普通だった少年の憑依&転移転生物語
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【ソードアート・オンライン】編
135 〝BoB〟前
SIDE 升田 和人
2025年12月12日。今日は1991年からして34度目の〝バッテリーの日〟と云う日らしいが、そんな事は俺にはどうでも良いことである。
(もう真人兄ぃは先にインしてる頃だな…)
真人兄ぃは俺の様に病院からインしない。
普通に考えたら「俺が病院からインしているのに真人兄ぃは何故自宅からインしているのか?」──とか問いたくなりそうな疑問なのだが、軽く菊岡から聞いた話で──俺はそう詳しい話を知っているわけではないが、真人兄ぃは今回の様なケースではモデルのサンプルとしては適していないらしい。……それについては、判らないでも無かった。
……何故なら真人兄ぃは、電極パッドを全身に付けられてモデリングされていたとしても、【GGO】の中で平然と無双しているのが今にも、真人兄ぃ──もといティーチの無双姿が難無く浮かぶからだ。……もちろんそれは当たり前の事ながら、〝冗句〟の延長線である。……今は運転中なので〝目を瞑る〟──なんて馬鹿なことはしないが…。
(そろそろ着くか…)
どうでも良いこと──と云うよりかは俺が思い詰めても仕方のない事から思考を、〝今俺自身が直面していること〟へと切り替え、今日も今日とてエギルに安価で融通してもらったバイクに跨がり、【ガンゲイル・オンライン】にインするために病院へとアクセルを噴かすのだった。
SIDE END
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
SIDE ???
(明日か…)
今日は12月12日。明日には私がプレイしている【ガンゲイル・オンライン】と云うゲームにて、〝最強のプレイヤー〟を決める大会──〝バレッツ・オブ・バレット〟が開催される。……〝BoB〟について意気込んでいると、知らず知らずの内に右手に力が入っている事に気付いた。どうにも、二日前の今からでも緊張しているらしい。
――「詩ー乃」
近くから聞こえる、私を──朝田 詩乃の名を呼ぶやや間延びした声に沈殿しかけていた意識を浮上させつつ、力が無意味に籠りかけていた右手を軽くグーパーさせながら適度に脱力させていく。掌は妙に汗ばんでいて、外気が手の平の温度を奪っていく感覚が妙に心地良く感じる。
「あ、桃原先輩」
「待たせちゃった?」
そう申し訳なさそうに私が座っているテーブルに座りかけている桃原先輩へと、数分前に到着したばかりな私は首を振って大して待っていない事を伝える。……そもそも、私が先輩を誘ったのだから──と云う事もあった。
桃原 あやめ。前述した通り、桃原先輩も私と同様に【ガンゲイル・オンライン】をプレイしている。【GGO】でのキャラクターネームは《Peach》。
高校こそ違うが、学年としては歳上なので先輩と呼んでいる女性。……その人が私と待ち合わせていた人物で、私に【ガンゲイル・オンライン】を薦めてくれた人物でもある。……そんな事になったきっかけはひょんなことだったが、私は桃原先輩には感謝している。
……〝とある事件〟を境に、銃器の類いを見るだけでも一時期は激しい症状──それこそ、重篤な息切れなどの症状に見舞われていたのだが、先輩から誘われた【GGO】にインする様になってから、それらの症状が幾らか軽微なものになったからだ。
「で、いきなりどうしたの?」
「………」
私がいきなり呼び出した理由を訊ねてくる桃原先輩。けれども私が待ち合わせに指定した場所では人の通りが忙しいで、語りの入り方が判らない。……私が桃原先輩を呼び出したのは桃原先輩に相談したい事があったからなのだが、あまり余人には聞かせたくない内容でもあった。
「……場所変えさせて下さい。……その、この場所ではちょっと話しにくいので…」
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「ストーカー、ねぇ…」
「はい…」
桃原先輩を待ち合わせていた場所から一番近くの公園に誘い、私が最近抱いていた悩みを打ち明けた。……私の悩み──それは、今先輩が復唱した通り、1週間前だったくらいからかストーカー──更に詳しくは尾行されている事について悩んでいる。
しかし、正直なところ、自分は──こう云っては些か忸怩たる思いがあるが、自分自身をあまり目立たない容姿だと云う事は自覚しているので最初の頃──大体1週間くらい前は私の自意識過剰と一笑に伏していた。……が、それも3日4日と続けば、いい加減笑い話では済まなくなった。
