異世界にて、地球兵器で戦えり
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第三話 世界にもう一つの帝国が知れ渡る
アカツキ帝国の首相官邸にて、演説が行われている。記者やテレビ局員のカメラの前にいるのは、アカツキ帝国軍の最高指揮官であると同時に、アカツキ帝国最高指導者でもある前田健太郎元帥だ。人前の前に出るときにきる漆黒の士官服に身に纏い、いつもの鋭い眼光が、記者やテレビ局員達の緊張感が走り渡る。そして彼らは、健太郎元帥の宣言を聞いて驚愕する。
「この映像を見ている全ての者に告げる。我がアカツキ帝国は、我が国に攻め入った帝国に対して、アカツキ帝国の総意を上がて、戦う事を決意する!!」
それは事実上の宣戦布告。これを聞いた記者やテレビ局員達は驚愕したのだ。ここで何かしら質問をするのが記者であるが、その覚悟を決めた健太郎元帥の表情を見て何も言えない。そして、この放送は、宣戦布告を宣言した帝国にも流れている。
これは、アビス大陸の魔導士達に協力して成し遂げた事でもある。それは、映像の水晶と呼ばれるアビス大陸が作り出したテレビのように、対象を定めた場所に移しだす事ができる水晶玉の事である。だだし、使用条件としては、二つの水晶玉がある事が条件である。この水晶玉を、帝国の帝都の上空に向けて、健太郎の演説を映し出しているのだ。ただ、製造には莫大な予算と高位の魔導士にしか作れない代物であるため、アビス大陸の各国で、軍事的に使用される事は少ないが、アカツキ帝国では、テレビなどが普及していない地域で、民衆に知らせたい情報を簡単に教えるために、軍事的に利用していた。そして、今回の対帝国戦で、動揺を走らせるために使用している。
「我々は、初めはファルマート大陸と接触した時に、平和的な外交に努めようとした。だが、不意にも我々の国名が帝国がついているというのみで、彼らは接触を拒否し、属国を言い渡した。当然のように拒否した我が国に対して、宣戦布告も無しに帝国は我が国に攻め入った。この動きに海軍は、帝国艦隊を撃退して脅威を排除した。だが、一方的な飲めない条件や宣戦布告も無しのだまし討ちに、我々は帝国を許すつもりはない!何より、こんな蛮行を繰り返す帝国に、ファルマート大陸を収める資格はありはしない!!」
これから話す事は、まさに帝国に対しての国政を拒否したうえでの全面戦争の宣言でもある。この放送を聞いている帝国貴族の一部では、映像で映っている健太郎に対して意味のない罵声を浴びせる。そんな言葉が、健太郎に届くはずもないにも関わらず。
「帝国は、人間以外の種族に対する扱いは悲惨という言葉でも軽い程の扱いを受けている。同じ帝国に住む種族でありながら、彼らを家畜や奴隷と同じ扱いをしており、他種族の財産も先祖代々の文化ですらも破壊し、彼らの全てを奪い尽くしているのだ。そして、同じ種族である人間も、一部の人間だけが贅沢をし、多くの人間からも搾取しており、帝国は既に王族や貴族といった特権階級者の欲望を満たすだけの存在になりきっている。無論、帝国貴族たちの中には民を愛し、他の種族と共存している地域もあるが、それは一部に過ぎず、そのような高貴な貴族たちの地位は低い。帝国は忘れている。国とは、国民あっての国であるという事を!一部の特権階級者あっての国と勘違いをしている!」
そして、少し間を置いて、アカツキ帝国の戦争目的を告げる。
「我々アカツキ帝国は、帝国によって支配された属国と他種族の悲惨な現状に憂い、アカツキ帝国の総力を挙げて、ここに決起するものである!!」
この事実上の宣戦布告とも言える発表は、アカツキ帝国全土に広がる。そしてアビス大陸の国家にも拡散した。そして当然のように、この事実上の宣戦布告の発表は、帝国の帝都にも放送されているので、皇帝モルトの耳にも入っている。
薄闇の広間にて再会議が開かれた。再会議の議題は、先ほどまで上空に映し出されたアカツキ帝国の話題であろう。
「奴らめ。堂々の宣戦布告というわけか!」
「我々が支配していた属国と他種族の解放だと、そんな夢物語な事が出来るものか!」
