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魔界転生(幕末編)

作者:焼肉定食
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第46話 怪人・福沢諭吉

 土方は勝との会談した後日に英学塾に行くと隊士に告げ、出かけていった。
福沢諭吉。
今では教育者として名が通っている人物だ。
(そんな教育者が今回の事件の事で参考になるのだろうか?)
 と、土方は思っていたが、話を聞くだけでもと思い、英学塾に足を運ぶことにしたのだった。
「頼もう!!福沢諭吉先生はいらっしゃいまするか。頼もう!!」
 土方は大声で塾の前で叫んだ。
「福沢先生になんのご用で?」
 塾生らしい若者が対応に出てきた。
「拙者、勝先生より紹介を受けた土方歳三と申す者。福沢先生との面会をしに参った所存」
 土方は塾生に告げた。
「勝先生からですか・・・・。少々お待ちを」
 塾生は戸惑いの表情を浮かべたが、塾の中へと消えていった。
(なるほど、二人は犬猿の仲らしい)
 塾生の様子をみて土方はすぐに悟った。
 しばらくすると、塾生が現れた。
「申し訳ありませぬ。先生は今、授業を行っている最中ですので、すばらくお持ちくだされ」
 塾生は、ぺこりと頭を下げた。
「いえ、こちらが急きょ参上仕った次第です。また、時間があればと福沢先生にお伝えくだされ」
 土方は一礼すると塾を後にしようとした。が、
「御待ちくだされ」
 と、塾生は慌てて土方を呼び止めた。
「先生は授業中ではありますが、会わないとは申しておりません。ここで帰られては、先生に私がしかられます」
 塾生は土方の前で手を広げ行く手を遮った。
「どうぞ、おあがりください。応接間にてご案内いたしますゆえ」
 土方は塾生の後につき塾のなかへと入っていった。

