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Gカップ★グラドル

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4部分:第四章


第四章

「碌でもない相手と付き合ったら後が大変なのよ」
「それはわかってるわよ。けれどヒーローよ」
「それがどうかしたの?」
「悪い人じゃないと思うけれどなあ。正義の味方なんだし」
 両手を頭の後ろに回して言う。それから椅子にもたれかかる。
「最近のシリーズのヒーローでしょ」
「うん」
「じゃあ駄目よ」
 山本は前を運転しながら答えた。
「何で?」
「最近のあのシリーズのヒーローは悪い人も出るからね」
「まあそうだけれど」
「実際はどんな人かなんてわかったものじゃないわよ」
「けれど最初のヒーローやってた人は凄くいい人じゃない」
「あの人は別よ」
 本当に最初のそのヒーローをやっていた俳優である。濃い顔に太い声が特徴である。笑いがとりわけ素晴らしい。
「出来た人なのよ、すごく」
「そうよね」
「そうした人ならともかく本当の悪役に引っ掛からないようにしなさいよ。付き合ってもフォーカスされればそれで終わりなんだからね」
「早々見つからないわよ」
「甘いわね」
 山本の声も顔も憮然としたものになった。
「壁に耳あり障子に目ありよ」
 そしてこうした時にお決まりの諺を出した。
「それに相手はハイエナなのよ」
「ハイエナ」
「そうよ、ああしたイエロージャーナリズムはね。人のプライバシーを食い物にしているんだから」
「嫌な奴等なのはわかってるつもりだけれど」
 少なくとも真っ当な人間はタブロイドとはいえ下品なことはしないものだ。卑しい人間だからこそ卑しいものを書く。そうしたものである。
「そうした連中に隙を与えないこと。いいわね」
「じゃあ付き合うなってこと?」
「そこまでは言わないけれどね」
 それでも注意しろということだ。
「男は要注意なのよ」
「いつも言われてるけれど」
「男で駄目になったって話本当に多いから」
「芸能界だけ?それって」
「芸能界だけじゃないわね」
 山本もそれは認めた。
「色々なところであるわ」
「そうよね。けれど特に多いってことね」
「特にね」
 ここで山本の声が剣呑なものになった。
「この前あんたに言い寄っていたあの大物俳優」
「あの人のことは知ってるわ」
 恵理香とて馬鹿ではない。それどころか実は結構頭の回転はいい方だったりする。
「女好きだから話に乗るなってことね」
「女は芸の肥やしって言う人だから」
 山本はその言葉を言いながら眉を顰めさせていた。
「冗談じゃないわ」
 語気に怒りが混ざっていた。
「そんなことって。勝手だと思うでしょ」
「それはね」
 恵理香としても同意であった。
「女だってその人格があるから。山本ちゃんいつも言ってるわよね」
「だから干されて奥さんにも逃げられたのよ」
「それ考えると悲惨ね」
「自業自得よ」
 山本はむっとしたまま言う。
「干されてああしてたまにテレビで出て何とかやっていくしかなくなったのもね。自分のせい」
「ああはなりたくはないわね」
「だから」
 言葉がビシッとうなった。
「男には気をつけなさい。女でもああなるんだから」
「男は芸の肥やしにはならないのね」
「そういう考えだからああなったからね」
「わかったわ。けれどさあ」
「何?」
「あたし処女じゃないよ、わかってると思うけれど」
「な、何言ってるのよ」
 山本は恵理香のその言葉に顔を赤くして応える。顔は彼女の方を向いていた。
「いきなり」
「ちょ、ちょっと山本ちゃん」
「何?」
「前、前」
「おっと」
 慌ててハンドルを切る。危うく対向車線に突っ込むところであった。
「ああ危なかった」
「あんたがいきなり処女じゃないなんて言うからよ」
「いや、さっきのは山本ちゃんが」
「私のせいなの!?」
「幾ら何でも余所見はよくないよ」
「うう・・・・・・」
 今回は山本の負けであった。
「けれどあたしもう二十一だし」
 恵理香は言う。
「高校でもう彼氏いたしさ。当然じゃない」
「当然なの、それって」
「けど山本ちゃんだってそうでしょ」
「まあね」
 それは認めた。
「じゃあ特に驚くことないじゃない。大体二十五で処女なんていないでしょ」
「それはそうだけれど」
 山本も彼氏はいるのだ。それは恵理香も知っている。

 
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