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クリスマスに鮫

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1部分:第一章


第一章

                      クリスマスに鮫
 オーストラリア。この国にも当然クリスマスはある。しかしだ。
「噂には聞いてたけれどな」
「そうよね」
 如何にもアジア系といった顔の二人がぼやいている。彼等は今それぞれ半袖のシャツに生地の薄いズボンといった格好だ。それで白い砂浜と青い海を見ている。
 砂浜にも海にも海水浴客がいる。二人はそのビーチを見ながら話す。
「これがクリスマスってさ」
「日本と大違いよね」
「あれっ、また言ってるよこの二人」
「仕方ないわね」
 ここでだった。茶色の髪と目の男と赤がかった金髪に灰色の目の女が言ってきた。二人ともアジア系の二人より背が高く筋肉質である。
「だからここはオーストラリアだよ」
「今この国は夏なのよ」
「けれど日本じゃ冬だから」
「違和感があるの」
 アジア系の二人はこう彼等に反論する。男の方の名前は如月健太郎、女の方の名前は三月日花枝、どちらも日本の大学生である。大学でのクラスメイトであるオスカー=オコンネルとマリー=ディプレ、今丁度二人の目の前にいる彼等に誘われてクリスマス旅行でこの国に来たのだ。
 そうしてきたオーストラリアは。二人が話に聞いた通り夏だった。見ればビーチでサンタがサーフィンをしている。
「メリークリスマス!」
「だからそこはトナカイだろ」
「何で波に乗るのよ」
「普通じゃないか」
「ねえ」
 しかしオスカーとマリーは平気な顔でこう言うのであった。
「僕達から見ればだよ」
「サンタさんが雪の中にいる日本とかの方がね」
「違和感あるから」
「話には聞いていたけれどね」
「それもわからないんだけれどね」
「そうよね」
 健太郎と花枝は眉を顰めさせて二人に返す。
「夏にクリスマスって」
「全然信じられなくて」
「けれどワインはあるよ」
「それに御馳走もね」
 オスカーとマリーの言葉はある意味において全くぶれない。
「ケーキもあるしね」
「クリームとカスタードクリームとアイスクリームの三つを乗せたクリスマスプディングもあるわよ」
「そのクリスマスプティングって話を聞いただけで」
「糖尿病になりそうだけれど」
 日本人の二人が聞くと唖然となる組み合わせのスイーツだった。
「あと。七面鳥じゃないよね」
「バーベキューでしょ」
「夏だからね」
「ビーチでそれを焼いてね」
「何かキャンプファイアーじゃない」
「それ以外の何ものにも思えないけれど」
 健太郎と花枝にしては本当にそうとしか思えないのだった。とにかく二人にしてはクリスマスの実感がなかった。ところがなのだった。
 夜になるとだ。四人でビーチに出てだ。実際にバーベキューを食べるのだった。
 他には海の幸のオードブルだった。ロブスターに貝に魚だった。オスカーとマリーは二人に対してそのオードブルの山とついでにサラダも誇らしげに出すのだった。
「日本じゃ君達に海の幸を物凄く御馳走になったからね」
「だからお返しよ」
 健太郎と花枝が料理したそれを御馳走になったのである。四人の仲自体はとてもいいのだ。
「さあ、どんどん食べて」
「メインのお肉も焼いてるからね」
「だからクリスマスに海の幸って」
「それ自体がないけれど」
「いやいや、日本の声優さんの中にはクリスマスに納豆食べる人がいるそうだし」
「これ位は普通でしょ」
 二人は日本のそうした話も知っていた。所謂ヲタク文化についても造詣が深くなっていたのである。
 
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