ハーメニア
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五人目のハーメニア-後編-
『それじゃね、マコトくん』
……ここは?夢のなかか?
『✕✕はもうかえってこないの?』
『わかんない。アメリカっていうところにいくんだって』
これって確か、幼稚園の頃に記憶か。目の前に立っているのはガキの頃の俺で、その前に立っているのは……誰だったけか。もう覚えていない。顔を確認しよようとするが丁度靄がかかっていて、確認することができない。
『でもね、わたしぜったいかえってくるから。まってて』
『やくそくだかなね。まってくからな』
そうして世界が光に包まれ始める。
「……何だったんだ、あれ」
気が付くと、俺は目をさましていて。時計の針は七時を指している、どうやら朝を迎えたようだ。それにしても、なんであんな夢を見たのだろうか、昨日はいろいろと疲れていたからなんだろうか。
「なんだっけなぁ、あの子の名前。思い出せない……」
幼稚園からの思い出ってことなら少なくとも、マキよりも昔の友達ってことになるが。
「あ~、やっぱり思い出せん!」
朝からモヤモヤした気分になってしまった……。
AM8:00
「それって明晰夢ってやつですね」
朝の登校時間、今日の朝の夢のことをマキとゆかりに話す。
「明晰夢って何?」
「簡単に言うと、『あ、これ夢だ』って夢のなかで分かる夢のことです」
「名前は聞いたことあるな。でもなんでそんなもんを」
「疲れてたんじゃない?私も疲れてる時夢よく見るし」
そう言われると、昨日は本当に疲れたからな。ミクとの特訓で身体のいたるところを蹴られ、叩かれ……、思い出すだけでキツくなってきた。ゆかりも同じだったのか、また目が死んでる……
「にしてもそんな話聞いたことないなぁ。てか、私より前にそんな子がいるとか少し嫉妬するんだけど」
「いや、別にいいだろう。それにさっき言っただろ、覚えてないんだって」
変なところで対抗心燃やしおって。
AM8:30
教室につくと、なんだか教室の中が騒がしかった。何があったんだろうか。
「おはようございます」
「おっはよ~。みんなどうしたの?」
マキとゆかり女子の輪の中の会話に入っていく。
「詠月ー。こっち来いよ~」
荷物を席に置くと、クラスの後ろでたむろっていた男子の集団に呼ばれた。うち何人かは血走った目なんだが、一体あそこで何が行われてるんだ。見ないふりをする。しかし、背中に無言の圧力を感じる。これはいかなければ何をされるかわからんな、行くか。
席を立ち、男子の輪に入っていく
「何だ何だ、朝っぱらから元気だなお前ら」
「そりゃそうにきまってんだろ!実はすごいニュースを聞いてな」
「なにか分かるか?」
知らんがな。
「それはな、なんと!また転校生が来るんだ!」
「「えぇええええええええぇえぇ!?」」
女子の輪から叫び声が聞こえた。多分だけど、あっちも同じ話で、それに驚いたマキ達が叫んだんだろうな。
「で、この学年じゃないんだろ?何年だ?」
「二年だとさ。ま、それもすごいことだけどさ。もっとすごいのはな」
男子(俺以外)がなんか知らんが、鼻息が荒くなってきた。
「その子は女の子で、しかもすっっっっっっっっっごく可愛いらしい!」
『うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!』
うるせぇ!すっごくうるせぇ!あまりの雄叫びに教室が揺れてるぞ、おい。
「というわけだ野郎ども!二年の教室にいくぞぉ!」
『おぉぉおおおおぉぉぉおお!』
男子が群れを成して扉に向かう。つかもう男子ってよりは完全に獣じゃんかよ……。先頭の男子が扉に手をかける。が、その前に何故か扉が開いた。
「お前ら、朝から元気だなぁ」
その扉の先にいたのは。笑顔の水無瀬先生が立っていた。笑顔は笑顔でも、よくある黒い笑顔というやつだ。そしてその右手には竹刀……。
「み、水無瀬先生。いや、その、やっぱり男の子は元気じゃないとね。はは、はは……」
「お前らぁ!全員そこに座りやがれ!一から色々と教え込んでやらァ!」
こうして、朝のSHRは男子の説教で潰れたのだ。てかさ、なんで突入してない俺まで怒られてるん?なんでなん?
AM9:45
「マコトさんマコトさん」
一時限目が終わり、飲み物を買いに行こうと教室を出ると、ゆかりが追いかけてきた。
「おう、ゆかりも飲み物買いに行くのか?」
「それもありますが、少し話したいことが」
ゆかりと並んで歩く。
「実はお父さんから聞いたんですが、この街に何人かハーメニアがやって来たらしいです」
「ま、マジか!?もしかして、それってミクの?」
「それは分からないです。ハーメニアかどうか確認する方法はありませんからね……」
ん?ならなんで親父やミクは俺のことがハーメニアだってわかったんだ?
