FAIRY TAIL~水の滅竜魔導士~
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はぐれそうな“天使”を救え
前書き
ナインハルトの魔法で具現化されたかつての敵ってどういう基準で選ばれたのだろうか?
もっとも強かった敵?でもウルはグレイとリオンにとって敵というわけじゃないし、メルディにとってもザンクロウは敵じゃないし・・・
死んだ人の中で関わりが関わりが深かった人物?でもエゼルなんかウェンディにそこまでの影響はあるのだろうか・・・
そもそもあれは敵だけに作用する魔法なのかな?もうナインハルトに味方いないから確認しようがないけどね。
「・・・」
ある日の朝、ギルドにつくと真っ先にある人物が目に留まり、俺は固まっていた。
「おう、シリル。今日は早いな」
「そうですか?」
俺にそう声をかけたのは上着を脱ぎ捨てた氷の魔導士。いつもより早く目が覚めたこともあり、ほんの少しではあるがギルドに早くやって来たのだ。そのため、ギルドにはまだウェンディもルーシィさんたちも来ていない。
「グレイさん・・・どうしたんですか?」
ただ、今はそんなことはどうでもいい。それ以上に気になることがあるからだ。
「あぁ。これのことか?」
そう言って彼は腕に大切そうに抱えている赤ん坊を俺に見せてくる。赤ん坊は口が寂しいのか、親指を窶食わえてチュパチュパと吸っている。
「拾ったんだ」
「えぇぇぇ!?」
グレイさんの言葉に驚いて叫ぶ。一瞬ジュビアさんとの子供なのかとも思ったが、普通に考えてそれはないよな。だってもしそうだったら、色々と問題が起こるだろうし。
「どこで拾ったんですか?」
彼が抱えている赤ん坊に視線を落としながら問いかける。こんな赤ん坊を拾うってこと自体明らかにおかしい気もするが、まずは事情を把握しないといけないだろう。
「仕事からの帰り道にたまたま通った牧場の干し草の上に捨てられてたのを見つけてな。近くに野鳥がいて襲われそうだったから、とりあえず連れてきたんだ」
なるほど・・・それにしてもこんな小さな子供を捨てるなんて・・・いや、待てよ?
「その牧場の子供ってことはないんですか?」
仕事の際にできるだけ近くに置いておきたい。だから干し草の上に置いていた何てことはないのだろうか?
「俺も確認はしてみたんだが違うって言われてな」
グレイさんも同じことを考えてたらしく、確認はしてきたみたいだ。ただ、その予想は外れていたそうだ。
「なんでそんなところに捨てられてたんでしょうか?」
「さぁな」
あえて牧場なんかに捨てる意味がわからない。でも置いてたわけじゃないとなるとそれしか選択肢がないわけだし・・・
「じーっ」
頭を悩ませていると、赤ん坊がこちらをじっと見つめていることに気付く。そのつぶらな瞳を見ていると、考えていたものがすべて吹き飛んでいくような気がした。
「だ・・・抱っこしてみてもいいですか?」
「あぁ」
グレイさんの腕から俺の元へとそっと渡される赤ん坊。落とさないように慎重に彼女を抱き抱える。
「あーうー」
すると、赤ん坊は俺の胸の中へとぎゅっと寄り添ってくる。こ・・・これは・・・
「ヤバイ・・・超かわいい」
グレイさんが抱っこしている時はなんだかボーッとしているように見えたけど、いざ抱えてみるとすごく甘えん坊なように感じる。その可愛らしい仕草や表情は、まさしく“天使”と言っていいだろう。
「俺もウェンディとこんな赤ちゃんが欲しいなぁ」
ゆりかごみたいに体を揺らしながらそんなことを考えている俺。いつかウェンディと結婚したら、こんな風に子供を授かる日が来るのかな?
