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遊戯王GX-音速の機械戦士-

作者:蓮夜
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―1枚を賭ける攻防―

「……十代?」

 卒業タッグデュエル大会。その決勝戦の相手として俺と明日香の前に立っていたのは、あの遊城十代だった。もはや彼の代名詞と化している真紅の服に身を包みながら、1人だけで俺たちの前に立ちはだかっていた。

「十代も参加してたの?」

「ああ……まあ、成り行きでな」

 俺のよく知る十代らしからぬ口調に驚きながらも、今はとにかく十代に用事があった。あまり聞かれたくない話のため、観客用のマイクを切って十代に近づいていく。

「ありがとう十代。保健室で助けてくれて」

 もう随分と昔のことのように感じてしまうが、異世界から帰還したものの、俺は怪我の影響で保健室で寝たきりだった。何が起きているかも分からない時、ミスターTに襲われかけていたが……そこを十代に助けられたのだ。

「……気にすんなよ」

「……それと、タッグの相手は?」

 やはり十代からの返答はそっけない。異世界での経験がそうさせたのか――と気にしながら、十代に気になっていたことを問う。タッグデュエル大会である以上、タッグが必要不可欠の――最初の相手からして万丈目1人だったが、それはともかく――筈だったが、どこにも十代のタッグパートナーの姿は見当たらない。

「いや、トメさんだったんだけどな……」

 何でもいつものブラマジガールのコスプレをしたトメさんとタッグを組み、ルールの分からないトメさんをスルーして1人で勝ち進んできたらしく。ただ準決勝戦でコスプレ用の服がほつれてしまい、鮫島校長が無理やり会場から連れ出したとか何とか。そんなこんなで、十代はタッグパートナー無しで1人だという。

「よし。明日香、あとは任せた」

「えぇ!?」

 明日香には悪いがそう言い残し、俺はスタジアムから降りてしまう。どちらにせよ、十代1人相手に二人がかりで挑む訳にもいかず――何にせよ、姿を消したレイのことが気がかりだった。……俺にだって、そっとしておいた方がいいというのは分かっているが、とにかく嫌な予感がした。

 うまく説明は出来ない、虫の知らせのような代物だったが――とにかく。けたたましく警鐘を鳴らす感覚に従って、俺はタッグデュエル会場を飛び出していた。


「ちょっと遊矢! ……もう」

 明日香が止める暇もなく、遊矢は走り去ってしまう。恐らくは、レイのことを心配してのことだろうが……明日香が少し嫉妬してしまうのもやむなしだった。十代と観客にざわめきが広がっていくが、それは明日香の兄――吹雪が何やらアドリブでカバーしていた。

「十代。デュエルしましょう?」

 実の兄ながら、そういうことばかり上手い――と明日香は苦笑しながら、デュエルディスクを対面にいる十代に構えた。突然のハプニングだったものの、明日香にとってこれはチャンスでもあった。いつ頃かデュエルする機会を失ってしまっていた、十代との大舞台でのデュエルに。

「ああ……そうするしかないみたいだな」

 対する十代はあまり気乗りしないようではあったが、一応は明日香と同様にデュエルディスクを構えた。そもそもこの大会に出たのも、トメさんに誘われたからとのことで、本人はあまり乗り気ではないようだった。

「…………」

 昔の十代ならば信じられないようなその態度が、異世界での経験によるものだとするならば。明日香は責任を感じざるを得なかった――そもそも十代たちが異世界に行ったのは、異世界に取り残された自分や遊矢、ヨハンを助けるためだったからだ。そして最初に力尽き、異なる異世界に飛ばされたのは明日香――これは本人のエゴなのかもしれないが、異世界における出来事の一端は自分にある。明日香はそう考えていた。

「ええ。楽しいデュエルをしましょう」

 ならば明日香に出来ることは、遊矢と十代に昔の気持ちを思いだしてもらうこと。図らずも遊矢には成功していたが、十代とのデュエルはまさに僥倖だった。明日香はかつて、十代が口癖のように言っていた言葉を紡ぎ、どちらもデュエルの準備を完了する。

