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大統領 彼の地にて 斯く戦えり

作者:騎士猫
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第十一話 共闘

■ペルシャール・ミースト

あれから5分ほどたったようだ。
ようやく意識が戻ってきた。なんかテュカが”扉の前に誰かいると思わなかったの!?””弩ワーフだってコモノートだって気を付けるわっ!”と誰かに説教している。

「ん・・・」
「あらぁ?気づいたようねぇ」
俺が目を開けると視界いっぱいにロウリィの顔が映った。
「わぁああ!?」
俺は驚いて一気に飛び起きた。
「ここは・・・城門の中か・・?」
辺りを見回すと数人の甲冑を着た騎士と100人は軽くいるであろう民兵が俺たちを囲んでいた。
『隊長、送れっ。隊長っ、応答してください!』
無線機からおやっさんの声が聞こえた。直ぐに無線機をONにする。
「ミーストだ」
俺が答えるとおやっさんは安処したようにほっと溜息をついた。どうやらもう少しで突入するところだったらしい。危ない危ない。
「あー、状況を確認するから、そのまま待機していてくれ」
『了解』
通信が切れると、俺はもう一度辺りを見回した。
「んで、誰が説明してくれるのかな?」
俺が大声で尋ねると、民兵と騎士たちが一人の女性騎士に視線を集中させた。どうやら彼女がここの責任者らしい。
「お前たち!帝国第三皇女ピニャ・コ・ラーダ殿下に対し、非礼であろう!!」
「・・・え・・?」

・・・・・帝国の・・・第三皇女・・・?


「ここイタリカはテッサリア街道とアッピア街道の交点に位置する貿易上の重要な城塞都市だ。代々帝国貴族であるフォルマル伯爵家が治めてきたのだが先代が急死したために残された三姉妹の間で後継者争いが起きてしまった」
俺たちは今ピニャ皇女に案内されて伯爵邸の廊下を歩いている。その間暇だったのでピニャ皇女にイタリカについて説明してもらっているのだ。
「長女と次女は既に他家に嫁いでいたので、正統な後継者である末娘ミュイの後見人の座を巡って対立したのだ」
「どこの世界でもあるんだな。そういうの」
「ミースト、彼女の言っていることが分かるのか?」
「ああ、わからないところもあるが、大体は」
「頭打ったからかな・・・」
うちの国には所詮社長の後継ぎとかしかなかったが、数年前まで戦っていた君主制連合では貴族制度があるためたまにそういう情報がこちらにも流れてくるのだ。
○○男爵と◆◆男爵が△△伯爵に娘を嫁がせるために脅迫したり使用人を殺して威嚇したりして最終的には”嫁がせる娘がいなくなればいいんだ”と両方が考え両方の娘が事故で亡くなるという訳が分からない終焉を迎えたり、○○伯爵が亡くなったことをいいことに□□侯爵がその領地を丸々引き継いだりした。この世界にも貴族制度があるそうなので頭の痛い問題だ。加えて数百年にわたりこれで統治してきているのだからそう簡単に変えられはしないだろう。
「そこへ、帝国による異世界出兵が行われた。各家も当主が兵を率いて参戦することが求められた。しかし、誰も戻ってこなかった」
中世だから当主とか指揮官は最前線で戦う時代なんだよな。今だったら考えられないことだ。
「結果イタリカの治安は急激に悪化、今や町を守ることも困難な状況となっている」
ピニャ皇女が言い終わると、その場に立ち止まった。どうやら到着したようだ。
「この向こうにいらっしゃるのが、イタリカの現当主フォルマル伯爵皇女ミュイ殿だ」
ピニャ皇女は大きな木の扉を開けた。

「・・へ、あれが・・?」
部屋に入るとそこには脚もつかないような椅子に座り、こちらを見つめてくる少女の姿があった。
「確か、皇女は今年で11才だったはず」
レレイが説明を加えてくれた。11才、小学生が町を治めてるってことか。流石は中世といったところだな・・・。
「いかに当主と言えど、ミュイに軍を率いろというのは酷な話だ。それ故、妾が代わりに指揮を執っていると言う訳だ」
「なるほど」
とは言っても伯爵皇女が率いようが帝国皇女が率いようが、どっちもあんまり大差ないように思えるのは言わないほうがいいだろう。多分また後ろに控えているピニャ皇女の腹心が”比例であろう!”とか言うに違いない。


その後我々は客間に移動して会談を始めた。
要約すると「民兵ばっかりで頼りないからお前たちも加勢しろ」「一度落とされた南門の守備任せるからよろ」ということだった。随分偉そうに言ってきたが、こんな状況では龍の鱗なんか売れないので仕方なく加勢することにした。先ほど国の指導者をドアで攻撃し、先制攻撃を行ったことを口実に戦争をしてもよかったのだが、そうなるとレレイ達が龍の鱗を売れなくなってしまうので、やむを得ない。
というか全部龍の鱗が売れなくなることが理由な気がするのだが気のせいか・・。

