剣士さんとドラクエⅧ
しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。
ページ下へ移動
64話 霧
・・・・
生物の気配が感じれない冷たい不毛の大地を歩き、たどり着いた先にあった遺跡の入口に近づく。遺跡の方で人の気配がするけどそれはギャリングさんの部下だろうな。数は少ない。
あの人数ではなんともならないだろうな……特別弱いわけじゃないけど強そうでもないように感じるから。一般的なトロデーン兵以上近衛兵以下ってとこかな、平均は。もちろん目で直接見たわけじゃないし、感じ取れる気配からの推測だから大した精度でもないだろうけどさ。でも、この遺跡って敵地でしょう?なのに外から気配がわかるっていうのはよほど強くない限りは……褒められた行為じゃないよね。だからそんなに強くないんじゃないかな?
「……嫌な所ね。悪意を凝縮したのをぶちまけたみたいよ……」
「あぁ。マイエラの時と同じ気配だな……」
魔法得意組もそう思う?
荒廃した土地と同じくボロボロになったその場所に足を踏み入れれば、目に飛び込んできたのは唯一形を保った遺跡。周りにある小さい建物はどれも大なり小なり崩れたりしているというのに、その大きな建物……いっそ魔神殿とでも呼ぼうか……は、暗黒の気配を纏ったまま鎮座していた。
……一体全体、何百年そこにあるのか……分からない。私はこれでも生まれ変わってからは観察眼を磨いてきたつもりだけど、「闇の遺跡」の建築された時代も、その方法も分からない。
ぱちり。そんな小さな音を立てて私の体のすぐそばで何かが弾けた。
「……、またか」
「えっ?何のこと?」
「髪の毛も目の色も変わってないけどトウカの周りで魔力が弾けたんだよ……やっぱりなるか……好きでなってるんじゃないのは承知の上だけど、お願いだから戦線離脱しないで欲しいな……」
……あぁ、あれか。脱色現象とでも言うしかないあれ。久しくなかったから分からなかった。来ないで欲しいものランキング第一位だよね……。私にとっても、みんなにとっても。
「大丈夫。頭も痛くないし、体調も悪くない。それに……ドルマゲスを殴れるかもしれないチャンスで私が使い物にならなくなるとでも?」
「分かってるよ。でも心配だからさ」
「ありがとう。……まぁ、ぶっちゃけ自分でもどうなるか分からないからさ……気を強くもっておくよ」
それでなんとかなるとは言いきれないけど。痛みにはこれでも、日本で生きてた頃よりは強くなってる筈なんだけどなぁ?やっぱり頭の中を揺すぶられるような痛みには慣れない、か。鍛えようがないから……頭の中から針刺してくれだなんて言われても出来ないからね。
「さぁて……遺跡に突入、出来たらいいな」
「気を抜いてはいかんぞ」
「もちろんでございます」
陛下のお言葉通り、油断せずに右手に双剣の片割れを構え、いきなりの攻撃に備えて誰かのお下がりの適当な盾を構えて身を守る。
……まぁ、見つけたのは何度も存在を感じられたギャリングさんの部下たちなんだけどね!知ってた!
