| 携帯サイト  | 感想  | レビュー  | 縦書きで読む [PDF/明朝]版 / [PDF/ゴシック]版 | 全話表示 | 挿絵表示しない | 誤字脱字報告する | 誤字脱字報告一覧 | 

東方大冒録

しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。 ページ下へ移動
 

VS永遠亭その2。 ~決戦~

 
前書き
さぁ、戦いますよ。 

 
永遠亭内部は、ひどく静かで、薄暗かった。先程の爆発の原因とも言えそうなものはひとつもなく、敵も全く現れない。だが、暗基は紅魔館で感じたまがまがしい霊力に近いものを感じ取っていた。

「さすがに不気味だな。こう、物音がおれの足音しかしないってのは……」

暗基は周囲を警戒しながら、少しずつ足を進める。すると、きしっ……という、何かのきしむような音が聞こえた。

「……!」

暗基は何が出てきてもいいように臨戦態勢に移る。だんだんときしむような音が近づいてくる。そして、音の正体がぼんやりと見えてきた。

「……」
「……、んっ?」

音の正体を見たとき、暗基は動揺を隠せなかった。なんと、身長120cmほどの、可愛らしい女の子が姿を表したのだ。しかしその姿は普通の人間とは大分違っていた。髪は妹紅の持つもののように真っ白な長髪で、眼も鮮やかな赤。服はてゐの着ているものにそっくりで、うさぎの耳を持っていた。だが、動揺したのはほんの一瞬だった。そのうさみみ少女から、マガイモノ特有のまがまがしい霊力を感じ取ったのだ。

「なんだ! やるのか!?」

声をかけてみるが、

「……」

ひとつも反応がない。そして動きを見せる様子もない。

「せめて何かしらアクションを起こしてくれるんならわかりやすくていいんだがな……」

動く様子がないので、そのまま通り過ぎようと足を動かしたとたん、

「……」
「んっ!?」

うさみみ少女が足を一歩前に進めたのだ。やはり無視しようとしたのがまずかったかと思った暗基は、動かした足をそのまま元に戻した。すると、少女がまた1歩近づいてきた。

「……、動くとだめなのか?」

そうつぶやいた暗基は、今度は黙ってその場に立ち尽くすことにした。すると、予想通り少女は全く動こうともしない。どうやらこの少女、見た目でだますことによって、不用意に近づいてきたものを何かしらのトラップにはめるパターンのようだ。なにもせず3分経過したとき、少女は暗基は何もしないと判断したのか、暗基をじっと見たまま先に進んでいった。

「なんだったんだあれ」

少女がずっと歩いていくのを見ながら、暗基はつぶやいた。すると少女がぴたりと立ち止まったと思ったら、暗基のほうに体を向け、何となく体を隠すようなそぶりを見せる。その様子がやはり可愛らしく、とてもマガイモノとは思えない、思いたくない暗基だった。

「……、なごむなぁ」

そして暗基はあの少女はマガイモノとはいえ、こちらに危害を加えないと判断し、あえて何もせず先へ進むことにした。

「……」

少女は何も言葉を発することなく暗基の後をついていく。


















先ほどの少女が後をつけてきていることを知っていた暗基はたまに後ろを確認するたびに少女のマガイモノが隠れようと必死になるのを見て笑いそうになるのを放っておきながら先に進むと、明らかに何かがありそうな扉を見つけた。ここから、以前紅魔館の地下室で感じた、「ちびりそう」な霊力を感じたが、慣れてしまったのかちびりそうにはならなかった。