 ただ、十代がそれに応えることはなく――

『デュエル!』

明日香LP4000
十代LP4000

「私の先攻」

 デュエルディスクが指し示した先攻は明日香。五枚のカードを眺めると、まずはモンスターを召喚する。

「私は《エトワール・サイバー》を召喚!」

 明日香の多用するサイバー・ガールの一種。普段は融合素材としての使用が主だが、今回は先陣を切る役割として召喚された。

「さらにカードを二枚伏せ、ターンエンド!」

「オレのターン、ドロー!」

 低攻撃力モンスターを攻撃表示で召喚し、それを守るようにリバースカードが二枚。罠であることをを隠す気もない、誘っているかのような明日香のフィールドに、十代は迷わず一枚のカードを選択する。

「オレは《E・HERO ワイルドマン》を召喚!」

 対するはE・HEROの一員であるワイルドマン。通常モンスターも多いヒーローの中で、ワイルドマンは全カードの中でも特異な効果を持っていた。

「どんな罠があろうが、ワイルドマンは罠の効果を受けない! ワイルドマンで攻撃だ、ワイルド・スラッシュ!」

「っ……!」

明日香LP4000→3700

 ワイルドマンが振りかぶった斧剣に対し、明日香は何のカードを発動することなく、《エトワール・サイバー》は斬り裂かれてしまう。最初のターンは明日香が軽いダメージを受け、まずは十代の優勢という結果に終わった。

「カードを一枚伏せ、ターンエンド!」

「……私のターン、ドロー!」

 最初のターンの攻防などいつまでも引きずることはなく、明日香は十代のフィールドを見つつ、ディスクからカードを一枚引いた。

「私は《サイバー・プチ・エンジェル》を召喚。効果で《機械天使の儀式》を手札に加え、発動するわ!」

 デッキから《機械天使の儀式》をサーチするサポートモンスター、《サイバー・プチ・エンジェル》によってサーチされ、息つく暇もなく儀式魔法が発動される。フィールドの《サイバー・プチ・エンジェル》と、手札の《ブレード・スケーター》を素材とし、儀式召喚を執り行うことが可能となる。

「儀式召喚! 《サイバー・エンジェル-弁天-》!」

 そして儀式召喚されたのは、明日香の儀式におけるエースモンスター、《サイバー・エンジェル-弁天-》。二対の扇を双剣のように持ち、ワイルドマンに立ち向かうべく降臨する。

「バトル! 《サイバー・エンジェル-弁天-》で、ワイルドマンに攻撃! エンジェリック・ターン!」

「リバースカード、オープン! 《ヒーローバリア》!」

 ただしその攻撃は、十代のリバースカードから現れた盾が防ぎ。明日香は苦々しげな表情をしながら、《サイバー・エンジェル-弁天-》を自らのフィールドに戻していく。

「私はこれでターンエンド」

「オレのターン、ドロー!」

 確かに攻撃は失敗したものの、明日香のフィールドにはまだリバースカードが二枚残ったまま。先のターンはワイルドマンという奇策で発動がままならなかったが、ワイルドマンでは《サイバー・エンジェル-弁天-》を破壊することは適わない。

「オレは《融合》を発動! フィールドの《E・HERO ワイルドマン》と、手札の《E・HERO ネクロダークマン》を融合!」

 十代はどう攻めてくるか――と考えていた明日香に答えを示すかのように、十代の十八番たる《融合》の魔法カードが発動される。そのカードによって動き出された時空の穴は、フィールドのワイルドマンと手札のネクロダークマンを吸収し、一つの新たなヒーローとしていった。

「融合召喚! 《E・HERO ネクロイド・シャーマン》!」

 姿はヒーローというよりは、その名の通りシャーマンの格好そのものだったが、ともかく新たなE・HEROが融合召喚される。そしてネクロイド・シャーマンが杖を構えて呪文を呟いていくと、明日香のフィールドの《サイバー・エンジェル-弁天-》に異変が起きていた。

「ネクロイド・シャーマンの効果! 相手モンスターを一体破壊し、代わりに墓地のモンスターを特殊召喚する!」

 そう、ネクロイド・シャーマンが唱えた呪術は、明日香のエースモンスター《サイバー・エンジェル-弁天-》に作用し。弁天を破壊する代わりに、明日香の墓地から《サイバー・プチ・エンジェル》を特殊召喚していた。

 明日香にしてみれば、エースモンスターを弱小モンスターと入れ替えられた上に、《サイバー・プチ・エンジェル》のサーチ効果は通常召喚時限定。さらに伏せている罠カードも十全に効果を発揮しない――と、明日香はあることを確信した。

