魔道戦記リリカルなのはANSUR~Last codE~
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Eipic1-D移ろいゆく季節~The Road to Ace of Aces~
†††Sideなのは†††
戦技教導隊。私が中学生になってからようやく入隊できることになった部署だ。教導隊の主な仕事は、局の技術部や一般の魔導端末メーカーの開発した魔導師の新型装備の試験運用、それに新しく組み立てられた戦闘技術の実践テスト。それらをさらに昇華させるための研究などなど。
「よし! それじゃあ今日も張り切って行こう!」
他にも、訓練部隊との演習での仮想敵役や技能訓練。想定される敵の能力や陣形をシミュレーションしてのものだから、今までやってきた事や考えた事もない飛び方や戦い方することもあって、これが結構面白い。時折、チーム海鳴内での模擬戦(その頻度は小学校時に比べるとすごく少なくなったけど)でやると、意表を突くことが出来たりする。
(いつかシュテルとの試合の時、それに・・・ルシル君にも試してみたいな~)
今は遠いところに居るシュテル、そしてチーム海鳴を半脱退状態だったりするルシル君にも通用するか試してみたい。そう。教導隊は、経験を積み自らもまた強く成長することの出来る部署だ。その経験を活かして、自分の成長をみんなに見せたい。そして、私のその経験がみんなの為になることが嬉しい。
「高町なのは空曹、入ります!」
今日も教導隊の一員として頑張ろう。そういうわけで、元気よく挨拶しつつ戦技教導隊の本部――オフィスに入る。オフィス内は各班ごとの区画に分かれていて、全6区画。デスクは円卓状で、班によっては大きさは様々で、椅子が10脚以上ある。わたしが配属されたのは第4班で、その区画へ向かう。
「おはよう!」
「あぁ、おはよう!」
「いやぁ。若い子が入ると、むさ苦しいオッサンばかりのオフィスも急に華やかになるね~」
「アンタも十分オッサンだよ、トマソ一尉」
「あの~、それ以前に、私も一応20代だから若いと思うのですが?」
「あー・・・・うん、そうだね」
「なんですかその反応! いくら上官でも怒りますよ!?」
その途中、他の班の隊員から受けた挨拶に「おはようございます!」私も挨拶を返してく。戦技教導隊に所属する隊員の大半は、私より平均で15~20歳ほど上の人たちばかり。それが理由かもだけど、「お菓子、食べるかい?」だとか、「今日も怪我には気を付けるんだよ」など、娘や孫扱いされてる風。
(史上最年少で戦技教導隊に入ったってことみたいだし、それに実際に子供だからしょうがないけど・・・)
丁重にお断りしつつ、私が所属する第4班の上官4人に「おはようございます、今日もよろしくお願いします!」敬礼した。
「おはよう、高町」
デミオ・アレッタ三等空佐。私たち戦技教導隊第4班の班長を務める。ミッド式のオールラウンダー魔導師で、ランクはAAA+。赤い髪をスポーツ刈りにした、学生の頃に世界大会で優勝した経験があるほどの(私の歓迎会の時に聞かされた)スポーツマンさん。
「やぁ、おはよう!」
エスティ・マルシーダ二等空尉。茶色の髪をウルフカットにしてる男性局員。ミッド式の射撃魔導師。ランクはAA-。見た目は少し恐いけど妹が3人も居るっていうことで、実際はとても優しい頼れるお兄さんみたいな感じ。
「なのはさん、おはよう」
ヴィオラ・オデッセイ二等空尉。薄い黄色の髪をショートポニーテールにした、ベルカ式の騎士。ランクはAA。シャルちゃんやルミナちゃん達とは違って、教会騎士団には所属しないで管理局のみに務めてる。一度は二足の草鞋をやろうとしたってことみたいだけど、生活リズムが崩れそうだって理由で断念したとのこと。
「やほ~」
ロザリンダ・ベルトーネ事務官。愛称はロザリーさん。この第4班の中で唯一魔力非保有の局員で、第4班の事務官を担当するおっとりしたお姉さん。黒色のロングストレートヘアで、前髪が少し長い所為で目が隠れちゃってる。あとところどころに寝癖があって、ちょこっとズボラかな。
「メンバーも揃ったところで、第4班の始業ミーティングを始めようか。ベルトーネ」
「はい」
私も自分に与えられたデスクに着いて、前面に展開されたモニターに映し出されたスケジュール表を見る。