「行くか」

暗基が扉に手をかけた瞬間、

「……!」
「なんぞ?」

先ほどの少女が暗基の服のすそをつかんできた。どことなく不安で泣きそうな顔をしている。

「……、心配してくれてるのか?」

暗基が尋ねると、少女は小さくこくりとうなずいた。

「大丈夫さ。何とかなる」

そう言って暗基は扉を開けた。その瞬間だった。

「ほがぁ!!?」

何かが暗基の顔面と鳩尾にクリティカルを決め、そのまま壁へと飛ばされた。

「なんっ……!!? てゐ!! 輝夜!!?」

何かをどかしてみると、それは因幡てゐと蓬莱山輝夜だった。何者かに思いっきり吹き飛ばされて、たたきつけられたのだ。見ると、二人ともひどい傷だらけだった。

「おい!! お前ら何があった!!!?」

慌てて二人の意識があるか確かめるが、てゐは意識があったようだが、輝夜は気絶してしまっていた。そして暗基の顔を見ることすらやっとという感じに、わずかに顔を動かしててゐが返事をする。

「うっ……、わ、私たちの、ことは、どうでも、いいウサ……! 姫のことも、私が何とかするから、れ、鈴仙を……!!」
「そうはいったってお前ら、えぐいレベルだぞその傷は!!」
「これくらいどうってことないウサ!! いいから鈴仙を助けてくれウサ!!」
「!!」

声がかすれながらも叫んだてゐは、ギッ、と暗基を睨み付けた。本当は癪だが、あとは任せた。とでも言いたそうな眼で。

「……、わかった、任せとけ。おい、そこのウサギ少女」
「?」

暗基は先程の少女に声をかける。

「お前のこと、信じてもいいんだよな?」
「!!」

少女は言葉を発さなかったが、力強くうなずいた。

「じゃあ、任せたぞ」
「!」

少女は暗基に敬礼して見せた。それをみて、暗基は部屋の中へと入っていった。












「ああああぁぁぁぁぁあああああああ!!!」

永遠亭最奥部。うどんげこと、鈴仙・優曇華院・イナバは、すでにボロボロで、立ち上がることもできない状態だった。

「はぁ、これじゃ力を試す実験にもままならないわね」

それに対して衣服に汚れひとつついていない、八意永琳のマガイモノが、鈴仙を心底馬鹿にしたようなトーンで言った。

「本物がこの程度だなんて、私が言うことではないけれど、貴女はいったい何をしていたの?」
「ぐっ……」

悲しいことだが、マガイモノの言うとおりだった。思えば、いままで自分がしてきたことと言えば、永琳の薬の調合の手伝いや薬の配達、医学の勉強くらいで、何かを護るための訓練はしてはいたが、おろそかにしていた。その結果がこれだった。師匠の偽者だとか言う輩を相手に、完膚なきまでに打ちのめされて、もはや打つ手がなくなっていた。

「さてと、使えない子がいても邪魔なだけだものね」

そういいながら永琳のマガイモノは指をパチンとならし、すぐ横に鈴仙のマガイモノを召喚した。

「死ぬよりはましだと思いなさい」

そしてそういい放つと同時に、鈴仙のマガイモノが本物の頬に手を添えて、

「無様ね」

たった一言添えたと同時に、マガイモノが手を添えた頬から影が少しずつ本物の身体を蝕んでいく。

「うぅっ……」

蝕まれて行く中で、鈴仙は自分の愚かさに涙を流さずにはいられなかった。もっと真面目に鍛えておけば。もっと自分が、感情にまかせて行動せずに、落ち着いていれば……。

(姫様……、師匠……、てゐ……。ごめんなさい……!!)

鈴仙の身体を、影がほぼ完全に蝕んだ、その時だった。














ズパァン!!












