FAIRY TAIL~水の滅竜魔導士~
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真心が紡ぐもの
前書き
最近思ったが、妖精たちの罰ゲーム、太陽の村のストーリーが終わった直後に入れるのもありなんじゃないかと思った。それなら罰ゲーム終わった後にすぐに冥府の門編に入れるし。
むしろ冥府を進めている間に日常編に付け加えておく手も考えてたりします。理由?OAD発売前に日常編が終わりそうだからです。マジで。
ある日のマグノリアにて・・・
「いってきま~す、と」
いつものように朝食を済ませ、家の鍵を閉めてギルドへと向かう。すると、前方からこちらへと歩いてくる二つの人影を発見した。
「おはようございます、ビスカさん、アルザックさん」
それは同じギルドの仲間であり、妖精の尻尾の中でも数少ない夫婦であるビスカさんとアルザックさんだった。
「おはようシリル」
「これからギルドにいくのかい?」
「はい、そうですよ」
新婚ホヤホヤというわけではないのに、そう思わせるような手の繋ぎ方をしている二人。七年前は相手を意識しているだけで恋愛に発展するような感じもなかったのに、今となってはいつまでもラブラブな夫婦なんだろうなと思ってしまう。
「あれ?アスカちゃんはどうしたんですか?」
彼女たちの子供であるアスカちゃん。彼女はまだまだ子供ではあるが、ギルドによく顔を出すこともあって遊ぶことが多い。年齢が近いメンバーが少ないこともあるのだろうけど。
「アスカはナツにお守りをお願いしたの」
「やっぱり仕事に連れてくのは危ないからね」
普段は依頼にアスカちゃんを連れていくこともある二人。だけど、魔導士の仕事は危険だし、子供を守りながらそれを達成するのは難しい。だから頭のレベルが同じくらいのナツさんに今日は子守りを任せて仕事に出掛けるようだ。
「そうなんですか。気を付けてくださいね」
俺がそう言うと二人は一言二言言葉を交わした後、街の外に出るために歩いていく。指を絡ませ歩いていくその後ろ姿を見ていると、まるで付き合い始めのカップルのようにも見てとれる。そんな二人を羨ましく思いながら、踵を返してギルドへと向かった。
「おはようウェンディ」
ギルドに着いた俺は真っ先に一人の少女の元へと歩いていく。
「おはよー!!シリル」
俺が挨拶すると、いつものように笑顔でそれを返してくれるのは恋人であるウェンディ。いつもはシャルルとセシリーと一緒にいるのだけど、今日は二人がハッピーとお話ししてるみたいだから一人でリクエストボードを見ていたようだ。
「ナツ!!おかわり!!」
カウンターの方から俺たちよりもさらに幼い声が聞こえてくる。そちらに視線を向けると、そこにはビスカさんたちの言った通り、ナツさんとアスカちゃんが二人で座ってジュースを飲んでいるようだった。
「あれ?アスカちゃん、今日はナツさんと二人なの?」
その様子を見て首を傾げる天竜。いつもはビスカさんたちがそばにいて、ナツさんと二人で遊んでるなんてなかなかないから珍しいと思うよね。
「ビスカさんとアルザックさんはお仕事にいってたよ。だからナツさんにお守りをお願いしたんだって」
「あ、そうだったんだ」
俺が事情を話すとすぐに納得するウェンディ。その間にナツさんとアスカちゃんがジュースのおかわりのことで何やら話していたけど、大丈夫なのかな?