『今日中に戻れないとはどういうことですか?』
「あー、その戦闘に巻き込まれちゃうようで・・」
俺はハイドリヒに「友達の家に泊まるから」的なノリで今日中に帰還できない事を伝えた。
『しかし、参考人招致はどういたしますか・・?』
「そこは適当に現地住民との接触が大変で戻れないとでも言っといてくれ」
『・・・わかりました』
「あー、あともう一つ頼みたいことがあるんだけど・・・」




「見えるか?」
「ええ、斥候のようですな。後方に本体も見えます。数は、五~六百ってところでしょうな」
「南門狙いだと思うか?」
「包囲するには兵力が少なすぎますからなぁ、崖のあるきたは除くとして残る三方のどこかに、戦力を集中させ一気に突破するつもりでしょう。しかし、それ以上に気になりますなぁ」
シェーンコップが双眼鏡から目を離した。ペルシャールも双眼鏡を石の上に置いた。
「そう、俺たちは囮だ。一度は突破された南門を守るのは我々15人のみ、ここを手薄に見せて敵を誘い込み奥の二次防衛線を決戦場にするつもりだろうよ。あの”素人姫さん”は」
「まぁそんなところでしょうな。しかし・・・」
「ああ、恐らく姫さんの思惑は外れる。彼らの装備からして先の戦いで流れた敗残兵の集まりだ。おれ達の強さはよく知っているはず。あえて守りの強い東西どちらかを攻撃するだろう」
ペルシャールは一旦言葉を止めた。
「ふふ、その時、姫さんはどう対応するかな?二次防衛線の部隊を回すか、南門の俺たちに助けを斯うか、久しぶりに楽しい戦いになりそうだね」
ペルシャールは不気味に笑った。
「閣下もそういう演技が好きですなぁ。まぁ私も久しぶりに戦えてうれしいですが」
シェーンコップもつられて笑った。それを第三偵察隊の隊員達は少し引きながら聞いていた。
「一応ここの指揮官はあの姫さんだ。大人しく命令に従っていよう。もし伯爵邸に敵が流れたとしても、指揮官から命令なしに勝手に動くことはできないからな」
ペルシャールはピニャに一つ貸しを作ろうと考えていた。
伯爵邸に盗賊が来るその直前に駆け付け、あたかも今助けに来たという風に見せてピニャに恩を着せようというのである。
「ああそうだ、篝火はいらないといっておいてくれ」
「了解」
ペルシャールは思い出したように桑原に言った。命令された桑原はいつもと違って少し顔が強張っていた。

「隊長、これ、暗視装置、です」
栗林がいつもと違って少し恐れるように声を震わせながらペルシャールに暗視装置を渡した。
「おお、ありがとう」
ペルシャールは笑顔で答えたが、栗林がそれを見てさらに下がってしまったため、ペルシャールは頭の上に?を浮かべるのだった。
「古田っ、突撃破砕線は城壁に沿うような形にしろ」
シェーンコップは次々と指示を出していく。

「ねぇミースト、どうして敵のはずの帝国の姫様を助けるの?」
城壁に寄りかかりながらロウリィが問うた。
「町の人を守るためさ」
ペルシャールは暗視装置をつけるのに悪戦苦闘していた。
「本当に言ってるの?
「そういうことになっているはずだが・・?」
ロウリィはすぐにそれが嘘だと気付いた。
「兜貸して、持ってあげる」
暗視装置を付けられないペルシャールに見かねたのかロウリィが手を貸した。
「理由が気になるか?」
暗視装置をつけながら聞いた。
「エムロイは戦いの神、人を殺めることを否定しないわ。でもそれだけに動機は重要なの」
「偽りや欺きは魂を汚すことになるのよ」
その言葉はペルシャールの心にグサリと刺さった。ついさっき嘘をついたばかりであったからである。
「ここの住民を守るため、これは嘘じゃない。けどもう一つある」
「へぇ~?」
「俺達と喧嘩するより仲良くした方が得だとあの姫さんに理解してもらう為さ」
「気に入ったわそれ!!」
ペルシャールの言葉に満足したのか、ロウリィの表情がいつにもまして明るくなった。
「恐怖!全身を貫く恐怖をあのお姫様の魂魄に刻み込むのね?ウフフッ」
「あ、いや・・・」
ロウリィはペルシャールの言葉を盛大に勘違いした。ペルシャールはピニャをこちら側につけて帝国の統治を少しでも楽にしようという考えで言ったのである。
「そういういうことなら是非協力させていただくわ。私も久々に狂えそうで楽しみ♪」
ロウリィはスカートをちょこんと手でつまむと、ペルシャールに向かってお辞儀した。

「違うんだけどな・・・」
ペルシャールの言葉はロウリィには届くことはなさそうだった。
 
 

 
後書き
ペルシャールはあんまりピニャと仲良くなろうとかは思っていません。
ただ帝国統治するときに役立つかも?程度の存在です(今は←ここ重要
23話では結局ピニャ殿下おいてかれましたね・・・
帝国第三皇女とか自衛隊的には最優先で保護すべき重要人物だと思うんですが・・・
陸相とか政府も一応ピニャ殿下とお話ししてるんですがね、忘れられてる?まさか、ねぇ・・?
もう一度自衛隊が来るとしたらピニャを何かしらの交渉道具に使いそうですね。日本外交官ガンバレ(トオイメ


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