ハーメニア
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特訓
AM8:30
「おはようございます」
「あ、ゆかちゃん。おはよ~」
教室に入ると、ゆかりの周りに数人のクラスメイトが集まってきた。その数や、マキに負けないレベルのものじゃないか。すごいな。
「さて、とりあえず今のところはおかしなところはないか……」
ミクが言っていた通り、もしかしたらまだ俺達を狙っている奴らが襲撃してくるかもしれない。そしてここは学校だ。もしこんなところで襲撃を受けたら、ひとたまりもないだろう。いつまでも着物男を頼っている訳にはいかない。そうなると、やるべきことは一つか……
「おいおい、どうした詠月。また考え事か?」
「先生。いや、なんでもない。そういやマキ、今日は休みだってさ」
「ああ、聞いてるぞ。新作は楽しみだな」
そういや先生もjamバンドのファンだったな。
「今回は俺もあんまり話聞けてないからなぁ。どんなのかは……お?」
携帯が震えた。先生に断りを入れて、携帯を取り出す。どうやらメールが届いたようだ。届け人は、ミク?
『おはようございます。今日の昼休み、ゆかりさんと一緒に体育会裏に来てください。お願いします』
何かあるのだろうか。とりあえずゆかりに伝えておくか。メールを読んでいる間に先生は他の生徒のところに移動していた。席を立ち上がり、ゆかりのもとに向かう。
「ゆかり、少し良いか?」
「あ、マコトさん。どうしました?」
話しかけると、他の子と話していたゆかりがこちらを向いた。
「さっきミクから連絡があってさ、昼休みに体育館裏に来てくれって」
「わかりました」
そう言って友達との会話に戻る。うん、まぁ、そりゃそれだけだったが。すぐにそっぽを向かれると、来るものがあるな。とりあえずは伝えたい事は伝えたので、席に戻る。すると、偶然ゆかりたちの話が聞こえてきた。
「ゆかちゃん、いつの間にか、詠月くんのこと名前で呼んでるね」
「詠月くんもゆかり、って呼んでたし」
「えっ!?そ、それは……その。この前学校案内をしてもらってから色々ありまして、それからですね」
それを聞いて周りが騒がしくなる。このままじゃ俺に矛先が向いてしまう。そうなる前に夢の世界へ退避することにしよう。
PM12:30
昼休みがやって来た。クラスの何人かは既に食堂や売店へ向かって教室を後にしている。俺達も、ミクに言われた通り、体育館裏を目指し、教室を後にした。
PM12:35
「あ、マコトさんにゆかりさん。御呼び立てして申し訳ありません」
体育館裏につくと、ミクは俺達よりも先に到着していた。
「それはいいけど、どうした?」
「今日はお話があってお呼びしました。その前に一つ、謝らせてください」
そう言うと、ミクは深々と謝りだした。
「昨日は本当にすみませんでした!わたし……」
「まだ謝るんですか?」
ゆかりがミクの言葉を遮った。それを聞いてミクは驚いたように、ビクッと身体を竦ませた。ものすごくドスの利いた声だったが……。
「別に、こうやって俺も生きてて、お前も無事なんだし。それでいいじゃんか。それよりも、俺にはまだしなきゃいけないことがあるんだ」
昨日からずっと考えていた。俺には戦う力がある、だったらこれを使わないわけにはいかない。これから襲ってくる敵が全員、ミクの時のように分かり合えるという保証はない。そして、もしかするとマキや学校のみんなを巻き込む可能性だってあるんだ。
「ミク、俺に戦い方を教えてくれ」
しっかりと自分の意思を口にする。
「マ、マコトさん!?」
「本気……なんですか?」
ゆかりが驚き、ミクが真剣な顔で尋ねる。本気かどうか問われたら、それは当然本気に決まっているだろう。
「もしかすると命を落とす可能性だってある。それでも?」
更にミクが問う。命を落とす……か。
「ああ。自分の命や友達くらい、自分で守りたいし、いつまでも誰かに頼りっぱなしなんて嫌なんだ」
「マコトさん……。だったら私も戦います。二人なら、昨日みたいになんでもできるでしょうし」
ゆかりが笑いかけて来た。
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不思議とそんな気がしてくる。ミクはそれを見て観念したように溜息を吐き、口を開いた。
「分かりました。本当はもう、お二人には戦ってほしくなかったんですが」
「ということは……」
