カロチャの刺繍
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第一章
カロチャの刺繍
ハンガリーは欧州にあるがアジア系の国である、これは元々マジャール人の国家だったからである。
それで姓の後に名前が来る、だがこのことには混乱がある。
「ダルニが姓ですか」
「はい、そうです」
金髪碧眼で長身、しかも高い鼻と彫のある顔で白い肌の青年がブタペストに来た観光客にはっきりと答えていた。
「姓ダルニで、です」
「お名前がイシュトヴァーンですね」
「そうです」
こう黒髪と黒い目のアジア系の観光客に答えるのだった。
「私の名前はダルニ=イシュトヴァーンです」
「そうなんですね」
「欧州風に言いますと」
イシュトヴァーンはあえてその日本から来た観光客に話した。
「私の名前はイシュトヴァーン=ダルニになります」
「そうなりますか」
「はい、欧州の殆どの国では名前が先に来ますね」
「イギリスでもドイツでも」
「ですがハンガリーはアジア系なので」
だからだというのだ。
「姓が先に来ます」
「そうなんですね」
「この外見でも」
ガイドとしてだ、イシュトヴァーンは観光客にさらに話した。
「私はアジア系になります」
「金髪でもですね」
「そして目が青くとも」
しかも肌が白くともだ。
「そうなります」
「混血が進んでいますか」
「欧州の中にいて長いですからね」
「オーストリアの中にありましたよね」
「はい、オーストリア=ハンガリー帝国だったこともあります」
イシュトヴァーンは観光客にこの時代のことも話した。
「かつては」
「その中で、ですか」
「混血が進みまして」
「ガイドさんもですか」
「この通りです」
自分の容姿を見せてだ、イシュトヴァーンは話した。
「金髪にです」
「目が青いんですね」
「ゲルマン系に見えますよね」
「どちらかといいますと」
実際にとだ、観光客も彼に答えた。
「そっちですね」
「そうですね」
「いや、本当に」
「最近欧州風の呼ばれ方も多いです」
名前が先に来るこれにというのだ。
「どうにも」
「しかし本来はですね」
「姓が先に来るのがハンガリーです」
アジア系だからだというのだ、イシュトヴァーンは観光客に話した。そのうえで他の観光客達を案内して回った。
そしてだ、この日は一日彼等をブタペストの中に案内してだった。夜にだ。
彼は共に今回の日本からのツアーのガイドを受け持っている同じ会社に勤務している後輩のジチ=レカに言った。背は一四八程でかなり小柄だ。薄い茶色のロングヘアでブラウンの睫毛の長いはっきりとした目を持っている。童顔で鼻は低めでアジア系の感じがする。身体つきも幼い感じだ。
そのレカとだ、彼は宿泊しているホテルのバーの二人用の席でハンガリーのワインを飲みながらこんなことを言った。
「僕はアジア系に見えないね」
「全然見えないですね」
明るく笑ってだ、レカも答える。子供にしか見えない外見だが膝までの丈のスカートのスーツを着ていてワインをイシュトヴァーン以上の勢いで飲んでいる。
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