少し心配になってきた俺とウェンディは、しばらく彼らのやり取りを見ていることにした。
「次はおいしいケーキが食べたい!!」
「ケーキ?んなもんここにあったっけか?」
ジュースのおかわりは夜が大変になるからということでナツさんが止める。すると彼女は、カウンターにいるミラさんにそう言う。だけど、うちにケーキなんて置いてたっけ?全然記憶にないや。
「あるよ。前にここで食べたもん」
どうやら以前にもケーキをギルドで食べたことがあるらしいアスカちゃん。もしかしてエルザさんが時おり食べてるケーキってここに置いてある奴なのか?てっきり自分で買ってきてるのかと思ってた。
「ごめんねアスカちゃん。今日はもう売り切れちゃったのよ」
「えぇ!?」
どうやら今日の分のケーキは売り切れてしまったらしい。それを聞いたアスカちゃんは残念がっている。
「残念だったな。また今度ってことで」
「じゃあナツ!!あっちのケーキ屋さんで買ってきて!!」
「んな面倒なことできるか!!」
ケーキをどうしても諦めきれない様子のアスカちゃんがナツさんにそう言う。でもナツさんはケーキ屋さんまで行くのが嫌らしく、あっさりと却下されていた。
「ねぇシリル!!私たちでケーキを作ってあげない?」
そのやり取りを見ていたウェンディが俺の方を向きながらそんな提案をしてきた。
「そうだね。やってみよっか」
「うん!!」
ケーキは何度も作ったわけじゃないけど、それなりにやり方は覚えてるし、大丈夫なんじゃないだろうか。そう思った俺とウェンディはカウンターに座っているナツさんの方へと歩いていく。
「ナツさん。ケーキなら、私たちが作りましょうか?」
「え・・・お前らそんなもん作れんのか?」
ウェンディの提案に心底驚いているナツさん。ミラさんとアスカちゃんも少し意外そうな顔をしている。
「何回か本を見ながら作ったことはありますよ」
「そんなに自信があるわけじゃですけど・・・頑張ります!!」
やる気満々のウェンディが可愛らしいポーズを決めながらそう言う。俺も自信はあんまりないけど、アスカちゃんのために頑張ってみようかな。
「まぁ、おいしいケーキになる確率は・・・三割ってとこかしら」
「それって高いの~?低いの~?」
ナツさんの隣でハッピーとジュースを飲んでいたシャルルとセシリーがそう言う。その話を聞いていたのか、彼女たちの後ろで誰かが立ち上がる音が響いてくる。
「いいだろう。そこまでいうなら私も協力しよう」
「何も言ってないんだけど・・・」
「幻聴とか~?」
突然立ち上がってケーキ作りに参加することになったエルザさん。シャルルとセシリーは彼女の発言に突っ込んでいたが、そんなことなど気にすることなくエルザさんがこちらにやって来る。
「やるからには、フィオーレ一のケーキを作らねばならんな、シリル、ウェンディ」
「「え!?」」
いきなり掲げられた高すぎる目標。あまりにも唐突に目標を設定された俺たちは、驚き、中途半端な返事になってしまった。
「あ・・・はい!!」
「が・・・頑張ります!!」
だが、彼女の目が本気だったことと、期待した目で見つめてくるアスカちゃんに負けてしまい、思わず返事し直してしまった。急にプレッシャーがかかってきたね、ケーキ作りで。
「お前は、自分が食べたいだけじゃないのか?」
「それには、一万年に一度しか身をつけないという黄金のイチゴ『マキシマムスイートストロベリー』が必要だ」
「人の話聞いてないし」
「てか話大きくなりすぎ~!!」
椅子の背もたれからヒョコッと顔を出し、エルザさんに話しかけるリリー。だけど、彼女はケーキのことしか頭にないらしく、どんどん一人で話を進めていく。
「早速狩りに出発するぞ!!」
「狩りって・・・イチゴ狩りか?」
ついにはマキシマムスイートストロベリーを手に入れるためにイチゴ狩りに出掛けることにしたエルザさん。彼女は腰に手を当てると、背もたれから顔を覗かせるリリーの方を向く。
「何をしている準備を急げリリー」
「何!?何で俺が!?」
「なんとなくだ!!」
「胸張って言うところじゃないですよ」
ケーキ作りに参加するとすら言ってないのに、狩りのメンバーに駆り出されたリリー。その理由もエルザさんの気まぐれらしく、俺は思わず突っ込んでいた。
「面白そうだ!!俺もついてってやるよ!!」
ナツさんはイチゴ狩りに付いていこうと席を立とうとする。しかし、隣に座るアスカちゃんが寂しそうな表情で彼の服の袖を掴んでいた。
「ナツはアスカと遊ぶんでしょ!!」
「え・・・あぁ、そうだったな」