 十代はこちらのリバースカードが何か、ほとんど当たりをつけている。そして、その予想は見事に的中していると。

「さらに《カードガンナー》を召喚し、効果発動! デッキの上からカードを三枚墓地に送り、攻撃力を500ポイントずつアップする!」

 優秀な墓地肥やし能力からすれば、ほとんどオマケのような効果ではあったものの。十代が召喚した《カードガンナー》は、自身の効果で攻撃力を1900とし、明日香への攻撃準備を整えた。

「バトル! 《カードガンナー》で《サイバー・プチ・エンジェル》に攻撃!」

明日香LP3700→2400

 《カードガンナー》の砲口から放たれた札のような形をした銃弾に、あくまでサポートモンスターである《サイバー・プチ・エンジェル》が耐えられるはずもなく。元々のカードである《プチテンシ》と似たようなステータスしかなく、あっさりと破壊されて明日香のライフは削られていく。

「さらにネクロイド・シャーマンでダイレクトアタック! ダーク・シャドウ・ストライク!」

「リバースカード、《ガード・ブロック》を発動! 戦闘ダメージを0にし、カードを一枚ドローする!」

 とはいえ明日香にしても、これ以上の攻撃を受ける訳にはいかず。ネクロイド・シャーマンの一撃は、突如として現れたカードの束が防いでいき、その中の一枚が明日香の手札へと加えられる。

「オレはカードを一枚伏せ、ターンエンド」

「私のターン……ドロー。悪いけど十代、このままじゃ終わらないわよ!」

 これまでのデュエルの流れは地味ながらも、完全に十代がペースを掴んでいる。それはフィールドとライフポイントを見れば、一目瞭然ではあるのだが、劣勢の明日香はまだ闘志を絶やしてはいなかった。

「私は《儀式の準備》を発動! 墓地から儀式魔法《機械天使の儀式》と、デッキからレベル6以下の儀式モンスターを手札に加えることが出来る」

 反撃の狼煙と言っても過言ではない《儀式の準備》。魔法カード一枚で儀式魔法とモンスターを揃えてみせ、再びサイバー・エンジェルの降臨か――と見せかけて。

「私はフィールド魔法《祝福の教会-リチューアル・チャーチ》を発動! このフィールドは、手札の魔法カードを墓地に送ることで、デッキから儀式魔法を手札に加えることが出来る!」

 観客たちが見守るデュエルスタジアムを塗り替えるように、純白の教会がフィールドを支配していく。その効果は明日香が説明した通り、手札の魔法カードを墓地に送ることで、デッキの儀式魔法をサーチする効果。明日香の手札の儀式魔法、《機械天使の儀式》が墓地に送られ、代わりに手札に与えられたカードは。

「サーチした儀式魔法《高等儀式術》を発動! デッキから《神聖なる球体》を三枚墓地に送り、《サイバー・エンジェル-韋駄天-》を儀式召喚!」

 《祝福の教会-リチューアル・チャーチ》を通して、明日香はデッキに眠る《高等儀式術》を手札に引き寄せてみせた。その効果によりデッキのレベル2の通常モンスター、《神聖なる球体》を三体素材にすることで、新たに《サイバー・エンジェル-韋駄天-》を降臨させる。

「《サイバー・エンジェル-韋駄天-》が特殊召喚に成功した時、墓地から魔法カードを手札に加えることが出来る」

 新たに降臨した機械天使こと、《サイバー・エンジェル-韋駄天-》はステータスこと低いものの、その効果は群を抜いて優秀だった。ノーコストでの墓地からの魔法カードの回収により、明日香は再び墓地から《儀式の準備》を手札に戻す。

「よって再び、《儀式の準備》を発動!」

 効果は先程も使われた通り。今度は《祝福の教会-リチューアル・チャーチ》を使うまでもなく、墓地から直接《高等儀式術》を手札に加えていた。ただデッキにはもう、レベル6の儀式召喚に使える通常モンスターはおらず、《高等儀式術》は発動出来ないも同然だが……

「《貪欲な壺》を発動。墓地のモンスターを五枚デッキに戻し、カードを二枚ドロー……そして《高等儀式術》を発動!」

 ――一度デッキに戻してしまえば、何の問題もない。汎用ドローカード《貪欲な壺》を発動し、デッキに《神聖なる球体》を墓地に戻しつつ、更なる《高等儀式術》の発動に繋ぐ。

