ。まあ、アーシアお姉さんとフレンお兄さんがパパの手配のお蔭でロレントにいるから、大丈夫だとは思うけど……)
依頼を終え、ギルドに戻る道を歩きながら全く進まない現状にレンは溜息を吐いた。
「あ――!レンじゃない!久しぶり~!ジャンさんからルーク兄はツァイスを離れたってことと、レンも、もしかしたらロレントに帰ってるかもしれないって聞いた時、一緒に仕事ができなくなって残念と思ったんだけどレンはまだいたんだ~。」
するとその時聞き覚えのある元気そうな声がレンの背後から聞こえ、声を聞いたレンが振り向くとそこには自分にとって馴染み深い二人がいた。
「あら、エステルとヨシュアじゃない。ツァイスに来たという事は二人はルーアンの推薦状が貰えたようね。うふふ、レンがお兄様と一緒にロレントを起ってからまだ数週間程度しか経っていないのに、もう3枚も推薦状をもらうなんて、やるじゃない。」
「ふふん、ま、あたしがちょ~っと本気を出したらこんなもんよ。」
レンに感心されたエステルは自慢げに胸を張り
「何が本気をだしたらだよ……こっちは今までヒヤヒヤさせられる事がいっぱいあったからよく、推薦状を貰えたなと思っているよ。」
エステルの様子を見たヨシュアは今までの出来事を思い出し、呆れた様子で溜息を吐いた。
「あ、やっぱりその様子だとエステル、何かとんでもない事を仕出かしたんだ。」
「レ~~ン?”やっぱり”ってどういう意味よ~~?」
「え?だってエステルだし?」
ジト目のエステルに睨まれたレンは当然と言った様子で悪びれもなく首を傾げて答え
「な~にが、『エステルだし?』よ!失礼しちゃうわね!それよりレン!あんたのせいでリンデ号ハイジャック事件の時、王国軍から詳しい情報が貰えなくて滅茶苦茶苦労したんだからね~!」
悪びれもなく答えたレンの様子に顔に青筋を立てたエステルはレンを睨んだ。
「え?何で軍から情報がもらえない事とレンが関係するのよ??」
「レンも知っていると思うけどあの事件が起こったのはボースだったからね。事件を担当していた王国軍の一番上の人がハーケン門のモルガン将軍だったんだ。それでモルガン将軍は大の遊撃士嫌いでね……こっちに情報を廻さなかったんだ。後でわかったことなんだけど、将軍の遊撃士嫌いは父さんが軍をやめて遊撃士になったこととレンが将軍直々の勧誘を蹴って遊撃士になったことが一番の原因だそうだよ。」
エステルから訳のわからない話を聞かされ、首を傾げているレンにヨシュアは苦笑しながら説明をした。
「モルガン将軍……ああ、あの闘技大会の決勝で戦った元気なおじいさんね。うふふ、それは悪かったわね、エステル。でも、そんなのはっきり言って唯の嫉妬で私情に走ったモルガン将軍の方が悪いと思うのだけど。」
「ハハ、まあそうなんだけどね……」
軍のトップを何の躊躇いもなく全面的に悪いと指摘したレンの正論を聞いたヨシュアは苦笑いをしていた。
「それより2人共、依頼か何かでどこかに行くんじゃないの?」
「あ、いっけな~い。忘れてた!早く工房にいこ、ヨシュア!」
「わかったよ、エステル。じゃあまた後で会おう、レン。」
「ええ、2人ともがんばって。」
2人を見送った後レンはギルドに依頼達成の報告をし、ラッセル家に戻った。
~ラッセル家~
レンがラッセル家に戻ってくるとそこには誰もいなく、機械の作業音だけが聞こえていた。
(あら、博士は帰っていたんだ……研究に没頭しているようだし、リビングで待たせてもらおうっと。)
機械の作業音を聞き、ラッセル博士が何かの研究をしている事に察しがついていたレンは勝手知ったるキッチンで湯を沸かし、紅茶を入れて休憩していた。
そしてしばらくすると玄関の扉が開き、ティータとエステルとヨシュアの3人が入って来た。
「えへへ、こちらがわたしの家です。」
「あら、ティータ。おかえりなさい。エステルとヨシュアはいらっしゃいかしら?」
「あ、レンちゃん、ただいま。」
「へ……なんでレンがティータの家にいるのよ!?しかも普通にくつろいでいるし!」
予想外の人物がティータの家にいる事にエステルは驚いて声を上げた。
「あ、実はですね。ルークさんとレンちゃんにはツァイスにいる間は家に泊まってもらっているんです。」
「そういうことよ。だからレンがティータの家にいるのは当然の事よ。」