肉を断つ音と共に、

「なにを悲劇のヒロイン気取ってんだこのアホうさぎ」

感情が無いようで怒りのこもった低い声が、鈴仙の耳に聞こえた。

「なっ!!?」

突然のことに理解出来ていない鈴仙のマガイモノに、

「オラァッ!!」

低い声の主は身体を回転させ、左手による渾身の裏拳を叩きつけた。鈴仙のマガイモノはその衝撃に耐えきれず、その身体を破裂させた。

「なに……、が……?」

本物の鈴仙は、なんとか声の主を見ようと顔をあげた。するとそこには、

「全くよぉ、カッコつけるだけみじめなだけなんだから、猫の手も借りとけっての」
「く、暗基零……!?」

鈴仙が毛嫌いしていた、暗基零が呆れた顔をしながら鈴仙を見下ろしていた。

「な、何しに来たのよアンタ……!!?」

暗基が一体どうしてこの永遠亭に来ているのか、鈴仙にはまったく理解できなかった。暗基は鈴仙の言葉に、

「おまえ、あとで死刑確定してるからな」
「えっ、ちょっと、どういうこと!!?」

そう答えて、鈴仙のマガイモノを封印し、本物の鈴仙を無視しながら永琳のマガイモノに向き合った。

「おい永琳のマガイモノ。なんだってあんなよくわからねぇものを仕向けた?」

暗基は永琳のマガイモノに、いままで自分に仕向けてきた者に対しての怒りをぶつける。

「あら、私の作品に対して随分とひどいことをいうのね?」
「作品だと?」
「えぇ。作品。あなたに仕向けたもののうち、いくつかは私が作り出した作品よ」
「いくつか、と言われてしまうと、おれには霊夢と魔理沙のマガイモノと永遠亭に入るときの爆発物と、あのウサギ少女以外には思いつかないんだが?」

暗基に仕向けられたものと言えば、暗基本人からすればその3パターンだけだった。それを永琳のマガイモノに伝えてみると、

「えぇ、あなたが言ったそれらで間違いはないわ。その3つとも、この幻想郷の住人には効果てきめんで、あなたには全く効かなくて、正直少しだけイライラしているけどね。あなたの能力「ありとあらゆるものを普通とみなす程度の能力」の素晴らしさも証明されてしまったしね?」

そう答えた永琳のマガイモノは、口は笑っているが目は全く笑っていなかった。どうやら口では少しと答えたが、内心本気で怒りを覚えているようだ。

「そうかい。その、おれの素晴らしさとやらがお前の中で証明されたんなら、黙ってこの永遠亭も明け渡してもらいたいもんだがな」
「そういうわけにもいかないわ。ここは本当に居心地がいいし、本物を除いて誰かから文句を言われるわけでもなく私の研究を続けられるし。これほどいい場所を手放すわけがないじゃない?」
「まぁ、それもそうだわな」

暗基の言葉に、永琳のマガイモノは何をふざけたことを言っているのかとでも言っているようだった。そのセリフに対して、

「……ふざけないで」
「鈴仙?」

鈴仙が這いつくばりながら怒りを込めた言葉を放つ。

「なにが居心地がいい、よ? ここは、私の、私たちの帰る場所なのよ? 私たちの永遠亭なのよ!! 偽物の分際で、さもここが自分の家かのようにものを言わないで!!」
「そのザマで何を言われようと、私は何とも思わないわ。私と戦って、いい線行くところまで来てからものを喋りなさい? 偽物よりも弱い本物の愚図が」
「おい何する気だお前!! やめろ!!」

永琳のマガイモノは冷たく言い放つと、暗基の制止など聞く耳持たず、矢を4本同時にもって弓を引き絞り、それを鈴仙に打ち込んだ。

「……っ!!」

鈴仙はそれきり、声すらも出さなくなり、ただただ震えるだけになってしまった。

「鈴仙! 大丈夫か!?」

暗基は鈴仙のもとへと駆け寄ろうとしたが、足を動かそうとした瞬間、暗基の足元に、また矢が3本撃ち込まれた。

「助けたいなら、私を止めてからね」

そう言った永琳のマガイモノは、先程の笑いとは一変して、心の底から笑っていた。

「なにがおかしいんだ?」
「だって、とっても面白いことをしたのだもの。笑うのはおかしくないわ」
「面白いこと?」
「えぇ。うどんげの方を見てみなさい?」

指を指された先をみた暗基は、それと同時に怒りが最高潮になった。そこにあったのは、もう生き物だったのかわからなくなるほど、干からびてしまった鈴仙の姿だった。そして、鈴仙に刺さっていた先程の矢が自然と抜けて、大きく姿を変え、4人の鈴仙のマガイモノになったのだ。