「シリルにずいぶんなついてるみたいだな」
「年齢が近いからですかね?」
グレイさんが赤ちゃんに人差し指を向けてみる。すると、彼女は機嫌がいいのか、まだまだ小さなお手々でそれを握りしめている。
「「「「おはよう(ございます)」」」」
グレイさんと一緒に子供をあやしていると、入り口の方からウェンディたちの声がしたのでそちらを向く。そこにはウェンディと一緒にフェアリーヒルズに住んでいるシャルルとセシリー、それにジュビアさんとエルザさんと、偶然途中であったのか、ルーシィさんもいた。
「おう。来たか。待ってたぞ」
「おはようございます、皆さん」
赤ちゃんを抱えたまま挨拶を返す俺たち。しかし、彼女たちは俺とグレイさんを見た瞬間、固まっていた。
「なんだ?あの赤ん坊は・・・」
エルザさんがボソッと俺が抱えている小さな小さな女の子を見て不審そうな目をしている。どうやら彼女たちが黙っていたのは、この赤ちゃんか原因のようだ。無理もない。俺も最初は全く同じ反応をしていたのだから。
「シリルとグレイが抱えてるってことは・・・」
「まさか二人の子供では・・・」
「あっ!!ダメよエルザ!!」
すると、エルザさんとルーシィさんが妙なことを口走り始めた。
「ちょっと!!この子は―――」
明らかに勘違いしている二人に事情を説明しようとする。しかし、彼女たちの後ろではもっとすごい反応をしている少女たちがいたので、思わず言葉を飲み込んでしまう。
「グレイ様が・・・シリルと・・・」
「シリルが・・・グレイさんとの子供を・・・」
顔を真っ青にして涙目になっているジュビアさんとウェンディ。二人はエルザさんたちと同じような勘違いをしているようで、呼吸困難に陥っていた。
「ウェンディ!!これは違う!!違うから!!」
苦しそうに息をしているウェンディ。このままでは死んでしまうと思った俺が誤解を解こうと歩み寄る。しかし、少女は俺の腕の中にいるものを見て、涙目から大号泣へと変化していた。
「シリルがグレイさんと~!!」
「グレイ様がシリルとあんなことを!!」
第三者side
ある日、グレイに誘われるがままにシリルが彼の家へと遊びにいく。
「入れよ、シリル」
「お邪魔しま~す」
グレイが扉を開けシリルを招き入れる。靴を脱いで家の中へと入っていくシリル。すると突然、グレイが後ろから彼を抱き締める。
「ひゃっ!!ちょっ!?グレイさん!?」
訳がわからずに慌てているシリル。そんな彼の様子などお構い無しに、グレイは少年の細く、小さな体を押し倒す。
「シリル・・・男の家に入るってことは、こういうことになってもいいってことだよな?」
「な・・・何を言ってるんd――――」
目の前の黒髪の青年が何を言っているのか理解できない水竜。文句を言おうと口を開くと、グレイがそれを黙らせるかのように唇を合わせてくる。
「~~~!!」
バタバタと抵抗するシリル。しかし、上に乗っている青年の方が力があり、逃れることができない。しばらくすると、青年のそれが、シリルのく唇からゆっくりと離れていく。
「なぁシリル・・・今日だけでいいんだ・・・俺と・・・一つになってくれないか?」
求めるような、寂しげな瞳をした彼を見て、ドキッとしたシリル。彼は目を反らせながら、口を開く。
「俺・・・ウェンディがいるんですけど・・・」
「俺だってジュビアがいるさ。でも・・・今日だけは・・・お前が欲しいんだ」
耳元で囁かれたシリルは一瞬体を震わせる。青年の目はウソを言っているようなものではない。紛れもなく本心だと彼はすぐに感じ取った。
「ん・・・」
目を閉じ、唇を軽く尖らせる水髪の少年。それを見た氷の魔導士は、肯定と受け取りそっと唇を重ね合わせる。
青年の舌が少年の口に入り込み、彼のそれの絡み合う。一度間をおこうと口の中から舌を抜いた青年は、下になっている少年をじっと見つめる。
「きょ・・・今日だけですからね/////」
顔を反らし、頬を赤らめながらそう言うシリルを見て、ますます気持ちが高ぶってきたグレイ。彼はその場で、少年の服の中へと手を忍ばせていった。
シリルside
「「きゃあああああ!!」」
床を水浸しにしながは発狂する二人の少女。何がどうしてこうなった!?
