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豹頭王異伝

作者:fw187
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潮流
  ヨナの采配

「ギール殿、御役目御苦労。
 早速だが、伝言を聞こう」
 心話には慣れているが、グインは部下達に配慮し敢えて声を張った。
 ギールは国王に対する礼を捧げ、周囲の騎士達にも聞こえる様に魔道で音量を増幅。
 アルド・ナリス復活の希望に湧く神聖パロ、マルガからの使者が感謝の言葉を述べる。

「リンダ王妃・アドレアン公子を御救いいただき、パロ全国民が感謝しております。
 宰相ヴァレリウス以下神聖パロ一同、揃って御礼を申し上げます。
 エルファ・サラミス方面の首長達には宰相、王妃の名で貴軍に協力を要請致しました。
 私も豹頭王陛下の指揮下に入り、魔道の奇襲を警戒せよと命令を受けております。
 ケイロニア軍の邪魔にならぬ様、同行させていただく所存であります」

 心話を併用し詳細な戦況を報告する魔道師に頷き、グインは吼える様に笑った。
「大変、助かる。
 我々、ケイロニアの者は魔道に不慣れだからな。
 何よりの御申し出、有難く受けさせて頂く」

 魔道師は尋常な返答に平伏、ケイロニアの騎士達も緊張感が緩んだ。
 グインに同行した直属部隊、竜の歯部隊も魔道には疎く独特の異様な空気に慣れておらぬ。
 昨日も竜騎兵に襲われ、不安を掻き立てられている。
 豹頭王の周囲に控える者も昨晩は殆ど眠れず、かなり消耗していたのだ。

「寛大なる御返事、畏れ入ります。
 神聖パロ王アルド・ナリスは陛下の厚意により、治療中であります。
 本来であれば代理として、ヴァレリウス自ら御前に参る所でございますが。
 古代機械の警護を務め、キタイの竜王に備えております」

「その方が良いだろうな、俺も彼奴の出方は気になる。
 ヴァレリウスが詰めていてくれれば、リンダ王妃も安心だろう。
 我々も早急に合流地エルファ、サラミス街道を経由し神聖パロ本拠地マルガに向かう。
 ケイロニア軍が先行する心算だが現在只今の所、イシュトヴァーンは何処に居る?」

 竜の歯部隊1千は自ら鍛え上げた精鋭だが、ゴーラ軍3万の足止めは困難と言わざるを得ぬ。
 イシュトヴァーンが万一マルガに急行の場合、パロ北西の別動隊と合流する余裕は無い。
 以前ヴァレリウスが面会を求め現れた際、サンガラの最新状況を手土産と称し教えてくれた。
 竜の歯部隊も斥候は出し偵察を怠っておらぬが、残念ながら情報伝達能力は魔道師の方が優る。

「ゴーラ軍3万は激戦地ダーナム周辺の敵、ベック公軍を駆逐しました。
 クリスタルから派遣された聖騎士団の逆襲に備え、ダーナムに留まっておりますが。
 数日中に食糧の補充が困難となり、マルガに向かうと推測されます」
 イシュトヴァーンが逸早く動き、神聖パロ最大の拠点に直行するのではないか。
 アルド・ナリスにも劣らぬ冷徹な戦術家、口車の天才は最悪の事態を懸念していたが愁眉を開いた。

「後続部隊も直接エルファへ向かわせる故、魔道師の手配をお願い出来るかな。
 レムス側の魔道師に起因する怪異の有無、奇襲の気配を探っ頂けると助かる」
 ゼノンは魔道に疎く怪異を伴う奇襲への対処は無理、選帝侯ディモスに至っては元々軍人に非ず。
 トールも多少は慣れているが尋常な勝負は兎も角、魔道に対応する術は持ち合わせておらぬ。

「かしこまりました、下級魔道師が同行しておりますので御自由に御使いください。
 伝令の騎士様を閉じた空間で御運び申し上げ、別動隊の方々から御返事を頂戴して参ります。
 パロ魔道師軍団は陛下の恩義に報い、お役に立つ事が最優先任務と心得ております」
 烏《ガーガー》を思わせる黒衣の影、ギールの後方に魔道師の姿が現れ豹頭王に平伏。
 グインは鷹揚に頷き、ケイロニアの騎士達を動揺させぬ様に気を配る。

「魔道師の助力は何よりも有難い、宜しく頼む。
 ヴァレリウス殿には誠に申し訳無いが、ナリス殿の御帰還まで辛抱を願うと伝えてくれ」
「御配慮、かたじけなく存じます」
 グインは黒竜将軍トール、金犬将軍ゼノン、ワルスタット選帝侯ディモス宛の命令を口述。
 飛燕騎士団の鎧を纏う伝令が聞き取り、作成した書面に豹頭王の花押を捺す。
 下魔道師級ディノスが閉じた空間の術を起動させ、伝令の騎士と共に姿を消した。