「全くもう、この娘ったら……そういう大事な事はさっき会った時に教えなさいよね。」
「後で博士に兄さん達がお世話になったお礼を言っておかないとね。」
ティータとレンの話を聞いたエステルは呆れた様子で溜息を吐き、ヨシュアは苦笑した。
「それより二人とも。ここに来たって事はもしかして博士に用があるのかしら?博士なら工房にいるわよ。」
「っと、そうだったわ。”アレ”の件について聞くんだったわ。それじゃあ早速挨拶させてもらいますか。」
その後エステル達は工房の中に入り、ラッセル博士と出会ったが研究に夢中の博士になりゆきで実験を手伝うことになり、実験が終わった頃にはすっかり夕方になり、それぞれが落ち着くと互いの自己紹介をようやくした。
~数時間後~
「わはは、すまんすまん。すっかりお前さんたちを中央工房の新人かと思ってな。ついコキ使ってしまった。」
「ったく、笑いごとじゃないわよ。コーヒーだけじゃなくさんざん手伝いをさせてさ~。レンも気付いていたのなら手伝いなさいよね~。」
人違いをしたにも関わらず豪快に笑うラッセル博士を呆れた様子で見つめたエステルは優雅に紅茶を飲んでいるレンを責めるような視線で見つめた。
「うふふ、悪かったわね、エステル。2人の邪魔をする訳にもいかないと思ってね。その代りこうやってみんなのお茶を入れているじゃない。」
「まあまあ、貴重な体験をさせてもらったと思えばいいじゃない。新型オーブメントの起動実験なんて滅多にあるもんじゃないんだし。それにレンの入れてくれた紅茶もおいしいし、それで許してあげようよ。」
「ふう……しょうがないわね。今度からは手伝いなさいよね。」
「ええ。」
「あう~ごめんなさい、エステルさん、ヨシュアさん。なんだかわたしも、実験に夢中になっちゃって……」
「あ、ティータちゃんは謝る必要はないんだからね?はあ、”導力革命の父”とかいうからどんな凄い人かと思ったけど……ここまでお調子者の爺さんとは思わなかったわ……」
ティータに謝罪されたエステルは苦笑した後、自分達を扱き使ったラッセル博士を呆れた様子で見つめた。
「わはは、そう誉めるでない。しかし、お前さんがカシウスとレナさんの娘か……顔はレナさん似だが目元など細かいところはカシウスに似てるのう……」
「あ、やっぱり博士って父さん達の知り合いだったんだ?」
両親の容姿を知っている様子のラッセル博士にエステルは自分達がラッセル博士を尋ねた理由を思い出し、納得した様子になった。
「うむ、結構前からの。あやつが軍にいた頃からじゃから20年以上の付き合いになるか。あやつとレナさんの結婚式は見物じゃったぞ。あの血気盛んなカシウスが石のように緊張してたからな。」
「へ~、あの不良親父でも緊張することがあったんだ~。ねえ、博士。もっと詳しく聞いていい?」
「レンも興味あるわ。特にママのウエディングドレスとか凄く綺麗だったんでしょうね♪」
両親の過去話がラッセル博士の口から出るとブライト家の娘達はそれぞれ目を光らせ、興味深そうな表情になった。
「まあまあ2人とも。父さん達の話は時間がある時に聞こうよ。それよりエステル、今日の目的のためにここに来たんだろう?」
「むう、しょうがないわね。」
「あっと、いけない。そうね、ヨシュア。博士、実は………」
ヨシュアに促されたエステルは自分の持ち物から黒いオーブメントを出し、ここに来た目的を説明した。
その理由とはボースで起こったハイジャック事件解決後、ギルドに自分達宛てに送られてきた黒いオーブメントと手紙があった。
その手紙の内容とは”K”というイニシャルの人物から預かり”R博士”へ届けるようにとの内容であったが、”R博士”に心当たりがない二人はわからず、とりあえず預かる事にし、リベールを廻っていた。
そしてルーアンで起こった放火事件の真犯人を取り押さえる時犯人が隠し持っていたアーティファクトの力で体が動かなくなり、絶体絶命かと思われた時、黒いオーブメントが光り、アーティファクトの力がなくなり、紆余曲折があったとはいえ、無事犯人を逮捕できた。
この件を不思議に思った2人はルーアンのギルドの受付―――ジャンからラッセル博士なら詳しいことがわかるかも知れないと聞き、ラッセル博士を尋ねたことを説明した。
