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誘惑

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3部分:第三章


第三章

「それだったらな」
「優勝させられないだろ」
「あのチームに絶対ってことはないからな」
 悪魔も言う。とにかく阪神というチームには絶対はない。絶対に優勝できるような状況でもだ。それが適わないのが阪神なのだ。
「ケンタッキーのおっさんの呪いよりもえげつない呪いがもうかかってるんだよ」
「最初からかかってたのかよ」
「甲子園なめるなよ」
 他ならぬ阪神の本拠地である。
「魔物がいるんだよ、魔物がな」
「悪魔より強いのかよ、あの魔物は」
「強いな。魔神クラスだ」
 レメゲトンに封印されていたその七十二柱の魔神だというのだ。
「洒落になってないな」
「そこまで強かったのか、あそこの魔物は」
 まさにそこまでだというのだ。
「しかも只の魔神じゃなくて相当高いランクのな」
「阪神もまた厄介なのに呪われてるな」
「だからそれは諦めろ」
 阪神の優勝についてはだというのだ。
「おいら程じゃ無理だ。それこそ天地がひっくり返る様な話だからな」
「じゃあいいさ。まあ流石にそれは無理だと思ったしな」
「そうだよ。それでな」
「願いだな」
「本当に何にするんだよ」
 悪魔はあらためて問うた。
「女も金も仕事も食い物も阪神もいいっていったらよ」
「服もあるしな」
「あんたその服趣味悪いな」
 悪魔から見ればだ。ブルゾンとレザーパンツは趣味に合わないというのだ。
「今時その格好なんてな」
「悪いかよ」
「少なくともおいらの趣味じゃないな」
「けれど服はこれでいいからな」
「そうか。着るものにも興味はないんだな」
 いよいよだ。悪魔にとっては手詰まりになってきた。
「何かないない尽くしだな」
「俺は満ち足りてるけれどな」
「おいらはないんだよ」
 悪魔自身の話だ。確かに彼にとってはそうだった。
「全くよ。どうしたものだよ」
「諦めたらどうだ?」
「あんたと契約することかよ」
「ああ。願いは阪神の優勝位だけれどな」
「それは絶対に無理だしな」
「じゃあ諦めろよ」
 本当に素っ気無く言う雄太郎だった。
「契約しなくても生きられるんだしな」
「困ったな。これじゃあノルマがなあ」
 悪魔もだ。雄太郎があまりにも素っ気無いからだ。
 腕を組んで胡坐をかいて浮かびながらだ。こう言うのであった。
「何とかならないかね。契約っていっても代償は大したことないんだよ」
「魂じゃないっていったよな」
「ああ、髪の毛な」
 ここでこの話になった。
「髪の毛を貰う位だな」
「髪の毛?」
「そうだよ。実は俺の上司が今髪の毛が薄くなって困ってるんだよ」
「悪魔でも禿げるのかよ」
「っていうか悪魔の世界は人間よりもずっと禿が問題になってるんだよ」
「初耳だな」
「それこそフランスかドイツ以上にな」
 禿が問題になっているその両国よりもだというのだ。
「チーズとかビールって髪の毛にはよくないみたいだな」
「ふうん、髪の毛な」
「魂なんてそいじょそこいらの悪党の魂を適当にちょろかまかしたらいいしな」
 それで手に入れているというのだ。魂はだ。
「天界の奴等が拾わない屑の魂な。おいら達にとっちゃそうした魂の方がいいしな」
「だから魂を要求しなかったんだな」
「そういうことだよ。それで髪の毛が欲しいんだけれどな」
「何か凄く切実な話だな」
「ちょっとでいいんだよ」
 悪魔は言った。
「髪の毛な。貰えるか?」
「羊の毛じゃ駄目か?」
「駄目だよ」
 悪魔はそれはすぐに駄目出しをした。
 
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