剣士さんとドラクエⅧ
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88話 夢
みんな笑顔だ。私だって負けず劣れず満面の笑み。絶望なんてものはするもんじゃないけど、希望がある分にはいいに決まってる!
陛下も姫が元の姿に戻れるのを勿論喜ばれていて、姫をさぁさぁと促していた。エルトが姫の背にそっと手をあててエスコートする。馬の姿で、馬の仕草で水を飲まれるのはこれで最後だ!
七色を帯びてきらきらした泉の水を姫が口につけた途端、姫の体はまばゆい光を帯び、輝き始めた。姫が驚かれて体の様子を見回している間にも輝きは目もくらむほど強くなっていき……!
「……!」
光が収まったその場所には白馬の姿の姫はいなくて、元の姿……城でお召しになっていたドレスを着た姫が佇んでおられた。あぁ!これで……これで、陛下も元のお姿に戻れる!この水を母上や父上に使えば元の姿に……。
喜びの表情で姫はエルトに向かって何か、話される。私の方にも向かれたような……?残念ながら、その時の私は嬉しさで痛みなんて感じていないぐらいだったけど、とうとう頭痛に打ち負けて意識喪失寸前ってわけであまり感動的な会話を聞ける状態じゃなかったのが……本当に残念過ぎて。それどころじゃないほどの激痛は安心したからか、増していたみたい。
異常を察したククールが泉から引き離そうとしてくれたけど、……重いから動かない。ここで気絶したら正直、神聖な場所なのに命の危険を感じるから……私は最後の力で泉から離れ、泉の入口付近で力尽きたのだった。
一方その頃、姫とエルトは語らっていた途中にいきなり私が飛び起きて動いたと思ったらぶっ倒れてびっくりしたとか、びっくりしてたら……悲しいことに呪いの状態に戻ってしまったとかでいろいろあったそうだけど。
『何も知らない愚か者は、どっちですか?』
・・・・
・・・
・・
・
嫌な夢を見ていた。嫌な夢……内容は何度か繰り返し見ているものだったから今更どうとか、そういうわけではなかったものの。でも、今日は似て非なる夢だった。
簡単に言えばライティアの夢。殺されそうになった夢、最悪の再会……それらが混じりあった、混沌とした夢だ。彼女は彼女なりに貫いていたかもしれない、と心の奥底では罪悪感を感じていたのも原因の一つのはず。
でも今日の夢の中の彼女は、あんなに狂気的な人ではなかった。年相応の服装をして、丁寧な所作に上品な言動は正しく彼女に求められていた立ち振る舞いだと思う。貴族の令嬢らしくて、静かな笑みを浮かべていた。叔母上や母上に似た綺麗な人だった。
夢の中で彼女は私の隣に立っていた。従者のように付き従っていた。優しく、優しく、世話役のようにいろんなことを教えてくれた。怯えも驕りも見られない心までも綺麗な人にも見えたんだ。現実とは大違いでそれを意識したら……夢だとわかっているこの世界で笑ってしまいそう。
「主」
胸に手を当て、深々と頭を下げた彼女は未来予知の能力を行使する。夢の中の彼女は、彼女の望み通りルゼル兄上の許嫁で、私について私を守る護衛でもあった。
兄上が生きていた。生まれていた。一つ年上の兄上は……体の弱い、美しい人だった。優しい、優しい、妹想いの、賢い人だった。私は夢の中でさえ彼の代わりをすることができないことを悟る。知識に精通し、ライティアの肉食系アピールには閉口していたけど、穏やかで達観した人。
「もうすぐ厄災が参ります。私どもは……主をお守りすることが出来ません」
夢の中の私は兵士でも剣士でもなく、男装もしていないただの女の子だった。そして私の感情と裏腹にライティアの言葉を信じて、怯えた。厄災。漫然と伝えられたそのことを私は鼻で笑う。「私」は怯える。
「私」は剣を知らないただの女の子。戦い方を知らない娘。勇気や無謀の欠片もない、平凡な女の子。……そんなの……要らないじゃないか。由緒正しき魔剣の騎士に相応しい者はどこだ?この笑いそうなぐらい甘い夢の世界の、どこだ?
そして。……《《なんで私はライティアと兄上に付き従われているんだ?》》当たり前の疑問が沸き上がる。訝しくなって動作を止めた私をライティアが心配そうにのぞき込む。
その顔が、優しそうだった顔が急に憎悪にゆがむ。場面がいきなり……ヴェーヴィッドでのあの場所に変わり、暴走した魔法が私にぶち当たらんと迫る……。
剣を構えた私はそれを斬ろうとするも、謎の紋章に守られて……そうだ。ライティアはその時、泣き叫んだ。体にあの紋章を刻み込まれるようにして、痛みに、圧倒的存在に、恐怖して。そんなの呪いだ。だれがした?彼か?あの笑いかけたアーノルドという男?何のために?どうして?
