過ぎ去ったもの
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第四章
「やはり」
「うむ、あの者達によってだ」
「我々は敗れました」
「見たこともない兵達だ」
ラムセスはあらためて彼等のことを話した。
「馬にそのまま乗るとはな」
「そのうえで弓矢や剣を使う」
「まさにです」
「見たこともない者達です」
「あの者達は一体」
「わからぬ、しかしあの者達のことはだ」
絶対にとだ、ラムセスは言った。
「ファラオにお伝えせねばな」
「この街の守りを固め」
「そのうえで」
「残った兵達で街を守る」
壁に包まれたこの街をというのだ。
「私は都に戻りだ」
「このことをですか」
「ご自身で、ですか」
「ファラオにお伝えする」
こう言ってだ、実際にだった。
ラムセスは副将に留守を任せ決して出陣して戦うことなく街を守る様に厳命してだった。そのうえでだった。
戦車を走らせ都に戻りファラオにこのことを伝えた。勝利を確信していたファラオも大臣達も彼の言葉にだった。
目を大きく見開いて仰天してだ、そのうえで彼に問うた。
「まことか」
「はい、まことです」
「あの軍勢が敗れたのか」
「申し訳ありませぬ」
「そして今は街に入ってか」
「守りを固めております」
「あの街を失うことはだ」
このことについてもだ、ファラオは言った。
「どうしようもない事態だったが」
「それはです」
「防いでいるな」
「はい、守りを固めて」
「それは不幸中の幸いだった、しかし」
「アッシリア軍にです」
ファラオの前に畏まってだ、ラムセスはファラオに答えた。
「彼等の馬にそのまま人が乗る兵達に敗れました」
「そなたが話したか」
「その者達にです」
「そうしたことをするとはな」
ファラオも言うのだった。
「馬は轢かせるものではないのか」
「それがです」
「自ら乗ってか」
「戦って来たのです」
「信じられぬことだ」
ファラオもエジプトの常識から言った。
「馬の背に乗ること自体が足が届かぬしだ」
「例え乗りましても」
「馬は速い」
「それで風も受けますので」
「落ちるものだが」
「その者達はです」
決してというのだ。
「落ちず駆けたまま弓矢や剣を使って攻めてきたのです」
「そうするとはな」
「それで恐ろしいまでに強かったのです」
「そして軍が破られたのだな」
「そうです」
「わかった、ではだ」
「私めに罰を」
「よい」
ファラオは処罰を求めるラムセスにはだ、こう返した。
「聞く限りそなたに責はない」
「だからですか」
「そうだ、それにそなたは嘘を言う者ではない」
彼のその武人らしい誠実な人柄も知っていての言葉だ。
「ならばだ」
「お許し頂けるのですか」
「その見たこともない馬に乗って戦う者達に負けたのだ」
だからだというのだ。
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