「どう? 素晴らしいでしょう? 生物のありとあらゆる力を吸いとって、新たな生物を生み出す矢。これのお陰で、今まで本物は封印という形で生きてもらわなきゃいけなかった今までの私達とは違う! 私達は新たな世界を作り出すことが可能となったのよ!」

とても楽しそうにべらべらと話す永琳のマガイモノだったが、暗基の耳にはただの音にしか聞こえなかった。暗基にとっては、そんなことはどうでもよかった。

「ただ、新しく作り直すとなると問題が……」

暗基にとっての音が消える前に、暗基の身体は、









ベキィッ!!








「!!?」

永琳のマガイモノを、力の限り殴り飛ばしていた。永琳のマガイモノの身体は、壁も突き破って、軽く8メートルほど吹き飛ばされていた。

「い、いったい何が……!? 普通の人間には、これほどのパワーを出すのは不可能なはず……!?」

そう言いながら永琳のマガイモノは暗基の姿を見る。そこには、先程までのただの少年はいなかった。そこにいたのは、なにかのヒーローものの変身のように、普段着の姿からボタンをひとつ開けたYシャツ姿へ、髪の色が黒から紫に、眼は黒から緋色に、そして頭からはうさぎの耳が後ろに向けて生えていた。

「そ、そんな、この姿は今までのデータにはなかった……! まさか、自分の怒りとうどんげの無念が噛み合って、また新しい力に目覚めたというの!?」

今までのマガイモノたちのデータからは手に入れることができなかった、新たなる暗基の姿に驚きを隠せなかった。そんなことはお構いなしに、暗基は永琳のマガイモノをにらみつけ、叫びながら手を拳銃の形に構えた。

「いい加減にしろよテメェ……! どこまでおれたちのことコケにしてくれてんだ!!!」

そして暗基は、放つことができないはずの弾幕を、構えた指先から発射した。弾幕は一発だけだが、その一発は、音速に等しかった。

「ぐっ!?」

永琳のマガイモノは反応することができず、その一発を腕に食らってしまった。食らった場所から、腕が少しずつ溶けていく。それを見た永琳のマガイモノは、震えながら、

「く、ふふふ、ふふふはは、ははははははは!!!! 面白い、面白いわ!! もっと、もっと私たちにあなたのことを教えて頂戴!! それが私たちを強くしてくれるわ!!!」

狂ったように叫んだ。もはや、永琳のマガイモノは、「作られたもの」でありつつ、知識欲にあふれる「一研究者」として、暗基に対して興味しかなかった。

「イカレてやがるな……。つーか今まで気づかなかった。何だこのカッコ? 鈴仙の男バージョンみたいな感じだな」

暗基は呆れを感じたが、それよりも自分の姿が大きく変わっていることに気づき、自分の姿に小さいながら驚きを感じる方が強かった。

「さぁ、うどんげのマガイモノたち! 私の腕が再生するまでの間でいい! 時間を稼ぎなさい!!!」

永琳のマガイモノが号令をかけた後、鈴仙のマガイモノたちは暗基の前後左右をふさぐように立ちふさがると、それぞれ何かを念じながら右手を突き出した。すると、暗基と鈴仙のマガイモノたちを囲う様に大きな結界が作られた。それと同時に、永琳のマガイモノからは5人の姿が見えなくなった。

「それでいい……。3分でいい。時間を稼ぐことができれば……」

そう呟いた瞬間。

パリィン!!

