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滅魔士

作者:Rain Hullbaht
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第一話ー滅魔士ー

 
前書き
軽い気持ちでスナック菓子片手に読む位がちょうどいいかもしれません(苦笑い)
感想等お待ちしております。気軽にどうぞ!


この作品は同名で別サイトにも掲載しております。 

 
第一話―滅魔士―

艶やかな月が綺麗な夜。少しばかり風が冷たく頬を撫でるがそれもまた一興だ。

「悪いな……隣、いいか?」

森の中、昔は栄えたと推測できる程の立派な家々が並ぶ村の廃墟の端。崩れかけ、もう何年もすればただの瓦礫と化してしまいそうでステンドグラスだけが残り星の輝きをうっすらと映し出している協会の入り口にある数段しか残っていない階段に腰かける。

「妾は何も申しておらぬぞ」

「そう硬いこと言いなさんな、てか眉間にしわを寄せるな。可愛いお顔が台無しだぞ」

分かってはいるが階段にはすでに先客が居たようだ。
外見の年齢は未だ12といったところか。なんて俺はそんなことを呑気に考えながらも腰に下げたポーチから一本の煙草を取り出し火を付けることなく咥え、まるで煙があるかのように吸い込む。するとその煙草から火を付けていないのに出る筈のない煙がみるみる肺に充満し、俺の口から外に漏れる。だが嫌な臭いは全くない。むしろいい香りだ。ちなみに、この匂いは植物由来で健康にも良い。
念を押すが、俺のメンツにも関わるので言っておくとこれは煙草の形ではあるがその効力は全くの別物だ。

「ほう・・・妾の美しさが分かるか人間。しかし不思議じゃ。普通であればそこに転がっておる人間のように怯えてもよいのじゃがの。なにせ妾は今返り血で真っ赤ぞ」

素直な感想に口角を上げた先客がそこに転がっている、と形容した人間は既に人の形を成していない肉塊の様な形だ。この先客、もとい少女に殺された、と考えるのが妥当だろう。その証拠に本人も言っていたが彼女は返り血で全身紅い。
だが、そんな光景俺にとっては日常茶飯事。何食わぬ顔で肩をすくめ雲一つない新月の空に光る星々を眺め、倒れた教会の柱の根元に芽吹く草に向けてプッと煙草を吐き捨てる。

「ま、確かに真っ赤だな。そんなんじゃぁ可愛くねぇや」

「人間、妾をなんと心得ての言葉じゃ?妾は」

「生まれたばかりで吸血鬼としてはかなり程度の低い低級魔。最近ここらの森で狩人や迷子を襲っている犯人、だろ?」

少女さらに改め吸血鬼が言おうとしたことを先に纏めて話し終える。その俺の言葉に目を大きく見開き本能的に自分の命の危機を感じたのか吸血鬼は大きく飛び上がり、遠く離れた民家の屋根の上に不時着する。当然、人間技じゃぁない。ま、人間じゃないから当然だけれど。
ついでに言っておくが俺もすでに移動済み。吸血鬼の背後をとっている。

「んー・・・もう少し距離を取った方がよかったな。今くらいじゃ俺だけじゃなく、新人の滅魔士でも跳べるぞ?」

「め、滅魔士じゃと!?ふざけたことを抜かすな!だ、だって殺気の欠片も感じぬ!!てっきりただの人間じゃと・・・っ」

「ったりめーだ。対象に近づくときに殺気むき出しのバカがどこにいるよ。てか、これみりゃ信じるか?」

帯刀している魔刀を引き抜き、居合の構えで振り切る。苦くもその斬撃は避けられてしまったが、完全に意表を突かれた吸血鬼は体制を崩し屋根から転落した。
俺はその隙を見逃すことなく、後を追い屋根から飛び降りた。

「そ、それは・・・!魔武具!?まさか・・・本当に・・・!!」

「可愛い子を斬らなきゃなんねぇのが・・・この生き方のつれぇところだッ」

夜の空に、鮮やかな血しぶきが舞った。









「依頼されてた件、片ぁついたぜ。村長さんよ」

翌朝。俺は吸血鬼を無事始末したことを昨日の廃墟から森をはさんで隣にある村の村長に伝えるべく村長の家に早朝から出向いていた。
ドアを数回ノックすると以外にも朝が早い村長はすっきりした顔で出迎えてくれた。