頬を膨らませているアスカちゃんと残念そうにしているナツさん。なんだか歳が離れた兄妹みたいだな。
「では、私はスポンジケーキを焼いて置きます!!」
「じゃあ俺はホイップクリームだな」
イチゴはエルザさんとリリーに任せて、彼女たちがそれを取りに行っている間に俺たちはケーキの土台となるスポンジケーキとホイップクリームを作ることにした。
「よし!!では頼んだぞ!!ではいざ出発だ!!リリー!!」
「え・・・いや!!おい!!なぜ俺!?」
有無を言わさずリリーを抱き抱えたエルザさん。そのまま納得が行かないリリーを脇に抱えたまま、彼女はイチゴ狩りへと出掛けたのだった。
「じゃあ!!早速始めよっか?」
「だね」
小さくなっていく二人の背中を見送った俺たちは、ケーキ作りのためにカウンターへと入る。
「じゃあナツ!!ケーキができるまで遊ぼ!!」
「おう!!何すッか!?」
恐らく相当時間がかかることになるだろう今回のケーキ作り(主な理由は間違いなくイチゴ狩りだが・・・)なのでアスカちゃんとナツさんにはしばらく遊んでいてもらうことになった。
「んじゃまずは・・・」
スポンジケーキの生地を作っているウェンディの隣に立つと、大きいボールと中くらいのボールを用意して・・・
「シリル!!ウェンディ!!エプロン持ってきたわよ」
カウンターの中をガサゴソと漁っていたミラさんが両手に予備として置いているのであろエプロンを持ち、俺たちに見せてくる。片方は薄い黄緑色に首元に青いリボンがついたもので、もう片方はピンクに赤いリボンが付いていた。
「ありがとうございます!!ミラさん」
笑顔で黄緑色のエプロンを手に取るウェンディ。だが俺はミラさんが出しているそれを取る気になれない。
「あらシリル。どうしたの?」
「いや・・・どうしたもこうしたもないんですけど・・・」
なぜ受け取らないのかわからず首を傾げるミラさん。彼女が持ってきたのは胸のところがハートの形になっている、メイドとかが着る形のエプロンなのだ。つまり男である俺が着るものではない。
「お料理するときは、エプロンをするのが常識よ」
「それはウソだ!!」
家で料理するとき、俺はエプロンなんか着けてないぞ!!非常識と言われればそれまでだけど、ここはプライド的に負けるわけにはいかない。
「ほら。シャルルとセシリーも着てるのよ」
「へ?」
ミラさんが後ろに視線をやると、そこには今ミラさんが持っているものと同じエプロンに身を包んでいるシャルルと、ウェンディがもらっていたものと同じ色合いのものに袖を通しているセシリーがいた。
「あら。意外と可愛いじゃない」
「どう~?似合う~?」
いつの間に彼女たちもケーキ作りに参加することになったのかはさておき、二人のサイズに合うエプロンがあること自体が驚きなんだ。ケツプリ団の衣装もそうだったし、初めから彼女たち専用のエプロンも作られているということなのだろうか。
「どうシリル?似合う?」
一体何がなんだかわからなくなっていると、後ろからエプロンに身を包んだと思われる少女から声をかけられる。その姿を見ようと振り向くと、そこには文字通り天使がいた。
「おぉ・・・」
さすがにウェンディなだけあり、可愛らしく着こなしている。しかも持っているのが泡立て器なため、お菓子作りに一生懸命な女の子にしか見えない。いや、事実そうなんだけど。
「変かな?大丈夫かな?」
俺が何も言わないので似合ってないと思ってしまった様子の彼女。まずいまずい。似合ってるんだからそう言わないと。
「ううん。超可愛いよ、ウェンディ」
「えへへへ/////ありがとう」
顔を赤らめてハニカム天竜。それを聞いた彼女は満足したのか、ミラさんが持っているエプロンを受け取ると、俺の方へと両手で持って見せてくる。
「じゃあ次はシリルが着る番だね」
「うん・・・ん?」
ニコッと笑顔で言われたために同じように笑顔でうなずいた後、なんだか彼女の言葉がおかしかったような気がしたために目を見開く。
「今・・・なんて言ったの?」
俺はてっきり「どっちの色が似合うかな?」と聞いてくると思ってたのに、何か別の・・・彼女の口から発してほしくない言葉が聞こえた気がした。
「次はシリルが着る番だねって言ったの」
「あはははは。面白いジョークだ・・・」
ねと続けようとしたが、彼女の目を見て言葉を飲み込まざるを得なくなる。よく見たら目が本気だ。あれは本気の目だ。
「この間ルーシィさんとジュビアさんのポーズ対決の時、お胸見てたよね?」
「へ?」
ポーズ対決って・・・女子力対決の時のことか!?まさかその時に俺が何かをやらかしたということなのか!?
