【IS】何もかも間違ってるかもしれないインフィニット・ストラトス
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第百二八幕 「燃える闘魂?」
前書き
定期……更、新――がくっ。
ミノリは不思議な人だ……というのは前から不思議に思っていた。
しかし、正直「ベル君の家に行きたいから帰省に着いてっていい?」と聞かれたときは飲んでいた乳酸飲料を吹き出してしまった。
そして、即座に断った。
「嫌」
「あ、ちなみに学園からの依頼でどっちにしろ護衛担当だから誰が嫌だって言っても夏休み中一緒だよ?」
あっさり回り込まれてしまった。
流石はミノリ、断ることも完全に織り込み済みで逃走ルートを的確に潰している。護衛だから離れられないと言われればベルーナに拒否権はない。そりゃーもうない。学園がこうだと言ったということはイタリアのお偉方との間で話が纏まっているからだ。
でも――ミノリには知られたくない事が、あの場所にはある。
3人の友達と叔父に守られて尚、途切れたことはない周囲の視線。トラウマの解消のために乗り出した今でも、時折あの目線を思い出して急激に気分が悪くなることさえある。イタリアの故郷には、僕が忘れたくてしょうがない最悪の過去が眠っているのだ。
ミノリには、それを知られたくなかった。
今まで通りの優しくてちょっとヘンなミノリ……僕が知っているミノリでいてほしい。それは僕の一方的なエゴでしかなくて、本当は望んではいけないことなんだと思う。誰しもあの事実を知ったら僕の事を嫌いになるし、避けるようになるだろう。それほどに冒した罪は深く、傷は今でも心を蝕んでいる。
やっとミノリ達のおかげで前に進めるようになったのに。
今更後ろは振り返りたくないのに。
(いつの間に僕は、ミノリとこんなに近づいてたんだろう……前は距離が離れてるから安心してたのに、ミノリはいつのまにか僕の隣にいたんだ……)
でも、自分の秘密を知られる時の僕は今まで「ああ、やっぱり」とどこか諦めていた。咎を負ったのは僕だから、もう逃げられないと悟ったつもりでいた。なのに、なんでミノリに知られることだけはこんなにも怖いんだろう。
人の気を知ってか知らずか、ミノリは鼻歌を歌いながら旅行の準備を進めていた。というか僕の荷物まで纏めてるし……。僕が入れたい物を迷いなく詰めてるし……。というか、僕のチケットとパスポートを何でミノリが持ってるの?
「ちょっと服入れるスペースがキツイかも……ベル君の鞄に私の下着入れるけど別にいいよね?」
「言いながらもう詰めてるし……」
よく分からないけど、女の人が自分の下着を男のトランクに詰めるなんて普通は考えない気がする。それでもミノリ平気な顔でこんな事しちゃうのは、ミノリも僕のことを近くに感じているからなんだろうか。
近づくことは嫌ではないのに、近づかないで欲しい。二律背反だ。
この世界は、つくづく生きづらい。
= =
ベル君の単独行動とか、色々とあり得ない。それが私やら学園やらの総意だ。
理由は言わずもがな、あの誘拐未遂事件と暴走の件である。あの時に護衛をしていた言葉先生が悪いと言いたいのではない。ただ、専用機無しで戦うには余りにも相手が悪かっただけなのだ。それでもベル君は守りきれなかった。
だから、ベル君と近く、暴走を止めることが出来、ちょっと過大評価な気がするが専用機持ちの中で腕利きな私に白羽の矢が立つのは自然な流れだったと言えると思う。
そして判断の決定打がアルキミアだ。世界に2機しかない第4世代ISで、IS開発第一人者のチカさんが手ずから設計したスペシャルワンオフ機のアルキミアならやって勝てない相手など理論値ではほとんどないんだろう。
イタリア政府、学園、委員会の総意という重苦し過ぎる重圧。普通をモットーとする私には迷惑な話だったが、それを理由にベル君から離れるほど私は無責任な女になった覚えはない。それに、チカさんの言う事もあった。
『ベル―ナ・デッケンはこの世界の騒ぎの中心にいる』。
今までは積極的には関わらないとかなんとか理由をつけて遠回しで探ってきたが、ここいらでベル君の謎を一つでもいいから解明して私達――恐らくこれからハチャメチャな運命に巻き込まれる学園組の将来に備えたいというのがぶっちゃけた本音だ。
ベル君の身体は、最初に出会った頃と比べると「不気味なまでに順調に」回復している、とお医者さんは言っていた。私も正直そこは気になっていた。ある日突然死しそうなくらいに病弱だったベルくんだが、この前は凄まじい叫び声を上げながらISで大暴れしていた。
そして、暴れた後のベルくんの肉体は不気味なまでに調子がいい。
これがリハビリの結果とかだったら奇跡の回復ってことでお茶の間に感動を呼ぶんだろうが、拉致された挙句に尋常ではない暴走っぷりを発揮した直後に体調が良くなる人間なんてよっぽど特殊な性癖を持った人くらいだ。そしてベルくんはある意味アブノーマルだがそんな人種ではない。
何かある筈だ、ベル君には。
そしてそれに近づくには、ベル君の過去を洗い出さなければいけない。誰が情報を持っているだろうか。アングロ・アラス・コーラの三人か、ベル君の叔父さんか、或いは両親・知人・親戚……とにかく私にとっては誰だってかまわない。彼らの中に「スーパーロボット大戦α」に関わる誰かがいるかもしれない。なら、直接漁って情報収集するしかないだろう。
荷物の整理をしながらちらり、と手元の金時計を見る。レーイチくんと共に眠るアルキミアには唯一仕様特殊能力『フェストゥム』という機能があった。詳しい機能は概念的すぎて私には分からないが、私にこの機能があるISを渡したという事は、この機能もベル君と付き合っていくために必要なものなのだろう。
(確認すること多すぎだよ……あー、頭こんがらがってきた)
原作ISではこんなことにはならなかったのになぁ、と考えてしまう自分が嫌だ。もう原作も何もあったものではない――ここは、私の理解の範疇を越えた完全な異世界なのだ。これから起こることなど誰にもわかりはしないのだから、出来るのは前へ進む事のみ。明日に向かって行軍だ。
「すっすめーすっすめーミーノリーちゃんー♪ぎーんがーのみーらいーをせーにのーせてー♪だだだだっだっふーー♪」
「………何そのキテレツな歌」
「今作った!!」
正直変な歌でも歌わないと落ち着けない。ベル君は変な人だと思って私を見ているだろうが、私だっていっぱいいっぱいなのだ。19歳で戦艦一つをまとめ上げなければならないくらいの重圧があるのだ。世界め、どうして平凡な少女にこんな役目を押し付けた!理由はともかく訳を言え!