「えっ!?」

ガラスがきれいに割れるように、張られた結界が割られたと同時に、鈴仙のマガイモノになっていた4本の矢が永琳のマガイモノの前に投げ込まれた。

「お前、この程度で時間稼ぎしようとしたのか?」
「……、理解が追い付かないわ……。いったい何があったというの……?」
「ほぉ? マガイモノって、てっきり記憶を共有できるもんだと思ってたけど、そういうわけでもないのか?」
「えっ……?」

永琳のマガイモノは、暗基が何を言っているのか最初はわからなかったが、少し考えると、思い当たる節があった。

「そういえば、吸血鬼の記憶から流れてきたアレって……」
「思い当たる節があったようだな。今のおれは、力を受けている相手の思いが強ければ強いほど、おれの力は強くなるんだ。ついでに言えば、おれは今、かつてないくらいブチ切れている。それもおれの力の一つだ。あの程度じゃあお前は、いや、お前らは勝てないよ?」

暗基が言っていたのは、レミリアのマガイモノに対して言ったことだった。あの時も、暗基の身体には咲夜の思いが身体をまとっていて、負ける気はせず、実際負けず。だったのだが、そのことを永琳のマガイモノは頭の片隅にすらも置いていなかったようだ。

「さて、どうする? まだあがく? 苦しみたい? それとも楽に逝きたい?」
「…………」
「沈黙は楽に逝きたいってとるよ?」
「……、もう、いいわよ。また一つ、情報を優理亜様や他の仲間に提供できるしね。お好きにどうぞ?」

そういった後、永琳のマガイモノは、何も言わなくなってしまった。

「そうかい。じゃ、楽かはわからねぇが、さっさとあの世送りにしてやるよ」

暗基は言うと同時に、両手を付けて、まるでか○○め波でも撃つかのような構えをとる。

「『超霊力』(ネオソウル)「『竜の咢』(りゅうのあぎと)」!!」

そう叫び、やはりか○め○波を撃つように腕を突き出した。すると、暗基の両腕から、竜の頭部をかたどったようなエネルギー弾が発射された。そしてその竜は、永琳のマガイモノに向かって一直線に飛んでいき、永琳のマガイモノを、噛み砕いた。


































「よーし封印終わりぃ……。あぁーつかれたぁ……」

永琳のマガイモノを倒し、封印を終わらせた暗基は、少し腑に落ちない表情でその場に座り込んだ。どうしてこう、あっさりと倒せてしまうんだろうか。それが気になって仕方がなかった。いくら自分の能力が対マガイモノに特化したものであるとしても、ここまで味気ないものとなると逆にがっかりしてしまうというのが、正直な気持ちであった。

「……、おれ、贅沢言っちまってるなぁ……、慢心だなぁこりゃあ」

ついこの前まで戦いというものを知らなかった人間がこんなことを思うのも大概だと自分でもわかっているため、暗基の口からこのセリフが出てしまった。

「まぁ、そんなことはまたあとで考えればいいか。つーかあれだ。座ってる場合じゃねぇ」

鈴仙のことを放っておいたままにしていたのを忘れていた暗基は、大急ぎで立ち上がって鈴仙の元に駆け寄る。

「おい鈴仙、大丈夫か?」
「う、うぅ……」

鈴仙はうめくだけで目を覚ます様子はない。とりあえず呼吸はあるようだった。

「よし、息はあるな……」

暗基は鈴仙がとりあえず生きていることを確認すると、何を思ったか、鈴仙の頬をペチペチとたたき始めた。

「……」
「……」

何も言わず、決して痛いわけでもなく、ただただペチペチペチペチと、無心で頬をたたき続けた。

「……ッ!」
(おっ、こいつ意識戻ったか、無視無視)

そのうち意識が回復し、なぜか自分の頬がペチペチとたたかれている状況に、だんだんといらだちをあらわにしてきた鈴仙だったが、暗基はそんなものは当然無視し、延々と叩き続けた。

「ッ!! しつこい!!! なんなのよもう!!!」
「うおっ」

それに耐えきれなくなった鈴仙は、怒りの表情をあらわにして、起き上がりながら暗基に対して弾幕を放った。暗基はすんでのところでそれをかわしたが、特に表情を変えることなく鈴仙に文句を言った。

「なにすんだよお前、怪我したらどう責任とるつもりだ?」
「私だって簡単なけがの治療くらいはできるわよ!! それよりも何なの!? なんで私のほっぺたペチペチするのよ!!?」
「おれなりに優しさを込めたお仕置きのつもりですが何か?」
「お仕置き!? あんたなんかにお仕置きされる覚えなんかないわよ!!」

鈴仙が覚えがないことを暗基に伝えたと同時に、

パァン!!