「……!お前たちは何者だっ?!」
「貴方たちと目的が同じ旅人さ。ドルマゲスを倒しに来た」
そう言ってみれば警戒は少し緩められたみたい。駄目だよ、もっと見極めてからにしないと。……まぁ、私達は本当にそのつもりでいるから良いんだけどさ。罠のつもりで言ってたらどうしてたんだろう……。人ごとながらハラハラするね。
「この、『闇の遺跡』にドルマゲスが立て篭もってるってことで良いのかな?……ギャリングさんの部下さんたち?」
「……誰かが、話したのだな。その通りだ。怪しげな黒い霧のせいか、この遺跡に何度入ろうと試みても気付けば入口に戻ってきてしまう」
「とりあえず、試してきたらいいと思う……もしかしたら行けるかもしれないし」
……へえ。面白い罠が仕掛けてあるんだね。気がついたら入口に戻る……黒い霧……あぁ、なんか知ってるよ。太陽の力を借りれば晴らせるよね。たしか、ラーの鏡、だっけ?まぁ、この人の言うように一度挑んでみてからみんなに言おうかな……。どこかの国の国宝だったような?……思い出すのは後でいいか。
「……やっぱり、行くよね」
「そりゃ、もちろんさ」
「ちょっと、……その霧で何らかの悪影響が誰かに出るかもしれないと思ったら怖いな」
「……それは、そうだな」
「そうでがすが……」
「でも、みんな結局行くんでしょう?」
まぁ、エルトの心配はごもっともだけどさ。その危ない霧に突撃して平気だった人達がそこにいるんだからそこまで警戒しなくてもいいと私は思うんだけどな。というか、ぐだぐだ考えていてもドルマゲスは倒せないし。ゼシカの言葉でみんな、一応は頷いたんだし、いいよね。
先頭にいたエルトの肩をぽんと叩き、親指で霧の渦巻く遺跡の入口を指し示して。
「ボク、一番乗りするけどいいよね?」
「……いや、僕も一緒に行くよ。最近はトウカに一番を取られてばかりだし……」
「それでこそ、ボクの親友だよ」
無意識のうちに口角が上がっていたのか、エルトの大きめの漆黒の瞳に映る私の顔は満面の笑みを浮かべていた。我ながら……愉快で愉快で堪らないといった風な目だ。なのにどこか……残虐性が見え隠れしていて。今から人殺しに行くというのに。いや、行けるかわからないけどさ。
……なんとなく。本当に私は変わってしまったんだと……痛感する。平和な時代に生きて死んだ少女はとっくの昔にいなくてさ。そこにいたのは戦いに執着し、王家に仕えるという名目で自分を抑える鬼だったのかもしれない。だって私は義兄……ルゼルの代わりなんだから。本物じゃないんだから、忠誠心は、偽物なんだろう。
「そんなに気を張らなくてもどうせ、戻されるんだがな……」
ため息混じりに言われた言葉は本当で。注意しいしい入っていき、そのまま帰ってきた私たちの間抜けヅラを彼らはまた、諦めたように息を吐いて見ていた。
ちょっと、警戒しても損しないんだからそんな哀れみの目で見ないで。
え?何さ、そこのくぼみがどうしたの?そこになんか嵌めるの?……ラーの鏡、でしょ?神話の相場でいけば。なんで知ってるかって?それはボクだからだよ。……あーー……持ってる国、そういえば……サザンビークじゃないか。行きたくない国だ……。え、ラーの鏡じゃないの?太陽の鏡?ふーーん……似たようなものでしょ?え、単なる別名?……やっぱりそうじゃないか!
・・・・
「……次の目的地は、サザンビークです。国宝である太陽の鏡を譲って頂かなくてはなりません」
「うむ……分かっておるな?」
「はい。トロデーンの現状については決して話しません。……しかし、私の名前を明かした方が話は進めやすくなるかもやしれませんが」
「……モノトリア家長子は修練の旅に出ているのであろう?」
「はい、陛下」
船の上の主従の会話を盗み聞いていた、紫の影が空に飛び立ち、目にも止まらぬ速度で飛びさっていったことを、誰も気づかなかった。
ーー聞いちゃった!アハハ、聞いちゃったぁ!!アタシの恰好いい未来の旦那様、やっとアタシのところに会いに来てくれるんだね!うふふふふ、準備しないと!ドレスもアクセサリーもみんな新調しなくっちゃ!
ウキウキと胸を踊らせ、空を駆け抜ける女の名は、ライティア・ヴェーヴィット。十八年前にトウカを刺してモノトリアから、トロデーンから追放された狂った女である。
ーーやっぱり危険なところには情報あり!ルゼル様の為ならば、アタシは何だってするの!邪魔なあの娘はいないんだ!ルゼル様に妹はいない!なら、アタシが、アタシこそが……モノトリアの姫なんだから!
モノトリア家。近親相姦によって血を保つ、狂った側面を持つ名家。その成れの果てが、ライティアという……中途半端に予知能力を備えた女を生み出した。微かに狂った世界を読み、それを信じて疑わない女……所謂行き遅れである年齢の彼女は、年甲斐も無くはしゃぎ、空を飛び回っていたのだった。
手に、古い血のついたナイフを握り締めて。
・・・・
後書き
ぱっと見は少年とはいえ、顔立ちは女の子なトウカを見てルゼルだと思えるぐらい頭沸いてる方の登場。短い会話の盗み聞き程度でそんなに察せるのは予知能力(笑)の恩恵(?)です。
いろいろと修羅場になりそうなサザンビーク編、迫ります。
ページ上へ戻る