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剣士さんとドラクエⅧ

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63話 魔族

 急いで私達はベルガラックの街を駆け抜け、外でお待ちになられていた陛下の元へ直行する。そしてベルガラックのカジノのオーナーギャリングを殺害した強盗がドルマゲスの可能性があることをお伝えし、教えられた遺跡に向かうべく船までとって返した。

 船までの短い移動の途中、何回も魔物が邪魔してきたけど……うん。もしかしたら今度こそドルマゲスをぶった斬れるかもしれないのに、そこらの雑魚に手間取ってなんかいられないからね。見慣れたエルトもドン引きの瞬殺で道を開けさせたよ。一閃のもとで両断し、体が泣き別れしちゃった魔物はそう生きてないからね。やっぱりまっぷたつは早いなぁ……。

 いつもはしない、というかできないのは腕の負荷を考えてるからかな。これは三十回ぐらい連続でやると剣を振り慣れた私も流石に次の日はその剣を持ってた方の肩がちょっと筋肉痛になるから。まぁ痛みは軽微で支障ないっちゃないんだけど、魔法では治らないからね……万全の態勢で毎日を過ごしたいから、仕方ない。大きく剣を全力で振り回すのはちょっとしんどいってことだ……単純に細切れにするのはそんなに力がいらないから楽なんだけど。あれ、早さでカバーしてるから。

 どうでもいいけどこの大剣、基本的には両手で振ってるけど片手でも振れる。もちろん片手がいけるならどっちの腕でもできるってわけ。右利きだからか右の方が命中精度がいいんだけど……本人じゃないと分からないぐらいの違いかな。これを頑張って無くそうと日々精進中。早く倒すため為だけに大剣右手に薙刀左手で駆け抜けてきたけどちょっとやり過ぎ感……。

「……で、トウカ。どの島だって?」
「これだよ。この北西の少し大きめのやつ。このあたりで島に遺跡があるのはそこぐらいだよ……遺跡自体はあんまり研究も進んでない魔物の巣窟の筈なんだけど、ドルマゲスなら魔物も手なずけそうだから脅威にならないんだろうなぁ……」
「……そうだね。行き方も分かったし、トウカもそろそろ加勢に行ってあげ……やっぱりもう行ってたか。頼もしいなぁ……」

 海の魔物との交戦中に悠長に地図眺めて単に教えるだけだと思った?違うよ、こっそりとエルトの死角の魔物を切り刻んでたんだよ!剣気で!で、エルトに教え終わったからもうその場に留まってる必要もなくなったから堂々とヤンガスの横に着地して魔物を刻むお手伝いさ。さっきと違って双剣に持ち替えたから殲滅速度は倍。反面、攻撃力は大幅に落ちてるけど……まぁそれで倒せる魔物なら別に気にすることないよね!さみだれ斬りの土壇場だ!

「そうそう、遺跡について軽く知ってること、教えとくね!」

 いろんな呪文飛び交う戦場で話すわけだから、声を張り上げる。返事はなかったけど、みんなが一斉にこっちに意識を集中させたから聞こえるだろうと信じて。エルトは操舵の所だから遠いけど、まあ……頑張ったら聞こえるよね、うん。信じてるよ、親友。頑張れエルト!

「あの遺跡の通称は『闇の遺跡』!由来は住んでいた住民に由来するよ!まぁ、もう居ないんだけどね!」

 魔物の巣窟でも無人島ではあるからドルマゲスみたいな存在にはもってこいな場所だよね。あはは、信憑性が増してきた……腕が鳴るねぇ!!早くあいつボコボコにしたいよ……国際指名手配犯並のことしてるし、まどろっこしく魔法を解かせるんじゃなくて、ゼシカとククールの仇打ちの為にもぶち殺す気満々なんだけどね……あの時の屈辱もあるし。

 悪いけど、キントのときと違って少しもこの感情……殺意を抑える気はないんだ。……ん?なんで悪いけどって思ったんだ?あんなやつに。まぁいい、人の形をした人間相手だけどあいつ相手に戸惑うことはないから大丈夫。トウカ・モノトリアはいつもトロデーン王家のお望みのままに、だ。今回は私の望みでもあるけどね!父上、母上、城のみんな。早く取り戻してあの生活に戻りたいんだ。今の束の間の自由よりも昔の平穏なあの暮らしに焦がれてるんだから……!

「魔物が多くてなかなか調査が進んでないんだけど唯一分かってるのは遺跡が『魔神信仰』のものであったこと!文化が全然違ってたみたいでね、トロデーンとかアスカンタみたいな建築ではないみたいだよ!で、その魔神のことなんだけど、ごめんね!私、調べたこともあったんだけどわからなかった!まぁ簡単に『魔物や闇に通ずる者の神』ってことでいいんじゃないかな!」

 魔神の名前も分からなかったから本当に曖昧なんだけどね!しかも調べた本は古い古い文献。信用ならないけどそれ以外は分からなかったなあ……。モノトリアとは全然違う血筋の古代人かもしれないね。ご先祖様の経歴は残ってるけど驚くほどにトロデーン近郊に張り付いてるからそんな孤島からは来ていないみたいだし。

「島が見えたよ、あれ?」
「そうみたいだね。……小さい船がとまってるけど、あれがギャリングさんの部下の船かな……」

 ポグフィッシュを切り捨てながら前方に浮かぶ、茶色の不毛の島を見る。島の中央に鎮座しているであろう遺跡からは、禍々しい雰囲気……何故か怖さは感じない……良く分からないけど、とりあえずドルマゲスがいることはまず間違いないね。恐怖を感じないのは基本的にはいいことだし、放っておく。