「…………」

 久方ぶりの明日香とのデュエルだったが。相変わらずのその手際に、十代は知らず知らずのうちに舌を巻く。デッキから墓地に送る《高等儀式術》と、墓地からデッキに戻す《貪欲な壺》が上手く噛み合っており……恐らくまだ終わらないことは、十代にも分かっていた。

「二体目の《サイバー・エンジェル-韋駄天-》を儀式召喚し、効果を発動! もちろん墓地から《儀式の準備》を手札に加え、発動するわ」

 二枚目の《サイバー・エンジェル-韋駄天-》の降臨に、再び《儀式の準備》が使い回される。通算三回目の発動となり、さらにデッキから《サイバー・エンジェル-韋駄天-》と、墓地からは《機械天使の儀式》が手札に加えられ、またもや儀式召喚が執り行われる。

「手札の《サイバー・プリマ》を素材に、儀式魔法《機械天使の儀式》を発動! 三体目の《サイバー・エンジェル-韋駄天-》を、儀式召喚!」

 空っぽだったフィールドがあっという間に、三体の《サイバー・エンジェル-韋駄天-》によって埋め尽くされ、十代をその数で圧倒する。十代のフィールドに立つ《E・HERO ネクロイド・シャーマン》の攻撃力には及ばないが、明日香が今更そんなことを考えていない訳もなく。

「三体目の《サイバー・エンジェル-韋駄天-》の効果で、《貪欲な壺》を手札に加えて発動。二枚ドローし……《フルール・シンクロン》を召喚!」

 さらにこれだけ展開しながらも、主に《儀式の準備》のサーチにサルベージと《貪欲な壺》により、明日香の手札にはまだまだカードがあった。さらに通常召喚権も使われておらず、遂にチューナーモンスター《フルール・シンクロン》が召喚され。

「私はレベル6の《サイバー・エンジェル-韋駄天-》に、レベル2の《フルール・シンクロン》をチューニング!」

 召喚されるや否や《フルール・シンクロン》は光の輪と化し、《サイバー・エンジェル-韋駄天-》のうち一体とシンクロ召喚の態勢に入ると、一際巨大な閃光とともに花弁の騎士となる。

「光速より生まれし肉体よ、革命の時は来たれり。勝利を我が手に! シンクロ召喚! 煌めけ、《フルール・ド・シュヴァリエ》!」

 どこか中世ヨーロッパのような雰囲気を感じさせる、レイピアを構えた白百合の騎士――《フルール・ド・シュヴァリエ》。十代のフィールドにいる《E・HERO ネクロイド・シャーマン》の攻撃力を超え、さらにその効果はこの局面では多大な影響力を持つ。

「さらに《リチュアル・ウェポン》を韋駄天に装備し……随分と待たせたわね。バトルよ!」

 つい前のターンのエンドフェイズ時には、フィールドががら空きだったことが嘘のように。明日香のフィールドには、《リチュアル・ウェポン》を装備した《サイバー・エンジェル-韋駄天-》に、《フルール・ド・シュヴァリエ》、もう一体の《サイバー・エンジェル-韋駄天-》がフィールドに揃っていた。

 ライフポイントを1ポイントすら削られていない十代だったが、それでもモンスターの防御の上からワンショットキル出来るその火力に対し、十代が伏せたリバースカードは僅か一枚。しかも《フルール・ド・シュヴァリエ》には、自分のバトルフェイズ時に発動された相手の魔法・罠カードを、一度だけ無効にする効果がある。よって一枚だけの伏せカードなど、あってもなくても変わらない程度のものだ。

 そのことまで見抜いていた者も、単純に明日香の行った大量展開に驚いた者も、例外なく観客たちはその光景に感嘆していく。明日香の一発逆転――だと誰もが思った、その瞬間。

 姿が小さくて目立たなかったが、十代のフィールドに、新たなモンスターが現れていたことに気づいた。

「速攻魔法《クリボーを呼ぶ笛》を発動していた! デッキから《ハネクリボー》を守備表示で特殊召喚する!」

 《フルール・シンクロン》と《サイバー・エンジェル-韋駄天-》がシンクロ召喚に入っている時、観客たちがその美しい閃光に目を奪われている間に、十代は自身の最も信頼するカードを特殊召喚していた。いくら《フルール・ド・シュヴァリエ》といえども、自身がシンクロ召喚する前のカード効果は無効化出来ず、明日香もそれを承知で《リチュアル・ウェポン》で火力を高めていた。