土方が塾を訪れたのは今でいうところの午前9時頃だったが、もうすでに昼になりかけていた。
もはや、腹は茶で満たされ状態になり、イライラも頂点に達していた。
(やはり、出直すか)
と、何度も思いもした。が、自分がこんなに気長な人間だったのというのがおかしかった、
 その時、襖が開くと、眼光鋭く、土方も見上げるような大男が客間に入ってきた。
「待たせてすまなかったね、土方君」
 土方の前にどかりと座った。
「私がこの塾を営んでいる福沢諭吉だ」
 土方は度肝を抜いた。なぜなら、学者などひょろひょろと青白く、頭でっかちな輩だと思っていたのだが、この男はまるで違っていた。
「して、あの蝙蝠野郎の紹介だといっていたが、奴は元気だったかな?」
「蝙蝠野郎?」
「勝のことだよ」
福沢は鼻で笑っていった。
「何故に勝先生が蝙蝠野郎なのです?」
 土方は福沢の冗談のような勝に対する比喩に気づいて笑いたくなったが、福沢から直に聞いてみたかった。
「君も察しが悪い男だね。彼が蝙蝠じゃなかったら、なんだというのかね?」
福沢はため息を一つついた。
「いいかね。蝙蝠というのは、鳥ではない。地を走る動物でもない。鳥と動物が戦った時、鳥が優勢の時は、鳥のふりをし、動物が優勢の時は動物のふりをする。まさに、勝もそうだとは思わんかね?」
 福沢は腹立たしく早口でまくし立てた。
「つまり、幕閣にいながら、倒幕を擁護し、倒幕を擁護しながら徳川を生かそうとしているのが、蝙蝠だということですね」
 土方はにやりと笑った。
「その通りだ。なんだ、君は察しがいいじゃないか」
 福沢は大声で笑った。
「ですが、福沢先生、私は冗談を言いに来たのではありません」
 土方は真剣な眼差しで福沢をみつめた。
「わかっているよ、土方君。あの男が私を紹介するくらいなのだからな」
 福沢の目が鋭くなった。
「福沢先生は、異国の言葉だけでなく、蘭学者でもあり、著述家でもあり、あらゆる学問に精通していると聞いております。なので、今まで私が経験した世にも不思議な事に対しても答えを導いてくれるものと思い参上した次第なのです」
「世にも不思議な事?」
 福沢は土方の言葉に冷ややかな目で答えた。
「はい。福沢先生は死んだ人間が化け物なって蘇ることを信じますか?」
土方の言葉に福沢は目を丸くし、大声を上げて笑った。
「馬鹿馬鹿しい、そんな事は有りえない。いいかね、土方君。人は死ねば物と同じだ。そして、埋められ土に帰るだけだよ。生き返って化け物になるなどそんな馬鹿げた話は、幽霊話といっしょだ」
 福沢は笑い終わると呆れたように首を左右に振った。
「ですが、現に私はどの者達と対峙してきたのです」
 土方はそんな福沢を睨んだ。
「君は夢でも見たんじゃないのか?」
福沢は呆れたように言った。
「どうやらこの二の足を踏んだようです。失礼しました」
 土方は福沢の態度にため息をつき立ち上がろうとした。
「待ちたまえ、土方君。君の話が百歩譲って本当の事だというのなら参考になるかならないかはわからないが、興味深い話をしてよう」
 土方はその話を聞いてみたなって再度福沢に対峙した。
「はっきり言って私はそういう話は信じない人間でね。ましてや、宗教なども信じてはいない。が、異国に留学した時にキリスト教を少し学んだことがある。君も知っている通り、ざっくり簡単に話を要約すれば、キリスト教は、老若男女問わず全てが平等であり、イエスを拝み奉れば天国に行けるという代物だ」
 福沢は腕を組みゆっくりとした口調で話始めた。
「でもね、それと相反して、悪魔を崇拝する宗派もあるのだよ」
「なんですって!!」
 土方は驚き目を見開いた。
「それは、悪魔と契約し、人を呪い殺したり、死んだ人間も生き返させたりするって話なんだがね。ほら、この国にもあるだろう?陰陽道やらなにやらわからないが、そういう類のものらしい」
 福沢は自分の話にあきれたように再び首を振った。
「では、その悪魔崇拝者がこの日の本に潜伏しているとでもおっしゃりたいのですか?」
 確かに馬鹿馬鹿しい話だ。だが、土方が体験してきた一連の事件を考えれば納得もいく。
「さてね。まぁ、本当かどうかは疑わしい話でもあるがね」
 福沢はため息をついた。
「ありがとうございます、福沢先生。大変参考になりました」
 土方は福沢に深々と頭を下げた。
「頭を上げたまえ、土方君。こんな怪しくも馬鹿馬鹿しい話が本当に参考になったかはわからんがね。あっ、そうだ。今度はその化け物とやらを私の元に連れて来てはくれまいか。
そうすれば、私も少しは信じてもみたくなるからな」
 福沢はまた大笑いした。
「そういたしましょう」
 土方もまた笑った。

(悪魔崇拝者か)
 土方は福沢の塾を後にして福沢の話を思い返していた。
そんな時、隊士が血相をかいて塾の方へ走って行くのをみた。
「おい、どうしたのだ」
 土方は大声で隊士を呼び止めた。
「あっ、土方さん、急ぎ宿へお戻り下さい」
 隊士は息を切らしながら、口早に言った。
「だから、どうしたというのだ」
 土方の胸に悪い予感が走った。
「近藤局長の部隊が危機に迫っているとの知らせがありました。急ぎ合流されたしのことです」
「なんだと!!」
 土方は目を見開き、我を忘れその場で固まってしまった。
「副長!!」
 隊士の声で土方は我に返った。
「急ぐぞ」
 土方は隊士に声をかけると疾風のごとく走りだした。

「まさか、黒魔術が存在しようとはな」
 土方が去った後、福沢は一人応接室に残っていた。
「フフフフフ」
 福沢は不気味に笑った。
「新しい研究のテーマになりそうだ」
 が、現在、福沢諭吉が記した黒魔術に関した著書は発見されてもいない。
 
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