「戦い方、教えます。でも、私は厳しいですからね!しっかり付いてきてくださいよ!」
胸を張りながらミクが言った。俺とゆかりは顔を見合わせ、答えた
「ああ!」
「はいっ!」
PM18:00
学校が終わり、俺たち三人は再び体育館裏に集まっていた。
「さて、まずはステージの張り方からやってみましょう」
ミクが言った。腕を前に突き出し、目を閉じて精神を集中させている。すると、彼女の手から音波が放たれたのが確認できた。そしてそれは俺たちの周りに円を描き、半透明のステージを形成していく。昨日みたものと全く同じものが、俺たちの目の前に現れた。
「作り方はいたってシンプル。自分が張りたいステージの大きさを想像するだけです。なんら難しいことではないので、すぐにできるようになると思いますよ」
指を鳴らし、ステージを解除する。とはいわれてもなぁ、まず俺は音の使い方から習わなきゃなんだが。と、隣でゆかりが手を前に突き出した。
「綺麗な音……」
ミクが呟いた。ミクの時と同じように、ゆかりの手から音が発現する。それはあの時感じたものと同じで、静かだが暖かさと、どこか凛としたものだった。そして、その音は円を描き、ステージを作り出す。しかし、それはミクのものとは違い、完全な透明なものであった。
「あれ?なんか私のステージ、おかしくないですか?」
「いえ、コレが本当のステージなんです。純度の高いものならば、ステージの中の時を外の世界と完全に分離させることができるんです。曇っているほどステージの純度は下がり、透明なほど純度が高いんです」
また少しファンタジー入ってきたな。今更驚きはしないが、やっぱり現実離れしてるよな。
「マコトさん、私すごいでしょう」
ゆかりがすごいドヤ顔でこっちを見てきた。確かにすごいけども、なんかそのドヤ顔はムカつくからやめてくれ。
「マコトさんは……」
「やめとく。俺はコレ以上のもの作れる気しないしな」
「そうでしょうそうでしょう。もっと褒めて良いんですよ♪」
「アー、スゴイネスゴイネー」
適当にあしらうと、少しいじけたように頬を膨らますゆかり。
「では、次ですが。響器の発現をやってみましょうか。コレも簡単、自分の音を手に集め、こいっ!でも、来てっ!でもいいのでなにか言いましょう。そうすれば発現するはずです」
大雑把だな、おい。
「とりあえずやってみましょうか。……きてください!」
ゆかりが叫ぶと、彼女の手には昨晩見た、彼女の性格からは想像もつかない物々しいチェーンソーが握られていた。
「うう、やっぱりコレですか……。もう少し可愛いのが良かったです」
「私は良いと思いますよ!だって、それで敵をバッタバッタとなぎ倒すんですよ?まるでゾンビ映画の主人公じゃないですか!?」
それを聞いてさらにゆかりが凹んだ。そりゃそうだ、フォローの方向が違うぞ、ミクさんや。そんなことよりも、俺もやってみるか。音を手に集めるようにして……
「よしっ!こい!」
………………あれ?
「出ませんね」
「マコトさん、ちゃんとやってます?」
ミクとゆかりが尋ねる。
「やってるよ!なんでだろ」
もう一回やってみるが、やっぱり出てこない。
「もしかして、マコトさん。昨日どうやって響器をだしました?」
「昨日はゆかりと手を繋いでだけど……」
「ならもう一回手を繋いで、やってみてください」
なんとぉ!また手をつなぐだと?
「はい、マコトさん」
普通に手を差し伸べてきやがった……。まぁ、もう一回繋いじゃってるから別にいいか。ゆかりの手をとる。
「こい!」
もう一度呼び出す。すると、先ほどとは違い、手に音が集まるのがわかる。そして次の瞬間、俺の手には『紲月歌』が握られていた。
「あれ、なんでだ?」
「もしかしてですけど、それって、マコトさんの響器じゃないんじゃないんですか?」
?。どういうことだ?だったらこれは、誰の……
「まさか、これはゆかりの?」
「そう考えるのが妥当ですね。まさか、こんなことが起こるなんて」
「う~ん、こんな事例初めてですね。ということは……」
俺一人で戦うのが無理ってことか?えっ、まじかよ。
「ま、とりあえずは出せましたし。一旦戦ってみますか」
ミクが剣を構える。
「では、ゆかりさんが完璧なステージを作ってくれて時間もありますし、地獄の特訓を始めますか♪」
悪い笑みを浮かべるミク。これ……本当に大丈夫なのか?
続く
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