騎士のいないモノトリア。王家を守らぬモノトリア。それが夢の世界の中らしかった。違和感は……違和感を感じなかったこと。
そもそも……根本から、夢以前に、トロデーン王家を守る理由が伝わっていないモノトリア家はおかしい。王家の影?それを隠れ蓑にして別の使命があるんじゃないか?ライティアが、ルゼルが、父上が、母上が背負った使命を……私が背負えっこないんだし。知りたいのも仕方ないでしょう、私は……。
私は、どこから来た?
『貴方様をお守りするために、真なる主よ』
優しいライティアが言う。幼く小さい私の頭をなでて、微笑んで。主となぜ彼女は呼ぶの?
『俺の妹、可愛い妹。俺はお前より弱いけどきっと、きっと守ってやるから』
顔も知らない「兄」の、知らないはずの声。穏やかで、すべてを、未来を諦めきった瞳は「私」を見た時だけ煌めいて。
『使命を与えたというのに、そのために力も富もくれてやったというのに、娘を守ることも出来ないのか……モノトリアよ』
アーノルド。二人の後ろには大きな男の影が見えた。彼は何者なの?人外じみた威圧感が、私にも襲い来る。しかしこちらに気づいた彼は……「優しく笑う」。その笑顔を見て……はっきりと「魔」の者だと気づくのは、ただの直感なのだろうか?
夢から醒める寸前に、怒りに満ちた声が聞こえた。それは、私に向いたものじゃなかった。夢の中のライティアに向けられた言葉だった。彼女は涙を流して謝って、それから、それから、欲にかられた自分を許さないでと言って……。
『歪んだ世界を見た私の、歪んだ優しい世界はどうですか?』
ライティアの声が聞こえる。
『これが正しい世界なのに、あなたは守られるべき人なのに、どうして世界は間違っていくのでしょうか。みんな幸せで、あなたを守ればモノトリアはもう要らないのに、他ならぬあなたがモノトリアを守ってしまうから』
『すべてあなたが原因ですよ。でも、あなたがいなければ……』
『何も知らない愚か者は、優しい世界に行こうと思います。そこにはルゼル様もいらっしゃりますから』
『あなたは自分の正体を知ったらどうするのでしょうか?アーノルドという自分勝手な男に振り回されたのは哀れ極まりないですけれど。嗚呼、それを言うなら……私達人間の方が振り回されましたが』
『……あなたが幸せになりますように、眷族なりに、祈りますよ』
・・・・
・・・
・・
・
「トウカ、大丈夫か?」
唐突に浮上した意識。目の前には心配そうな顔をしたククールがいて、ライティアと同じように顔をのぞき込んでいた。あぁ、倒れたんだっけ。座らされている。体調は万全、痛みどころか元気いっぱい。ベストコンディションといえる。
元気をアピールするために立ち上がり、笑顔で頷く。でもククールは納得してくれなかった。ちょっと、理解しようもない濃い夢を見たからふらふらしてるの、バレたのかな。頭の中にとりあえず封印して後で考えよう……。
「魘されていたが、本当に大丈夫か?」
「あー……なんかおかしな夢でね。でも夢なんて気にしなくていいんだよ」
「それならいいんだが……。おっと、それどころじゃなかったな。姫の呪いは解けなかったみたいなんだ。それについて話し合うために一足先に隠者の小屋にみんなは行った。俺達も早く向かおうぜ」
……なんか今、夢より理解し難いことを聞いたんだけど。呪いが解けなかった……?どういうことなの?ということは姫は元の姿に?陛下は戻られなかった?なんてこと。
ククールの手を引っ掴んで、私は隠者の家に突っ走った。途中魔物が出てきたけど蹴散らしてしまえばいいよね!ということで蹴り砕いてみた!
・・・・
後書き
真ん中部分はもっと後半になればいろいろ明らかになります。ライティアの見ていた歪んだ世界(綺麗なライティアの世界のため、本当に見ていたものより脚色されている)でした。
トウカ「剣を使わない私とは」
そもそも生まれてもないルゼルと出番が不憫なライティアの紹介をしておきます。
ルゼル
病弱虚弱無気力睡眠系男子。何をやっても一回で出来る天才。生意気で可愛げの欠片もないがシスコン。ライティアと結婚しません。この人怖いんだけど。こっちが末裔の予定だったが近親相姦を繰り返した家系では……
ライティア
イケイケ肉食系女子。予知しちゃう。強い。という本人妄想。夢女子である。転生者とかそういう設定ではない。現在引きこもり。
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