「バトル! 《サイバー・エンジェル-韋駄天-》で、ネクロイド・シャーマンを攻撃!」

十代LP4000→2900


 レベル6以下の儀式モンスターという制約はあるものの、攻撃力を1500ポイントアップする、という恐るべき装備魔法《リチュアル・ウェポン》。その効果を得て、攻撃力を3100にまで昇華させた《サイバー・エンジェル-韋駄天-》は、あっさりとネクロイド・シャーマンを切り裂いた。

「さらに《フルール・ド・シュヴァリエ》で、《カードガンナー》に攻撃! フルール・ド・オラージュ!」

「ぐっ……!」

十代LP2900→600

 さらに痛烈な一撃。攻撃力の上昇はエンドフェイズ時までの《カードガンナー》は、相手ターンになれば元々の低い攻撃力を晒してしまう弱点があった。そこを突かれ、十代のライフポイントは一気に限界域まで落ち込んだ。

「……《カードガンナー》が戦闘破壊された時、カードを一枚ドロー出来る」

「最後の《サイバー・エンジェル-韋駄天-》で、《ハネクリボー》を攻撃するわ」

 とはいえ十代も、転んでもただではおかない。《カードガンナー》は破壊された時一枚ドローすることができ、明日香のワンショットキルは《クリボーを呼ぶ笛》で特殊召喚していた、《ハネクリボー》がギリギリのところで防ぐ。もしも《ハネクリボー》がいなければ、この攻勢の前に手も足も出なかったかと思えば、ゾッとするところではあったが。

「……私はカードを一枚伏せ、ターンエンド!」

「オレのターン! ……ドロー!」

 ――どちらにも同じだけ逆転の手が残されているのが、このデュエルモンスターズというカードゲームである。このデュエル始まって以来の叫び声をあげ、十代はさらにカードをドローする。

「オレは《ヒーローアライブ》を発動! ライフポイントを半分にすることで、デッキからE・HEROを特殊召喚出来る! 来い、《E・HERO フェザーマン》!」

十代LP600→300

 十代のフィールドには、今し方《ヒーローアライブ》で特殊召喚した《E・HERO フェザーマン》のみ。リバースカードもなく、ライフポイントはさらに半分にしたことで、まさに風前の灯火という言葉が相応しかった。

 対する明日香のフィールドは、《リチュアル・ウェポン》を装備した《サイバー・エンジェル-韋駄天-》に、《フルール・ド・シュヴァリエ》、もう一体の《サイバー・エンジェル-韋駄天-》。さらにフィールド魔法《祝福の教会-リチューアル・チャーチ》に、リバースカードが二枚。ライフポイントは2400と、序盤の苦戦が嘘のような優勢だった。

「頑張れアニキー!」

「通常魔法《闇の量産工場》を発動し、墓地から二枚の通常モンスターを手札に加える」

 観客席から耳をつんざくような剣山の応援の声が響き、十代は墓地から二枚の通常モンスター――十中八九E・HEROモンスターが手札に加えられる。十代が明日香に勝っている点があるとすれば、《カードガンナー》によって肥やされた墓地と、まだまだ本領を発揮していなかった残る手札。それらが逆転のためにフル回転していく。

「そして魔法カード《HERO'S ボンド》を発動! 手札から二体のE・HEROを特殊召喚する!」

 先の《闇の量産工場》の効果によって加えた二枚であろう、《E・HERO バーストレディ》に《E・HERO クレイマン》が、《HERO'S ボンド》の効果によってフィールドに特殊召喚される。

「さらに《ENシャッフル》を発動! フィールドのE・HEROを墓地に送ることで、その数だけデッキからネオスペーシアンを特殊召喚出来る! 来い、ネオスペーシアン!」

 そしてフィールドに揃ったE・HEROたちは、魔法カード《ENシャッフル》によりリリースされ、代わりに三体のネオスペーシアンたちがフィールドに揃う。グラン・モールにフレア・スカラベ、ブラック・パンサー――いずれも魂を持った精霊たちは、十代の呼びかけに応え見参する。