「!!?」
「あ、わるい手が出ちまった」

鈴仙を右手でビンタしていた。

「……、なにするのよあんた!!」
「お前、今のセリフ、おれたちが命蓮寺にいた時点での全員の前で言えるのか?」
「な、何のことよ?」
「置手紙のことを忘れたとは言わせねぇぞうさぎ」
「うっ、なぜあれをもう……? ていうかうさぎ言うな!」

鈴仙は明らかに顔を曇らせた。

「ほぉ、こんな状況でも突っ込みをいれるとは、プロだな」
「うっさい!」
「ははは、でも、あの置き手紙を読んだ慧音、殺気だけで殺されるかと思うくらいぶちギレてたぞ?」
「あぁ……、慧音先生にはいちばん読まれたくなかったのに……」
「……、ん?」

鈴仙は明らかに後悔しているようだった。だが、暗基の中で、その反応に違和感を感じた。

「ちょっと待てよ鈴仙。お前なんで読まれるのを嫌がってるんだ? 置き手紙は誰に読まれてもいいから置き手紙だろ?」

暗基は鈴仙が置き手紙を読まれることを嫌がったことに違和感を感じていたのだ。暗基の中では、置き手紙とはだれに読んでほしいという宛名こそ書いたりするかもしれないが、基本的にだれに読まれても構わない伝言を書くものだと思っていたため、違和感を感じていた。

「どういうことだよ?」
「あー、それなんだけど、ちょーっといいづらい事情があってというかー、なんというかー、あ、あはは……」
「ほぉ、聞かせてもらおうじゃないか」

鈴仙が冷や汗を垂らしながら乾いた笑いをするが、暗基はそれをとてもにこやかな顔で無視して、何があったのかを無理にでも聞き出そうとする。

「いやよ、言っちゃったら私殺されかねないもの」
「言え」
「いやよ」
「今言ってくれたらグーパンチ一発で済むぞ」
「それでもいや!!」

暗基と鈴仙が軽くもめているところに、

「もういいわようどんげ」
「っ!? 姫様!?」

輝夜がてゐとうさぎ少女に肩を借りながら歩いてきた。

「もういいわ。元々私が蒔いてしまった種だもの。私から説明するわ。実はあのとき、私たち3人で簡単なゲームをしていたのよ」
「簡単なゲーム?」

輝夜が説明を始めた。

「そう。で、その時に賭け事をしたの。私とてゐはどうでもいいことだったのだけど、うどんげはなぜか『私が買ったら永遠亭に行きましょう』とか言い出しちゃったのよ」
「それで運悪く鈴仙が勝っちまったというわけですか……。この時点でだいぶ鈴仙のこと殴り倒したくなってきたんだがいいかな」
「まだ待つウサ、まだ続きがあるんだウサ」

てゐが、鈴仙に殴りかかりそうな暗基をなだめながら、輝夜に続いて説明を始めた。

「そこまでだと鈴仙だけが悪者だったんだけど、鈴仙が勝ったら、なぜか姫様が悪ノリしだして、置き手紙を書こうってことになったんだウサ。で、黒い布もあったからどうせならそれを着ていこうってことになって、あとはあんたと先生が知るとおりウサ」
「そうか、つまり鈴仙だけじゃなくてみんな悪いからみんなを叱ってくれって解釈でいいのか?」
「そういうことよ。うどんげ、これでいいでしょう?」

