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馬鹿兄貴

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2部分:第二章


第二章

「御前に言い寄ったり変なことしそうな悪い虫を今のうちにな」
「いつも通り根絶しようっていうの?」
「そうだ」
 はっきりと言うのだった。
「このテキ屋飛鳥組七代目飛鳥健一様がな」
「いいから、そんなの」
 うんざりとした顔で言う日和だった。
「大体そうやって大暴れして何になるのよ」
「そんなことは言うまでもないだろうがよ」
 妹に対して言う健一だった。
「御前に言い寄る悪党共を一匹残らず消毒するんだよ」
「消毒って・・・・・・」
「何処の世紀末のモヒカンなんだよ」
 そんなものが可愛く見えるのが彼である。
「とにかくよ。帰るわよ」
「ちっ、仕方ねえな」
「後で賠償金一杯来るから。どうするのよ」
「そんなのが怖くて生きてられるか」
 日和の言葉にも憮然として返す。
「御前に言い寄る悪党は何があってもこの俺がな」
「はいはい、もういいから」
 これ以上話を聞く気は彼女には全くなかった。
「帰るわよ」
 何はともあれ兄を連れて帰る妹であった。こうして学校を破壊し尽した暴風は過ぎ去った。後には廃虚が呆然とする学生や先生達が残っていた。
「二度と来るな」
「何で警察に捕まらないんだよ」
 そう言って不平不満を今更ながら口にする。しかし起こってしまったことはどうにもならなかった。そしてその暴風雨は。屋敷の畳の部屋で妹の前で胡坐をかいて踏ん反り返っていたのであった。
「いつも何考えて生きているのよ!」
「そんなのわかってるだろうが!」
 こう妹に言い返すのであった。
「俺は御前を守る為に生きているんだ!」
「大きなお世話よ!」
 怒髪天をついて叫ぶ日和であった。
「そんなの全然いらないから!」
「馬鹿を言え馬鹿を!」
 健一も健一で叫び返す。
「御前に何かあったら俺は親父とお袋に何て言えばいいんだ!」
 こう叫ぶのである。
「天国の親父とお袋にな!」
「じゃあ大人しくしてよ」
 憮然とした顔で腕を組んで兄に言った。
「私だって空手三段柔道二段合気道三段よ」
 洒落になっていない。
「少林寺初段だし。剣道だってこの前二段になったじゃない」
「それがどうした」
 健一も健一でこれに反論する。
「空手五段柔道六段合気道五段に少林寺三段」
 やはり強い。
「それに剣道六段居合道五段だ。俺に勝てるか」
 まさに身体だけで頭は全然鍛えていないのであった。
「そういうことは俺に勝ってから言え」
「大体そういう問題じゃないでしょ」
 頭は妹が勝っていた。
「お兄ちゃんの世話にならなくても大丈夫よ」
「だからだ。何かあったらな」
「お兄ちゃんのおかげで言い寄る男なんて一人もいないわよ」
「いいことだ」
 その言葉を聞いて納得した顔で頷いた。
「そんな奴がいたら俺が家に殴り込みをかけてやる」
「それを実行に移したのは三十回だったかしら」
 妹はうんざりとした顔で健一に述べた。
「その度に相手様のお家潰したわよね」
「家は潰れるものだ」
 この言い草である。
「それで皆全治二ヶ月以上よね」
「それで済んで有り難いと思え」
「そして今回だって」
 その工業高校殴り込み事件である。
「前はヤクザ屋さんの事務所粉々にしたじゃない」
「元々シマ荒らそうとしてきやがっていたしな」
 テキ屋がヤクザの元になっているのだ。なお彼の家は地元ではかなり有名なその筋である。彼はそこの若き組長というのである。
「何時かやろうと思ってはいたがな」
「で、あっちの三下が私と擦れ違って肩が触れただけで殴り込みかけたの」
「それが一番赦せなかったんだよ」
 やはりそれであった。
「本来ならあれの三分の一で済ませてやったんだ」
「それが完全破壊になったのね」
「当たり前だ。あいつ等はそれだけのことをしやがったんだ」
「あのね、お兄ちゃん」
 ここまで話を聞いて呆れた顔で言う日和だった。
「限度って知ってる?」
「そんなのは俺の辞書にはねえ。見ろ」
 何処からかその辞書を出してきた。そして突き出してきたページには。限度という部分が奇麗に真っ黒に塗り潰されていたのであった。
 
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