「ま・・・待ってウェンディ!!俺はそんなとこ見てない!!」
後ずさりながらウェンディにエプロンを引っ込めるように懇願する。俺は二人のお胸なんか見てない。絶対ウェンディの気のせいだ。なのに、彼女はそれに納得してくれない。
「ウソ!!絶対見てた!!」
「見てないって!!」
「二人のこと見つめてたもん!!」
確かに見つめてはいた。だけどそれは審査のためであって下心があったわけじゃない。少しだけ見入ってしまってたような気もするけど、ギリギリセーフなはずだ。
「やっぱりシリルも大きい方がいいの?」
怒っていたかと思えば、突然シュンとした様子でこちらを上目遣い気味に見つめているウェンディ。それを見て俺はようやく理解した。ウェンディは怒ってるんじゃなくて、ただ俺の気持ちが自分じゃない、誰か別の人のところに行ってしまうのが嫌だっただけなのだと。
それを悟った俺は、目の前の少女をギュッと抱き締める。
「し・・・シリル?/////」
いきなり抱き付かれたウェンディは何事なのかと頭の理解が追い付いていないようで、俺の腕の中で顔を火照らせ、動けなくなっている。
「不安にさせたならごめん。でも、俺はウェンディのこと大好きだから。安心して」
耳元でそう囁き、皆さんからは見えない角度で頬に口付けをする。それと同時に、彼女の体温がみるみる上昇していくのを感じる。
「ちょ・・・シリ・・・/////」
ポフンッ
「え?」
名前を呟きかけたところで、何かが破裂するような、妙な音がすぐ近くから聞こえたため、腕の中にいる少女を離し、彼女の顔を見つめてみる。すると、ウェンディがオーバーヒートしたのか、今までにないくらい顔を赤くして頭の先から湯気を出し、明らかに意識が飛んでいることに気付いた。
「うおっ!!ウェンディ!?」
まさか過ぎる展開に動揺する。それを見ていたシャルルとセシリーがこちらへとすぐさま飛んできていた。
「落ち着きなさいシリル!!」
「すぐに冷やして冷まさないと~!!」
「そ・・・そっか!!」
アドバイスをくれる二匹の猫。冷やすんだったら簡単だ。俺はブレスの要領で口に魔力を溜めると、いつもとは違いダメージを与えない気を付けつつ、ウェンディの顔へと水を発射する。そうしたら、
バチンッ
頭にものすごい衝撃が走った。
「いった~!!」
頭を押さえようとしたが、それだとショートしているウェンディを離してしまうことになるのでギリギリのところで堪える。そのまま頭上を見上げると、そこにはハリセンを持ったシャルルとセシリーが翼を出して飛んでいた。
「何するんだよ!!」
「「何するんだよ」じゃないわよ!!」
「そんなことしたらウェンディ死んじゃうでしょ~!!」
二人に言われて気付いた。確かに水なんかで冷やしてたら息できなくなっちゃうな。焦りすぎた。
仕方ないのでウェンディをしばらく寝させておき、ケーキ作りは俺たち三人で行っておくことになった。
「エルザとリリーが出掛けていったけど、どこに行ったの?」
「イチゴ狩りです」
「えぇ!?イチゴ狩り!?」
「マキシマムスイートストロベリーというのを摘みに行きました」
しばらくして、ウェンディも目覚め四人でケーキ作りをしている俺たちの元に、ルーシィさんがやって来てそんな話をしていた。そしてそのすぐそばでは、ナツさんとアスカちゃんが的当てゲームで遊んでいた。
「わ~い!!アスカの勝ち!!」
どうやら的当てゲームはアスカちゃんの完勝で決まったらしい。さすがにビスカさんとアルザックさんの娘なだけあって、射撃の腕は上級者のようだ。
「ナツ!!このまま公園まで走って!!」
「外走らす気か!?」
負けた罰としてアスカちゃんにお馬さんごっこをさせられているナツさん。調子に乗ったアスカちゃんは公園までお馬さんごっこしながら向かうことにしたらしく、ナツさんも諦めて四つん這いのまま外へと駆けていった。
「よし!!後はオーブンで焼くだけ」
俺がよそ見をしていると、ウェンディがスポンジケーキの生地を作り終えたらしく、あらかじめ熱しておいたオーブンへとそれを入れる。
「シリル!!ホイップクリームはどう?」
「順調に仕上がってきてるよ」
大分泡立ってきているクリームをウェンディに見せる。スポンジケーキも問題なさそうだし、これはうまくできそうな気がするぞ。
「ところでさ・・・」
そんな中、俺はずっと気になっていたことがある。いや、たぶんウェンディも違和感を感じているはずだ。
