剣士さんとドラクエⅧ
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11話 復讐心
目が痛いと訴えてとうとう膝をついたトウカは、鋭く女神像の宝石を睨んでいた。手を伸ばして、破壊してやると言わんばかりに、見たこともないほど憎々しげに。あれがトウカの痛みの原因なの……?
兎も角、急いでトウカを起こす。ずっしりとした鎖帷子のせいで僕には座らせるので精一杯だったけれど。
あの宝石からは、魔法があまり得意でない僕でもはっきりと分かる程に濃厚な魔力が発せられている。だけどその魔力はトロデーンを包み込んだ茨の呪いのように禍々しく忌むべきものじゃなくて、どちらかといえば尊くて、いっそ神々しさまで感じるもの。決して悪くはなかった。僕には有害なものだとは思えない。でも、トウカには悪いものなの……?
不意に、チカリとトウカの「髪」が輝いた気がした。誰でも魔法を使うと何かしら光るけど、まさにそんな感じに。一瞬だけ息を呑むような莫大な魔力がこの場を覆う。それは息苦しい程に。
焦げ茶色の見慣れた色が、澄んだ高い光と共に、「銀色」に染まる。銀色になった髪の毛は暫くはそのままだったけどゆっくりと茶色に戻っていった。え、トウカになにがあったの。大丈夫なの?
「トウカ……大丈夫?」
思わず肩を揺する。痛みのあまり見開いた目も色が変わっていたのか、徐々に黒に戻る最中だった。多分、色合いからいって緑色に変わっていたんだろう。そして普段から白い肌はさらに血の気を引いた青白さ。帰りは背負って帰らないといけないかもしれない。
「大丈夫だ……何か、痛みが限界突破して逆に痛くなくなった」
「え」
呆然と目をぱちぱちさせていたけど口に出したのはそんな言葉。少し拍子抜けする。勿論安心して、だけど。でも、それより気になるのはそこじゃなくて。いや、親友の体調も気になるけど、そうじゃなくて。
「……何か今、トウカの髪の毛が銀色になって元に戻る怪現象が起こったんだけど」
「……銀色?」
「目は緑色から戻ってたみたいだけど」
「緑色、だと?」
一応、当の本人にそのことを報告すると銀色の件で少し訝しげだったトウカが緑色の件で血相を変えた。さっき以上に一気に血の気が引き、唇まで真っ青になって慌てている。
これは言わずにいたほうが良かったかもしれない。余計に体調が悪化してしまった……何やってんだ、僕。でも返事が返せるぐらいに回復はしてくれている。
「も、もう戻った?何時もの黒になった?」
「うん。……え、そこまでびっくりしたの?」
「心臓止まるわ!父上も母上も、そのまたご先祖様も、髪と目は黒、白、茶、銀、灰色だけ!緑色なんてどっから出るんだよ!」
とりあえず戻って良かったと胸を撫で下ろすトウカを取り敢えず立たせた時、今度は後ろから声がかかった。勿論、トウカの隣で心配げにしているヤンガスではない。高い、女性の声だ。もしかして、探し人の……。
「あんたたち、また……!」
「えっ、ちょ、いろいろと違う!」
今にもこちらを攻撃しそうな雰囲気にびっくりしてトウカが叫ぶ。現れた彼女はツインテールに強気で勝ち気な瞳。間違いない、探し人のゼシカさんだ。だけどこの状況で何を勘違いしたのか、仇のように睨まれた。
「兄さんを殺した盗賊……許さない!」
ああ、本当に仇と間違えられているのか。こちらに有無を言わせず、攻撃魔法を唱えられた。慌てて転がるようにして避ける。トウカは跳ね起きて過剰な程に跳躍した。その顔にははっきりとした恐怖。先程よりも顔色は白く、そこまでこわばった表情は見たこともないほど。目はカッと見開かれていた。
その動きにはさっきまでの体調不良はどこへいったという感想を抱く。……たしか、魔法に人一倍弱いんだっけ……。受けたら本気で命が危ないって……言ってたな。それは、逃げるよ。
「ちょこまかと!」
「ち、違うから!」
トウカ、僕、ヤンガス。次々と連続で魔法を飛ばしては避けられて、苛ついたのか彼女は事もあろうにこんなに魔力が充満した部屋で一際時間をかけて魔法を詠唱する。視界の端では慌てふためくヤンガスと、変わらず顔を盛大にひきつらせたトウカがいた。剣を拾いなおして弾く準備まで整えている。
――止めなさい、魔法を止めるんだ、ゼシカ!
後少しで魔法がこっちへ放たれると言うところで、不思議な声が聞こえた。頭に直接話しかけられたかのような……。そんな、若い男の人の声。どことなくゼシカさんの声に似ているような……。
「止めろったって……!もう止まらないわよ!」
最大級の威力を込められて放たれた魔法は、女神像……もといリーザス像に当たり、赤い炎を高く高く燃え上がった。
・・・・
何故か、村人しか開け方を知らないはずの扉が開いているリーザスの塔。
それに訝しむサーベルトさん。勿論彼は異変がないか塔に入る。
問題なく上り詰めた先の最上階。異常はは見当たらない。
そこに現れる不気味な道化師。
狂ったような笑い声。
殺害。
当時の様子が頭に流れ込んできた。サーベルトさんの無念がひしひしと伝わってくる。そして悟る。ドルマゲスは、やはりここにも来ていたんだと。
ドルマゲスは、何を考えているの?ドルマゲスは、彼らを何故、殺した?