「本日の第4班のスケジュールは、1000時から1500時までミッドチルダ地上本部、首都航空隊との演習となりまして、期間は4日間です」
「なのはさん。気負うことは無いからね。いつも通り、相手をコテンパンにすればいいから♪」
「あ、はい。頑張ります!」
ヴィオラ二尉が微笑みかけてきてくれた。教導隊は教育隊と違って、細かいことに叱ったり怒鳴ったりする暇があるなら模擬戦で徹底的に打ちのめす、っていう方向性だ。だから手加減とか遠慮とか無用。さすがに入りたての新人隊員への技能訓練では必要だけど、首都航空隊所属の魔導師なら本気で仕掛けても大丈夫。
「それでは、第4班出動!」
それから細かいスケジュール(お昼ご飯や休憩時間などなど)を確認して、椅子から立ち上がったアレッタ三佐の号令に「はいっ!」私たちも席から立って敬礼で応じる。
そして第4班は、ミッドチルダは首都クラナガンの中央区にそびえ立つ地上本部へと移動。そこで今日から4日間、演習を行うことになる首都航空隊の面々と顔合わせ。首都航空隊は総勢28名。その内の半数14名が交替部隊になる。さらにデイシフト7名とナイトシフト7名に分かれる。
「首都航空隊、ティーダ・ランスター一等空尉です! 首都航空隊隊長アルバート・ヤヌス二等空佐に代わりご挨拶させていただきます! 本日より4日間、よろしくお願いします!」
初日の相手は、ランスター一尉が隊長を務める小隊14名の内、デイシフトの7名だ。まずは自己紹介をし合って、その後は準備運動。そして防護服へと変身してすぐさま演習を開始する。短い期間で出来ることなんて限られてくるから、教導隊の方針に従って徹底的に模擬戦漬けだ。
(それにしても・・・やっぱり浮いちゃってるな~)
武装隊員の防護服は共通のデザインで、アレッタ三佐たちもランスター一尉たちも、みんな共通の防護服を着用してる。そんな中で私ひとりだけがオリジナルの防護服を着用してる。それはもう目立ちまくりで。だから4班に配属されての初仕事の時に、私も仕事中は武装隊共通の防護服になろうかな、って考えてたんだけど・・・
――はんた~い。なのはちゃんの防護服はそのままが良いで~す――
――その防護服にしか無い機能もあるんだろう? なら高町の本領が発揮できるその防護服のままで良い。なに。デザインが違うことなど瑣末な問題だ――
ロザリー准尉やアレッタ三佐がそのままの私で良いって言ってくれた。けれどやっぱり気になっちゃうわけで。でもそんなことを考えてる暇もすぐに無くなる。
「俺は遊撃、オデッセイは前衛、マルシーダと高町は後衛で固定砲台役だ。高町。Sランクが後衛に居るとどういう戦況になるかを見せてやれ」
「「「了解!」」」
模擬戦開始。首都航空隊は文字通り、首都クラナガンの空を護る部隊だ。当然戦場は空。各自飛行魔法を発動して、空へと上がる。4対7の戦力差で開始された模擬戦。
「私が戦場を引っ掻き回します! レーヴェンゲブリュル、カートリッジロード!」
≪Explosion≫
「ナーゲルシュラーク・・・!」
ヴィオラ二尉が槍型デバイス・“レーヴェンゲブリュル”のカートリッジをロード。2m近いデバイス全体に赤い魔力が付加される。そして集まってる航空隊へと単独突撃。ランスター一尉が「散開!」指示を出して、一斉に散らばった。
「クロスファイア・・・シューット!」
銃身下部の中央付近にグリップのような物がある拳銃型のデバイスを手にするランスター一尉。そんな一尉の周囲に展開された魔力スフィア8基から魔力弾が16発と発射されて、ヴィオラ二尉には4発、残り12発が私たちに向かって来た。さらに他の航空隊員たちも、射撃魔法において基礎中の基礎になるシュートバレットで弾幕を張ってきた。
「せいっ!」
“レーヴェンゲブリュル”をバトンのように高速回転させて魔力弾を迎撃するヴィオラ二尉。さらに・・・
「ブレードロッド! ホーミングレイ!」
≪Homing Ray≫
アレッタ三佐のデバイスは杖状の“ブレードロッド”。柄の下部分に刃が付いた物で、杖先端――ヘッド部分は武装隊の一般的な杖型デバイスと同じデザイン。だけど、そのスペックはアレッタ三佐専用機としてチューンされてる。
