魔道戦記リリカルなのはANSUR~Last codE~
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Episode Ⅳ:
Desine fata deum flecti spectare precando
Eipic1-A移ろいゆく季節~Trajectory~
前書き
『魔法少女リリカルなのはViVid』のブルーレイ購入する前に、もうレンタルDVDで見逃した3話を視聴。いつになったら2クール目をするの!? ブルーレイはいつになったら発売されるの!?
時空管理局評議会。それは、旧暦の時代に次元世界を平定し、時空管理局設立後にその一線から退いた3人が、その後も次元世界を見守るために作った組織・最高評議会と、彼らが掲げる理念の下に集った10人の管理局員や民間協力者から成る、管理局の運営とはまた違った事柄を決めるための組織。通称、権威の円卓。
権威の円卓による評議会が開かれる本局の一室。円卓の周囲に椅子が13脚あり、うち3脚の上には管理局のエンブレムにローマ数字のⅠとⅡとⅢが刻印されたモニター。椅子に座るように投影されている人型のホログラムは男女5人。全員が局員の制服を身に纏い、階級章からして将官と一佐であることが読み取れる。
「それでは、これより権威の円卓による、時空管理局評議会を開会いたします」
ホログラムではない、少将の階級章を付けた女性局員が開会の挨拶をした。シアンブルーの長髪で髪型はインテーク。背中まで伸びる後ろ髪は毛先が外へ向かってカールしていて、頭頂部から1本の髪(俗に言うアホ毛)が伸びている。瞳は桃色で、冷ややかな目つきをしている。彼女の名はリアンシェルト。本局にて運用部の全てを管理する総部長。
『まずは・・・つい先ほど、居住区で起きた戦闘について窺おうか』
そんな彼女の挨拶が終わったと同時、Ⅰのエンブレムの刻まれたモニターより声が発せられた。本会の議長であるデュランゴだ。スマウグによる本局襲撃について話すよう、ホログラムではない2人の人間に命じた。
『特別技能捜査課・課長、クー・ガアプ一等陸佐。同課所属、ルシリオン・セインテスト二等空士。君らの報告では、リンドヴルムの首領だった竜・スマウグは、次元の狭間に閉じ込め、永久的に追放したと言うことだったが。それが何故、本局に現れたのだ』
直に椅子に座っているクー・ガアプは、ルシリオンや八神家、イリスが所属している特別技能捜査課の課長で、直属の上司である。そして椅子に座ることなく、クーの側に控えている少年ルシリオン。Ⅲと刻まれたエンブレムのモニター・リョーガ評議員から尋問された2人は静かに口を開いた。
「スマウグと最後まで戦っていたのは自分です。撃破できるだけの戦力・使い魔を召喚し、これと共にスマウグと交戦。撃破した姿は確認できませんでした。撃破確認を怠ってしまった理由については、報告書に記したとおりです」
アールヴヘイムを次元の狭間、神器をロストロギア、ヨルムンガンドを使い魔、そういった変更点以外は事実を伝えていた。アールヴヘイムでの戦闘、門を閉じた理由、撃破の確認をしなかったのではなく出来なかったことなどだ。
「彼の作戦に非があったとは思えません。確かにスマウグが出現したのは事実ですが、あれは想定が出来ないものです。それに、その作戦に許可を出したのは私です。責めは私が受けます」
『しかし、いくら犠牲者が出なかったとはいえ本局であれだけの戦闘をされてしまったことへの責任は、スマウグと直接戦い、その報告をしたセインテスト二士にしっかり取ってもらわなければならない』
「待ってください議長! 彼はまだ子供ですよ! 私や、機動一課課長クレフ・マカスキル一等陸佐がリンドヴルム事件すべてに対しての責任を負うとすでに決めていました! どうか再検討を!」
『無論、君やマカスキル一佐にも責任は取ってもらうつもりだ。が、セインテスト二士にも負ってもらう。これは決定だ』
『ちょうど良い機会だ。この際、セインテスト二士を本格的に正局員へ昇格してはどうか?』
『おお。それは良い考えだ。今回の件に目を瞑れば、それ以外は50年、いや100年に1人の逸材』