「ほう……アーティファクトの力が停止したのか……」
「ふえ~~。」
「エステル、体が動かなくなったって聞いたけど、二人とも大丈夫だったのかしら?」
話を聞き終えた二人は興味深そうな表情で机の上に置かれた黒いオーブメントを見つめ、レンは心配そうな様子でエステルとヨシュアを見つめた。
「ええ、モチのロンよ!こうやって元気にいるから大丈夫よ!」
「そう。まあ、エステルなら例え絶体絶命に陥っても、お化けさんのようにしつこく犯人を追いつめそうだけどね。」
「ちょっとそれ、ど~い~う~意味よ~~?」
「まあまあ。」
ジト目でレンを睨むエステルをヨシュアは苦笑しながら諌めていた。
「それで話を戻すのですが、このオーブメントについて調べてくれないでしょうか?」
「よかろう。測定装置に置いて調べて見るか。」
「ソクテイ装置?」
ヨシュアの依頼に頷いたラッセル博士の答えを聞き、訳がわからなかったエステルは首を傾げた。
「さっきの実験で使用したあの大きな装置の事です。導力波の動きをリアルタイムに測定するための装置なんですよ。」
「よ、よくわかんないんだけど、その装置を使えばこれの正体がわかるのよね?」
「エステル、博士たちに任せてみよう。何かわかるかもしれないし。」
「そうね、ヨシュア。じゃあ博士、お願いします。」
「うむ、それじゃあ早速……」
エステルの答えを聞いたラッセル博士は意気揚々と立ち上がった。
「でも、おじいちゃん。そろそろゴハンの時間だよ?」
「うふふ、どうやらお楽しみはディナーの後の方が良さそうね?」
しかしその時、時計の時間に気付いたティータは目を丸くして言い、レンは小悪魔な笑みを浮かべて言った。
「えー。」
一方興味が出てきたオーブメントを調べる時間が伸びた事にラッセル博士は思わず文句を口にした。
「えー、じゃないよおじいちゃん。あ、エステルさん達もよかったら、食べていって下さい。あんまり自信はないんですけど……」
「あ、それじゃあ遠慮なく♪」
「よかったら僕達も手伝うよ。」
「そうね人数も多いようだし、ティータ、手伝いましょうか?」
「ありがとう、レンちゃん、ヨシュアさん。」
「よし、それじゃあこうしよう。食事の支度が済むまでわしの方はちょっとだけ……」
4人で和気あいあいとしている様子を見たラッセル博士はその隙の間に黒いオーブメントを調べようとしたが
「だ、だめー。わたしだって見たいもん。抜け駆けはなしなんだから。」
「ケチ。」
頬を膨らませたティータに咎められ、つまらなさそうな表情になった。
(なんていうか、この2人……)
(血は争えないってやつだね。)
(うふふ、ティータもああ見えて博士に似た所があるからしょうがないわ。)
その後夕食が済みついに実験の時が来た。
~夜~
「コホン……腹も膨れたことじゃし早速始めるとしよう。エステル、例のオーブメントを台の上へ」
「う、うん……」
ラッセル博士に促されたエステルは緊張した様子で黒いオーブメントを測定器の台の上に置いた。
「これでいいの?」
「うむ。ティータや。そちらの用意はどうじゃ?」
「うん、バッチリだよ。」
「よろしい。それでは”黒の導力器”の導力測定波実験を始める。」
「ドキドキ、ワクワク……」
ラッセル博士の宣言を聞いたティータはまるでおもちゃを目の前にした子供のように目を輝かせた。
「あー、ティータったら凄いやる気の目ね。」
「うふふ、重度の導力技術マニアのティータなら当然、見逃せない出来事だから仕方ないわ。」
「あう……だからわたしはマニアじゃないよー、レンちゃん。」
苦笑しているエステルに捕捉したレンの説明を聞いたティータは頬を膨らませてレンを見つめた。
そして実験が始まり順調に進み始めた。
「よしよし、順調じゃ。ティータや、測定器の反応はどうじゃ?」
順調に進んでいる事に気を良くしたラッセル博士であったが、ラッセル博士とは逆にティータは表情を曇らせていた。
「う、うん……なんだかヘンかも……」
「なぬ?」
「メーターの針がぶるぶる震えちゃって……あっ、ぐるぐる回り始めたよ!」
ティータが叫んだその時、測定器のありとあらゆるメーターの針が故障したかのように激しく回り始めた。
「なんじゃと!?」
そして博士が叫んだその時、黒いオーブメントは漆黒の光を放った!