そんな“ブレードロッド”の先端から碧色の魔力弾が3発と発射された。ソレは光線となって魔力弾幕を迎撃。アレッタ三佐のホーミングレイは、射速も追尾性もA+性能で、しかも込められた魔力の多さによって魔力弾幕に相殺されることなく、その1発でロックオンされた3発を迎撃、計9発を破壊した。
『マルシーダ、高町!』
『『了解!』』
エスティ二尉もまた銃型のストレージデバイス・“ブラストガナー”の銃口から「シュートバレット!」射撃魔法を撃ち放って残りの魔力弾を迎撃、さらに直接隊員を狙い撃ち。でもさすがに首都航空隊。空戦魔導師のエリートの集まりだから誰1人として防御することなく、完璧に回避した。そこに・・・
「あの、砲撃行きます」
≪Short Buster≫
バスターモードの“レイジングハート”から、魔力チャージから発射までのシークエンスや砲撃自体の速度を重視した高速砲を7連射。すると「うおっ!?」隊員たちは大慌てで回避。足を止めちゃう防御じゃなくて、たとえ無茶な体勢になっても避けたのは良いと思う。ただ、相手が私ひとりだった場合によるけど・・・
「ホーミングレイ!」
「シャワーバレット!」
アレッタ三佐の追尾光線とエスティ二尉の弾幕が、航空隊員たちの正面や真上からと襲いかかる。ヴィオラ二尉は既に退避済みだ。迎撃や防御、回避の最中に「シューット!」私もアクセルシューター16発による包囲攻撃を行う。
「ウンフォルエンデッド・ピーケ!」
それでも避け続ける航空隊員へ、「往けっ!」ヴィオラ二尉が魔力を纏わせた“レーヴェンゲブリュル”を投擲。ターゲットにされてた隊員が「うわっ!」咄嗟にシールドを張って防御したけど、ガシャァン!と瞬時に破壊された。破壊時の衝撃で吹き飛ぶ中、「のわっ!?」私のシューター4発の直撃を受けて撃墜扱い。
≪Divine Buster≫
「シューット!」
さらに私のディバインバスターで1人、また1人と撃墜していく中・・・
「インパルスストライカー!」
ランスター一尉が単独で私に仕掛けてきた。単純な直射砲撃だから、スッと横移動することで回避。そんな時に『高町。単独でランスター一尉を撃墜してみろ』アレッタ三佐から指示が出た。だから私は『了解です!』応じた。ランスター一尉は私と同タイプだ。撃ち合いになれば、物量が物を言う。
――クロスファイアシュート――
ランスター一尉の周囲に8基の魔力スフィアが展開される。1つのスフィアから複数の魔力弾を撃つ発射体だ。ランスター一尉の「ゴー!」号令の下に8基の魔力スフィアから24発の魔力弾が一斉に発射された。
「レイジングハート! アクセルシューター・バニシングシフト!」
≪Accel Shooter Banishing shift≫
“レイジングハート”のロックオン機能を使った精密射撃バージョンのシューター20発で、ランスター一尉の多弾攻撃を真っ向から迎撃。残り4発は、距離を取りつつ高速砲で迎撃する。ランスター一尉は私へ距離を詰めようとしつつ「シュートバレット!」誘導操作性能の無い魔力弾を連射してくる。
――クロスファイアシュート――
またランスター一尉の周囲に魔力スフィアが8基と展開された。あのクロスファイアシュートっていう空間制圧タイプの多弾攻撃、ランスター一尉の十八番みたい。だけど、どれだけ撃たれたとしても、その全てを撃ち落す。
「もう一度バニシングシフト、行くよ!」
≪Standby, ready≫
アクセルシューターを準備したその直後、「クロスファイア・・・」ランスター一尉の周囲に展開されてた魔力スフィアがデバイスの銃口前に集束。そして「アサルトドライブ!」掛け声を合図に集束された魔力スフィアが一体となって砲撃化された。
「わっ!」
≪Accel Fin≫
“レイジングハート”が高速移動魔法を発動してくれたおかげで直撃は免れた。魔力スフィアを集めてまた別の魔法にする。そう言った使い方があることも、フェイトちゃんとの戦いで知っていたのに。クロスファイアシュートって言う魔法がどう言ったものかを勝手に決め付けた、私の油断が招いた結果だ。
「ヴェロシティレイド!」
ランスター一尉がデバイスの銃口から砲撃を放ちながら接近してくる。さっき見せてもらった砲撃よりチャージが早い砲撃、高速砲だ。高速砲を右に左に避けつつ後退していると、さらにクロスファイアシュートによる飽和攻撃も行ってくる。
(うーん、やっぱり首都航空隊はすごいな・・・!)