輝夜とてゐは、鈴仙だけが悪者になることだけは避けるために、自分たちも同罪だと自分から発言した。

「……、本当なら死なない程度にボッコボコにしてやりたいところだが、まぁこれから、慧音の頭突きラッシュがお前らに襲い掛かるだろうしな、おれは我慢してやるよ。それより、永琳のこと結構放置状態にしてたけど大丈夫かな?」
「あっ、そうよ、こうやって話してる時間なんてなかった!! 師匠!! 大丈夫ですかー!!」

永琳のことを話した途端に鈴仙はみんなをそっちのけで永琳を探しに、マガイモノを吹き飛ばした部屋に向かった。

「せわしないやつだな」
「まったくだウサ。だけど、あいつがいるから私も安心していたずらできるウサ」
「……、ほどほどにな?」
「はいはい。さ、行きましょうか姫様」
「そうね、また頼むわ」

それに続いて、てゐ、輝夜、うさぎ少女も部屋に向かった。

「ここはあいつらに任せとけばいいだろう。さーて、入口にもどらなきゃな。チルノと小傘大丈夫かな……」

暗基は部屋から飛び出して、入口へと大急ぎで戻っていった。


























暗基が入口に戻ってきたとき、あたりは穴ボコだらけだった。その中に、ボロボロにって背中合わせに座り込んでいる小傘とチルノ、そしてすさまじい勢いで霊夢、魔理沙、咲夜、慧音、妹紅がへこみまくっているというとてもカオスな状態になっていた。

「小傘! チルノ! 大丈夫か!?」
「うぁ……、あにきだ……」
「ぜろ……、あたいもうたたかいたくない……」

小傘もチルノも、もはや満身創痍状態だった。それもそうだろう。最強クラスの人間3人と、不老不死とほぼ妖怪に死刑宣告された状況の中、たった2人でギリギリ持ちこたえたのだ。ボロボロになってしまったとはいえ、持ちこたえただけでも褒め称えるべきだと感じた。

「すげぇよお前ら!! あいつら相手に殺られなかったとか天才だな!」
「へへ、当たり前だよ、あにきを守るのは子分の仕事だからね……」
「やっぱりあたいってば、さいきょー……、なんだけどもうつかれた……」
「お疲れさん、ゆっくり休むといい」

と、ねぎらいの言葉をかけた後、暗基は多少警戒しながらへこんでいる奴らに声をかけてみる。

「おい、大丈夫かお前ら」
「うぅ……、もうお嫁にいけないぜ……」
「2回も同じ手に引っかかるなんて……」
「見ないで零……、今の私を見ないで……。恥ずかしすぎるわ……」
「おぉーだいぶメンタルやられちゃってますねこれは……」

魔理沙、霊夢、咲夜。三者三様の反応を見せてくれる中、慧音と妹紅が全く反応を示さなかった。

「あれ? おーい、慧音? 妹紅? 大丈夫かー?」
「うぅ……」
「ぐぅ……」
「あぁ、なんていうか、おつかれっす」

3人以上にメンタルブレイクされていた。

「生きていればきっといいことあるよ。うん」
「貴様ァ! 他人事と思って適当なことを言うなぁ!!」
「焼き殺すぞお前ェ!!」

暗基がぼそっと言った言葉が慧音と妹紅にはっきりと聞こえたようで、ギャグアニメなどによくある半月の形をした目をして二人が咆えた。

「おぉ慧音さん妹紅さん案外大丈夫だったんですね」
「うるさい!!」
「黙っとけ!!」
「おうおう落ち着け落ち着け。そんなことどうでもいいけどさ、覚えてるだろうから言ってみるけど慧音さ、なめてやればそれだけでってどういうこと?」
「ぐっ……!? そ、それは正直私が社会的に抹殺される……」
「そうかそれなら深くは聞かないことにしようかおれもなんかいやだ」
「そうしてくれると大変助かる」
「えっ、慧音お前……?」