『うむ。非常勤の嘱託などにしておくには勿体なさすぎる』
『ですが、セインテスト二士が今住んでいる世界には義務教育という制度があり、残り3年は従事しなくてはならないのでは?』
『私たちとの元々の契約は、彼の正局員への昇格はその制度を終えてからというものだったはず』
男性将官たちの会話に女性将官2人が割り込む。円卓メンバーの男性局員は管理局優先、女性局員はさらに個人尊重という考えも持っている。ゆえに契約を無視しての昇格は違反だと唱える。そんなメンバーの会話を無表情で聴いているルシリオン。
『で? お前はどうしたい、どうされたい?』
そんな彼に男性局員の1人、ロッキー・サブナック一等空佐が訊ねた。彼は男性メンバーの中で唯一と言って良いほどのルシリオンの味方・・・というほどでもないが、他の男性メンバーの中では中立といったところだろう。
「自分は特に言うことはありません。スマウグの件については逃れることなく責任も負いましょう。正局員にするのであれば、それでも構いません。その代わり・・・寮に部屋を用意してください。嘱託とは比べられない程の仕事量になる正局員。それを遠く離れた管理外世界から通うのは面倒なので」
この時期での正局員への昇格はルシリオンにとって計画通りとも言えるものだった。元より聖祥小学校の卒業と同時に世話になっている八神邸から出る予定だったからだ。ゆえにこの提案は願ってもないもの。
『学校はどうするんだ? 義務教育とか言う制度があるんだろ?』
「自分はあの世界にて、他国の出身だという身分を偽っています。その出身国の学校へ移ると理由をつければ問題ないかと」
『なんだと・・・』
さらりと自らが犯した罪を暴露するルシリオン。不快そうな反応を見せたのは、中将の階級章を付けた男性局員、レジアス・ゲイズのみ。彼は絶対的な正義を信奉し、犯罪者に対しては徹底的に嫌う気がある。普通の人間もそうだが、レジアスはとりわけ度が過ぎるのだ。しかし他のメンバーはスルー。今さら詐称罪など小さな問題・・・にすらならないのだ。
『決まりだな。セインテスト二士。リンドヴルム首領スマウグの安否の確認を怠った責任として、平和な日常を完全に捨て、その心身ともにその時間を管理局に捧げてもらおうか』
『では、来年度・・・。ガアプ一佐。第97管理外世界・極東島国・・・ニッポンだったか。その学校年度はいつからだね?』
「・・・4月からです」
デュランゴ議長からの問いに、納得が出来ないと不満そうな表情を隠そうともしないクーが渋々答えた。
『ふむ。では4月1日より、ルシリオン・セインテスト二等空士を一等空士へ昇進、正式に局員として採用することにする。皆、構わないな』
クーとレジアス以外はすぐさま『異議なし』と応じ、少し遅れて『異議なし』レジアスが賛同。クーだけは未だに賛同の意を示さない。他のメンバーがクーへと視線を移し、リアンシェルトもまた彼女へと視線を移す。
「ガアプ課長。俺は構いませんよ。どうせ中学――ジュニアハイスクールは男女別の校舎、はやて達と机を並べての勉強はもう出来ないんですから。通ってもつまらないです」
「・・・ふふ。・・・クー・ガアプ、異議なし」
権威の円卓の満場一致でルシリオンの正局員への昇格、一等空士への昇進が決まった。
『リアンシェルト。彼のための部屋を用意してやってくれ』
「了解です。トレイル書記。用意ができ次第、連絡します」
『では、本会はこれにて終了とする』
「はい。皆さま、お疲れ様でした。権威の円卓、時空管理局評議会をこれにて閉会いたします」
リアンシェルトの挨拶が終わると、次々とホログラムがブツンと消えて行き、ローマ数字が刻まれたエンブレムのモニター3つも消えた。この部屋の明かりとなっていたモニターやホログラムが消失したことで室内は薄暗くなる。
「本当に良かったの? いくら校舎が男女別だからと言っても・・・」
「いいんですよ、ガアプ課長。こんな事になるずっと前から決めていたんですよ、はやての・・・八神の家から出ることを」
クーが椅子を回転させて側に控えるルシリオンへと体を向けて訊ねると、彼は苦笑しながら答えた。
