大統領 彼の地にて 斯く戦えり
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第七話 炎龍襲来
「キャァアアー!!」
「たすけてくれぇええ!」
突如ア炎龍の襲撃を受けた村人たちは混乱状態に陥った。馬車は焼かれ、何とか馬車を捨てて逃げ出した村人は踏み潰されるか炎龍につかまって捕食された。
「怪獣を倒すのは自衛隊じゃなかったのかっ!?」
「んなこと言ってる暇あったら手を動かせ!全車射撃開始っ!」
IFVの30mm機関砲が炎龍に毎分250発の弾丸を発射するが、強固な鱗に弾かれ、有効打とはなっていなかった。
「構うなっ、撃ち続けろ!」
シェーンコップは見時からも車両から身を乗り出して応戦していた。
そんな中ペルシャールはじっくり炎龍を観察していたが、炎龍に異変があることに気づいた。
「なぁ、シェーンコップ中将、炎龍の口に何やら火の粉が見えるのだが・・・?」
「火の粉?なっ、ブレス来るぞ!回避!!」
ペルシャールの言葉に瞬時に反応したシェーンコップはすぐに回避指示を出した。
その直後炎龍が仕返しとばかりにブレスを吐きだした。
「あの炎食らったら終わりっすよっ!!」
ブレスを受けた地面がすぐに融解し始めたのを見て倉田が叫んだ。
『IFVの30mmも効きません!50mmグレネードも有効打にはならずっ!』
「まるで戦車みたいなやつですな。」
撃ち続けながらシェーンコップが言った。
「あぁ、まったくだね。」
それにペルシャールが答える。
そんな中横になっていたエルフの少女が目を覚ました。
横に座って会話していたペルシャールは突然のことに驚いたが、それを声に出す前にエルフの少女が何やら伝え始めた。
「・・・目・・?あっ!」
目を指差して訴えたことが功を奏したのか、ペルシャールは少女が言いたいことを理解して炎龍を見た。
「シェーンコップ中将、目だ。目をねらえっ。」
「・・なるほど、了解っ!」
シェーンコップはすぐに通信機で各車両に伝達した。
「全車奴の目をねらえ!奴が怯んだ隙にロケット弾をお見舞いしろっ!」
『了解!!』
シェーンコップの指示に、隊員達が一斉に炎龍の目に攻撃を集中させた。
その甲斐があってか炎龍は両手で顔を隠して動きが止まった。
「今だ!ロケット弾っ!」
シェーンコップがそれを見て叫ぶ。
「おっと、後方の安全確認っと。」
ロケット弾を構えた勝本は基礎訓練時の癖でのんきに後方確認を行っていた。実際は車両に乗りながらなので確認してもあまり意味はないのだが、癖である以上仕方がないものであった。
隊員達が”早く撃て”と突っ込む中、勝本がようやくロケット弾を発射した。
しかし、悪路のせいで起動がずれていた。
外れると思ったその時、ロウリィがいきなり輸送車の上に飛び上がってハルバートを炎龍に向かって投げた。
ハルバートが炎龍の足元に刺さったかと思うとレールガンでも当たったように電気が地面を走り、直後爆発を起こした。それによって炎龍は体勢を崩し、外れるかと思ったロケット弾は炎龍の左腕に命中し腕ごと吹き飛ばした。
炎龍は痛みのあまり叫ぶように声を上げるとふらつきながら飛び去って行った。
「・・・終わったんすかね・・?」
「ああ、多分な。」
ペルシャールは後部扉から降りて逃げ出していく炎龍の後ろ姿と大惨事となったキャラバンを見ていた。
炎龍撃退後の夜、第三偵察隊とコダ村の人々は、近場にあった丘に炎龍の犠牲者となった150名余りを埋葬して黙祷を捧げていた。
そんな中、涙を何とかこらえている1人の少女がペルシャールの視界に入った。
ペルシャールは黙って少女に近づくと手を頭に乗せて撫でた。少女は我慢していた涙を一気に流した。
炎龍の撃退には成功したものの、コダ村の4分の1に当たる150人余りんぽ犠牲者を出してしまったことを第三偵察隊の隊員達は悔やんでいた。もう少し対応が早ければ、自分たちがもっと強かったら、と。
黙祷が終わると、生き残った村人たちは近隣の身内や周辺の町に避難するため、早々に出発した。そんな中いつもは男っぽい性格の栗林が涙を流したが、ペルシャールは黙って手を振り続けた。これ以上何かすると嫌われちゃうかもという考えがペルシャールの頭をよぎったからでもあったが・・・。
「身内と言ったって、大丈夫なのかねぇ・・?」
「まぁそれよりもあれが一番の問題ですな。」
シェーンコップは十数人の子供や怪我人、老人の方に目を向けた。
「まぁいいさ。保護ということで全員連れて行こう。」
「隊長ならそうおっしゃると思っていました。」
いつの間にか後ろにいた黒川が嬉しそうに言った。
「やっぱり俺、人道的だろ?」
ペルシャールはニっとした表情で黒川に言うと、全員に乗車命令を出した。
・・・・・・・・・・・・
「閣下、これはどういうことでしょうか?」
「えっと、まずはその後ろにいる怖い人たちを下げてくれるかな?お話ししようじゃないか。そうすればきっと分かり合えるはずだ。」
アルヌスへと帰還したペルシャールに待っていたのはハイドリヒによるお話という名の尋問であった。1国の大統領がその部下に拘束され、尋問されるなど前代未聞であるが、彼の護衛隊長であるシェーンコップを同行させている辺りハイドリヒ唯一の良心が働いているようであった。
30分後、何とかハイドリヒの説得に成功したペルシャールは工兵部隊の司令部を訪れていた。
「はぁ、避難民の住居ですか。」
「あぁそうだ。出来そうか?」
「アルヌスの工事はあらかた終了しておりますので問題はありません。今日からでも取り掛かれますが?」
「ではよろしく頼む。」
ハイドリヒの説得には成功したが、避難民の管理についてはそのすべてをペルシャールは押しつけられることとなった。自分で連れてきたのだから自業自得というものである。
「次は、避難民の食事の確保か・・・。とりあえず兵站課に行って缶詰確保してくればいいかな。」
疲れ果てて今にも倒れそうなペルシャールを兵士たちは何度も目撃していたが、誰一人手伝おうとはしなかった。これは先のハイドリヒのお話の後、すぐに副司令官の名で全部隊に”避難民の管理はその一切を大統領一人が負うことになったので手助けはしないように”という通達がされていたからであった。
「しかし、本当に大統領一人に任せるおつもりなのですか?」
ペルシャールが出て行った後、副司令官室では柳田が書類を整理しながら上官のハイドリヒに問いかけた。柳田は武装親衛隊の情報課であり、特地派遣部隊での情報管理の任に当たっている。
「・・・」
しかしハイドリヒは終始無言であった。柳田はこれはだめだなと思い書類をまとめるとそそくさと部屋を出て行った。
「・・・、大量の資源と土地、そして人か。」
ハイドリヒは手にある報告書を見て呟いた。
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