……え?平凡だと思ってるのアンタだけだって?むしろアンタ以外の誰がこの話を纏められるのかって?…………アーアー聞こえない聞こえない。そんなメタな発言は佐藤イヤーには届きませんの事よ。
(とにかく……この夏休みにみんないろんな方向に動いてる。みんな事件を乗り越えて、本能的にこれから大きな動きがあることを察してるんだ。だったら私も知らんぷりは出来ないよね……)
夢見る少女じゃいられない、って誰かが言ってたけど、私の場合はその夢みたいな世界に飛び込まなければならない。全くの逆走だ。周囲はラノベのキャラクターだと内心で思って自分には関係ないって知らんぷりしてたけど、神様とやらは私もそのキャラクターの一人として扱う気らしい。
(………使われてやろうじゃんか)
思えば、この世界の因果だか何だかは、ベル君に余計な物ばかり押し付けている訳だ。この小さな体に潰れそうな重圧を押し付けてるんだ。それって正直不条理以外の何物でもないよね。だったら、その因果とやらを私が引き剥がしても文句はないよね。
こうなったらもう好き勝手にやらせてもらう。そもそもチカさんの話だと私だけがこの世界の『筋』と外れてるらしいし、これはもう免罪符的なアレだよね。これからはもう原作の流れとか一切考慮せず、全部アドリブで動いていいわけだよね。
明日からの私は燃える闘魂ミノリちゃんだ。
「…………ミノリ」
「ん?何?」
「あれ………」
ベル君が急にテレビを指さしたので何事かと思うと、連合王国で色々とやらかした末に帰還したセシリアがお母さんオルコットと何かを言い争っているシーンが流れていた。宇宙テロリストを逆にボコって帰還したセシリアさんパネェっす、という話はもう昨日くらいにしてしまったのだが、親子で何を言い争っているのだろう。
『――ですから、2学期からこのセラフィーナ・オルコットがIS学園で教鞭を執る、と言っているのです。既に決定事項ですわ』
『意味が分からないのですが、何をおっしゃってるのでしょうかこのいかれ貴族は?』
『ですから、昨日すこし国家代表とISで模擬戦をして叩きのめしてIS操縦適格も示したうえでIS学園に教鞭を執る旨を打診し、快諾を頂いたと言っています。三度はいいませんよ?わたくしも貴方とともに学園に行きます』
『失礼ながら、馬鹿ですか貴方は!?オルコット家の仕事はどうする気なのです!!』
『向こうから指示を出しますし、カルロにも負担してもらえば何の問題もありませんわ。とにかく、2学期からは貴方を一から指導し直すのでそのつもりで!!』
『そのつもりで、ではないでしょ!!学園に来てまで私のやることに口出しするつもりなの!?親が子供を支配できるなんて考えないでちょうだいッ!!』
『先ほどから親に対してその口のきき方は何です、はしたない!!』
全国生放送である。繰り返す。これは、全国生放送である……というか、全国どころか世界に配信されているんじゃないだろうか。
「………何やら、衝撃的な事になってる……ね?」
「……………僕、あのセラって人とやっていける自信がない」
なんか、ベル君のことよりものすごい勢いで互いを罵倒し始めた愉快なオルコット親子の人間関係の方が気になってきた。
後書き
学園に行くと言い出した理由は……まぁ、セシリア危機一髪の際の動揺ぶりを見れば何となく想像できるかな。ちなみにセラフィーナさんは元々IS経験ゼロですが、昨日練習して国家代表を撃墜できる腕になりました。オルコット家は化物か……?
あとは、アニマス40の身体が熱いのはガオガイガーのルネのちょいパロだった事に気付いているのならば、もうこちらから言う事は何もない……。
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