――アクセルシューター――
飽和攻撃をシューターで迎撃して退避路を確保しつつ、どうやって撃墜しようかって考える。徹底的に打ちのめすのが教導隊の仕事だし。ここはやっぱりずっと一緒に頑張ってきた魔法を使うところだよね。
「はぁぁぁぁ!!」
≪Cleave Blade≫
ランスター一尉のデバイスの銃身下部にあったもう1つのグリップから小太刀みたいな魔力刃が展開された。てっきりサブマシンガンモードみたいな物があるのかと・・・って、また先入観を持っちゃってる。
「レイジングハート!」
≪Round Shield≫
シールドを展開して、ランスター一尉の魔力斬撃をわざと防御する。一尉の周囲にクロスファイアシュートの発射体となる魔力スフィアが6基と展開される。追撃を受けないように後退したところで「ゴー!」一尉の号令が掛かって、12発の魔力弾が発射された。
「レイジングハート、次のシールドはバインディングで・・・!」
≪All right≫
ランスター一尉の放った魔力弾を避けている中、「でりゃぁぁぁぁ!」一尉自らがまた接近を試みてきた。そして私ははまたシールドを展開して、一尉の魔力斬撃がシールドにヒット。
≪Binding Shield≫
「え・・・!?」
ランスター一尉が驚きを見せる。シールドの表面からチェーンバインド4本が発生、一尉の右腕や胴体に絡みついた。見た目は通常のシールドと同じだから、初見だとたぶん誰もが引っかかると思う。私は「本気で行かせてもらいます!」そう宣言して後退。足元に展開した魔法陣――フローターフィールドに着地して、魔力をチャージ。
「うわっ、うわっ! やばい、やばい!」
チェーンバインドから逃れようと足掻くランスター一尉へと向けて・・・
「ディバイィィィン・・・バスタァァァァーーーーッッ!」
チャージし終わった砲撃を撃ち放った。砲撃は一直線にランスター一尉へ向かって行って・・・直撃。そうして模擬戦の第1戦は終了。私たち第4班からは誰1人として撃墜者は出さない完全勝利だった。
それから感想戦や休憩を挟みつつ3戦を行って4戦4勝を立てた後、お昼休憩になった。まずはシャワーを浴びて汗を流して、それからレストランで合流。好きなメニューを注文してそれぞれ席に着いてく中・・・
「高町なのは教導官。隣、いいかな?」
「あ、はい、どうぞ」
ランスター一尉が私の隣に着いて、みんな揃ってお昼ご飯を頂く。
「いやぁ、本当に強かったよ高町教導官。君やチーム・ウミナリの評判は知っていたけど、実際に戦ってみてよく解った。最年少で戦技教導隊や空戦Sランクになるのも解るよ」
「ありがとうございます」
ランスター一尉が私やチーム海鳴のことを褒めてくれた。そんな一尉がコトンとテーブルの上に携帯端末を置いた。
「あ、可愛いお人形ですね」
手作りっぽい女の子のお人形がストラップとして付けられてた。
「あぁ、コレかい? 妹が作ってくれたんだ。妹は自分そっくりに作ったようなんだけど、さすがにまだ幼いからね、少し不格好だ。でも僕の誕生日プレゼントに、って一生懸命ニガテな裁縫で手作りしてくれたんだ。それが本当に嬉しくて」
そう言ったランスター一尉は妹さんの作ったお人形を手に、とても優しい頬笑みを浮かべた。そして「あ、これが僕の妹、ティアナ」写真を見せてくれた。ランスター一尉と小さな女の子――ティアナちゃんの映る写真・・・。でも2ショットばかりで、お父さんやお母さんの映る写真は無い。
「ん? あぁ、父と母は事故で、ね。今となっては僕がティアナの親代わりでもあるんだよ」
顔に出ちゃってたみたいで、ランスター一尉は少し沈んだ表情で答えてくれた。でもすぐに「だから僕は、僕だけは生き続けないといけない。ティアナを守るためにも」真剣な、強い意志に固められた表情へと変えた。
「ティアナちゃんも、その・・・魔導師なんですか?」
「まあね。僕のクロスファイアシュートなどの射撃魔法を、護身用として習得したいと言われて教えはしたけど・・・」
ランスター一尉はそこまで言ったところで語尾を濁した。どうしたのかな?って小首を傾げていると、「高町教導官は、管理局に入る際、ご家族は反対しなかったかい?」一尉がそう訊いてきた。