・・・・

 ……なんだろう、この状況は。

 島に上陸した僕たちは、一目散に島の真ん中辺りにあるという「闇の遺跡」目指して進んでいったのだけど、現れる魔物の様子が少し、おかしかったんだ。

 もはや慣れきったことで、忽然と現れた魔物が敵意を示した瞬間、一番前で剣を構えるトウカが攻撃することを合図に戦闘が始まる。そこまでは何時もとなんら変わりなかったのだけど……。

 「レッサーデーモン」。下位魔族とされるそいつはいえなかなかの強敵とされる。そんな赤い不気味な奴らがどうしてか……トウカの周りにやたらと集まっているのだ。集まられた本人はその見た目の気味の悪さか、集まられた数のせいか顔を引きつらせてこっちに助けを求めているのだけど……。囲まれ過ぎて助けに行けない……。

 問題は、集まったこともだけど、何故か敵意がないってこと。僕ら……ヤンガス、ゼシカ、ククール、僕を見て一瞬戦いの構えに入るんだけど、次の瞬間にはトウカに視線を集めて跪いているんだ……トウカ、魔物使いの才能でもあったの?すごく懐いてるように見えるんだけど……。主従関係まで感じれるんだけど、どういうこと?

「えっ……なにこれ……。敵意がないから斬り捨てるってのもあれだし……」
「攻撃はされないの、トウカ……」
「うん、それは大丈夫。むしろボク見て信頼しきってますみたいな感じ……なんなんだよお前たち……」
「……そんなに従ってるなら魔物倒してこいって言えばどうなんだ?離れるかもしれないぞ……」
「あ、ククールそれいいね!」

 かなりの数に囲まれているとはいえ、固まっているから倒すのが簡単なのがわかっているせいか、すごくお気楽なトウカは軽い口調でレッサーデーモンたちに命令した。

「レッサーデーモンたち、ボクたちを阻む魔物を倒してくれないか」
『ギョイニ、ワレラマゾクハ、アナタニシタガイマス』
「……えっ……」
「……従うのかよ」
「流石はトウカの兄貴でがすよ!」
「…………トウカが困ってるからヤンガス、そう言う事は言わない方がいいんじゃないかしら……」

 レッサーデーモンが、しゃ、喋った?!まぁ、スライムも喋るし、不思議さならそうでもない……かな。でも本当に従うとはね……。ていうか魔族?……まぁ、それは分かってるんだけど、関係あるの?トウカは人間だよ?……すごく人間離れした強さを持ってるけど。

 すぐに命令に従って散り散りになったレッサーデーモンたちは僕らの前に姿を現す魔物を次々に倒していき、一方的にも近い殲滅が終わった時には得意げな犬のようにトウカに群がってドン引きされるという哀れな状況を作っていた。

 とりあえず引き攣った顔で労いの言葉をかけて場を収めるトウカの上に立つ者のオーラを惜しみなく使っている感じは凄かった。流石は貴族……あ、耐えきれずに崩れ落ちた……。レッサーデーモン……心配してるのはわかるけど、そのビジュアルで迫られたから卒倒してるんであって、攻撃されたわけじゃないから……君たちはトウカの介抱したら逆効果なんだよ!!

 無理やり割って入って、限界を超えたのか笑いが止まらなくなっているトウカを助け起こす。レッサーデーモンの顔がツボに入って笑い続けている様子を何に勘違いしたのか、トウカの周りをレッサーデーモンが回り出す。それを見てトウカが噴き出した。……やめてよ、どうやってこの場を収めろっていうんだよ!

 ……戦闘自体は楽になってよかったんだけど、このトウカの能力がトウカの本来の出自のヒントになっていたことを、僕たちは考えもしなかった。 
 

 
後書き
トウカの特殊能力
魔族(下位魔族)に無条件で慕われる。たとえドルマゲスやラプゾーンの命令で動いている状態でも下位魔族ならばトウカに従う。エルトたちには敵意を示す下位魔族だが、トウカの仲間と分かれば手出しはしない、なお、トウカ以外の言葉には従わない。もしも下位魔族がトウカを傷つけた場合、全力で治療の上わざわざトウカに斬られにくるぐらいには狂信的。……まぁ従わなかった奴らは斬られる運命なんですけどね!

ボス級の魔物は従わない。また、人型の魔物は個体差あり。従うときは従わない同族殺し始めるぐらいに差がある。(数が少ないのでなかなか従う人型魔族に会うことはない)マシン系は基本的には駄目だがキラーマシンやメタルハンターはトウカが殴ったら回線がバグって聞くようになるが本編中に気づくことはない(というかほぼ一撃)。

トロール系は一応従うが、トウカに気づくことなく攻撃してくる者が多い。そして気づいたとしてもトウカは攻撃しないでおく、ぐらいの軽いもの。例えば「止まれ」と命令されたらその場で待機するが、「やめろ」では何をやめるのかまでわからずおろおろする。

結構トウカの正体がわかってきたかと思います。

トウカは卒倒したというより腹筋崩壊して崩れ落ちたというだけの結果。芝刈機も真っ青な細切れ製造機トウカはあの顔に迫られても女の子らしく悲鳴をあげたりするはずもなく……。 
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