「落ち着けジュビア!!」
「ジュビア・・・もう生きていけない・・・」
テンションの起伏が激しすぎる水の魔導士。隣にいる天竜は泣きっぱなしだし、本当に話を一度聞いてくれ!!
「この子はグレイさんが拾ってきたの!!」
「俺たちの子供なんかじゃねぇ!!」
「「え?」」
冷静に説明することは困難だと判断した俺たちは、意識が遠退きそうになっている二人に聞こえるように声を張り上げる。それを聞いた彼女たちは、徐々にではあるが、落ち着いて状況を聞ける状態へと戻っていく。
「どういうこと?」
「実はな・・・」
先程俺にした説明と同じことを繰り返すグレイさん。それを聞いたウェンディたちは、すぐに納得してくれた。
「なんだ・・・二人の子供ではなかったのか」
「ジュビアは信じてました!!グレイ様!!」
「本気で心配してたのあんたたちだけだから」
なぜか残念そうにしているエルザさん。先程まで泣いていたジュビアさんは、今度は嬉し泣きを浮かべながら笑顔になっている。
「よかった・・・てっきりシリルがグレイさんの子供を産んじゃったのかと思ったよ」
「おい!!」
ホッと胸を撫で下ろしているウェンディ。だが彼女の台詞がいかんせん納得できない。男同士で子供ができるわけないだろうが!!
「で、私たちを待っていた・・・とは?」
「ああ。それなんだが・・・」
赤ちゃんを抱えて、グレイさんが彼女たちにいった言葉の意味を質問するエルザさん。
「手の空いたナツとハッピーが今親を探してるんだが、俺たちも親探しに回るから、その間、その子の世話を頼みたい」
今はギルドの皆さんお仕事に行っているようでほとんど人が残っていない。辛うじて残っていたナツさんがこの子の両親を探しているらしいので、手分けして探した方が効率がいいから、俺ら男勢はそちらに回り、女性陣にこの子のお守りを任せようという考えらしい。
「えぇ!?あたしたちが!?」
「ああ。子供の世話は経験がなくてな」
驚愕しているルーシィさんにグレイさんがそう答える。それもあるけど、何となく女子の方がこういうのは得意なのではないかと思っている節があるので、任せようと思ったのだ。
「いや・・・母親じゃあるまいし、問題でも起こったらどうするのよ?」
しかし、ルーシィさんは自信がないらしく、かなり困惑していた。
「任せてくださいグレイ様!!」
「安心してお母さんたちを探してきてね、シリル!!」
「ちょっと!!」
ルーシィさんとは真逆でやる気満々といった様子のジュビアさんとウェンディ。なぜ彼女たちがこんなにやる気があるのかわからないルーシィさんは、安易に引き受けるべきではないと彼女たちにいう。
「グレイ様に家庭的なところをアピールする良いチャンスです!!」
「私も!!シリルに良いところを見せたいです!!」
グレイさんと俺にいいところを見せようと考え、頑張ろうとしているジュビアさんとウェンディ。その脇ではエルザさんもやる気満々らしく、赤ちゃんを高い高いしていた。
「なんとかなりそうだな」
「ウェンディ!!その子のこと、お願いね」
「うん!!任せて!!」
「行ってらっしゃい!!」
大丈夫そうなのを確認したグレイさんと俺は、この子の親を探すためにと街へと繰り出していく。
「んじゃ、俺はこっちを探してみるぜ」
「じゃあ俺は向こうを探してきます」
別々の方向へと別れて探すことにした俺たち。さてさて、手当たり次第に赤ちゃんを探すとしますか。
ウェンディside
「頑張りましょうね!!ジュビアさん!!」
「はい!!グレイ様たちに、いいところを見せましょう!!」
シリルとグレイさんがギルドから出ていったのを見送った私たち。なんだか仕事に出掛けるパパを見送ったみたいで、少しドキドキしますね。
「しょうがない。やるしかないか」
さっきまで赤ちゃんのお世話に最後まで反対していたルーシィさんも、ここまで来たらやるしかないと覚悟を決めたみたいです。それにしても・・・
「じーっ」
エルザさんの胸の中で静かに周りを見回している赤ちゃん。その純粋無垢な瞳は、見てるだけで癒されてきます。
「す・・・少し抱いてみてもいいですか?」
「慎重にな」
あまりの可愛らしさに我慢できなくなった私は、エルザさんから赤ちゃんをそっと受け取り抱き抱えてみます。首が座ってないから、無理な姿勢にならないように気を付けて・・・
「ふふっ。可愛いです」
ギュッと彼女を抱き締める。しかし、私が抱き抱えると、突然赤ちゃんが泣き出してしまいました。
「わぁっ!!泣き始めました!!」
「いきなりどうしたんだろ!?」
さっきまで静かにじっとしていたはずの女の子。それなのに、今はそれがウソかのように泣いています。どうしたのかな?