「何故か理由を訊いても?」
「・・・そうですね。これから・・・はやては、それになのは達も今以上に多感な時期に入ります。彼女たちの精神は早熟で、考えも場合によっては大人顔向けの時だってあります。それもでまだ、子供です。そんな頃に同じ屋根の下で同い年の男が居るのは、いろいろと気になる事になると思います。それに俺も、成長していくはやての側に居るのはちょっと恥ずかしいので」
照れて恥ずかしそうな、何とも言えない苦笑いを浮かべてそう答えたルシリオン。思春期になって大変なはやてに気を遣わせたくない、という本心ではない建前を、そうとは知らず信じたクーは目を丸くして、「ぷはっ! ふふ、うふふ、あはは!」吹き出して笑い声を上げ始めた。
「あらあらあら♪ 可愛くてもやっぱり男の子ね、あなた! あなただってこれから大変になるものね! 頑張れ、男の子!」
クーは笑い過ぎて涙を零しながらルシリオンの頭を撫でた。そんな2人の側にリアンシェルトが歩いて来て「変態。スケベ。エッチ」冷たい視線をルシリオンへ向けてそう言ってから部屋を出て行った。
†††Sideルシリオン†††
「・・・おーい、起きろ~・・・」
「・・・ルシ・・・ルシル・・・」
誰かに呼ばれている。そう知覚して「ん・・・あ・・・」閉じていたまぶたを開ける。俺を呼んでいたのは2人の男。ロガン・リードマン空曹とメルセデス・シュトゥットガルト二等空尉だ。ロガンが運転し、メルセデスは助手席だ。
「すいません。昨夜、遅かったのでつい・・・」
とある現場に向かう車中、俺は後部座席で眠りこけてしまっていたようだ。あくびをかみ殺して謝る。正式に局員となって早1年。俺は内務調査部の査察官・監査官に続いて監察官という3つ目の資格を取得することが出来た。
この1年、その3種の仕事を日夜こなしつつ調査官としての研修も行っている・・・のだが正直、ナメてた。たった1年で管理世界入りを果たした世界は4つ。毎日毎日、その世界に行っていた。昨日も書類整理に追われてほとんど寝ていない。
(あの頃の夢か・・・)
はやてから告白をされたあの夜。リアンシェルトから、寮の準備が整った。いつ入寮してくれても構わない、そう連絡が入った。元より卒業式を終えたら八神の家から出る予定だったし、はやてから直接告白をされても出るとも決めていた。タイミングとしては良い方だった。
(まぁ、手紙だけ残して勝手に家を出たことについてはメチャクチャ怒られてしまったが・・)
「あー、そっか~。君、内務調査部の・・・。大変だね~」
「体は大事にしろよ? 俺たち第1111部隊は他の部隊以上にミスは許されないんだからな」
「はい」
この1年で俺に新しい配属先が出来た。それが第1111航空武装隊。仕事内容は暗殺。そう、時空管理局の暗部組織だ。権威の円卓の会議の下、暗殺という完全に違法な仕事を請け負う部隊だ。俺もすでに何人かの人間を間接的に殺めている。もうあの頃には戻れない。まぁ、それで良いのだろうが。
「じゃあ、今回のターゲットについておさらいをします」
ロガンがそう言って俺たち3人の前にモニターを展開。表示されているのは20代から40代と思われる男数人の顔写真。ロガンからその男たちの情報が伝えられる。今おれ達の居る第14管理世界ウスティオを拠点にするギャングだ。
「いい歳したおっさんが遊んでんじゃねぇって話だよな~、おい。働け働け」
罪状は集団危険行為。信号無視、スピード違反などの道路交通法違反。拳銃などの質量兵器違法所持。そのうえ一般人への傷害。女性への暴行・誘拐・強姦。さらに強盗などなど。挙げればキリが無い。何度も検挙されているんだが、リーダー格の40代の男は政治家一家の出で、しかも親戚にはウスティオ地上本部の幹部とのコネがあるとのことで、もみ消されたり軽い刑で出所したりしているそうだ。
「おーい、監察官殿~」
「え~。ウスティオ地上本部の監察は俺じゃないですよ、メルセデス二尉。とは言え、これが事実なら許せませんね。調査部長に報告しておきます」
「さすが最年少13歳で査察・監察・監査、3種の役職についてる、未来のエリート少年調査官! 年下ながら尊敬するよ!」