「おぉ!まだ数日しかたっていないというのに・・・いやはや!恐れ入ったぞ。流石は滅魔士最強と謳われるお方!」

「なぁに、この村には可愛い子がたくさん住んでる。頑張って当然よ!」

「謙遜せずともよいよい。と、報酬をまだ渡していなかったな!失敬、これが今回の報酬じゃ」

白髪で腰も曲がり始めて最近では杖が必要と嘆いている村長の貫禄のある手には白い巾着が握られており、大きさは大人の拳ほどだ。中には金貨がはいっているらしい。
ちなみに、銅貨、銀貨、金貨がこの国の通貨であり、価値は言わずもがな。

「ありがとよ。あぁ、それとこの前聞いた探してる女の事なんだが・・・」

「あぁ、ちゃんと村の者にも聞いた。しかしすまない。誰もそんな人見ていないそうだ・・・この先東に進むと小さな村がある。そこで足を捕まえてさらに東、大きな街に向かってみることをお勧めするぞ」

「そうか・・・まぁ、そうしてみるさ。で、俺はもう行くが、またいつかこの町に立ち寄らせてもらうぜ。ここの酒、旨いからな。それじゃぁ達者で」

貰った報酬を腰のポーチに仕舞、村長が言っていた東の方向に歩き出す。
早朝であるから進行方向に太陽があり、おもわず一瞬手で顔を覆ったが、すぐに目が慣れ、ゆっくりと空を眺めると涼しい風が吹き、空の雲がゆったりと流れているのがなんとも爽やかな朝を思わせる。
目の前に広がる景色は膝丈ほどの青々とした草で生い茂る草原と、その真ん中、隣の村まで続く舗装された小道だけだ。

「んー……っにしてもいい天気だ」

腕を空に伸ばしながらもそう思わずこぼしたが心中ではさっき村長が言った最強の滅魔士、について思慮を巡らせていた。と、いうのも俺は滅魔士の歴史が始まって以来の異才であったと周りに評価されているも、俺は知っている。本当の、本物の最強を。だが、そいつは今いない。どこにも、いない。
いや、こんな清々しい日に暗い話は止めておこう。自分で自分にそう言い聞かせ、隣の村へと足を踏み出した。
そしてここから、俺の物語が始まった。




――――――滅魔士
遥か昔、まだ人類が火を起こすことさえできなかった時代から、この世界には魔と呼ばれる悪の根源が存在していた。
ある者は魔を災厄と恐れ、またある者は魔を神と崇め、そしてある者は魔を絶対悪と考え、恐れてきた。
魔には多くの種類が混在し、空を飛ぶ者、地を這う物、水に生きる者。見るもおぞましい者、美しい者、儚い者。
人を襲い、人を喰う。それが魔の生き様であった。
だが、人間とて喰われるだけの生き様など望むはずがない。彼らは魔に対抗すべく、魔のさらに元である、魔素を利用し、人から魔を産んだ。
魔を殺す魔を、生み出したのだ。
それが、滅魔士。以来人間は滅魔士を使い魔を狩り、平穏を求めていた。だが、滅魔士も魔であることに変わりはなく、偏見や虐待、迫害の矢面に立つことは必然だった。
彼ら滅魔士はそれでも戦い続ける。たとえ殺されかけようと、無視されようと、そこに魔がいるのなら――――――。







「にしてものどかな場所だなぁ……魔素も薄くて。この辺じゃ魔も出ねぇだろうよ」

魔素がなければ魔も居ない。これは俺達滅魔士だけでなく、一般人も知っていることだ。はっきりとした理由は分からないが、魔は魔素の強い場所を好む。養分にする魔もいるらしいが全個体そうではない。ちなみに、町や村は魔素の薄いところを滅魔士に探してもらい、そこに永住を決めるらしい。

「このまま村まで何事もないと助かるんだがなぁ……って言いたいがそううまくはいかねぇよな」

今歩いている道の先、カーブになっているところで黄ばんだ布製の一枚着を着て汗を垂らしながら倒れた荷馬車の荷台を持ち上げようと呻いている男の姿が。近くの草木の倒れ具合から、どうやら荷台を引く馬がなんらかの原因で逃げ出したのだろう。
流石に無視して通り過ぎるのも気まずいので、黒いシャツの袖を肘より上に捲り上げ男の肩を叩く。

「ちといいかい、おっさん。これは俺がやるから少し退いてな?」

ポーチから煙草を取り出し咥え、吸い込みそれを吐き捨てて四肢に力を籠める。その勢いに乗って流れる動きで倒れた荷台を難なく道に戻して見せた。そして少しばかり汚れた手をパンパンと払い、まくったシャツを七分ほどに戻す。

「一人でこれを……!?あ、あんさん一体何者だい!?ってそんなことはどうでもいいか……なんにしろ助かった!!馬が突然逃げ出してお陰で荷台があの有様……四輪だから押して行けるのが不幸中の幸いだな」