「あたしが抱いてみるね」
原因が何なのか突き止めるために、ルーシィさんに赤ちゃんを渡します。すると、さっきまで大泣きしていたはずの赤ちゃんが、泣き止みました。
「あっ・・・泣き止んだ。抱き方の問題かな?」
どうやらお腹が空いたり、おトイレに行きたかったわけではなく、私の抱き方が悪かったみたいです。
「も・・・もう一回・・・」
原因がわかったところで改めてチャレンジしてみます。でも、ルーシィさんから私に移った途端、赤ちゃんは泣き出してしまいました。
「ま・・・また!?」
ルーシィさんと同じように抱いているはずなのに、私の時は全然泣き止んでくれません。なぜなんでしょうか?
「今度はジュビアがやってみます」
それを見ていたジュビアさんが赤ちゃんを抱いてみます。
「あれ!?泣き止みました!!」
すると、私から彼女の腕の中に移動した赤ちゃんは、ルーシィさんの時と同じように静かになります。その時、私はあるところに気付きました。
「これは・・・」
赤ちゃんはジュビアさんのふくよかな胸に顔を埋めて気持ち良さそうにしています。つまり・・・
「抱き方というよりも、抱かれ心地の問題かな・・・」
お胸の差だったということです・・・私はショックのあまり、顔を手で覆いさめざめと泣いています。まさかこんなところでもお胸の差が出てしまうなんて・・・
「え!?ど・・・どうしたんだろ!?」
私が悲しんでいると、ルーシィさんが慌てたような声を出します。気になったのでそちらに視線を向けると、赤ちゃんが彼女の胸にお口を押し当てているのが目に入りました。
「お腹が空いたんじゃないのか?ここは母乳だ、ルーシィ」
「きゃあああああ!!」
どうやらお腹が空いた様子の赤ちゃん。それを見てエルザさんはルーシィさんの服を捲り上げます。それによりルーシィさんの下着が露になってしまいました。
「赤ん坊も女の子だし、恥ずかしがることはない」
「てか・・・そもそも出ないわよ!!」
母乳は子供を産まないと出ないと聞いたことがあります。ルーシィさんの子供というわけではないので、さすがに厳しいと思います。
「何もわかってませんね。子供にはハンバーグです!!」
「まだ歯も生えてませんよ!?」
フォークにハンバーグを差したジュビアさんが赤ちゃんのお口にそれを入れようとするのをなんとか止めます。いくらなんでも赤ちゃんにハンバーグは早すぎです。なので、この場合は何を食べさせるべきなのか、本で調べてみることにしました。
「えっと・・・ミルクを温めるといいらしいです」
「私が買ってくるわ」
「僕もいく~!!」
赤ちゃんが飲めるミルクを買い出しに飛び立っていくシャルルとセシリー。その後は私たちは大変バタバタしていました。
赤ちゃんの敏感肌に影響が出ないようにと柔らか生地の布を用意したり、咳を始めたので換気をしたり、わずか20分ほどの時間しか経っていなかったのに、皆さんもうヘロヘロです。
「つ・・・疲れる・・・精神的に・・・」
「やはり私たちだけじゃ無理だったみたいです」
「他の方に任せた方が・・・」
引き受けた手前、言い出しにくかったのですが、私たちのようなお守りの初心者には早かったような気がします。なので、他の専門の方に任せようと考えたのですが、一人だけそれに反対の人がいました。
「弱音を吐くな。この時間だとギルドどころか街中が仕事で忙しい」
エルザさんの言う通り、今は稼ぎ時なだけあって街中で皆さん仕事に取り掛かっているのが声などでわかります。でも、私たちだけで大丈夫なのかな?