「いえ・・・。反対はされなかったです・・・」
お父さんもお母さんも、反対どころか私が初めて抱いた夢を応援してくれた。神器によって瀕死になっちゃった後も、局員や魔導師を辞めさせようとしなかった。
「そうかい。・・・僕は、出来れば入ってほしくない・・・。でも妹は管理局に入り、僕の補佐をしたいって言うんだ」
「ランスター一尉はそれが・・・嫌、なんですか・・・?」
友達だけでもそう言ってくれると嬉しい。それが家族なら余計に嬉しいと思う。フェイトちゃんとアリシアちゃんがそうだったし。でも、ランスター一尉の考えも解る。だってランスター一尉は・・・。
「空戦魔導師って、実はかなり危険な仕事だ。空戦で撃墜されたら死ぬかもしれない。僕もこれまでに撃墜寸前に陥ったことが、死ぬ思いをしたことが二度くらいある。まぁ、それでも空が好きだからまた戻るんだけどね」
「あ、私も空が大好きなんです。私も一度撃墜されちゃいましたけど、それでもまた戻ってきちゃいました!」
そう言って苦笑いを浮かべるランスター一尉に、私も同じだと言うことを伝えた。墜とされちゃっても、やっぱり空が好きなんだって私は強く思った。死ぬことはとっても怖いけど、それでも空に魅了されちゃった私はもう空無しじゃいられないと思う。
「あはは! だと思ったよ。余程空が好きじゃないと、その歳で戦技教導隊になんてなれないからね!」
大笑いするランスター一尉に釣られて「はいっ!」私も笑った。
「・・・確かに空を飛ぶことが好きになってしまうと、どうしてももう一度って思いが生まれる。それがたとえ危険な仕事であっても。そして撃墜を味わえば、その恐怖もまた理解できてしまう。だからかな。妹の夢を応援はしたい。魔導師でも良い、局員になっても良い、でも空戦魔導師には・・・なってほしくない、そう思ってしまうんだ」
妹のティアナちゃんを大事に想うからこその苦悩だった。どうフォローすればいいのかを考えてるところで・・・
『エマージェンシー! クラナガン西部上空にてハイジャックが発生。首都航空隊および防衛隊は至急出動せよ! 繰り返す――』
事件発生を知らせるアナウンスが流れた。食事の途中だったけど、「首都航空隊、出ます!」ランスター一尉たちが席を立って、「アレッタ三佐、応援お願い出来ますか!?」アレッタ三佐に応援要請をした。戦技教導隊はその戦力から応援部隊としても重宝されるからだ。
「無論! 俺たちも応援部隊として出動だ!」
「「「「了解!」」」」
そういうわけで、私たち第4班もランスター一尉たち首都航空隊と一緒に出動する。地上本部から出て防護服へと変身、そして空へ飛び立つ。
『西部から首都第2空港へと飛行していた貨物便が、複数名の魔導師によってハイジャックされました。乗員は3名。うち1人が魔法を受け重傷とのことです。ハイジャック犯の狙いは、運搬中の貨物と思われます。針路は当初の目的地・第2空港です。防衛隊は空港へ、航空隊は貨物機の元へお願いします』
地上本部の管制室から現状が伝えられた。私たちはハイジャック犯をどうするかを話し合いながら飛び続けて、そして目視で貨物飛行機を捉える。そんな貨物機から『局員は出てくんじゃねぇ!』って通信が入った。ハイジャック犯からのものだ。
『た、助けてくれ!』
『黙って運転士てりゃ良いんだよ、オラ!』
『ぎゃあ!?』
『機長! 機長がデバイスで殴られた! 頭から血が! 意識がない!』
通信が乱れる。ハイジャック犯が機長さんを殴ったみたいで、しかも意識が飛んじゃうほどの威力のもの。時間を掛けちゃうと出血による後遺症が出ちゃうかも。でもだからと言ってこれ以上攻めると、もっと酷いことになりそう。手を拱いてる私たちに、『失せろ、失せろ! 轢き殺すぞ!』そんな怒声と一緒に、私たちの方角へと進路が変更された貨物機が向かってきた。
「とりあえず犯人を刺激しないように離れましょう!」
ランスター一尉が指示を出したことで、私たちは「了解!」応じて貨物機から距離を取る。すると『判ればいいんだよ! もう近付いてくんなよ!』ハイジャック犯がそう吐き捨てた。