「気にすんなって。俺ぁただの通行人だよ。にしても、馬が何に怯えたのか気になるがまぁこーんな広大な草原じゃ検討もつかんのが本音だ……ってこんな道通るってことはおっさんもしかしてこの道の先にある村に?」

荷台に積まれた荷物の中に、今朝旅立った村の特産のお酒があるのが目につき、方向から考えて俺はとっさにそんなことを言っていた。

「あぁ。この先にある一枚岩までたどり着けば村が見えるさ」

おっさんが指さした方向には確かに大きな一枚岩が草木から顔をのぞかせているのが分かる。そこまでの距離は目測でも200m。ここで会ったのも何かの縁だろう、と俺は率先して荷台の後ろに回り運んでいく準備をし始める。

「んじゃ、ここで会ったのも何かの縁だし俺もその村に用あるから村まで付き合うぜ。俺が押すから道の細かい調整頼むぜおっさん!」

「そ、そこまでしてくれるんかいあんさん!?悪いよそんなの!あいにく手持ちもないからお礼も……」

「気にすんな!まぁ、あれだ。村で一泊位するつもりだし、いい宿しってたら紹介してくれ。それでチャラってことでどうよ」

ギブ&テイクの差が随分と激しい気もするが、魔に関わる問題でもない為お礼を貰おうとはそうそう考えないのが滅魔士、と昔教わったような気がする。
でもどの道対して苦でもないので全然オッケーだ。
だがどうにもおっさんは渋い顔をしている。というより俺の服装をじっと見つめている。

「それでいいなら俺はいいが……あんさんひょっとして滅魔士、なのか?その服装、前見たことのある滅魔士とはちと違うがそんな珍しい服、俺達庶民にゃぁ無縁だからな」

俺の服装はジーンズに黒シャツ。中には黒いタンクトップを一枚。対するおっさんはさっきも言ったが布だ。
つまり、あからさまに俺の服は普通ではない。
ではなぜおっさんが俺の服装から滅魔士をと断定できないのかは理由がある。
それは、滅魔士の規定の服装ではないからだ。本来の滅魔士ならば、ジーンズに黒シャツ、ここまでは俺もそうなのだが、俺は前を全開に。対して規定では前をきっちり閉め真っ赤なネクタイの着用がルールなのだ。
だからこそ、おっさんは俺が滅魔士だとすぐに気が付かなかった。
ちなみに、この服の素材は魔の皮や骨で、人間が着用すれば濃度の高い魔素に充てられ最悪の場合死ぬこともある。

「・・・って訳よ。俺はけっこー昔から滅魔士やっててよ。今の滅魔士協会の規定だ規則が大っ嫌いなんよ。察してくれるかね?」

今の説明をおっさんにしながら荷台を動かす俺達二人。それにおっさんも中々に理解ある人の様でそれ以上深くは聞いてこなかった。
しばらく他愛もない会話を続けて荷台を押すこと十数分、ようやく俺達は一枚岩の元までたどり着いた。そこは周りと比べて少し山になっており、この広い草原を一望することができた。
視界の端には大きく切り立った崖がそびえ立ち、その断面から察するにここは昔川の様な渓流だったようだ。

「おぉ……さて、見えるかい?あれが、デポイ村さ」

「……小さいが、のどかで良い村だ」

広大な草原の真ん中にポツンと見える本当に小さな村。周囲には草が生い茂り、村と草原を分けるのは俺の腰までしかない柵だけだ。
その向こう側には切り立った崖付近から流れてくる川が太陽の光を反射させながら魚を育み、生活の要になっているのが一目で分かる。

「ほんと、ここからでも町全部見渡せるんだからな、小さい村だ。でも、この辺は野菜の収穫が盛んでな。交易もしやすいんだわ。っと、残り少しだ、あんさん悪いがもうちょっとだけ手伝っておくんな」

「わかってるさ。んじゃ、行くか」

下り坂に転がる小石一つで荷台が大きく揺れ乗せている荷物が堕ちそうになったり荷台そのものが転げそうになりながらも俺達は何とか坂を下りきり、そのまま難なく村へとたどり着いた。