「ありがとうございます、ロガン空曹」
ロガン空曹はまさに、優しい親せきのお兄さん、って感じだ。メルセデスは、ガラは悪いが実は性格の良いエセ不良、だな。俺がこの暗殺部隊に入ってからというもの、このトリオで動くことが多いため、結構仲が良いと思う。
「役職手当で俺らより給料貰ってんだろうな~。いつか奢ってくれ」
「メルセデス二尉。一回り以上歳の離れた子供にたからないでください。恥ずかしいですよ」
「へいへーい」
これから暗殺をしに行こうって空気じゃないよな。ま、俺としても重い空気より、こんな何気ない陽気な空気の方がずっと楽だから良いけど。それから車を走らせること1時間。陽も落ちて夜となったウスティオの大地。そして到着したのは峠道の入り口にあるサービスエリアの駐車場。ターゲット達は走り屋よろしくなカーレースを繰り広げていると調査で判った。特にこの峠をホームコースとしているとのことだ。
「一般車を事故に追いやった事例もあり、死者も出たことがあるようです」
「とんだクズが居るもんだ。さぁ、害虫駆除といこうか。方法は何かあるか?」
駐車場に停めた車内にて作戦会議。俺はすぐさま「俺がやります」挙手。メルセデスが「具体案は?」と確認を取って来たため、「車を操れば問題なしです」即座にそう答えた。
「車を操る・・・? あ、あぁ、ステガノグラフィアかぁ」
「電子戦用の魔法か。あの反則魔法なら足も付かないだろうが」
「決まりですね。でも本当に良いのかい? 間接的にとは言え人殺しを君は・・・」
「ルシルが1111分隊に入った頃からずっと言い続けてるな、お前。今さらだよ、今さら」
ロガンは子供である俺が人殺しに加担することを最初から反対していた。そして任務がある毎に、良いのかい?と確認して来る。そして俺は「いいんです。それが仕事ですから」といつものように答える。
ロガンもメルセデスも、それに他のメンバーも、暗殺を仕事と割り切って人を殺している。そして、悪を成して悪を殺す、という汚名や罪を被ってでも、罪を犯しながらも償いをせずにまた罪を重ねる悪を断罪する、という覚悟もある。
(そして、いつか犯罪者として裁かれることも覚悟している)
「そうそう。仕事なんだから、それでいちいち滅入っていたら若禿げになんぞ。それによ。人殺しじゃなくて害虫駆除だって思えば良いんだよ、こういうのはな。ルシルは子供ながらに割り切ってんだ。その覚悟を、お前が揺らすんじゃねぇ」
「・・・はい」
これまでのやり取りには無かったメルセデスの強い言葉にしょんぼりするロガン。俺は「お心遣い、ありがとうですロガン空曹」頭を下げて礼を言う。本当に俺を気遣ってくれているからこそ、俺も心の底から感謝したい。
「うん。でも、辛くなったらいつでも言ってほしい。その分、僕がこの手を汚す・・・!」
「さすがに子供のお前におんぶに抱っこのままじゃ、大人として、先輩として、格好がつかないしな」
「ですね」
メルセデスの言葉に同意すると、彼は「生意気!」後部座席に身を乗り出してまで俺の髪をぐしゃぐしゃに掻き乱した。手櫛で髪を直していると、「来ました」とロガンがそう言った。フロントガラスの向こうへと目をやる。駐車場に続々と入って来るスポーツカー。どれもこれもガラの悪い改造車で、車から出て談笑し始めたそれらのドライバーであるターゲットやギャラリー達も同様にガラが悪い。
「ターゲット、および車両を確認」
「頼むぞ・・・!」
「了解。秘密を暴き伝える者達」
電子戦用術式のステガノグラフィアを発動。車外から見られるのを警戒してモニターには出さず、「いつでも支配できるようにターゲットのシステムをクラック。もちろん痕跡は残すな」指示を出す。
『はい』『ウィ』『ヤー』『シン』『イエス』
脳内に聞こえる電子妖精たちの返事。そして10秒とせずに『ミッションコンプリートです!』連絡が入った。俺はメルセデスとロガンに頷きを見せ、準備を終えたことを言外に伝えた。
――発見せよ、汝の聖眼――
そして俺は魔術ではなく魔法としてのサーチャーを、ステルスモードにして窓から放つ。
「タム・リンより通告。これより作戦に入る。繰り返す。これより作戦に入る」
