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馬鹿兄貴

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1部分:第一章


第一章

                     馬鹿兄貴
 飛鳥健一はあまりにも有名な人間であった。それは彼が際立って頭がいいからではなく顔がいいからでもなかった。はっきり言えば学校の成績ではそこまで極端な馬鹿ではなかったし顔もとりあえずは黒髪できりっとした顔立ちでそれだけ見れば女の子からもてそうである。
 しかし彼はその頭や顔で有名なのではなく行動で有名だったのだ。その有名さは言い換えれば悪名であった。悪名高い人間だったのだ。
 どういった悪名かというと。それは家族絡みであった。妹の日和を何よりも大事にしていてそのせいである。
「おい日和!」
「何よ」
「美都子ちゃんから聞いたぞ!」
「聞き出したでしょ」
 兄と同じ黒髪をツインテールにしたまだ幼さの残る黒い大きな目を持つ女の子が彼に言葉を返す。彼女が妹の飛鳥日和である。
「美都子から強引に」
「聞いただけだ」
「美都子も迷惑してるから止めてよ」
「五月蝿い!それよりもだ!」
 さながらブレーキが壊れた機関車の如く叫びだした。
「昨日何処に行っていた!」
「ゲームセンターだけれど」
「馬鹿野郎!」
 ゲームセンターと聞いただけでこれである。
「ゲームセンターは不良の溜まり場だぞ!そんな所に行って何かあったらどうする!」
「何かあるわけないじゃない」
 むっとした顔で返す日和だった。目に合わせたような形の少し太い眉を顰めさせる。やや大きめの口もだ。顔のそれぞれのパーツが大きくそれで目立つ顔になっている。
「駅前のゲームセンターなんだし。皆知ってる店よ」
「皆か」
「そうよ。皆よ」
「余計に駄目だ」
 健一は妹から見れば超絶解釈を出してきた。
「あんな場所は。絶対にだ」
「何でなの?」
「あそこには戸塚工業の奴等も来る」
「まあターミナルだからね」
「あそこの連中はガラが悪い」
 実際にお世辞にもガラのいい学校ではなかったりする。
「始末しておくか、御前が行ってもうマークされてるかも知れないしな」
「マークって。何考えてるのよ」
「御前の気にすることじゃない」
 それについては言わない健一だった。だがこう言うのであった。
「ゴキブリを駆除しておくだけだ」
「だから何考えてるのよ、今度は」
 思いきり兄を疑う目で問う。
「また大暴れするつもり?」
「五月蝿い!」
 また叫ぶ健一であった。
「御前に何かする前に殺る!」
「殺るって何よ、殺るって」
 その剣呑極まりない言葉に対しても突っ込みを入れる。
「凄く物騒なんだけれど」
「言ったな。気にするなとな」
 極めて強引に話を収めようとする。
「それだけだ。じゃあな」
「全く。ゲームセンターで今時こんなに騒ぐ?」
 日和にとってはそもそもそのことが異常であった。少なくともそう感じるのは彼女だけではないのだが健一の目にも耳にも入らない。
「だから。皆とちょっと遊んだだけなのに」
「何処に誰がいるかわからない」
 まだ言う健一だった。
「だからだ。殺っておく、御前に何かある前にな」
 こうして彼は翌日即座に行動に移したのだった。何とその戸塚工業にバイクで鉄パイプを手に殴り込みをかけたのである。
「妹に手を出す奴は誰だ!」
「げっ、氷山の飛鳥!」
「何で奴が!」
 既に彼の悪名は県単位なのであった。だから戸塚工業の者達も彼の名前と顔を把握していたのである。
「答えろ!妹に何かしようと考えてる奴は何処だ!」
「何処だって何言ってんだあいつ!」
「また妹さんのことで何か暴れてるのかよ!」
 彼にとっては妹に何かあってからではなく何かありそうなのが問題なのである。だからこそ今回もこの行動に出ているというわけだ。
「答えろ!さもないと貴様等全員殺す!」
「殺す!?あいついかれてるのかよ!」
「マジでそうなんだよあいつは!」
 これが世間での彼の評価であった。
「逃げろ!マジで殺されるぞ!」
「何であんな奴が世の中にいるんだ!」
「知るかよ、そんなこと!」
「出て来い!」
 バイクに乗りそのまま校舎の中を駆け回る。
「出て来ないとこの学校を跡形もなく破壊してやるぞ!」
 こう騒ぎ回って暴れ回り側にいる適当な人間を投げ飛ばし殴り倒し目に入るものを粉々にしていく。まさに人間台風といった有様である。
 しかしその大暴れも終わる時が来た。体育館で逃げ惑う生徒達を追い回す彼の前に戸塚工業とはまた違う制服の女の子が出て来たのだ。それは。
「日和!?」
「どうせこんなことだろうと思ったわよ」
 青のブレザーにミニスカート、赤のネクタイに白いソックスといった格好の日和がむっとした顔で兄の前に両手を腰に当てて立っていた。
「全く。何やってるのよ」
「何って!?決まっているだろう」
 健一は日和の前でバイクを止めてから妹に答えた。
 
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