「っつぁー!いやほんと助かったぜあんさん!そいや、名前聞いてなかったな!」

そういえば俺も名乗っていなかった。ついうっかりと流れるがままにここまで来てしまったが結局滅魔士であること以外何も話していないことに気がついた俺は改めて自己紹介。

「悪い、すっかり忘れていたな。俺はシリウス。シリウス・ブラッドレインだ」

「シリウス・・・星の名前と同じか・・・!あんさん良い名前付けてもらったな!」

感謝の言葉と共に握手を交わす。だがどうやらその声が大分大きかったらしく、村の農場や畑で作業していた人たちがぞろぞろと村の入り口に集まり始めたではないか。

「これこれ……こんな朝からなに騒いでおるってあぁ、商人さんか!皆の衆!商人さんがいらっしゃったぞ!」

集まってきた人たちはほとんどがかなりの率で年寄りばかりだ。彼らの服は商人が来ている布地の一枚着よりさらに汚れ、泥や汗が染み込んだ努力の成果が伺える。
クワやシャベルを握る手に見えた豆は俺の手にできたこれまでの豆に匹敵するほどのもので、内心驚いた。が、あまりいい顔ではないので表情は涼しいまま。

「商人さんや、いつも助かります……はて、いつもの馬はどうされたのですかな?それにそちらのお方は……」

馬については逃げられたの一言で済むが俺のことはいささか話にしにくいだろうと先に俺が口を開いて状況をかいつまんで説明する。

「なに、俺ぁ大した者じゃないさ。まぁ一応、滅魔士をやらせてもらってるシリウスってんだ。ある女を探して旅してる途中、馬に逃げられて困ってた商人のおっさんを助けて一緒にここまでって訳よ。んで、こんな女なんだが見たことないか?」

ポーチから一枚の似顔絵を取り出し、その場に集まり話を聞いていた人達に順に見せていく。だが、全員首を横に振り、なんら収穫はなかった。だが、まぁこれもいつもの事だと割り切っておこう。
そんなことより俺が気になったのは、村人の反応だ。俺が滅魔士だといった瞬間希望にも不安にもみてとれる複雑な表情を浮かべる人が何人かいたのだ。だがいきなり事に首を突っ込むのも不審に思われるので、すくなくとも今は無視しておこう。

「力になれず申し訳ない滅魔士殿……さて、皆の衆商人さんと仕事のぉ話しなさいな。荷台を中央の広場へ運んであげなさい」

どうやら彼はこの村の村長のようだ。礼儀正しく姿勢も低い。まさにみんなから親しみを持たれるタイプだろう。微笑ましい、平和な村だ。
とかじっくり見ていたらいつの間にか彼らはおっさんの荷台毎おっさんを連れて行ってしまった。

「あ、おっさん宿……!」

気づいたときにはもう遅い。俺の声が聞こえないほどに村人に囲まれ色々と話しかけられている。どうやら宿さがしは自分でやらなければならなさそうだ。
ま、無償の精神を持て!とかなんとか自分に言い聞かせよう。

「さて、わたしも行きますかな……あぁ滅魔士殿、この村に泊まる気でしたら村の西側、大きな鶏が目印の宿がいいですぞ。これまた看板娘がめんこくてのぉ……孫なんじゃがな」

「……マジか。可愛い子がいればそこが地獄の底だろうと極上宿屋に早変わりだぜじーさん!あんたの孫ならさぞ優しい性格だろうなぁ」

「……う、うむ。ここまで食いつきがよいとは思わんかったわい」

しまった、つい可愛い子と聞いて反応してしまった。じーさんが若干引いている気がしなくもない。
だがまぁ、なにはともあれ宿は決まった。確か西にある鶏が目印と言っていた。幸いにもこの村は言ってしまえば家の数も少ない村だ。なにせ、家と家の間に畑が出来るほどだからな。すぐ見つかるだろう。

「にしても平和だぁ……確か川があったっけか。折角だし散歩でもしようかねぇ」

道は小石が敷き詰められて舗装されているものの、その小石の隙間から小さな草が芽吹き、そこに蝶が舞っている光景がそこらかしこに見える。しかも両側にある家は平たく、屋根は藁、柱も木で出来ていて風が吹くたびに聞こえる藁の揺れる音がまたなんとも言えない。
すこし歩いただけですぐ視界が開け家と畑をはさんで草原が広がり太陽の眩しさが俺を立ち止まらせる。そして大きく深呼吸して日頃の魔との戦いの疲れを癒していた時、後ろから若い女の声が。

「あの、失礼ながらひょっとして滅魔士さん、ですか?」

振り返るとそこには髪を腰まで伸ばし、手には籠。中には新鮮な野菜が詰め込まれエプロン姿の可愛い子が首を傾げ顔を覗き込むようにして立っていた。
これがまた陽の光といい風景と言い実にマッチしている。おもわず一瞬見惚れかけたが質問に答えないのも悪いかと思い、体を反転させて向き合う。