「《スペーシア・ギフト》を発動! 自分フィールドのネオスペーシアンの数だけ、カードをドロー出来る。よって三枚のカードをドロー!」

 そしてドローソースたる《スペーシア・ギフト》に繋ぎ、十代はネオスペーシアンたちの力を借りたことにより、その効果でカードを三枚ドローする。そして十代のフィールドに、半透明のE・HEROが浮かび上がった。

「墓地に《E・HERO ネクロダークマン》がいる時、一度だけ上級E・HEROをリリース無しで召喚出来る。現れろ! 《E・HERO ネオス》!」

 ――遂に現れる十代のエースモンスター……《E・HERO ネオス》。フィールドに光とともに現れたその姿は、まさしく英雄と呼ぶに相応しい姿だった。

 そしてフィールドには、ネオスに力を与えるネオスペーシアンたちがいる。

「ネオスとグラン・モール、フレア・スカラベで、トリプルコンタクト融合!」

 ネオスとネオスペーシアンたちにのみ許された、コンタクト融合と呼ばれるその《融合》を使わない融合召喚法。三体のモンスターがネオスを中心に集まっていき、フィールドに比較しようのない熱気を浴びせていく。

「《E・HERO マグマ・ネオス》!」

 大地のグラン・モールと灼熱のフレア・スカラベの力を借り、マグマの力を借りたネオス――現段階では最強のコンタクト融合体。その効果はフレア・スカラベの効果を正しく受け継いでおり、十代のデッキにおいても最大火力を誇る効果だった。

「フィールド魔法《ネオスペース》を発動し、マグマ・ネオスの攻撃力はさらに500ポイントアップする! よって攻撃力は――」

 《祝福の教会-リチューアル・チャーチ》が支配していたフィールドが、半分だけネオスの生まれ故郷である《ネオスペース》へと変化していく。《ネオスペース》の中では、ネオスは十全の効果を発揮することになり、その攻撃力を500ポイントアップする。

 それにマグマ・ネオスの効果である、フィールドのカード×400ポイント攻撃力がアップする、という効果が加わり――

「――6100」

 デュエルディスクが算出したその数値は、明日香のフィールドのどのモンスターをも軽々と超えており。ライフポイントを丸ごと焼き尽くすことの出来る、そんな数値だった。

「そんな……!」

「《N・ブラック・パンサー》の効果を《フルール・ド・シュヴァリエ》を対象に発動し、バトル! マグマ・ネオスで《サイバー・エンジェル-韋駄天-》に攻撃! スーパーヒートメテオ!」

 狙うは《リチュアル・ウェポン》を装備していない、最も攻撃力が低い《サイバー・エンジェル-韋駄天-》。十二分にライフポイントを焼き尽くすその火力が、隕石の如く明日香に迫るが――明日香のフィールドには、まだ最初のターンから伏せられたままの罠カードがあった。

「リバースカード、オープン! 《ドゥーブルパッセ》!」

 最後まで残されていたそのリバースカードは、明日香の代名詞とも言える罠カード。相手モンスターの攻撃を直接攻撃に変更する代わりに、攻撃対象となったモンスターの攻撃力分のバーンダメージを相手に与え、次なるターンで直接攻撃を可能とする。まさに明日香らしい攻撃的な効果であり、自分が直接攻撃を受けるより先に相手にダメージを与えるため、ギリギリの局面ならばバーンダメージを受けた相手が敗北する。

 ――だが明日香のリバースカードは、まるで影のように真っ黒な《フルール・ド・シュヴァリエ》に切り裂かれ、効果の発動も許さずに破壊されてしまう。もちろん明日香が操る《フルール・ド・シュヴァリエ》が裏切った訳ではなく、それは十代の《N・ブラック・パンサー》が変化した姿。

「《フルール・ド・シュヴァリエ》になったブラック・パンサーの効果! 一度だけ相手のカード効果を無効にする!」

 《N・ブラック・パンサー》の効果。それは相手モンスター一体に変化することで、そのモンスター効果と名前を得ることが出来る。その効果により《フルール・ド・シュヴァリエ》の効果を得たブラック・パンサーは、明日香の発動した《ドゥーブルパッセ》の効果を無効にする……奇しくも、明日香が先程やろうとしたことを、そのまま十代が返した形となった。