 上級魔道師ギールは参謀長の護衛ロルカ、ディランに遠隔心話で状況を報告。
 グイン直率の親衛隊は総勢1千、竜の歯部隊と称し機動力に優れ最高級の精鋭を揃える。
 トール将軍の黒竜騎士団1万は傭兵主体だが、十二神将騎士団の中でも最強を争う野戦軍。
 ゼノン将軍の金犬騎士団1万も高い戦闘力を備え、ケイロニア出身者が主体で忠誠心は折り紙付き。

 後発部隊1万4千は、ワルスタット選帝侯ディモスが指揮。
 4千は一芸に秀で特殊能力を発揮する専門部隊、通常の兵1万は後輩援護を担当。
 金猿騎士団2千は飛び抜けた身の軽さ、敏捷性を身上とする忍者部隊。
 白象騎士団2千は雄渾な巨漢、幻の民ラゴンの如き豪腕怪力を誇る特殊部隊。
 公称は要害防衛用だが実際は、重量級の破城槌も軽々と操る攻城用部隊であるらしい。

 グインは聖王宮の武力制圧を視野に入れ、行軍速度の大幅に異なる両者の派遣を強行。
 ケイロニア軍は現状に満足する事無く、着々と兵制改革を進めている。
 十二騎士団も新たな時代の戦術に対応、特色に合わせ独自の編成を模索中。
 聖騎士侯ルナン以下、神聖パロ側の指揮官達は強い感銘を受けた。

 身も蓋も無く現状を認識する参謀長、ヨナ・ハンゼ博士も同様であるが。
 パロ兵は戦闘力に劣るが魔道師軍団の特殊技術、閉じた空間を最大限に活用。
 ケイロニア軍も飛燕騎士団1千が伝令として行動、緊密に連絡を取り合い互いの状況を確認。
 俊足を誇る飛燕の騎士達は情報収集の徹底を図り偵察、斥候の任務を兼ね各部隊を頻繁に循環。
 魔道絡みの奇襲攻撃を警戒、グインの指示通り怪異に即応する目的を明確に意識しているが。
 パロの魔道師達が操る移動時間短縮の切り札、閉じた空間の術には及ばぬ。

 ベック公軍と交代した約2万の新手、タラント軍は激戦地ダーナムに接近。
 イシュトヴァーンは聖騎士団の攻撃を一蹴、マルガへ向け次々に密使を走らせるが。
 ヴァラキア出身のヨナは嘗ての友、ゴーラ王の使者を拘束し返事を保留。
 遠隔心話の連絡網で各地の情報を迅速、的確に収集し直接グインに伝達。
 魔道師軍団の情報伝達速度を誇示し重要な戦力、役に立つ貴重な味方と認識を促す。

 ヨナは上級魔道師ロルカの部下、下級魔道師コームを盟友サラミス公爵の許に派遣。
 ケイロニア軍の参戦を伝え物資の調達、サラミス街道の移動に便宜を図る旨を要請。
 パロの民が敬愛する聖王家と平和の象徴、リンダの著名した書面は絶大な効果を発揮。
 サラミス公爵は直ちに食糧を集め、ケイロニア軍への協力を約束した。
 下級魔道師コームは遠隔心話で報告の後、エルファ市長の許に向け姿を消す。

 ダーナムの新生ゴーラ軍は約3万、ケイロニア軍は約2万5千だが遙か彼方の北西部を移動中。
 エルファを経て豹頭王は神聖パロ本拠に移動中、ゴーラ軍に先んじての到着は物理的に不可能。
 ヨナは睡眠から覚めた若き騎士、アドレアン公子に刻一刻と変化を遂げる状況を説明。
 ダーナムへ派遣した部隊は大半が負傷しており、マルガに残る兵は総勢1万を割る。

 イシュトヴァーンの裏切りを阻止し得る要の石、カラヴィア軍の参戦は最優先課題。
 約3万5千の軍勢が直ちに動き出せば、ゴーラ軍に先んじて当地に到着も可能と思われる。
 アルド・ナリスの要請に応えず、沈黙を守り続けた最高指揮官アドロンを動かす事は可能か?
 ヨナの率直な問いを受け、カラヴィア公子アドレアンは何故か顔を赤らめ表情を曇らせたが。
 何とも言い難い様子で逡巡の末、冴えない表情で口重く答えた。 
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