大統領 彼の地にて 斯く戦えり
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第十話 我イタリカに到着ス
「おやっさん、イタリカまで後どのぐらいだ?」
水筒に入った紅茶を口にしたペルシャールはふたを閉めながら聞いた。
「あと30分ぐらいかと」
桑原は地図をにらみながら答えた。
「隊長、あれ」
運転していた倉田が指をさしながら言った。
「煙、か?倉田、この道煙の発生源の近くを通るか?」
「というより、発生源に向かっているような。」
それを聞いたペルシャールは”煙を見るのは2回目だな”と思いつつため息を吐いた。
「あれは、煙。」
双眼鏡で煙を見たレレイが言った。
「理由はわかるか?」
「人のした何か。かぎ、でも大きすぎる」
「鍵・・?」
「鍵じゃなくてかじだ。」
ペルシャールがレレイの間違いを修正した。
「かじ」
「まあ引き換えるわけにも行かないからなぁ。全車警戒を厳にしつつ前進するぞ。」
ペルシャールは後ろに乗っているレレイ達を見つつ通信機で指示を出した。
「ん?なんだロウリィ」
「んふふふふっ♪血の匂い」
ロウリィは一舐めすると嬉しそうに言った。ペルシャールは厄介なことに巻き込まれそうだな、と頭を掻いた。
・・・・・・・・・・・・・・・・
「突撃ぃ!!」
「城壁に取り付けぇえ!!」
「城壁に取り付かせるなっ!なんとしてでも食い止めるんだ!!」
帝国有数の穀倉地帯であるイタリカ、いまここには二千にも達する盗賊の襲撃に遭っていた。
城壁に取り付かせまいと弓矢を放ち、それを討とうと盗賊の弓兵が城壁を狙う。
当初簡単に落ちると思われていた城壁が思った以上に強固なものだと知った盗賊側は、無駄な犠牲を出す前に撤退した。
城壁の上で指揮を執っていたのはアルヌス偵察の任を受けた帝国第三皇女ピニャであった。
ピニャはイタリカが武装集団による襲撃を受けているとの報を聞き、それがロンディバルト軍だと思い込んでイタリカの救援に来ていたのである。しかし実際は先の丘での戦いの敗残兵であったことを知ったピニャは、ここまで来て止めるわけにもいかず、仕方なくイタリカ防衛の指揮を執っているのであった。
盗賊が逃げ出していくのを確認したピニャは振り返って自分の部下の安否を確認した。
「な、何とか生きてま~す!」
ハミルトンとノーマは柵に寄りかかりながら返事した。
「薄情ですなぁ。小官の心配はしてくださらんのですな、姫様」
階段を下りているピニャに大剣を担いだグレイがピニャに近づいた。
「貴様は無事に決まってるだろう、グレイ」
それを聞いたグレイはがはは大声を出した。
ピニャはハミルトンとともに伯爵邸に向かった。
道中にはイタリカの住民から募った民兵隊が疲れ果てて座り込んでいた。
厳しい訓練を受けた正規兵と大した訓練も受けていない民兵では戦力に差がありすぎた。
何とか1度目は防いだものの、すでに士気は瓦解寸前まで落ち込んでいた。それでも保っていられるのは自分たちがここで逃げ出したら後ろにいる自分たちの家族に危害が加わるということがわかっているからであろう。
とはいえ帝国から救援が来たと思ったらわけのわからぬ偉そうな皇女とその部下であったことがさらに民兵たちの士気を下げていた。
ピニャは伯爵邸に着くと簡単な食事を摂って客間で横になった。
「きゃっ!?」
突然の出来事にピニャは思わずかわいらしい声を出した。ピニャが目を開けるとそこにはバケツを手にしたメイド長とグレイがいた。
「どうしたっ敵か!?」
「分かりませぬ。はたして敵か味方か・・・とにかく身繕いをされてお越し下さい」
そういわれたピニャは急いで濡れた体を拭き、装備を身に着けると南門に向かった。
そこにはハミルトンがのぞき窓で外を確認していた。
そこから見えたのはロンディバルト軍の18式兵員輸送車、IFV、16式高機動車であった。
当然そんな物知らないピニャは困惑した。
「な、なんだあれは・・?」
「も、木工車ですかねっ?」
「いや・・・あれは鉄だ」
ピニャはその外見から鉄であると判断した。
「何者か!?敵でないなら姿を見せよ!!」
城壁の上にいるノーマが問い詰めた。
■ペルシャール・ミースト
警戒を厳にして何とかイタリカまでたどり着いたが、どうやら戦闘が行われていたようだった。城壁の周囲には矢が刺さったり体が真っ二つになった死体がごろごろ転がっている。
「完全に警戒されてますなぁ。どういたしますか?」
銃の手入れをしていたシェーンコップが城壁にいる兵士を見ながら言った。
「見た感じ帝国兵のようだな」
「しかし民兵も混ざっているようですなぁ。住民から募ったのでしょう。」
俺は双眼鏡で確認した。確かに城壁には明らかに正規兵でない者が剣や弓を構えている。最初のプランではイタリカの近くまで行ってそこからはレレイ達3人に変装させたシェーンコップを護衛につけて町に行かせるつもりだったのだが、こうも警戒されてはこのプランは破綻したといっていい。さてどうしたものか・・・。
正直めんどくさいので軍隊連れてきて武力制圧しちゃいたいな。人心掌握作戦が破綻するけど。
「シェーンコップ中将、ちょっとついてきてくれ」
「わかりました」
結局レレイ達を連れて平和的行くことにした。おやっさん達には待機命令を出して俺は城門へ近づいた。
城門に着くと、俺はデザートイーグルを右手にかまえて恐る恐る木の扉を叩いた。シェーンコップもライフルを構えている。
しかし数分しても一向に出てくる気配がない。
「何か悪巧みでもしているのかもしれませんなぁ。もう少し待ちますか?」
「戦闘の直後だ。警戒してるんだろう。」
「まぁたしかにそうでs「よく来てくれたっ!!」!?」
念のためにもう一度扉を叩こうとすると、いきなり扉が開かれ俺の頭に直撃したようだ。
意識が・・遠くなって、いく・・・。
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