「ジャック・オ・ランタン、了解」
「ヴィル・デ・フラウ、了解」
作戦開始を告げるメルセデス。ちなみに俺のコードネームはヴィル・デ・フラウ・・・なんだが、ヴィル・デ・フラウって女性の姿をした妖精の名前なんだよな。なんで俺にコレを付けたんだよ・・・。
ジャック・オ・ランタンがコードネームであるロガンは、ターゲットやギャラリーの車を全台見送ってから駐車場を出て、連中とは逆方向へと車を走らせる。あとは俺がターゲットの車を操り、崖からノーロープバンジーさせればいいだけだ。現場に留まる必要はない。
「次元港に行く前にどっか飯を食いに行こうぜ。腹減った」
「いいですね。ヴィル。君もいいかい?」
「はい。美味しい料理店、調べますね」
作戦中はコードネームで呼び合う。班長(俺たちの場合はメルセデスだな)が作戦終了を宣言するまでは続行するルールだ。とにかくネットワークにアクセスし、近場に評判の良い店があるかどうかを調べる。そんな最中でも俺は、ターゲットの様子をイシュリエル越しで監視している。
「あ。この先に有名なパスタの店があるようですよ」
「決まりだな」
「僕もパスタ好きですから、そこにしましょう」
ロガンの顔の面前に、運転の邪魔にならないように小さくしたマップモニターを展開。それから車を走らせ、件の駐車場に到着したところで『マスター』ステガノグラフィアから連絡が入り、ターゲット達が峠攻めを始めたのだという報告を貰った。脳内に送られてくる映像にもキッチリと映し出されている。
「ステガノグラフィアより報告。ヴィル・デ・フラウ、任務に集中します」
「「了解」」
ターゲット連中は峠道で報告通りにレースをしている。メルセデスとロガンにも見えるようにモニターを展開。法定速度50kmのところを160kmで走行中。これって、俺たちが何もしなくても普通に自滅する未来が待っている予感。だが、今日を含めて3日で暗殺しろ、との命令が権威の円卓――ロッキー・サブナックから出ている以上は・・・
「処刑執行します。ステガノグラフィア。次の低速コーナー、全車の全てのシステムをロック」
アクセル、ブレーキ、ハンドルのコントロールをステガノグラフィアの支配下に置く。そして逃げられないようにドアもロック。ターゲット達は何も知らずに公道レースに熱中している。まさか数十kmと離れたところから車を操られ、事故に見せかけられて殺されるとは夢にも思ってもいないだろう。
『先頭車両から速度を20kmプラス、ハンドルとブレーキは固定。あと緊急用の防御魔法プログラムも解除。さぁ、ターゲットを谷底へご案内だ』
魔法文明のある世界の車には、事故時に乗員を護るための緊急措置として防御魔法が発動される機能もあるという。それを発動されてターゲットが生き延びるような真似はさせない。連中には今日ここで死んでもらう。
『任務りょ~かい♪』(>Д<)ゝ
モニターに映る峠とターゲットの車。ステガノグラフィアは俺の指示に従い、支配下に置いたターゲットの車を操作。車は低速コーナーに差し掛かったが、減速が出来ないどころか加速を続け、そのうえハンドルを切ることも出来ないため、ガードレールを突き破って崖下へと仲良く連なるように落ちて行った。
崖下は小河であるため、木々がクッションになって九死に一生を得るなんていう都合の良い事にもならない。落ちた以上は死だ。それを証明するかのように崖下に落下した車は爆発炎上。そこにさらに1台、2台・・・最終的に7台が崖を落ちて行き爆発、そして炎上。
「ミッション第一段階、完了です」
「「了解」」
生死を確かめる必要性も無いくらいの燃えっぷりだ。それを確認してイシュリエルを解除、モニターを切り、俺たちは夕食を摂るために車を降りて店内へ。一番奥のテーブル席を指定して、それぞれパスタを注文し、俺はカルボナーラ、メルセデスはボロネーゼ、ロガンはペペロンチーノを美味しく頂く。
店内にポップなBGMが流れる中、小さなモニターで複数のニュース番組を観る。ミュートにしているため他の客の邪魔にはならないだろう。天気やら時事やらのニュースが流ること30分ほど、デザートを追加注文して食べている中、速報が入った。正に俺たちが引き起こした暗殺――事故のことがテロップとして流れた。
