マルシュキニアイ
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第一章
マルシュキニアイ
ポーランドとリトアニアは隣国同士でありかつては同じ国だったこともありリトアニアがソ連を出て独立を勝ち取ってからまた交流を深めている。
それでヤチェク=ワイダもポズナニから観光でリトアニアの首都であるリガまで来た、だが彼は一緒に来た友人のアレクサンデル=マリノフスキにこう言った。
「ここ来たの今年で三回目だよ」
「もうそれだけかい?」
「そう、二回は仕事でね」
「それで今回の観光で一回か」
「去年は仕事で四回、観光で一回来たよ」
ワイダはマリノフスキに去年のことも話した。
「一昨年も五回、三年前は七回」
「リガに縁があるね、君は」
「いや、それは君もだろ」
ワイダはマリノフスキ、友人の顔の下半分を覆っている濃い黒髭を見ながら言った。目は青く髭と同じ色の髪の毛は短く刈っている。背は一九〇あり一七六程のワイダよりもずっと高く見える。ただしワイダは髪の毛は茶色で目の色は緑だ、彼の方が痩せていてしかも髭がない。
「ここには去年も今年もだね」
「うん、僕も何度も来てるよ」
マリノフスキもこう返す。
「このリガにはね」
「かつては同じ国でね」
ワイダはリガの街をマリノフスキと共に歩きつつ彼に話す、東欧の古い趣を残した実に奇麗な街の中を。
「しかも今でもね」
「僕達の様にね」
「普通に行き来出来る」
「殆ど同じ国みたいにね」
「パートナー同士だよ」
彼等の国ポーランドと今いるリトアニアはというのだ。
「まさにね」
「そうだね、お互いに頼りになる」
「よく我が国は抜けてるとか言われるけれど」
「ポーランド人もね」
「それは違うし孤立しているかというと」
「違うね」
「ポーランドにはリトアニアがいるんだ」
まさにこの国がというのだ。
「それでどうして孤立なんだ」
「抜けてるって話もね」
「キュリー夫人もいるしね」
「しかも東欧でも結構いい感じだしね」
「隣の国と比べられたら困るよ」
ポーランドから見て西にある国である。
「ドイツとね」
「あそこはまた極端に生真面目だからね」
「しかも隙がない」
「欧州随一のそうした国だからね」
「うちはちょっと手を抜く時があるだけだよ」
「そうそう」
「時々ね、それだけだから」
それでというのだ。
「抜けてないよ、そしてそのパートナーの国でね」
「今回は楽しもうか」
「うん、今回来た理由はね」
観光のそれはとだ、マリノフスキはワイダに言った。
「四年に一度の歌と音楽の祭典」
「それだからね」
「楽しみだね、今回はどんな風になるのか」
「前も来たけれどね」
そして楽しんだのだ、二人共。
「今回は本当にどんな風になるのか」
「楽しみだね」
「うん、馴染みの娘はいるかな」
「おや、君も馴染みの娘がいるのかい」
「そうした君も」
「実は兄貴の奥さんがこっちの人でね」
リトアニア人だというのだ、他ならぬ。
「その妹さんがね」
「ここにいるんだね」
「そうなんだよ」
「それは初耳だね」
「こっちのレストランで働いてるよ」
「その人は今幾つだい?」
「今二十一だよ」
彼女の年齢もだ、マリノフスキは話した。
「可愛い娘だよ」
「じゃあその娘のレストランに行こうか」
「いいね、それで君の馴染みの娘はどんな娘だい?」
「ああ、パブのね」
「そっちの娘か」
「そうだよ、明るくて可愛くてね」
「その娘も可愛いのか」
マリノフスキはワイダのその話に顔を向けて言葉を返した。
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