「な、なんじゃ!?」
「きゃあ!」
「あら、一体何が起こるのかしら?」
突如光り始めたオーブメントにラッセル博士とティータは驚き、驚いている二人とは逆に一切動じていないレンであったがオーブメントを警戒するかのように口から出た軽口とは逆に真剣な表情でオーブメントを見つめていた。
「ヨシュア、これ……!?」
「あの時の黒い光……!」
見覚えのある光を見たエステルとヨシュアが血相を変えたその時、照明などの導力器が次々と導力をなくして消え始め、やがて街全体にまで広がった。
「ちょっとこれって、まずいんじゃないかしら!?ヨシュア、レン、街を見てくるわよ!」
「了解!」
「ええ。危ないからティータはここで博士と待機ね。」
「う、うん。」
エステル達が街に出ると、街全体の導力器が止まり、街中がパニックになっていた。
「不味いよ、エステル。街中がパニックになっている!」
「まあ、導力が突如消えたんだから、当然の反応でしょうね。」
エステルと合流したヨシュアは真剣な表情になり、レンは冷静な様子で答えた。
「あたしが博士を止めてくるから、二人は混乱している人達を鎮めてきて!」
「わかった!」
「フウ、面倒だけど、仕方ないわね……」
そしてエステルの指示に頷いた二人はそれぞれ分散して、それぞれの役割を果たすために動き始めた。
「お、おじいちゃん、これ以上はダメだよぉ!測定装置を止めなくっちゃ!」
「ええい、止めてくれるな!あと少しで何かが掴めそう……」
エステル達が街中の混乱を鎮める為に奔走している中、ティータは混乱がおきていてもなお、実験を続けようとするラッセル博士を止めようとしていた。
「ちょっとちょっと!町中の照明が消えてるわよ!?」
その時エステルが慌てた様子で部屋に入って報告した。
「ふえっ!?」
「なんと……。ええい、仕方ない!これにて実験終了じゃああっ!」
エステルの報告を聞いたラッセル博士が断腸の想いで測定装置を止めると消えていた照明がつき始めた。
「あ……照明がついた……」
「はうううう~……」
「計器の方は……。ダメじゃ、何も記録しておらん。ということは、生きていたのは『黒の導力器』が乗った本体のみ。あとは根こそぎということか……」
エステルとティータが安堵の溜息を吐いている中、ラッセル博士は測定結果を調べていた。
「よかった……。実験を中止したみたいだね。」
「あ、ヨシュア!外の様子はどうなの?」
「うん……。照明は元通りになったみたいだ。まだ騒ぎは収まっていないけどね。レンも引き続き騒ぎを収めているところだよ。」
「そっか……。すぐにあたし達も行かなきゃね。でも、一体全体、何が起こっちゃったってわけ?」
街をパニックに陥らせた原因である黒いオーブメントをエステルは不思議そうな表情で見つめていた。
「そうじゃな……。あえて表現するなら『導力停止現象』と言うべきか。」
「『導力停止現象』……」
「オーブメント内を走る導力が働かなくなったということですね。――やはり、その黒いオーブメントが原因ですか?」
ラッセル博士の説明を聞いたエステルは呆け、ヨシュアは頷いた後真剣な表情で尋ねた。
「うむ、間違いあるまい。しかし、これほど広範囲のオーブメントを停止させるとは。むむむむむむむむむ……こいつは予想以上の代物じゃぞ。面白い、すこぶる面白いわい!」
「お、面白がってる場合じゃないと思うんですけど~……」
街をパニックに陥らせた原因を興味深そうな表情で見つめているラッセル博士をエステルは白い目で見つめていた。
「ハ~カ~セ~ッ!!」
するとその時怒気を纏ったツァイスの中央工房長であり市長でもある男性―――マードックが部屋に入って来てラッセル博士に近づいた。
「おお、マードック。いいところに来たじゃないか。」
「いいところ、じゃありません!毎回毎回、新発明のたびにとんでもない騒ぎを起こして!町中の照明を消すなんて今度は何をやったんですかッ!?」
「失敬な。今回はわしは無関係じゃぞ。そこに置いてある『黒の導力器』の仕業じゃ。」
「そ、それは例の……。なるほど、それが原因ならこの異常事態もうなずける。」
街を混乱させた原因がラッセル博士ではない事を知ったマードックは一瞬怒りがなくなったが
「……………だ、だからといってアンタが無関係ということがあるかあっ!」
「ちっ、バレたか……」
すぐに直接では無くても間接的に街を混乱させた原因がラッセル博士である事に気付いて怒鳴った。
「な、なんかやたらと息が合ってるわね~。」
「いつもこんな感じなんだ?」
「あう、恥ずかしながら……」
二人の様子をエステルは苦笑しながら見つめ、ヨシュアに尋ねられたティータは恥ずかしそうな表情で答えた。
その後エステル達は騒動を収めているレンと共にそれぞれ手分けして騒動を収め、全て鎮まった時には夜の遅い時間になり、エステルとヨシュアもラッセル家に泊めてもらうことになった………
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