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剣士さんとドラクエⅧ

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62話 情報2

 息を潜め、耳に全神経を集中させて盗み聞く。カジノは……通路の人のいなさ加減から、今日はやっていないのは間違いない。それで、わざわざこんなところで話し込んで人目を避けてるのを見たら……何かしらの情報を得ることは出来るんじゃないかな……。

 もちろん、悪いことをしている自覚はあるし、怒られたら素直に反省するつもり。でも、引き下がる気はないね。出来るならしらばっくれるし。理解してくれるエルトに話を振れば、とっさのことでも対応してくれるはず。

「……ですって?」

 よし、気付かれることなく話が聞けるみたいだ。あとは話に少しでもドルマゲス討伐の手がかりになることがあればいいんだけど……。まあ、期待しちゃいけないか。とはいえ、無かったらすごく困るんだけどね……手がかりらしい手がかりがないってことになるじゃないか……。

「あぁ、本当だ。だが簡単にいいふらしてもらっては困るからな」
「それは勿論……心得ておりますよ」

 ああ……話が終わったところだったのか。運がないなぁ……。これじゃあ、あの片方の口の軽そうな方に問い詰めないといけないじゃないか。しかもこっちに歩いてきてるし。このままじゃ、最悪の鉢合わせだね……ようし。

「エルト!」
「……?!な、なに?」
「今日はこんなに人もいないし、多分、カジノしまってるんじゃないかな?今日は宿に戻ろうよ」
「……そうしようぜ」

 ククールの方が察しが良かったのかな?裏口を先に合わせたククールとみんなに目配せしてなるべく自然に引き返した。うん、不自然極まりないのは分かってる。私が欲しかったのは、あの二人に文句を言わせずに立ち去ることだけ。あとは……片方とお話すればなんとでもなるでしょう?たとえ情報が得られなかったとしても、今より状況が悪くはならないと思う……まあ、それで悪い噂が広がって、居づらくなったとしてもこの街にもあまり留まらないだろうし、ね。

 そうして、やや早足で立ち去れば、ちょっと背後で狼狽える気配はすれど、それだけで追いかけられることも咎められることもなかった。ははは、計画通り。

・・・・

「さてさて、さっきの人探しに行こうか」
「うん……でも、簡単に話すかな?」
「お話すれば話してくれるよ?そんなもんでしょ?」
「……それは脅しっていうのよ、トウカ……やるしかないけれど」

 とてもいい笑顔で親指を突き上げる様子にただただ呆れる。でも……何もしなかったら話さないだろうし仕方ないといえば仕方ない。多分……嫌だけど、僕でもするかな……。僕自身の人からの評価やらよりも、姫や陛下や城のみんなを救わなくちゃならないから。トウカみたいに少しも戸惑うこと無く選択できるほうが気が楽な分、良いんだろうな……。あ、良くはないか。

「エルト、ボクには話してた二人の姿は見えなかったんだけど、エルトには見えた?」
「僕にはカジノの関係者らしき黒い服の男の人と、バーテンダーみたいな赤い服の人に見えたけど……」
「ありがとう。ボクはそのバーテンダーの方に行ったほうがいいと思うけど、みんなはどう思う?カジノの関係者の口を割るよりは簡単そうに思えるけど……」
「あっしはそれでいいと思うでがす」
「まあ、妥当だな」
「それでいいわよ」

 ……みんなは賛成なんだね。

 さて、バーテンダーみたいな服装って言ったのはエプロンしてたからなんだけど……酒場かレストランかな?街の地図見て探さないとね……。

「宿屋の建物の地下が酒場だから行ってみよう」
「……なんで知ってるの?」
「ベルガラックに来たことあるって言ったでしょ?地図だけ暇だから眺めてたんだ」

 ……まったく、大した記憶力で。

 それを聞いたみんなは踵を返して地下へ降りていく。その中でダダダダダッと駆け下りていくトウカがあっという間に階下に飛び込んでいくのが小さく見えた。呆れたように首を振るククールに同感だよ。……なんかククールの目がストレスにやられてるうつろな目から微笑ましいものでも見たような目に変わっているように思うんだけど……世界の渡り方を悟ったのかな?あ、駄目だった。ちょっとだけ目を逸らしたね……。