「私たちが諦めれば、この子の未来を奪うことになるんだぞ!!」
エルザさんのその言葉を聞いた時、私たちは何を弱気になっていたんだろうと思いました。
「ミルク買ってきたわ!!」
「売ってたの全種類買ってきたよ~!!」
ちょうどそのタイミングで帰ってきたシャルルとセシリー。二人とも、大急ぎで帰ってきたみたいで、汗ビッショリだね。
「そうだね。負担とか責任とか考えてる場合じゃないよね」
「はい!!頑張りましょう!!」
今赤ちゃんの面倒を見れるのは私たちだけ。だったら、この子のためにも全力で頑張らないとダメだよね!!
「ミルクをお願い!!シャルル!!セシリー!!」
「出来るだけ体温に近く温めるんだ!!」
「え?ええ・・・」
「りょ・・・了解~」
ミルクを買ってきてくれた二人に指示を出す私とエルザさん。彼女たちはいきなりテンションが上がった私たちを見て驚いていたけど、すぐにカウンターに入っていき温め始める。
「ビエー!!」
「ま・・・また泣き始めました!!」
「今度は何!?」
「ジュビアが見ます!!」
またしても泣き出してしまった赤ちゃん。私たちはそれに対応した後、ミルクを飲ませ、彼女をお風呂へと入れるためにギルドに新しく出来た大浴場へと向かっていきました。
シリルside
子供のお父さんたちを探して早くも一時間ほどが経過している。それなのに、俺は全く手掛かりを掴めないでいた。
「これは難しそうだなぁ・・・」
人探しとは違って目印になるものがないというのはかなり辛い。あのくらいの子供がいそうな人たちに手当たり次第に声をかけているけど、すべて外れているし彼女を探している人の情報も得られない。
「子供を探している親はいるか!?」
「いるかー!?」
近くの人に声をかけていると、ナツさんとハッピーの声が聞こえてきたのでそちらを振り返る。
「子供の親はどこだ!?いるなら出てこい!!」
彼はそう言うと、近くの屋台のテーブルの下を覗き込む。それを見た周りの人たちはクスクスと笑っており、なんだか俺も恥ずかしくなってきた。
「ナツさん!!何してるんですか!?」
周りの視線を気にしながらおかしな行動を取っているナツさんとハッピーに歩み寄る。
「おお!!シリル。そっちは見つかったか!?」
「見つかってませんけど・・・」
「そっか。こっちもさっぱりなんだよなぁ」
困ったように頭をかきむしるナツさん。むしろそんなところに親がいると思ってたんですか!?もっと頭を使ってください!!
「まじめに探してもらっていいですか?」
「??俺は最初から真面目だぞ?」
思わず苦笑いを浮かべる。この人バトルの時はすごく頼りになるのに、こういうのはからっきしダメなんだよね。天は二物を与えずというし、諦めるしかないか。
「街の人に聞いてくださいね!!テーブルの下を探すとかじゃなくて!!」
「なるほど!!その手があったか!!」
ナツさんとこれ以上話しているのも何だったので、離れ際にそう言いながらまた探していない方へと向かう俺。後ろで手をポンッと叩いている人がいたけど、もう突っ込まないぞ。俺は突っ込まない。
「どこにいんだ?子供の親は」
すると、目の前にさっきのナツさんと同じように、お店のテーブルの下を覗き込んでいる上半身裸の男の人がいた。
「グレイさんまで何やってるですか!?」
突っ込まないようにと決めていたのに、もう止めることができなかった。だっておかしいじゃん?二人揃って同じことしてるなんてさ。
どうやらまじめに探していたのは俺だけだったようで、二人はいるはずのないところを見て回っていただけだったようだ。そりゃあいくら探しても見つからないわけですよね。
「シリル!!」
呆れながら親探しへと戻っていると、こちらにかけてくるウェンディが目にはいる。
「あれ?赤ちゃんは?」
赤ちゃんのお守りをしているはずのウェンディがここにいるってことは、もしかしてと思い質問してみる。
「私たちもあの子のお母さんを探すことにしたの」
どうやら俺たちがなかなか見つけられないから、ウェンディたちも親探しに来てくれたらしい。なんだか申し訳ない気分です・・・
なので、二人でしばらく回ってみることにしたのだが、それでもなかなか見つからない。なんでこんなに見つからないのかな?