『ひぃー! 誰か、助けてく――』
そこで通信が切られた。どうすることも出来ない私たちはただ貨物機を見送ることに。貨物機の針路はまた変わって、「あれ・・・?」第2空港とも違う方角へ向かって飛び始めた。そのことを管制室に報告する航空隊員さんと、「空港に着陸しないとなると、かなりまずい状況ですね」悔しげに唸るランスター一尉。
「うーむ・・・」
「突入して押さえますか?」
「いや、それはダメだろ。貨物機の窓はコックピットだけだ。後部ハッチも乗員の操作なくしては開けられない。無理に魔法で破壊すると、犯人に気付かれ、乗員の身の安全が危うくなるし、機体そのものも空中分解する可能性がある。強行突破は着陸後での最終手段にするべきだ」
「とにかく後を追いましょう。コックピットから見えなければ大丈夫なはずです」
やるべき事が今ないのなら、見つけられるように行動に移すのみだ。私たちは貨物機の後方150mを飛んで、貨物機の様子を管制室に報告し続ける。貨物機の針路は真っ直ぐ北に向かってる。このままだと首都航空隊の管轄内である首都から出ちゃう。その前にどうにかしないと。そう思ってた矢先、ドォン!貨物機のエンジンが爆発して、左翼の半ばから先が地上へと落下を始めた。
『こちらCA611便! ハイジャック犯が機内を魔法で攻撃! その影響でファンが止まって魔力エンジンがオーバーヒート! 予備電源でなんとか持ちこたえているが、長くは保たない! 頼む、助けてくれ! このままじゃ墜落してしまう!』
乗務員さんから最悪の知らせが入った。真下にはオフィス街がある。そんなところに墜落させるわけにもいかないし、翼もまた落とすわけにはいかない。だからとにかく今は、翼の対処が先だ。
「レイジングハート! エクセリオンモード!」
≪All right. Exelion mode≫
カートリッジをロードして、“レイジングハート”をエクセリオンモードへ。さらに続けてアクセルフィンを羽ばたかせて高速移動。翼との距離を詰めて、水平になるように位置調整。そして・・・
「ストライク・・・スタァァァーーーーズ!!」
エクセリオンバスターとアクセルシューター8発による多弾砲撃を翼へ向けて発射。ある程度は破壊できたんだけど、「思ってた以上に破片が・・・!」残っちゃった。
「任せてくれ!」
――クロスファイアシュート――
「ホーミングレイ!」
ランスター一尉とアレッタ三佐の魔法が、細かくなった翼の破片を全て破壊してくれた。でもこれで終わったわけじゃない。貨物機がゆっくりと墜落を始めて行ってる。しかも「隊長! ハイジャック犯と思われる連中が・・・!」航空隊員さんの言うように開いた搭乗口から5人が飛び出してきて、飛行魔法で逃走を図ろうとした。
「絶対に逃がさない・・・!」
“レイジングハート”をバスターモードに戻して、足元に展開したフローターフィールドに着地。カートリッジを2発ロードしたうえで魔力をチャージ。そして5人をロックオン。
≪Divine Buster Extension !!≫
「シューット!!」
私の砲撃の中で最大射程を誇るディバインバスター・エクステンションを発射。ハイジャック犯は貨物機から距離を取っていてくれたから、貨物機に誤射することはない。まず1人を撃墜。放射を途切らせることなく“レイジングハート”を動かしてさらに2人目、3人目、4人目、最後の5人目へと着弾させた。揃って地上へ墜落していくのを確認。
「確保お願いします!」
「あ、はいっ!」
私の砲撃を見てなのか呆けてたランスター一尉たちが、墜落するハイジャック犯たちの確保に向かった。放射を止めた“レイジングハート”の排熱を行う。砲撃の持続放射って機体に要らない負荷を掛けちゃうし。だから「無茶させてごめんね、レイジングハート」謝る。
≪Don't worry≫
「ありがとう」
「高町! まだ終わっていないぞ!」
“レイジングハート”にお礼を言ってると、アレッタ三佐から注意を受ける。そうだ、まだ貨物機の墜落を食い止めてない。でも、私たちに貨物機の墜落を食い止める手段なんて・・・。
「とにかく乗員3人を救出しよう!」