「馬鹿馬鹿しい。やれるものならやってみるがいい!!」
主戦派は、当然のように腹を立てて健太郎の宣言を馬鹿にしたように声を高く上げて反論していた。だが、主戦派に属さない他の派閥は違っていた。
「だが、奴らの実力は本物だ。帝国海軍100隻を超える軍艦、武装商船の八割を撃滅したのだ。ここはやはり素直に宣戦布告なしに攻め入った事実を認めて、和議の成立を」
「彼らと接触すれば、アビス大陸という他の国家とも交流が増えますし、今まで以上の利益を帝国に」
「何を弱気を言っておるか!ここまで屈辱的な事を言われて、素直に和議をするともうすのか!!」
「ならば、貴様は勝てる算段でもあると言うのか!帝国海軍100隻を超える艦隊の八割を撃滅したアカツキ帝国という国に!」
「属国の兵をかき集めた総力戦に持ち込めば!」
「だから、連中が素直に集まると思っているのか!」
ワイワイと主戦派と講和派と分かれて、互いの主張を話し合うが、平行線のまま話はまとまる気配がない。こんなまとまりがない事態に、モルトが先ほどから一言も喋っていない事に、カーゼル侯は疑問に思っていた。
(あのケンタロウという若き王。今までの帝国の皇帝とも、いや、歴代のファルマート大陸に存在する王とも考えが違いすぎる)
それは、映像で映し出された演説の内容と言うよりも、その実行に移したやり方に驚いていた。
(どんな名君が演説を行い、兵士や貴族共を納得できたとしても、民衆は違う。今まで民衆に対して、あそこまで明確な目的を演説する王がいなかった。いや、する必要がなかった!どんな演説の内容も、情報が広まるのに時間がかかる。だが、上空に映し出された演説によって、民主はアカツキ帝国という、我々から解放するという明確な目的を直接伝えたのだ)
それを民衆が信じるか信じないかを明確に答えるとすれば、信じないものが圧倒的に多い。それは、今まで帝国という国によって、どれだけの長い年月で他国の人間が敗れて搾取されたか、どれだけの長い年月で種族が差別されてきたかを考えれば、そんな夢物語などあるはずがないと思うが、それでもアカツキ帝国という明確に帝国と敵対行為を取ると判断した国家がいるとう認識を得てしまった。
(万が一にもアカツキという国が、攻めて我が国が劣勢である事になれば……)
これに協調して今まで支配してきた亜人達が、一挙に帝国支配地域にて反旗を翻し、属国となった国々も同じく違反するものが続出する可能性が高くなる。それを踏まえて、あのような手段で帝国民衆に演説を行ったケンタロウという王に、モルトは驚きが隠せないのだ。
(おのれ、このままでは終わらんぞ)
全ての国を種族を支配している唯一の国である帝国が、このまま未開地の帝国の思い通りに進むと思うなと、モルトは対アカツキ帝国戦に備えた戦略を考えるのだった。
「はあ~疲れた」
場所は変わり、アカツキ帝国の前田健太郎の家。綺麗な日本庭園のある和風的な家が建っている事が特徴の家だ。雇っているお手伝いさんに声をかけた後に、自分の部屋に戻ると、布団にだいぶして、威厳ある彼の顔が、まるで残業で疲れはてたサラリーマンのような表情になっていた。
「戦争……書類の山……遺族年金、マスコミ対応……etc。」
そこには、アカツキ帝国国民から神の様に尊敬されている軍の最高責任者と、国の最高指導者の面影など全くなかった。そう、健太郎は十年たってもミリタリー好きな小心者の社会人でしかないと思っているのだ。だけど、自分をガチで慕ってくれる人間や他種族が沢山いるので、ぼろを出さないようにその威厳ある見た目と、ハッタリと演技で何とか誤魔化しているのだ。
全ては、失望されないように胃の痛い思いをしながらアカツキ帝国の王として振舞っている。
「くそ、今のうちに胃薬と栄養ドリンクを沢山買い込んでおくか……」
これからの事を考えると、気が滅入る健太郎だった。異世界に転移して10年たった現在でも、平和な日本で暮らしていた庶民的感覚はなくなっていない健太郎であった。
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