「どうだった?」
ウェンディがルーシィさんたちと合流する場所を決めていたらしく、俺もそこについて行ってみることにした。そこにはちょうどジュビアさんやエルザさんもやって来たところだったらしく、それぞれが聞き込みした情報を交換しあう。だが、誰一人として手掛かりを見つけることが出来ていなかった。
「あーうー」
「大丈夫。心配しないで。絶対パパとママと会わせてあげるから」
ルーシィさんの腕の中にいる女の子に諭すように彼女がそう言う。すると赤ちゃんの体が、大きな鳥によって持ち上げられていることに気が付いた。
「へっ!?」
「クエ?」
完全に気配を消していたために鳥が接近していることに気付かなかった俺たち。赤ちゃんを掴んだ鳥は、バレた途端に大急ぎでその場から離れていく。
「きゃっ!?」
「ちょっと!!」
「待て!!」
赤ちゃんを拐われた俺たちは黒い鳥を追いかけ始める。
「何なんですか!?あの大きな鳥は!!」
「空に上がる前に捕まえるんだ!!」
「了解です!!」
運よく鳥はまだ空へは飛び上がっていない。空に飛び立たれたら何も出来ないから、捕まえるには今しかない。そう考えた俺とエルザさんは一気に加速して鳥との距離を詰める。
(よし!!)
(届く!!)
飛び上がる直前に手が届く距離にまでたどり着くことが出来た。しかし、伸ばした手に別の黒い鳥がやって来て弾かれてしまう。
「うわぁ!?」
「なんだ!?」
気が付くと、目の前にはかなりの数の鳥の群れが迫ってきており、怯んでしまう。その隙に、赤ちゃんを掴んだ鳥を先頭に空へと飛び上がっていった。
「何!?あの鳥の群れは・・・」
「しまった!?上空に・・・」
もう手が届かない位置まで上っている鳥の群れ。ジュビアさんの話だと、奴等はどうやら集団で行動して人間の貴重品を盗むのが得意な魔鳥らしい。俺たちが大切に抱えてたから、赤ちゃんを貴重品と勘違いしたってことなのか?
「くっ・・・あの高さだと捕獲できん!!」
「だったら」
飛び上がった鳥を見て空へと向かっていく一つの影。
「もっと高いところから奪い取るまでです!!」
「ぐぇぇっ!!」
シャルルに持ち上げられたウェンディが、天竜の砕牙を鳥へと放ち、赤ちゃんを奪還する。
「ウェンディ!!」
「ナイス!!」
「よくやった。だが・・・」
赤ちゃんを奪い取ったことで他の魔鳥たちに囲まれているウェンディ。あの子を抱えたままだと戦えない。だったら・・・
「セシリー!!」
「おっけ~!!」
セシリーにつかんでもらって空へと飛び上がり、ウェンディの前へとやって来る。それを見た魔鳥たちは一瞬驚いた顔をしている。
「アクアドライブ」
全身に水色のオーラを纏わせ魔力を高める。それを見た魔鳥たちは怯えながら、その場から慌てて去っていく。
「あの魔鳥たち堅実~」
「勝てないとわかったらすぐ諦めるのね」
ゆっくりと地上に降りながら後ろの猫二匹がそう言う。戦ってもなんとか出来たと思うけど、赤ちゃんが近くにいたからこれでよかったんだ。その狙いもあったしね。
「ありがとね、シリル」
「ううん。当然のことだよ」
屈託のない笑顔でお礼を言うウェンディ。彼女のおかげでセシリーを使って選択肢が思い付いたから、彼女のおかげでもあるんだ。完全にあいつのこと忘れてたから。
「エルザ!!」
エルザさんを呼ぶ聞き覚えのある声。俺たちはそちらに視線を向ける。
「ミラか、どうした」
そこにはミラさんが片手に依頼書を持ちながらこちらにやって来ていた。
「緊急の依頼書が届いてね、みんなを探してたの」
そういって彼女がその依頼書を俺たちに見せてくる。そこには【鳥にさらわれた我が子をどうか見つけてください!!】と書いてあり、子供の写真が載っていた。