『車を運転していたドライバー、全員が即死か。ま、数十mっつう高さからクッションも無く落ちたんだからな』
『事故原因を調査・・・。映像を観る限り真っ黒に焼け焦げてスクラップになってますし、無理でしょうね』
『身元は調査待ち。しかしギャラリーからの聴取で、僕たちのターゲットであることは明らかですね』
とのことだ。それから俺たちは遅めの夕食を終え、車に乗って次元港を改めて目指す。そして「タム・リンより、作戦の終了を宣言する。繰り返す。作戦の終了を宣言する」メルセデスから作戦終了を伝えられた。
「ジャック・オ・ランタン、了解」
「ヴィル・デ・フラウ、了解」
俺とロガンはそう応じた。これにて任務は無事に終了。あとは次元港からミッドチルダを経由して本局へ帰るだけ。っとその前に、俺たちが乗っている車を、レンタカー店に返さないといけない。次元港の敷地地下にあるレンタカー店が運営している駐車場、その入り口に入る直前、魔法で偽装していたナンバープレートを解除。そしてエレベーターで1階のレンタカー店へ。
「おかえりなさいませ、マッケンジーご一行様。良い旅でしたでしょうか?」
「ええ、実に素晴らしい時間を過ごせたよ。機会があればまた利用させてもらうよ」
「ありがとうございます! またのご来店をお待ちしております!」
マッケンジーという偽名で俺たちは車をレンタルしていた。身分証も全てが違法作成されたものだ。しかもこのウスティオに降り立ってからずっと変身魔法を使って、まるっきり別人に変身している。今の俺は190cmの大男だ。
車の起動キーを受付係に返却して、レンタカー店を後にする。目指すは当初の目的である次元港。俺たちは男性用トイレの個室に入り、「変身魔法を解除」自身に掛けていた変身魔法を解除した。
「くっはー。1日ずっと変身魔法で居んのも疲れるな」
「僕はもう魔力がすっからかんですよ」
「お疲れ様でした~」
「おう、ご苦労さん」
「お疲れさまです」
トイレを出た後は、コインロッカーに預けておいた本当の身分証や次元航行船のチケットなどを回収。受付でチェックインを済ませて、船へと搭乗。離陸時間になる頃には俺たちは揃って爆睡だ。
『――本日はミッドチルダ首都クラナガン行き、第393便にご搭乗頂きましてありがとうございました』
このアナウンスで俺たちは目を覚ました。眠っていたからあっという間だったな。ミッドの次元港に到着して、今度は本局行きの便へ乗り換えだ。その手続きを行うために受付に向かおうとした時、「ルシル君!」名前を呼ばれた。声のした方を見れば、「はやて、リイン・・・!」制服姿の2人が居た。
「ルシル。俺たちは先に行ってるからな」
「うん。時間はまだあるし、ゆっくりと話しておいで」
「え、あ、はい。ではまた後で」
俺とはやての関係が元家族だということは、メルセデスやロガンには知られているからな。2人は俺を気遣って、先に船への搭乗手続きを終えてサクサク乗り込んで行った。
「ごめん、ルシル君。大事なお話ししてた?」
「いいや。大丈夫だよ。はやてとリインは仕事だったのか?」
「はいですよ♪ 特別捜査官ですから!」
この1年、はやてとリインはシグナム達と別行動で捜査することが多くなっていた。それに上級キャリア試験にも無事に合格し、今では14歳にして準陸尉。チーム海鳴一番の出世頭だ。
「なぁ、ルシル君。次に海鳴市に帰って来られるのっていつかな? 卒業式のあの日から一度も帰って来てへんやんか。わたしらチーム海鳴も、小学校ん時のクラスメイトのみんなプンプンやよ」
両手を腰に置いての仁王立ち、さらに頬を膨らませてのお怒りモードのはやて。リインも「プンプンです!」同じ格好をする始末。俺はあの日から海鳴市に足を運んでいない。仕事のキツさも理由だが、もう戻れないという思いもあるからだ。
「あー、ごめん。内務調査部って思っていた以上に重労働でさ。これから帰って書類作成だよ」
嘘。これから本局に帰ってやることは、問題も無く無事に人を殺しました、という報告書の作成だ。
