艦隊コレクション 天を眺め続けた駆逐艦
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第三海
「ショートランド泊地へようこそ」
やっぱり人間は嫌いだ。
あの笑みが嫌いだ。
「君が電の言っていた綾川で間違いないのかな?」
「・・・・そうですが」
中将だか、大将だか知らないけど、癇に障るよ。
艤装さえあればすぐにでも攻撃するのに。
「見たところだいぶ疲れているようだな」
疲れているのではなく警戒しているんですよ。何分、人が嫌いなものでね。
川上はそこまで嫌っていないみたいだけど、好きでもないみたいだね。
あのふたりははすでに遊びまわっているようだけどね。
「早く休みたいだろう。単刀直入にいかせてもらうよ」
どうせ人の考えていることだ。ろくでもないことに決まっている。
解体?囮?それとも実験艦?
いずれにせよいいことが思い浮かばないね。
艦の記憶がそう告げているよ。
「・・・駆逐艦綾川!私とともに戦ってはみないか?」
どうせそんなことだろうと・・・・えっ?
「戦ってみないか」でだと。
私の人間嫌いは先ほど説明したというのに、何を考えているんだと?
執務室の空気は一瞬で凍り付き、同席していた電はどうしていいのかわからない状態であった。
人を嫌っている綾川に向かってあんなこと言ったのだ。
それは誰でも驚くことだろう。
「私のことわかっていっているの?」
なんで先ほど説明したばかりなのにあんな結論を出せるの?
私は人が嫌いなんだよ。
憎んでるんだよ。
それでも?
「綾川、君が俺たち人間を嫌っていることはよくわかった。だからこそ」
だからこそ何?
まさか命令に従えなんて言うの?
もし私の予想通りなら思いっきり殴ってやる。
「おれを見て、その考えを今一度、改めてほしい」
提督は立ち上がると綾川に向かって頭を下げていた。
提督という立場上、本来なら艦娘に頭を下げることはないことだろう。
でもここの提督は躊躇いもなく頭を下げてきた、それを見て綾川は吹っ切れたのか、
「・・・わかったよ。だからさ、頭を上げてくれない?」
快諾するのだが、
「その代わり、裏切らないでよ」
とても悲しそうな顔をしていた。
目には若干ではあるが涙も浮かべており、先ほどまでと比べると幼く見えた。
強がっていても、素はほかの駆逐艦たちと同じなのかもしれない。
「ああ、約束しよう」
その言葉を聞き、我慢していたものが解けたのか、その場に座り込んでしまった。
電ほっとしたのか、顔をが緩んでいた。
『綾川、きっとお前が必要な時が来る。その時は必ず新たな艦長が来るはずじゃ』
もうずいぶんと昔の話になっちゃうけど、いまなら艦長が何でああいったのかわかる気がします。
一度は道をたがえそうになりましたけど、私、綾川はもう一度抜錨します!!
なので宮日艦長。私はもう一度頑張ってみますね。
今度は絶対守って見せます。
「提と・・・いや、艦長!よろしくね!!」
綾川は満面の笑みを浮かべていた。
~入渠ドック内~
「いきかえりますぅ」
久しぶりのドック、なんて気持ちがいいんでしょうか。
やっぱりこれですよね。
ここの司令さんは部外者の私にまでドックを使わせてくれるなんて、いい人なのですね。
先ほどまで戦っていたというのにも関わらず、ちゃっかりなじんでいる川上。
ドックに入ってから40分が経過していた。
修復自体は終わっているのだが、川上が一向に出ようとしないのだ。
川上が入っているのは中央部に位置する大きなドックなのだが、今は川上しか入っていなかった。
「入渠うれしいです」
先ほどまでは雁と鷺もいたのだが、修復が終わるとすぐに出て行ってしまったのだ。
二人曰く、お風呂は苦手だとか。
お風呂に入るなら、水風呂がいいと言っていたよ。
なんでも、水風呂のほうが海みたいで気持ちがいいらしい。
逆に川上は熱いお風呂が好きなため、入浴時間がかなり長い。
そのため、前に入渠したときはのぼせていたところを綾川に見つかり、ドックから出たのです。
その時の川上は「まだ平気」と言っていたが、顔は真っ赤になっていた。
誰がどう見ても危ないところだったと思う。
「今日は誰も見てないですし、少しくらいは燥いでもいいですよね」
そういうと川上は深呼吸をはじめ、呼吸を整え始めたのです。
なぜ浴槽の中で呼吸を整えるのかはわかりませんが、川上は集中している様子でした。
そして落ち着いたのか今一度周りを見渡すと、
「誰もいませんね」
そう、誰もいないことを確認すると川上は、
「川上!潜水しま~す!」
といい、ゆっくりと潜っていったのです。
ちなみに川上は潜水艦ではなく駆逐艦です。
普段は潜らない彼女ですが、浴槽では誰もいない時を見計らって、こっそり潜っているのです。
川上が言うには、「海は深いから潜りたくないから、かわりにここで潜ってます」とのこと。
そしてあと後処理をするのは、ほぼ綾川の仕事なのです。
「ここが入渠ドックなのです」
「へぇ、結構広いん・・・はぁ~」
何かに気付いたのかいきなり溜息を吐く綾川は、川上の潜っているであろう大きな浴槽の前に立つといきなり服を脱ぎ始めたのです。
綾川の突然の行動に驚いた電は綾川に目を向けられない様子でした。
服を脱ぎ終わった綾川は
「電さん。ちょっと待っていてください」
「・・・はっ、はいなのです」
浴槽の中に入ると真ん中ほどのところまで行き浴槽に顔を浸けて何かを探し始めました。
綾川が探しているのは川上なのですが、なぜ潜っているのが分かったのか疑問です。
「やっぱり」
顔を上げると、綾川は体制を低くし浴槽の中にいる川上を持ち上げたのです。
そして持ち上げられた川上は案の定、のぼせていて、目を回していたのです。
すごいのです。
いなずまには気配すら感じなかったのです。
これが彼女たちの特徴なのでしょうか?
「はぁ~。広いドックだからまさかと思ったけど、本当にいるとはね」
「川上ちゃんなのです!」
綾川ちゃんは川上ちゃんを脱衣室まで運び、そこで川上ちゃんが目を覚めるまで待っていたのです。
姉妹が仲が良いことが確認できたので良かったのです。
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