「「「了解!」」」
飛行速度を上げて、黒煙を上げつつ高度を下げていく貨物機へと接近する。速度が落ちてなかったら出来なかった行為だけど、なんとか搭乗口から進入できた。私たち4班は急いでコックピットへ向かう。
「管理局です! 大丈夫ですか!?」
「こちらCA611便! どこか不時着させられる広い場所は無いか!?」
操縦桿を握る乗務員さんが管制室と通信をしていた。そして「機長と副機長を診てあげてくれ!」もう片方の操縦席でぐったりしてる機長さんと、機内の後部に居る副機長さんをエスティ二尉とヴィオラ二尉が診る。2人は医学にも精通してるから、きっと大丈夫。
『こちら管制室。2時の方角、距離10マイルにある森林区内にハイウェイが通っている。そこでなら着陸は可能であると思われる。すでに走行中の避難誘導を開始している。そこまで飛べないか?』
「10マイル・・・! 判った、やってみよう!」
『健闘を祈る!』
片翼を失いながらも飛行を続けてる貨物機だけど、「きゃあ!」右翼がビルを掠めたことで大きく振動した。そして「クソッ、ダメだ、墜落する!」乗務員さんが諦めてしまった。目の前に迫ってくるのは大小さまざまなビル群。もうダメ。目を瞑りかけた時・・・
――屈服させよ、汝の恐怖――
また大きな振動が貨物機を襲った。だけどその振動は何かにぶつかったものじゃない。迫り来てたビル群がすぐ目の前で止まってる。貨物機がどういうわけか空中で静止してるんだ。
『こちら時空管理局・内務調査部所属、ルシリオン・セインテスト。CA611便を停止してください。貴機は固定していますので、墜落の心配はありません。繰り返します――』
コックピット内にそんな通信が入った。ここでようやく「ルシル君・・・!」安堵の思いでいっぱいになった。私は「エンジン停止、お願いします」乗務員さんにそうお願いすると、「わ、判った!」機器を操作して、貨物機のエンジンを停止させた。
『エンジン停止を確認しました。このまま近くの広場に移動させます。機内でお待ちください』
貨物機がルシル君の魔法か何かで動き出す。そして貨物機は、近くにあった大型駐車場へとドスンと置かれた。垂直離着陸機だったら始めからここに着陸できたんだけど、この貨物機の離着陸には滑走路が必要だから、わざわざ遠いハイウェイを目指したんだ。
(でも結果良ければすべて良し、だよね)
乗務員さんが「助かった・・・」大きく息を吐いた。私たちもホッと一安心して、搭乗口から緊急脱出シュートを出してそこから機外へと脱出。貨物機をチラッと見ると、巨大な白銀の腕――イロウエルが機体を真上から鷲掴んでた。そして役目を終えたっていう風にイロウエルが魔力となって霧散していった。
「ルシル君!」
「ん? あれ? なのは・・・! どうしてここに・・!?」
「うわぁーん! ありがとー! 本当に助かったよ、ルシル君!」
私は局の制服姿なルシル君の元に駆け寄って、その両手を取ってブンブン上げに振りつつ感謝を伝えた。そして戦技教導隊として首都航空隊と演習をしていたこと、お昼休憩時にエマージェンシーが入って、こうしうて現場に居たことを伝えた。
「そうだったのか・・・。まぁ何はともあれ何事も無かったようで良かったよ」
するとルシル君は久しぶりに微笑みを見せてくれた。最近だと通信でしか見られなかったから、二重に喜びが湧きあがってきた。
それから私たち教導隊第4班と首都航空隊は、今回の事件の事後処理を済ましたんだけど、終わったのが夕方になっちゃったことで、初日の演習は午前中のみだけになっちゃった。まぁ残り3日間はなんの問題もなく、全力全開で演習を行うことが出来たから良かったかな♪
後書き
グーテン・モルゲン。グーテン・ターク。グーテン・アーベント。
今話は航空戦技教導隊に所属したなのはの視点となりました。そこで出会うのは、このエピソードⅣから登場するティアナの兄であるティーダ。彼となのはの出会いである今話が、ティアナにとって重要なものになります。
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