剣士さんとドラクエⅧ
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31話 教会
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トウカの父、ルイシェルド・モノトリア。かの者はわしも詳しく知っておった。わしを守ると剣を捧げた魔闘騎士じゃから。このトウカ並みの忠誠心……いっそ狂信的な騎士であろう。
よくよく思い返せば、確かに戦闘をルイシェルドよりも好む傾向にあるが、トウカ・モノトリアの社交界での振る舞い、口調やモノトリアの中でも病的なまでに盲信し、王家を守り抜こうとする態度はそっくりじゃった。流石は親子、と思うもの。
しかし、今のトウカは世界最強とまでに強かな剣士。父をも超えた剣士じゃ。彼は父の真似をしなくてはならないほど、未熟でも弱くもない筈じゃ。やや大柄な父や、母フィオナ・モノトリアよりも小柄で一見弱々しいトウカじゃからこそ、最初は気にかかっていた、父の模倣。まさか、まだ続けているとは思わなんだが……。
我が娘ミーティアを守ると宣言し、重い剣を捧げた幼き八つのトウカをふと、思い出す。それを受け入れ、同い年のミーティアよりも小さかった彼の頭をなぜてやったのを覚えているのじゃ。そして、事あるごとに何故かトウカとミーティアを見比べていたのを。理由はわからないのじゃが、どうしてか目に入れば姿を追っておった。
遙か遠くで剣を振り、見たこともないほど生き生きと戦うトウカと、哀れな馬と化したミーティア。類似するところなぞ、ないはずだと言うのにどうして二人をわしは、似ていると思ったのじゃろうの。
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夜の帳が降りた世界、自然は変わらず美しい。でも感動しているよりも安全な寝床を探さなきゃいけないのは仕方ない。川沿いの教会で宿をとり、格安料金のお礼に私は薪を拾ってきたり水汲みを手伝ったりした。ゼシカたちはぐったりしてたからそこまで無理強いはしないけどさ。エルトは姫様の元にいたけど。相変わらず仲良いなぁ……。
で、もはや深夜。素振りしたりちょっと見つけた魔物を狩りまくったりしてたら貴重な睡眠時間がガリガリと削られていた。早く寝なきゃ。急いで走って教会へ戻ってこれば、外には何故かククールと陛下がいた。こっちを見られて、酷くびっくりされてしまう。
「陛下……」
「トウカ、今まで何してたんじゃ?」
「鍛錬です」
「おいおい、もう寝ろよ」
「そうする。でも鍛えなきゃいけないんだ。習慣でもあるし」
実質、鍛錬は趣味だと言ってしまえるんだけども。まぁ、建て前はドルマゲス討伐じゃないか。にしてもククール、想像以上に優しい人だなぁ。もっと慣れるのに時間がかかって、話してくれないかと思ってたのに。……初対面の時はともかく、それ以降の印象が最悪だった自覚はあるんだ。
「おやすみなさい」
まぁ、いいか。喜ばしいことならほっとこう。鎖帷子を脱いで布団にもう入りたいや。
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トロデーン王と話し込んでいる内に、ほとんど朝になってしまった。途中で鍛錬していたとか言っていたトウカが帰ってきたりして、話が逸れたのもあるかもしれないが。……彼は常に俺の予想の斜め上を行く。普通、あれだけの移動距離の日にそんな事するか?一番戦っていたというのに……。
教会の中に入り、自分のベッドに入る前にそっと出来心で彼のベッドを覗いてみればさっきよりも柔らかそうな服を着た華奢な少年が、昼間猛威を振るった剣を抱えて寝ていた。……間違っても女には見えない。剣を抱えてすうすうと寝てしまう行動が、だが。 顔は……‥寝ていると余計少女だ。詐欺だ。
これで、中身も性別も俺が守ってやるような少女だったら……今頃口説いているはずだ。旅に出るほど強くとも、女には変わらない。だが、最早彼を女だと思い込んで心の慰めにすることすら無理があった。あの言動、あの力では無理がある。……早く諦めたいんだがな。うじうじ考え通しだな……。
トウカが身じろぎしたのでさっさと視線を外し、俺も寝ることにした。寝るとは言ってもほとんど時間はないはずだが、無いよりはましなはず。
にしても、髪の毛も長い、肌も白い、身長も低め、声は中性的で顔は童顔……。今まで何人が勘違いし、何人が玉砕したのだろうか。
・・・・
「清々しい朝!早起きの魔物がぴょんぴょこ飛び出してきて、ボクに狩って欲しがってる!」
「それは違うんじゃないかしら」
「ふっははははっ!」
「……聞いてない上に戦いに行っちゃったわ……」
「昔からだいたいあんなんだから気にしないでよ。こっちが戦闘にならないようにしてくれてるんだから」
朝からトウカは元気だ。あくび混じりの僕とはえらい違い。目覚まし代わりに僕も最前線に飛び出してトウカと共闘、しようかな。……近くにいないと陛下や姫様を守れなくなるから駄目か。
「……」
「おはようククール」
「……あぁ」
「今トウカが軽く怪我したの分かる?」
「……分からなかったな」
「ホイミ!えっと、気づいたらやってくれないかな、回復。僕もやるけど、後衛で周りを見れるようになってほしい。ククールは何時もパーティでは戦ってないでしょ?」
テンション上がり過ぎて多分、本人も怪我に気付かなかったとは思うけど放置してたらそれは命取りになるし。 ハイになっているトウカほど怪我に無頓着な人間はそう、いないよ。
トウカの持っているアモールの水も無限じゃないし、放っておいて日頃から無茶な戦い方に慣れられたら困る。それでトウカに何かあったら、親友としてもパーティリーダーとしても同僚としてもトウカのご両親に申し訳がたたない。もちろん僕自身もトウカを亡くすなんて考えたくもない。
「……分かった」
「お願い。僕も見てたいんだけど、たまに見逃してると思うから」
とうとうこっちにも魔物が襲って来たので会話を打ち切り、僕も槍を構えて突っ込んだ。後ろから「お前も大概じゃねえか」とククールの言葉が。……うん、自覚はある。感化されてるのも分かってる。
魔物の襲撃が激しくなり、ゼシカの魔力が高まるのを感じ、ヤンガスが視線の先で斧を振りかぶる。魔物はわらわらと沸くように留めなく現れてくる。そんな中でも馬車だけは死守できるように立ち回るのは難しい。もちろん、そんな城でそんな訓練は受けたわけがないので全部旅で培ったもの。
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