と、よくわからない大人の(?)会話をしたところで、

「この状況はいったいなにがあったのよ……?」
「ん?」

永遠亭のほうから声が聞こえた。暗基が振り向くと、永遠亭の全員が、入口まで来ていた。

「あれ、感動の再開はもう楽しみ終わったのか?」
「えぇ、もう大丈夫よ。みんなから話は聞いたわ。ありがとう」

永琳が、鈴仙に肩を借りながら、暗基に礼を言った。

「なぁに、どうってことはないさ。これがおれのここでの仕事だ」
「それでも。本当に助かっているわ。お礼と、このお馬鹿たちのやったことのお詫びと言ってはあれだけど、まもなく朝になるし、朝食でもご馳走するわ」
「うぅ、師匠、頭をわしゃわしゃしないでくださいよー……」

永琳が、肩を借りながらも鈴仙の頭をわしゃわしゃと雑になでまくり、暗基たちに言った。するといままでうなだれていた霊夢と魔理沙が急に立ち上がり、あからさまに嬉しそうな顔をして叫んだ。

「ホント!?」
「私すっげー腹減ってたんだよー! いやー助かるぜー!」

そして叫びながらさっさと永遠亭の中に入っていった。

「ぼそっ……(はぁ、単純かつ強引だなお前らって)」
「何か言った?」
「なんか言ったかぜろ?」
(ナニィ!? きこえただと!!?)

暗基は聞こえないようにつぶやいたはずだったが、どうやらそれは聞こえていたようだった。

「いや、なんでもないよ。それより、おれも腹が減って仕方ないんだ。ご馳走になるよ」
「そか。ほら早く飯つくってくれよ! 腹が減ってもう動きたくねぇのぜ!」
「魔理沙、おちつきなさい、なまってるわよ?」
「ふふっ、さぁうどんげ、てゐ! 悪いけど朝食の用意をお願いね。私も手伝うわ」
「了解です!」
「了解だウサ」

永琳、鈴仙、てゐは朝食を作るために、永遠亭の中に引っ込んだ。輝夜は、妹紅のもとへと歩み寄った。

「妹紅」
「……、なんだよ?」
「そんなに怖い顔をしない」

あからさまに嫌そうな顔をした妹紅を軽くいなして、輝夜は話を続ける。

「一時休戦ということにしないかしら?」
「……、まぁそのほうがいいだろうなとは私も思ってたしな。事が事だしよ」
「あら、珍しく素直に私の提案を聞くのね?」
「わかってるだろうが、勘違いするな。あくまでこの異変が解決されるまでだ」
「もちろんよ。終わったらまたいつも通り。さぁ、朝ご飯食べましょう」
「そうだな」

そういうと輝夜は永遠亭の中へ入ろうと歩き始めた。妹紅はまだ嫌そうな顔をしてはいるが、輝夜について行った。

「さーて、おれたちも行くかね。ファンネル、そこでいろいろとカオスになってるそいつらを運ぶ手伝いをしてくれ」
「えっ、ちょっと待って零、担がないで! 恥ずかしいから!!」
「零!? ちょっ、やめてくれ! 担ぐな!! 歩けるから!!」
「うるせぇ黙って担がれてろ」

暗基はいつもの雑用ファンネルを展開し、咲夜、慧音を暗基が抱えて、いつの間にか気絶してしまっているチルノ、小傘をファンネルの拘束用レーザーを使用して運び、永遠亭の中に入っていった。





















第二部・永夜抄×星蓮船~人里の壊滅~     完 
 

 
後書き
すまねぇな、遅くなってしまってな。

次回からは、「第三部・風神録 ~二人の巫女の奇跡と幻想の力~」をお届けいたします。
とりあえずこのままだと暗基無双になっているしね。もっと頑張りたい霊夢ともう一人でした。
(救済措置じゃねぇぞ) 
 
ページ上へ戻る
ツイートする
 

感想を書く

この話の感想を書きましょう!




 
 
全て感想を見る:感想一覧