 そしてマグマ・ネオスは、《サイバー・エンジェル-韋駄天-》に直撃していき――

「リバースカード、オープン! 《闇よりの罠》!」

 ――まだだ、まだだ。そう明日香は言わんばかりに、明日香の気迫をカードが代弁するかのように。最後のリバースカードが発動され、明日香が墓地から一枚のカードを回収する。

「このカードは自分のライフポイントが3000以下の時、1000ポイントを払って発動出来る罠カード。墓地の通常罠カードを除外する代わりに、このカードはその除外したカードの効果を得る!」

明日香LP2400→1400

 つまりは墓地の罠カードのコピー。《闇よりの罠》というカードの効果は、明日香が墓地から取り出したカードにより決定する。そのカードとはもちろん――

「――《ドゥーブルパッセ》!」

 ソリットビジョンに映った《闇よりの罠》のカードが、一瞬にして《ドゥーブルパッセ》へと書き換えられる。よってマグマ・ネオスの攻撃は明日香の直接攻撃となり、《サイバー・エンジェル-韋駄天-》は十代へと直接攻撃を与える。その一撃が届くのは《サイバー・エンジェル-韋駄天-》の方が早く、《ドゥーブルパッセ》の効果が適応される。

「…………?」

 そこで明日香は気づく。隕石のような形となって《ネオスペース》から降り注ごうとしていた、マグマ・ネオスの姿がどこにもない。……いや、見つけた。宇宙のように遠い空中から迫るソレは――

 ――三つのモンスターへと分離していた。

「速攻魔法《コンタクト・アウト》」

 十代が最後に手札から発動した速攻魔法は、コンタクト融合専用の《融合解除》。そのカードによってマグマ・ネオスの融合は解除され、ネオスにグラン・モール、フレア・スカラベの三体に分離していた。それが意味することとは――

「バトルの……中断!」

 明日香が愕然とした声をあげるとともに、発動していた《ドゥーブルパッセ》――《闇よりの罠》は消えていく。相手モンスターであるマグマ・ネオスが消え、《サイバー・エンジェル-韋駄天-》が攻撃対象でなくなった以上、もはや《ドゥーブルパッセ》は空撃ち同然となり、その存在をフィールドに保ってはいられない。

「私の負け、ね……」

 消えていく《ドゥーブルパッセ》とこちらに迫る、《ネオスペース》によって強化されたネオス――何しろ、まだバトルフェイズは終わっていない――を見て、明日香は自らの敗北を悟って呟いた。

「ネオスで《サイバー・エンジェル-韋駄天-》に攻撃! ラス・オブ・ネオス!」

 でも楽しかった。

明日香LP1400→0


 ……でも、次は負けない。


『――決着! 皆様、両決闘者に惜しみない拍手を!』

 強化されたネオスの勢いをつけた一撃に、明日香がジャストキルをくらった形で決着がつく。残っていたソリットビジョンが消えていき、万雷の拍手の中で明日香は一息ついた。

「ありがとう十代。楽しかったわ。……次もこうはいかないわよ」

「オレは――っ!?」

 それでも掛け値なしに楽しいデュエルだった。そう確信した明日香は、対面の十代にどうだったか訪ねるものの、十代は何かに気づいたように明後日の方向を見た。

「十代……?」

「っ!」

 明日香の呼びかけにも答えることはなく、十代は構わずデュエルスタジアムから走り去ってしまう。これから優勝者インタビューをやろうとしていた吹雪などを無視して、とにかくどこかへ真っすぐ走っていく。

「ちょ、ちょっと待ちなさい……十代!」

 ざわめく観客の中、明日香もその後を追っていった――


「あ、あなた……誰……?」

 ……渾身のラブデュエルに敗れたレイは、スタジアムの外で一人涙を流していた。今度こそ勝つと意気込んだデュエルは、想い人とその恋人のコンビネーションを見せつけられる、という結果に終わったのだ。

 想い人が追いかけて来ないところを見るに、恐らく剣山が決勝戦だのと理由をつけて引き止めてくれたのだろう。その優しさに感謝しながら、涙を拭ってデュエルスタジアムにレイが帰ろうとした瞬間――その男はそこに立っていた。

 まるで気配のない、サングラスをした薄気味悪い男。明らかにアカデミアの関係者でない、いや、人間でもあるかどうか分からないその男は――レイにニヤリと笑いかけた。

「真実を語る男。トゥルーマン」
 
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