「「二人は何やってるの!?」」
気になっているもの、それは何やらフルーツ用の缶詰をカウンターの上に並べているシャルルとセシリー。一体何をしているのかと問うと、二人は顔を見合わせた後、解答する。
「エルザとリリーがイチゴを取れなかった時のためよ」
「備えあれば憂いなし~!!」
どうやら彼女たちはイチゴ狩りにいった二人がちゃんと目当てのものを持ってこれなかった時のために、フルーツ缶を用意しているみたいだ。準備がいいのか手伝うことがなかっただけなのか。
チンッ
二人の行動に突っ込みを入れていると、先程オーブンに入れたスポンジケーキが完成したらしい。早すぎる?そこはご都合主義と言うやつで。
「うん!!スポンジケーキはうまく焼けたと思う」
オーブンからそれを取り出し、いい色合いになっているスポンジケーキを見て軽く拍手するウェンディ。その一つ一つの動作が愛らしいです。
「じゃあ先にクリームだけでもデコレーションしとく?」
「そうだね」
ホイップクリームも完成したので、先にスポンジケーキにクリームを塗っておくことにした俺たち。
「後はイチゴか・・・」
「エルザさんたち、イチゴ見つかったかな?」
スポンジケーキを三つにスライスしながらなかなか戻らないエルザさんとリリーのことを考えている。
スライスしたケーキにこれでもかとホイップクリームを塗っていき、その上にスポンジケーキを重ねて塗るのを繰り返す。
「「できたぁ!!」」
真っ白にコーティングされたケーキを見て二人の声が重なる。全体を確認してみても塗り残しもないし、完璧な出来映えだな。
「ウッホー!!」
達成感に浸っていると、突然ギルドの扉が勢いよく開く。そこにいたのは、大量のバルカン。
「バルカン!?」
「なんでこんなところに!?」
突然の来訪者に騒がしくなるギルド。だけど、先頭にいるバルカンが抱えている女性を見て、それはすぐに収まった。
「ご苦労だった!!帰ってよし!!」
「ウッホー!!やっと解放されるぅ!!」
リリーを抱えたエルザさんを床へと降ろしたおサルさんたちは、大喜びで街から離れていく。あの人バルカンたちに何をしたんだ?
「おかえりなさい、エルザさん」
「イチゴはどうなったの?」
「マグナムなんちゃらかんちゃら・・・」
「マキシマムスイートストロベリーだ」
何事もなかったかのように平然とエルザさんを出迎えるウェンディたち。このギルドは明らかに突っ込み担当が少ない気がするのだが・・・気のせいか?
「ふっふっふっ。見よ!!」
不敵な笑みを浮かべ、ワイングラス取り出すエルザさん。その中には、金色に光るイチゴが一つ大切に入れられていた。
「「「「オオッ!!」」」」
初めて見る色のイチゴに驚きを隠せない俺たち。確かにとっても美味しそう!!
「じゃあ、早速盛り付けを・・・」
「待てぇーい!!」
彼女が取ってきたイチゴを準備しておいたケーキへと盛り付けようとすると、なぜかストップをかけられる。
「どうしたんですか?」
「まずは二人がどれだけのケーキを作ったかを確認せねばなるまい」
言葉使いは侍のようだが、その目は明らかに違う。ただケーキを食べたいだけの乙女のそれを連想させる瞳をしていた。
というわけで、彼女に作ったケーキを試食してもらう。すると・・・
「ダメだダメだ!!これではフィオーレ一のケーキとは言えん!!作り直し!!」
「「えぇ!?」」
自信満々だっただけに、まさかのダメ出しに叫ぶ俺たち。てか本気でフィオーレ一のケーキを作ろうって考えてたんだ!?パティシエをなんだと思ってるんですか!?
「「「ただいまぁ!!」」」
日が落ち、辺りが夕焼けに染まり始めた頃、お馬さんごっこをしながら公園へと遊びに出掛けていたナツさんたちが帰ってきた。
「ダメだダメだ!!クリームは口に入った瞬間溶けねば、フィオーレ一のケーキとは言えん!!」
それなのに、俺たちのケーキ作りは肝心なところで止まっている。スポンジケーキは4、5回作った辺りで合格が出たが、クリームがなかなか合格が出ない。それもそのはず、エルザさんのこだわりが行きすぎていて、はっきり言って素人の手に負えないレベルになっているからである。
「はいコーチ!!・・・いえ、エルザさん!!」
鬼コーチぶりに思わずウェンディが彼女の呼び方を間違えてしまう始末。なんだか今日一日だけで相当かき混ぜるのがうまくなった気がするのは気のせいだろうか?