「「「「「あぁ!!この子の!!」」」」
その写真の子は今ウェンディが抱えている女の子だったのだ。
「あら、その子とそっくりね」
「「「「「やったぁ!!」」」」」
探していた親が見つかって大喜びの俺たち。心配しているであろう両親にすぐさま連絡をいれ、ギルドに迎えに来てもらうことにした。
「「見つけてくださってありがとうございました!!」」
涙ながらに頭を下げる赤ちゃんの両親。二人が仕事をしている間に、さっきの魔鳥が赤ちゃんを連れていってしまい、偶然下ろされた牧場にいるのをグレイさんが見つけてきたらしい。
「大変な一日でした」
「でも良かったね。パパもママも一生懸命探してたのよ」
よほど赤ちゃんのお世話が大変だったらしく、疲労の色が見えているウェンディたち。
「さ、ママの下に帰りなさい」
ルーシィさんが彼女をお母さんに手渡す。すると突然、先程まで静かだった赤ちゃんが大泣きし始めた。
「これは・・・あなたたちのことが大好きになったみたいですね」
赤ちゃんは自分のお守りをしてくれたウェンディたちとお別れしたくないようで、泣き始めたらしい。よく見ると確かに赤ちゃんは手を彼女たちの方に伸ばしている。
「そんは・・・たった半日面倒を見ただけなのに」
「純粋な子供であるからこそ、人の感情に敏感なのよ」
「その通りだと思いますよ」
「あなたたちの好意が、しっかり娘にも伝わったんですね」
彼女のために相当ウェンディたちは苦労したのだろう。そしてその苦労を感じ取った赤ちゃんは、彼女たちに対する信頼で返す。といったところなのかな?
それから、泣き疲れて眠った赤ちゃんを抱えた夫婦を手を振って見送る俺たち。特にウェンディとジュビアさんは一生懸命手を振っていたのが妙に印象に残っている。
「子供か・・・あたしにもいつかあんな可愛い赤ちゃんが・・・」
「なんだ、もう解決したのか?」
ブツブツと一人言を喋っているルーシィさんの後ろから、親探しをしていたナツさんが現れる。
「な・・・ナツ!?」
「親が見つかったなら早く教えてくれよ。俺も赤ん坊とちゃんとお別れしたかったぞ!!」
ほとんど赤ちゃんと関われなかったナツさんはとっても残念そう。アスカちゃんのお守りもしてたし、意外と子供好きなのかな?
「で、何ボソボソ言ってたんだ?」
「あ・・・あんたには関係ないわよ!!」
顔を真っ赤にして怒鳴るルーシィさん。その隣ではジュビアさんがグレイさんとの子供を想像して顔を赤くさせている。
「シリル」
「ん?」
服の裾をつかんで俺の名前を呼ぶウェンディ。よく見ると、彼女も顔が赤い気がする。
「私もいつか・・・あんな子供が欲しいな」
俺とは別の方向を見ながら恥ずかしそうにそう言うウェンディ。俺もあんな子供が欲しいなぁ・・・どっちに似た子が産まれ―――
「あれ?」
そこであることに気付いた。よく考えたら、子供を作るということはその前段階があるわけでして・・・
「・・・」
思わずウェンディの顔を見つめると、彼女も視線に気付いたのかニコッと微笑んでくれる。それを見た瞬間、なぜか鼻血が吹き出してきた。
「きゃっ!!ちょっとシリル!?」
「どうしたのよ!?」
「なんでここで鼻血~!?」
慌ててティッシュを差し出してくるウェンディと心配そうにしているシャルルとセシリー。ちょっと先の展開を考えすぎた。もう少し耐性がついてからそう言うことは考えよう。でも・・・いつかきっと・・・
後書き
いかがだったでしょうか。
シリルとグレイのあれはウェンディとジュビアの妄想です。決してあんなことにはなりませんのでご安心ください。
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