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どんなになっても

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2部分:第二章


第二章

「食べましょう。鶏肉を焼いたのよ」
「鶏肉をかい」
「それと野菜のカレーよ」
 メニューはそれだというのである。
「あと猫達は」
「キャットフードかい?」
「いえ、お魚よ」
 それだというのである。
「お魚なのよ」
「お魚なのかい」
「実家から随分多く送ってくれたのよ」
 妻はその事情を彼に話してきた。
「だからね」
「そうかい、それはよかったね」
「私達が全然食べないようなのをね」
 そうした魚だというのだ。
「ほら、日本人が食べるみたいな」
「ええと、鰹とかそういうかな」
「そうよ。あとはエイだったかしら」
「あの平べったい魚かい」
「そういうのを送ってくれたのよ」
 確かにこの国では食べられない魚である。マレーシア、いや東南アジアでは日本人が好んで食べる魚が本当に猫の餌にしか過ぎないのである。
「色々とね」
「じゃあ餌には困らないね」
「ええ。他にもね」
「他にも?」
「干物も送ってくれたし」
 それもだというのである。
「それもね」
「干物もかい」
「そうなのよ。やっぱり日本人が食べるお魚をね。もう適当に干して」
「何か随分適当に作ったみたいだね」
「何でも日本人がそこに来て如何にももの欲しそうに見ていたらしいけれど」
 そうしたこともあったのだという。
「そういったこともあったらしいわ」
「日本人がかい」
「エイとか鮫を捨てるのなら是非くれとも言っていたらしいわ」
「日本人は鮫も食べるのか」
 アブドルはそれを聞いてその目を思わず丸くさせてしまった。ただでさえ丸い目が余計に丸くなってしまったのである。そうなってしまったのだ。
「それはまた」
「日本人って凄いわね」
「いやさ、シャハラ」
「ええ」
 妻の名前である。それが彼女の名前だというわけだ。
「それってないんじゃないかな」
「鮫を食べるってこと?」
「鰹やエイもわからないよ」
 それもだというがさらにであった。
「けれどさ。鮫までって」
「他にも何か鰭に毒がある危ない魚とか蛸まで欲しがってたそうだよ」
「何でも食べるのかい?」
「そうみたい。日本人はね」
「わからないな。日本人はどうなっているんだ」
 こう言って思わずぼやくのであった。
「全く。そんなものを食べて」
「少しどころじゃなくおかしいわよね」
「完全におかしいよ」
 アブドルは首を捻りながら述べた。
「いやさ、それはね」
「私もそう思うけれどね」
「それでも日本人はなのかい」
「そんな変な魚を好んで食べるのよ」
 そうだというのである。
「本当に美味しそうにね」
「そうしたところはルック=イーストとはしたくないな」
 しみじみとした口調になって述べるアブドルだった。ルック=イーストとはかつての首相マハティールが提唱した政策である。日本をモデルにして成長しようということだ。アブドルはそのこと自体は賛成であったがその他のことにはどうも賛成しかねるのである。
「それはね」
「そうなのね」
「そんな変な魚はね」
「猫の餌だけでいいっていうのね」
「全くだよ。日本人は何でまた」
 その日本人の嗜好についての言葉が続く。
 
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