「こんな感じでどうですか?」
個人的にはかなりいい線をいっているものができたと思い、コーチ・・・じゃなくてエルザさんに許可を求める。彼女はボールに入ったクリームをスプーンで一口掬うと、口の中へと入れる。
「う~ん♪いいとろけ具合だ!!このマキシマムスイートストロベリーとのマッチングが楽しみだぁ」
ようやくOKが出て一安心。それから一度やったようにスポンジケーキをスライスしてからクリームでコーティングしていく。そしてクリームを真ん中に絞ってその上にイチゴをトッピングすれば・・・
「「完成!!」」
今度こそ・・・今度こそ出来上がったケーキを見てハイタッチする俺とウェンディ。その出来上がった至極の一品を、待ちわびていたであろう少女の前へと置く。
「さぁアスカ。食べてくれ」
「いただきま~す!!」
フォークも用意していたのだが、よほど美味しそうだったのか両手でケーキを掴み口元へと運ぶアスカちゃん。しかし、ここであるアクシデントが起きる。
大きく口を開き、ケーキにかじりつこうとしているアスカちゃん。だが、クリームが彼女の口に入るよりも早く溶け始めてしまったのだ。
「とろけるのが少し早かったか!?」
「早すぎだろ!!」
予想外のことに顔を強張らせるエルザさんとリリー。だって口に入れた瞬間に溶けるのだから、要は人肌の温度で溶け始めるということなのだ。まさか手で持つとは思ってなかったから、フォークから口に移った瞬間にとろけるようにしたはずだったんだけど・・・読みが浅かったようだ。
「あ~ん」
だがアスカちゃんはそんなことなど気にもしないでケーキを頬張る。
「おいしい~!!」
そしてすぐさま発せられるその言葉。それを聞いて作った俺たちは安堵した後、嬉しくて笑顔になる。
「よかったぁ、喜んでもらえて」
「大成功だね」
「よかったね、アスカちゃん」
ホッと一安心の俺とウェンディ。だけど、その後ろからものすごい暗いオーラが漂ってきていることに気付いたメンバーはすぐにそちらに視線を向ける。
「そうか・・・美味しかったか・・・そっか・・・さぞ美味しかったろうな・・・」
最初のリリーの予想通り、自分が食べたかっただけだったらしいエルザさん。喜ぶアスカちゃんとは正反対に、それを食べれなかった彼女は項垂れており、周りの皆さんは苦笑いすることしかできなかった。
「元気出してくださいよエルザさん」
「そうですよ。アスカちゃんに喜んでもらえてよかったじゃないですか」
余っている生クリームが入っているボールの脇で寂しそうな、悲しそうな態度を取るエルザさん。その頃後ろでは帰ってきたアルザックさんたちがアスカちゃんとお話ししていたのだが、そちらに構っている余裕が全くない。
「しょうがないわね。これで我慢しなさいよ」
ダークサイドに落ちかけているエルザさんを見かねたシャルルがカウンターから何かを取り出す。その手に握られているのは、万が一のために準備されてきた缶詰めだった。
「フルーツケーキなんてのもありじゃないかな~?」
「そうですよ!!俺とウェンディで作りますから」
「任せてください!!」
見てみたところ色々な種類の缶詰めがあるみたいだし、スポンジケーキと生クリームはさっきのと同じものを使う。これはこれでおいしいケーキになるのではないかな?
「そこまで言うなら・・・」
まだ立ち直れていないエルザさんは、しぶしぶといった感じでカウンターへと腰かける。俺とウェンディは落ち込んでいる彼女を元気付けるためにと急いでケーキを作っていく。
「はい、どうぞ」
「いただきます」
アスカちゃんが食べたものと同じサイズにしたフルーツケーキ。エルザさんはそれを一口頬張ると、暗さが色濃く出ていた表情から一転し、パッと明るくなる。
「うまいぞ!!シリル!!ウェンディ!!」
よほど美味しかったらしく手を休ませることなくケーキに食い付くエルザさん。それを見て俺たちは、なんだか幸せな気分になった。
「ケーキ屋さんの人たちって、こんな気持ちなのかな?」
「きっとそうだよ」
食べてくれる人が笑顔になる。それこそが作った人にとっては一番の幸せなのだと感じた一日。なんだかパティシエにでもなったかのような気分で過ごした今日は、いつもとは違い、新鮮な気持ちでいられたのだった。
後書き
いかがだったでしょうか。
ウェンディとシリルの家庭的な一面が出た今回の話。だけど、おかげでシリルの女子力が上がっている気もするのがなんともいえない・・・
次はジュビアが主役だったお話の予定です。
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