「……下にいる客驚かしてつまみ出されたりしないだろうな?」
「やめてよ、そんなこと言うの」

 階段を歩きながらぼそっと言われた不吉極まりない言葉をひきつった顔で否定しておいた。

 階下では、腰に手を当てて僕達を待っていたトウカが比較的大人しく待っていたので心底安心する。こちらをちらちらと何人かのお客さんに様子を伺われるから……うん、完全に目立たなかったわけではなかったんだろうけど……というか何度も思ってるけどトウカはどこに培ってきたはずの常識とかを置いてきたのさ?

「……遅い。で、あの人だと思うんだけど……」

 目立たないように小さくカウンターの中を指さすトウカ。その指先をたどってみれば……たしかにさっき見た赤い服の男の人がグラスを磨いているようだった。おお……一発で見つけれるのは良かった。にしてもこっちに気付きもせずに……ああ、悪いけど下手したら、これからすること、彼のトラウマになるかも。

「……こんにちは、バーテンダーさん」
「おや、いらっしゃい。綺麗なお嬢さん」
「ちょっと話が聞きたいんだが、良いか?」
「……私に話せることなら構いませんが」

 ……君たちが率先して聞くんだ?それは男の人にトラウマが残らないようにするための気遣いなの?それとも脅すときはトウカに任せるの?……駄目だ、僕の考えは最近物騒で常識的に判断出来ないや。そもそも脅すまでもなく話してくれるって考えれないのが……ね。完全に染められてるよね。

「そうか。じゃあ早速聞くが……」
「カジノの前でしていたさっきの話をもう一回ここでしてくれないかしら?」

 ……君たち仲、本当に良いね?初対面の時の険悪さは一体何だったの?見事なまでに息がピッタリだ。

「な、何のことですか?」
「あんまりこっちに時間はない。さっさと吐かないとそっちのためにもならねぇぜ?……いや、本当にな」

 ククールのぼそっとした低い言葉に、うんうんと頷くゼシカと僕。それを見てちょっと苦笑しているトウカ、君が僕達が思っている主な原因になるんだけどね?

「て、て、手荒なことはしないで下さい……!話しますから!!」
「それでいい……。……俺の胃にもな……」
「はい……?」
「いや、気にしないでくれ。続けてくれ」

 怖がりな人でよかった。さり気なく拳を固めて身構えてたトウカが構えを解いたし、一緒になって目を釣り上げてたヤンガスも力を抜いたし……一安心だ。あとは、話の内容がドルマゲスに関係があるかどうか、だ……。

「私の聞いたことは、今カジノが閉まっているのは……オーナーのギャリング様が強盗に殺されてしまったということと、その強盗を追いかけてギャリング様の部下が強盗を追いかけて行ったということだけです……」
「へえ……じゃあ、その強盗の居場所は分かっているの?」
「そ、それが、私は船に乗って沖合にある遺跡ということしか聞いていないんです……!」
「それだけ聞けば充分だ。……トウカ、分かる、よな?」
「ん?ああ、うん。簡単にわかったよ」

 ちらっとトウカの方を見てみれば、既に地図を出して場所を確認していた。そして大きく頷いてみせる。……行き先が決まったね。この強盗が、もしドルマゲスならいいけど……。

「……教えてくれてありがとう。このことは誰にも話さないでおくよ。そっちも話さないでくれるなら……何もしないから」

 去り際に囁くように言ったトウカの言葉に、最早涙目になっているバーテンダーが、何度も何度も頷いているのがいっそ可哀想だった。……口止めのためにしなくちゃいけないから誰も止めないし、何も言わないのが、本当にね……。かく言う僕も、何も言わずに立ち去ったんだけどね……。
 
 
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