「・・・ルシル君、ホンマに疲れてる・・・。無理はせんでな? ホンマは無茶もしてほしない。・・・わたしら嘱託とは違くてルシル君は正局員やから、仕事量が増えて大変やってことは解ってるつもりや・・・。それでも、な・・・」
「だからその疲れを癒すために、一度くらいははやてちゃん達のお家に帰って来てくださいです。アイリはヴィータちゃんに連れられて何度も帰って来てるですよ」
あの日、俺はアイリと共にはやての家を出た。本当はアイリも置いて行くつもりだったんだが、念話を使って泣き喚かれたことで俺が折れた。それからは俺とアイリは、リアンシェルトが用意した寮で共同生活。
アイリは基本的にヴィータと合流して武装隊の仕事。いくら俺の融合騎として登録されているとしても、内務調査部のオフィスに入れないからだ。その事もあって、アイリはヴィータやシグナムと一緒に海鳴市に帰ることが多くある。俺も誘われるが、何かと理由を付けて断っていた。だから今回も・・・
「仕事が一段落したら帰るよ」
「もう! そんなこと言うて結局帰って来てへんのはどこの誰やろな~!」
はやては俺の頬を両手で摘んで引っ張って来るから「あいたた!」かなり痛い。リインも「約束破りは重罪です!」俺の頭をその小さな拳でポカポカ叩いてくる。こんな状況だが癒される、本当に。そんな君たちだからこそ、護りたいからこそ、どんな辛い仕事だって引き受けて見せる。
「あのな、はやて。俺――」
『時空管理局本局行き・第881便を御利用されるお客様は、出発時刻まで10分となりましたので、ご搭乗して頂くようお願いいたします』
そこまで言い掛けたところで、そんなアナウンスが流れた。第881便は俺の乗る船だ。俺は「はやてとリインもこの便か?」そう確認すると、「ううん。次の便や」とはやては首を横に振った。
「そう・・・か。俺、行かないと」
そう言うとはやては俺の頬から両手を離し、「うん・・・」寂しそうに俯いた。リインも俺の頭の上から離れ、「はやてちゃん・・・」はやての右肩に乗った。
「それじゃあ、またな」
俺はあの頃のようにはやての頭を撫でることなく、踵を返して受付に向かう。はやてが息を飲むのが背中越しだったが判った。たった数時間前に人を殺したこの手で、あの子の頭を撫でるわけにはいかないだろう、さすがに。でも、このまま別れるのも後味が悪過ぎる。この手を使うしかないよな、もう・・・。
「来週。休みが2日あるんだ。だから・・・遊びに行くよ。はやての家に」
そう伝えてからはやてとリインへと振り返ると、「っ!」はやてはポロポロ涙を流していた。まさか泣かれるとは思わなかったからギョッとした。慌てて「はやて・・・!?」へと歩み寄る。
「ご、ごめん! その、なんや、う、嬉しくて・・・! ホンマに・・・嬉しくて・・・!」
両手で涙を拭うはやて。リインは「良かったですね、はやてちゃん!」はやてを慰めるように頭を優しく撫でる。そして『ルシル君。約束破ったら、リインは許さないですよ』と念話を使って、俺に警告して来た。その視線は結構本気の脅しだ。
「『・・・判っている』・・・はやて。約束だ。ちゃんと遊びに行く」
「っ!・・・うん、うん! 約束や!」
小指を差し出してくるはやて。これくらいなら許されるだろう、と思いたい。はやての小指に俺の小指を絡ませ「指切りげんまん♪」約束をする。そして「またな、ルシル君♪」満面の笑顔で俺を見送ってくれるはやてとリインに、「ああ、また!」小さく手を振り返しながら受付を済ませ、メルセデスとロガンの待つ船に登場した。
後書き
おはようございます。こんにちは。こんばんは。
エピソードⅣ・STRIKERS編のスタートです。まずはあれから1年後という設定で、チーム海鳴が今はどんな事をしているかを伝えて行きます。初っ端は本作の主人公であるルシルから。
次は八神家かなぁ~。はやて視点で、卒業式直後の彼女の回想などをお送りするかと思います。文字数によっては、他のメンバーの話も入れるかと。あ、ストーリーの関係上、半年経った、1年経った、など急に時間を飛ぶことがあります。御容赦を。
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