真田十勇士
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巻ノ三十五 越後へその七
「御主達は直江兼続殿を知っておるか」
「上杉家の執権の」
「景勝殿の片腕と言われる」
「北陸一の人という」
「あの方ですか」
「そうじゃ、越後にはその御仁もおられる」
兼続、彼もというのだ。
「その方にもお会いする」
「越後に入れば」
「景勝殿だけでなく」
「その直江殿にもですな」
「お会いしますな」
「どうもな」
幸村は少し微妙な顔も見せて言った。
「直江殿は拙者に興味があるとのこと」
「殿ですか」
「直江殿は興味がおありですか」
「そうなのですか」
「その様じゃ」
このことを話すのだった、十勇士達に。
「そう聞いておる」
「その上杉家の執権の方がですか」
「殿に興味がおありですか」
「そうなのですか」
「不思議に思っておる」
兼続が自分に興味があることをだ、幸村は実際にそう思っていた。その感情を顔に出して十勇士達に話した。
「何故拙者の様な者をとな」
「上杉家の執権ともあろう方が」
「越後と佐渡を治める上杉家の方が」
「殿にと」
「そうじゃ、上杉と真田を比べれば」
それこそというのだ。
「当家は小さいな」
「お言葉ですが」
「確かにそれは」
「上杉家は百二十万石です」
「佐渡の金山からかなりの富も得ています」
「しかし当家は十万石」
「金山もありませぬ」
十勇士達もそれぞれ幸村に答える。
「そう考えますと」
「やはりです」
「何故直江殿が殿に興味がおありか」
「わかりませぬな」
「所詮人質の一人に過ぎぬ」
幸村はこうも言った。
「それでどうしてなのか」
「ううむ、そう言われますと」
「確かにわかりませぬな」
「上杉家程の家の執権ともあろう方が」
「この様な小さな家から入る立場に」
「殿ご自身を見られるならともかく」
「拙者なぞな」
所詮はとだ、幸村は自身のことも言った。
「小さい者じゃが」
「いえ、殿ご自身はです」
「まさに天下の傑物」
「我等も今気付きました」
「殿を見られれば」
幸村自身をというのだ。
「それならばです」
「直江殿が殿に興味がおありなのも納得出来ます」
「これはもう家の格の話ではありませぬ」
「人の質の話ですな」
「そうなるか」
幸村は十勇士の言葉を聞き再び考える顔になって述べた。
「拙者を買って下さりか」
「そうではないかと」
「我等はそう思いまする」
「そうであれば嬉しいな」
素直に言った幸村だった。
「拙者を買って下さっているなら」
「いやいや、先の戦でのご活躍があります」
「若殿もそうですが」
「殿のご名声は天下に響いております」
「無論越後にも」
「だからか」
幸村は彼等のその言葉に頷いた。
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