| 携帯サイト  | 感想  | レビュー  | 縦書きで読む [PDF/明朝]版 / [PDF/ゴシック]版 | 全話表示 | 挿絵表示しない | 誤字脱字報告する | 誤字脱字報告一覧 | 

戦国異伝

しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。 ページ下へ移動
 

第二百五十三話 最後の合戦その十

「ねねに子が生まれたそうじゃからな」
「だからですか」
「そのこともですか」
「祝おうぞ」
 こう言うのだった、そのうえで。
 羽柴もまた棟梁の首を目指していた、最後の戦いの詰めに。
 長政もだ、隣の舟にいる家康に言った。
「徳川殿、ここは」
「浅井殿もですな」
「はい、棟梁の首を討ちます」
 是非にという言葉だった。
「一人でも」
「それがしもです」
「では二人で」
「はい、力を合わせ」
 そのうえでとだ、家康も言う。
「一人でもです」
「その者の前に行き」
「討ちましょうぞ」
「それがし願わくば」
 長政は目を怒らせて言った。
「父上の仇を」
「では」
「杉谷善住坊かです」
「無明をですな」
 どちらかの首をというのだ。
「討ちたいと思っています」
「左様ですか、では」
「それではですか」
「それがしは浅井殿のうちの片方をです」
 杉谷、無明のいずれかをというのだ。
「討ちましょう」
「そうされますか」
「はい」
 是非にという言葉だった。
「そうさせて頂いて宜しいでしょうか」
「わかり申した」
 長政は二つ返事で応えた。
「さすれば」
「その様にですな」
「しましょうぞ」
 こう答えたのだった。
「これより」
「では」
「はい、ではそれがしは」
「どちらにされますか」
「杉谷めを」
 彼をというのだ。
「討ちましょう」
「その者をですか」
「どうも父上をたぶらかしていたのは」
「主にですか」
「杉谷なので」
「では」
「それがしは杉谷を討ちます」
 まさにこの者をというのだ。
「そうさせて頂きます」
「ではそれがしはです」
 家康は長政のその言葉を受けて微笑んだうえで答えた。
「無明を」
「そうされますか」
「はい、それでは」
「これよりですな」
「参りましょう」
 その魔界衆の者を討ちにだ、こう話してだった。
 二人は共に船を進めた、そうして徐々にだった。
 魔界衆は囲まれていてだ、その数の殆どを失っていった。しかしそれでも彼等は逃げようともせず戦い続けるのだった。
 それは壇ノ浦でのことであった、しかし。
 遠く安土にあってだ、帰蝶は昼の空を見てだ、共にいる市に告げた。
「何かです」
「ありましたか」
「空を御覧になって下さい」
 共に見ようというのだ、その空を。
 市は義姉のその言葉に従い空を見た、すると。
 不意にだ、その顔を明るくさせて言ったのだった。 
ページ上へ戻る
ツイートする
 

全て感想を見る:感想一覧