「あぁ、そうだが。後ろ姿でよくわかったな。前に滅魔士にあったことあるのか」

服装から滅魔士と見破ることはそう難しくはない。特に後ろからだと。
そう思って聞いたのだが彼女は首を横に振った。

「ふふ、答えはNOです。初めて滅魔士なるお方に会いました。でも、村ではもうみんなの耳に入ってみんながあなたの事知っています。田舎の情報網、舐めない方がいいですよ!」

籠を持たない手でクスッと笑った口元を隠す。田舎、と言われたがこの時俺は田舎も捨てた者じゃないなと心で大きく頷いていたのは内緒の話だ。

「広がるの早すぎるだろむしろ感動するって……あぁ、俺はシリウス。お前さんは?」

「私はエリナ。そこの宿、銀の鶏亭で働いています」

指さした先には俺が目指していた鶏印が。つまり、彼女、エリナがそこの看板娘であり、あのよぼよぼ村長の孫……ということになるのだろうか。それとも、もっと可愛い子がいるのだろうか。
どちらにせよ俺にとっては喜ばしいことこの上ない。なにせ可愛い子がいるのだ。

「銀の鶏亭って言うのか。ちょうど俺もそこに向かってるところなんだ。人を探していてね、村のみんなに聞いて回りながら戦いの疲れでも癒そうかなってさ」

「そ、そうでしたか!でしたら私がこの村、ご案内させていただいてもいいですか?」

「お、それは助かる!現地の人しかしらない絶景とか案内してくれんのかな?」

エリナの最初のどもりが少し気にかかったが、すっかりこの村の景色に惚れた俺は右手を差し出して握手を求めながら絶景案内を期待する。

「絶景……かどうかは分かりませんが私のお勧めでよければ!」

互いに握手を交わし、ひとまず買った野菜を届けなければとのことで、エリナと共に銀の鶏亭に向かった。
そして俺はエリナの掛け合いの元、良い寝床を確保してもらい心着なく出かけられる用意を済ませた。
流石にエプロンでは動きづらいとのことでエリナが着替えている間、俺は外で待機。と、そこにさっきの村長がやってきて、こちらに気付き歩み寄ってきた。

「これはこれは滅魔士殿、孫とは会えましたかな?」

「エリナって娘がそうか?」

「えぇそうですとも!では会えたようですな!どうですかえ?孫は」

少しの間を置いて俺は腕を組み下を見つめ、じーさんが少し不安げな顔をしたその時、フッと微笑をもらして親指を立てて突き出して一言。

「可愛いッ!!」

とだけ言っておく。

「それはそれはよかった。あぁそうそう、商人さんからたくさんお酒を頂ましてね。おそらく今夜は宿にある酒屋が賑わいますぞぉ……!」

「そりゃぁありがたい。酒は俺も大好きだ。是非参加する。にしても、良い村だ……のどかで、平和で。魔素もほとんどないし魔も出ないだろーよ」

「え、えぇまぁ。お蔭さまで平和に細々とではありますが、ねぇ」

魔の話をした途端、一瞬だけじーさんの顔が曇った。その一瞬の曇りを見逃さなかった俺は、何か問題があるのかと思ったが何事もなかったかのように笑顔に戻ったので気に留めるだけにしておこうと会話を切り上げる。
と、そこに丁度よくエレナが着替えを済ませて出てきた。

「お待たせしてすみません滅魔士さん……ってあら、お爺様じゃないですか。どうしたんですか?」

エレナの服装は緑を基調とし、襟元に白い網目の模様があしらわれた服に、膝上のズボン。歩きやすいように踵までしっかりとカバーされた茶色のサンダルだ。
パッチリした目に高い鼻といい、服と合わさり清楚な雰囲気。

「特に何かあるわけではないぞ。ただ通りかかってな。にしてもなんじゃ、滅魔士さんとお出かけか!」

「えぇ、ここらの案内をと思いまして。夜までには帰りますので心配なさらず」

エレナの丁寧な性格は礼儀正しいじーさん譲りなのだろうと俺は思う。
その後二人は少しだけ仕事、というか内輪話をした後、では失礼。と告げてじーさんはどこかへ行ってしまった。おそらく夜に向けて準備するのだろう。
そんな二人の内輪話をしている間、俺はふと周りの畑や広場を見たが何か違和感を覚えた。が、それがなんなのかすぐには分からず気が付けばエレナが不思議そうな顔で俺を覗き込んでいた。

「……あ、あのぉ滅魔士さん?どうかされました?」

「お、悪い悪い。少し考え事してたわ。それじゃ、さっそく案内してくれや」

「はい!それじゃまずは……」

――――――――――続く 
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