「お父さんたちは独自の研究だとかなんとか。ミクちゃんの方はどうやったか知りませんが」
「だったらどうやって確認するんだ?」
「ん~、どうするんでしょう。私もよくわからないです」
まぁ、もしミクの元仲間だったならどちらにしろ俺たちの誰かにちょっかいを出してくるだろう。
「それよりも、二年生の転校生ってどんな子なんだろうな」
「私も気になりますね。昼休みにでも見に行ってみましょうか」
AM12:30
教室に昼休みを告げるチャイムが鳴り響く。
「マコト~、ゆかりちゃん。ミクちゃん迎えに行こ~」
マキが手をぶんぶん回しながらやって来た。
「そうですね、行きましょうか」
「転校生の子も見に行って、隙を見て連れ去って、一緒にごはんを食べよう!」
連れ去るって言う意味あったか?
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「たのもー!ミクちゃんいる?」
マキの登場に色めきだつ。昼休みだからひとが多いのもあるが、やっぱりマキが有名人の一人だということを再認識させられる。
「あ、皆さん。と言うよりも、マコトさん!ちょっとこっちに!」
ミクが俺を掴むと、そのまま教室の外に連れて行く。一体何だ何だ。
「マコトさん、転校生に会いましたか?」
「転校生?いや、まだだけど……」
「だったら今すぐ逃げて!早く!」
ミクが切迫した表情で言った。これはもしかして、転校生が俺の命を狙ってる奴だったのか。くそっ、迂闊だった。もし、マキたちのところにその転校生が行っていたら!
「マキ達が危ないかもしれない!行くぞミク!」
「えっ!?ちょっと、マコトさん!」
急いでマキ達のもとに向かう。姿が見え始める。しかし、そこにいたのはマキとゆかり、そして初めて見る少女……
「マキ、ゆかり!その子から離れろっ!」
「?何いってんのマコト」
「あ、マコトさん。この子があなたの……」
二人の前に立つ。やっぱりそうだ、この子は初めて見る子だ。いや、二年生の生徒は全員知らないが、この子の制服はうちの学校の物とは違う。そのおかげで件の転校生ということが分かる。
「お前……」
「ま……マコト?」
その子が口を開く。やっぱり、俺の名前を知っていて、尚且つ俺を探しているということは、嫌な予感が的中してしまったのか。
「やっぱり、俺達を狙って」
「何……言ってるの?もしかして、約束……忘れちゃった?」
悲しそうな表情をする目の前の女の子。約束?俺の記憶には、こんな女の子知らないんだが……
「必ず帰ってくるって……。待ってるって言ったのに……」
必ず帰ってくる?待ってる?
その時、俺の頭のなかに朝見た夢がフラッシュバックした。
『それじゃね、マコトくん』
『✕✕はもうかえってこないの?』
『わかんない。アメリカっていうところにいくんだって』
『でもね、わたしぜったいかえってくるから。まってて』
『やくそくだかなね。まってるからな』
!思い出した。夢のなかでは少女の顔に靄がかかっていたが、今ならはっきりと思い出せる。淡いピンク色の髪、なんで今まで忘れていたのか不思議なくらいだ。
「もしかして……IAなのか?」
「うんっ。やっと思い出してくれたんだね、マコト」
IAが嬉しそうに抱きついてくる。ちょっ、こんなところで何を!?
「マコト?」
「「マコトさん?」」
後ろからマキにゆかり、それにミクまで!事情を話したいが、何この力!振りほどけないんだけど!
「お話を、聞かせてもらいましょうか」
ああ、これは終わったな……
PM12:45
「ってことは、その子が夢のなかの子?」
「ああ、なんで今まで忘れてたんだろ」
「IAって……いいます。名前が特殊なのは……少し事情があって……」
なんとかみんなを宥めつつ、屋上にやって来た。IAを加えた五人でご飯を食べる。
「事情?」
「孤児院……出身なの。だから……マザーがつけてくれたの……」
「そうなんですか。IAって、いい響きですね」
「そう?ありがとう……嬉しい」
嬉しそうに髪の毛の先をくるくる弄るIA。孤児院か、初めてあった時も学校の交流イベントの時だったな。
「それとね……。これは三人にしか関係ないけども」
ゆかり、ミク、俺の順番で見回すIA。
「「「?」」」
「私、ハーメニアだから……そこのところ、よろしく」
え?
「「「ええええええええええええええええええ!?」」」
続く
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