カロチャの刺繍
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第三章
「そこでも頑張ります」
「そうね」
「私も働いてますから」
「うん、ただね」
「ただ?」
「君とは組んで三年だけれど」
レカが彼が今勤めている企業に入ってからだ。
「僕より二つ下には見えないね」
「若く見えますか」
「若過ぎるよ」
それこそというのだ。
「これもいつも言ってるけれどね」
「まあそれはですね」
「生まれつき、そして遺伝だね」
「母方のお祖母ちゃん似なんですよ」
「そう言ってるね」
「はい、お祖母ちゃんがアジア系の血が濃いみたいで」
「マジャール人の」
彼等のルーツのというのだ、本来の。
「それでと思います」
「そうなんだね」
「まあハンガリーも色々な民族がいて」
「ドイツ系もルーマニア系もね」
「スロバキアもお隣で」
「そうした縁でね」
「はい、色々混血していて多民族ですね」
「東欧だからね」
東欧は西欧以上に民族的にはモザイクだ、それでハンガリーにしてもかなりの多民族国家なのだ。そして混血もしている。
「ハンガリーにしても」
「私にしても髪の毛は茶色ですし」
「アジア系でも茶色い髪はあるけれどね」
「大抵は黒いですから」
アジア系の髪の毛はというのだ。
「やっぱり混血してますね」
「正直マジャールの血は薄くなってるだろうね」
「実際のところは」
「うん、間違いなくね」
民族的な話をしてだった、そして。
ワインの肴のチーズ、それにハムを食べてからだ。イシュトヴァーンはあらためてレカに言った。
「何はともあれ」
「はい、カロチャですね」
「明日からね」
「そこに行ってですね」
「また勝負だよ」
「ブタペストでの勝負はどうだったと思います?」
仕事としては成功だったか、レカは先輩に尋ねた。
「それで」
「まあ勝ったかな」
「皆さんお土産も買ってくれましたし」
「そのことを考えるとね」
「成功ですね」
「まずね、ただそれでもね」
「はい、カロチャでもですね」
レカもチーズとハムを食べてから言う、赤ワインも一口を口に入れて。
「成功させることですね」
「そうだよ」
「忙しいですね、ガイドのお仕事も」
「提携しているお店の売上も考えないといけないですし」
「うん、ただ僕達がいい仕事をするだけじゃないからね」
「資本主義はそうしたものだね」
「ですね、もっとも私が生まれてすぐに資本主義になりましたけれどね」
このことはイシュトヴァーンも同じだ、彼等が赤子かようやく立った頃にハンガリーでも革命が起こり資本主義になったのだ。
その資本主義についてもだ、二人は話したのだ。
「いや、お金を儲けることも」
「楽じゃないね」
「全くですよ」
二人で話すのだった、そしてだった。
二人はここからは心ゆくまで飲んだ、そのうえで。
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