「……うーん…」
桃原先輩は顎に手を当てながら考え込む。明日には〝BoB〟がある事を私も知っていて、桃原先輩に心労を掛けさせてしまうような事になってしまったが、私もそろそろ限界だったのだ。……聞いてもらえるだけでも嬉しい。
……そう、云ってしまえば〝BoB〟を前にしてガス抜きを兼ねた愚痴で──〝BoB〟が終わったら警察にでも相談しに行くつもりだったのだが、どうやら私は桃原先輩の──こう云ってしまえば桃原先輩に対して失礼になってしまうが、【ガンゲイル・オンライン】を私に薦めてくれた桃原先輩の〝お節介焼き度合い〟を失念していたようで…
「ねぇ、この話警察に相談した? もししてなかったら私の知り合いに親身になってくれる人を知ってるんだ──男の人だけどね」
「それはちょっと…」
桃原先輩はそう──言いにくそうにおずおずと提案してきてくれたが、当然のことながら断らせてもらった。
SIDE END
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
SIDE 《Teach》
今日は12月13日──12月7日に俺が【ガンゲイル・オンライン】にコンバートしてから早数日。〝キリトが【GGO】にインして以来のお決まりメンバー〟──俺、キリト、ピーチ、シノンの4人は首都【SBCグロッケン】にある総督府に居た。
なぜわざわざ早めに狩りを切り上げ、総督府に居るのかと云うと〝BoB〟には総督府からしかエントリー出来ないからだ。
「うわぁ…。凄い人数だな」
「一端の【GGO】ユーザーなら誰だって〝最強〟の名前は欲しいから当たり前よ」
総督府に集った夥しい〝BoB〟の参加者らしい人数を見て、キリトは──もとい、あまり他人とのコミュニケーションを得意としない和人は〝うへぇ〟と情けない声を漏らせば、そんなキリトにシノンが答える。……確かにシノンの言う通りで、俺の目から見ても各々プレイヤーにはギラギラした──野獣のごとき眼光がうかがえた。
そうこう他の〝BoB〟に参加するプレイヤーの顏を見渡していると、この施設の淵に位置するだろうと云う場所にある──なにかの端末がある場所でそれなりに長い列が出来ているのが見えた。
「あれが〝BoB〟にエントリーするための端末か」
「うん、そうだよ。私とシノンは既に登録してあるからティーチ君とキリト君も早いこと登録してきたら?」
「了解。……でもなんでもっと早く俺達をここに連れて来てくれなかったんだ?」
「〝〝BoB〟に参加したい〟って言ったのはいつの事だったかしら?」
「昨日でした」
キリトはシノンからの諫言に、肩を落としながら列の最後尾へと向かうのを見て、俺もキリトの後に続いた。
………。
……。
…。
エントリーに関する手続き自体は恙無く済んだ。順番としてはエントリーをしたのはキリト、俺の順で、俺が先にエントリーを終えたキリトと合流した時、キリトが思案顔でいきなり切り出してきた。
「……ティーチ──いや、真人兄ぃは気付いたか?」
「ああ。〝住所〟だろ?」
キリトも俺の改めての確認に、鷹揚に頷く。その事から察するに、どうやらキリトも俺と同じ様な事が気になったらしい。……シノンとピーチからの又聞きだが、〝BoB〟の上位入賞者にはゲーム内のアイテム──云ってしまえばモデルガンや賞金が【ガンゲイル・オンライン】のリリース元である〝ザスカー〟から贈られると云う。その為に住所を端末に入力する必要があった──と云うのは簡単に推測出来る。
……ちなみにピーチとシノンは入賞歴があるらしく、ピーチは賞金を──シノンは【プロキオンSL】のモデルガンを〝ザスカー〟から贈られたとのこと。
閑話休題。
「どうしたの?」
女子勢──シノンとピーチから離れてキリトと意味深な会話をしていると、そん俺達を見かねたのかピーチが声を掛けてくる。……しかし、〝〝死銃〟が【GGO(ここ)】の中に居るかもしれない〟──なんて口を滑らせて、ピーチ&シノンの女子勢──だけではなく、他のプレイヤーの皆を混乱させる訳にもいかない。
「「なんでもないよ」」
キリトと一瞬だけ顔を見合わせてほぼ同時に頷き、異口同音で誤魔化しの科白を述べる。……そんな俺達の所作を見ていたピーチとシノンは、当然の如しに訝しむような表情を向けてくる。……しかしそれは華麗にスルーさせてもらった。
(……まぁ、何はともあれ)
色々気になったりとかはあったが、何はともあれ──〝バレット・オブ・バレッツ〟は開催されたのだった。
SIDE END
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