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宇宙へ

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第三章

「苦労した」
「私の解放について」
「そうだ、君がいないとVー2ロケットは完成しない」
 このことを言うのだった。
「それjは私もわかっている、だが」
「それでもだったのですか」
「君の罪状は国家反逆罪だ」
 ナチス政権下では問われたならば死を覚悟する罪状だ。
「それに問われたのだからな」
「私が月に人を送ろうとしていることが」
「そうなるのだ、今我々は戦争をしているのだからな」
「まずは、ですか」
「戦争に全力を尽くすことだからな」
 ヒトラーは博士をその異常なまでに鋭い光を放つ目で見つつ話した。博士から観ても彼の顔はチョビ髭がなければその目のせいで異様に恐ろしい顔だ。
「そこでだ」
「私の発言は、ですか」
「夢物語、そしてだ」
「ドイツに歯向かうものになるのですね」
「長官はそう認識している」
 ヒムラー、彼はというのだ。
「だからなのだ」
「私は逮捕されたのですね」
「長官、ゲシュタポ自体に私が言った」
 総統でありドイツの全権を握るヒトラー自身がというのだ。これならばもう誰も逆らえない筈であった。だが。 
 そのヒトラーがだ、こう言うのだった。
「しかしその私でもだ」
「総統閣下でも」
「苦労した」
 博士の解放にはというのだ。
「それも相当にな」
「そうだったのですか」
「だからだ」
「次は、ですか」
「ないと思うことだ」
 こう博士に忠告するのだった。
「長官はまだ君を警戒しているしな」
「では」
「慎み給え」
 ヒトラーは彼にさらに忠告した。
「いいな」
「わかりました、ですが」
「人を月に送ることはか」
「私は必ず果たします」
 ヒトラーにも言うのだった。
「絶対に」
「そう言うか」
「命のある限り」
「私は君の考えには言わない」
「それは何故でしょうか」
「君のロケット技術が我が国の役に立つからだ」
 ドイツの、というのだ。
「確かにナチズムの宇宙への考えとは違うがな」
「それでもですか」
「君は私の政策にも反対していない、あえて言えば」
 その鋭い目でだ、ヒトラーは博士を見据えつつ言った。
「君は政治には興味がないな」
「正直に申し上げますと」
 ヒトラーにそのことを見抜かれていると察してだ、博士は正直に言うことにした。ここで自分が彼に殺されることはないことをこの場でのやり取りから察したこともあって。
「私はまず、です」
「科学だな」
「科学者です」
 それ故にとだ、ヒトラーに確かな声で告げたのだった。
「ですから」
「それでだな」
「はい、科学に興味があります」
「そういうことだな」
「他のことにはです」
「わかった、それならいい」
 科学に専念しているのならというのだ。 
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