最初はマスター・ライラス。自分の師匠。まだ、関わりがあっただけ分からないわけではない。でも、どう考えてもサーベルトさんとドルマゲスの接点が思い当たらない。二人の共通点は……何だろう。種類は違うけど、実力者であること?
・・・・
・・・
・・
・
「ゼシカさん、泣いてた」
ぽつりと、トウカが言う。一人にしてくれと言って彼女は泣き崩れていた。痛ましかったけれど、あの場に残るよりも、僕らは彼女の言葉に従った。
「彼女、仇討ち、するのかなぁ」
僕の知っているトウカらしくない無感動な声。ただただ事実を述べ、その次に自分の憶測を淡々と言っただけのよう。思わず振り返ればやっぱりトウカは無表情だった。たまに彼はそんな風に表情を消す。……それは、猫みたいに気まぐれで、だけどちょっと怖い。
そういう時のトウカは人間味よりも合理的だった。でも、そんなトウカは何時でも正しかった。選択肢はいろいろあっても、非難されてもなお、一番正しかった。
「すると、思うな」
「やると思うでがす」
「実に無謀だね。まぁ、それはボクたちもだね……でもね、ドルマゲスはあまりにも強い」
サーベルトさんが殺されたその場にいたわけでもない。トロデーンでドルマゲスを見かけた訳でもない。ただ、その場所に残る痕跡だけでも、感じられるほどの、圧倒的な強さ。それを僕たちは理解したのだ。
「彼女、魔法が使えるけど」
そっとトウカの目が細められ、浮かんだ感情は二つ。ひとつは哀れみ。
「多分、ドルマゲスの方が上だね」
そしてもうひとつは悲しみ。
・・・・
「……親子喧嘩を目撃しちゃった訳ですが、エルトさん」
「なかなか激しい口論だったね」
「兄貴たちは冷静でがすね……」
「え、だって魔法とか斬撃とか飛び交わなかったでしょ?」
「トウカの兄貴の親子喧嘩はそんなに危険なんでがすかっ?!」
……夫婦喧嘩なら何度か目撃しちゃったけど思い出すのも恐ろしい、さながら戦場だったなぁ。二方ともとんでもない実力だったし……。高名な騎士と名高い魔導師の戦いだった……。
そんな中、なんでもないように平然としてたトウカには絶対に流れ弾が行かないんだよなぁ……。たまたま居合わせた僕にもこなかったけど、僕とトウカじゃ全然近さが違う。おじさんとトウカは同じソファーに座っていたけど、僕はもう少し遠くの、ドアを開けてすぐぐらいの部屋の端に居た。でもトウカは少しでも身じろぎすれば斬撃や魔法が簡単に触れるぐらい近くにいたんだよ……。
「え、あ、うん。たまに、ね。でも本人の目の前で教育方針の事とか言われても反応に困ったなぁ……」
「教育方針、でがすか」
「父上がよく、『そんなに剣を極めにかかると知っていれば文官教育にしたのにっ!』って言ってたし、母上も『私の子は戦う文官にすべきでした!』って……そんなにボク、剣向いてなかったのかな……ちょっと傷ついたな」
「……そうじゃないでがす、多分理由は違うでがすよ……」
ヤンガスは事実を察したみたい。建物とかの破壊事件こそ、起こさなかったけどトウカが剣豪を何人も叩きのめして、叩きのめしまくったからか、一時期何人かの剣士が崖に走って身を投げかけたとか、いきなり出家してマイエラとかサッヴェラとかゴルドとかに行き始めたとかの事件の方で問題になりそうだったんだよね……。
当時僕たちは十二歳だったのに。……僕の精神年齢は四歳だったけど。って、意見が一致しているのに戦っていたんだ……。
リーザス村を出て、トウカが陛下に報告をしている間に僕は盾をしっかりと腕に装備して旅の準備を整える。次に目指すは、港町ポルトリンク。ここから先は船に乗らなくてはどこへも行けない。
でもこれからどこを目指すんだろう。ドルマゲスがサーベルトさんを殺害した後に何時までもこの大陸に留まったとは考えにくいけど……。ドルマゲスが道化師の姿をしたままならさぞかし目撃情報が多そうだけど、わざわざ目立つ格好をするだろうか。重大な犯罪を犯した後でさ。
「さて、ポルトリンクを目指すぞい」
「はっ」
「分かったでがす」
そういえば、あのまま家出して飛び出したゼシカさん、確かポルトリンクに居るんだよね……また会ったらなんか起こしそうだよ……。
・・・・
・・・
・・
・
後書き
髪色が変わる、眼の色が変わることに関しては病気ではないので……ファンタジーな世界なので許してください。ご都合主義で!
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