ランス ~another story~
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第3章 リーザス陥落
第84話 ノース・サウス二正面作戦
カースAの討伐に成功した解放軍の一行。
これで、『デンの町も大丈夫だ』と思えるのだが、実際の所はまだ油断は出来ない。
それは、カースAの性質にあった。
その無限とも思える食欲。それは、本体である頭を失ったとしても、本能が細胞の隅々にまで行き渡っているかの様に、獲物を求め、動くのだ。
通常であれば身体の末端にまで命令を下しているだろう、頭部を失えば、機能を停止するのだが……、特質と言える。元々原型を留めていない様な身体だから、成せるのだろう、と言われており、まだ解明は出来ていない。
と言う訳で、デンの住人達に声をかけているのはユーリ。
「残った触手には十分に注意してくれ。……本体が生きていた時に比べれば、力も遥かに失っているから 致死性のある様な攻撃はしてこないだろうが……、所謂、女の子だったら色々と厄介なんだ」
「おう! 判った!!」
「ありがとなぁ!!」
カースAの被害から守ってくれた事実。
それが、ユーリの町での株を上げる切欠になったのは言うまでもない事実である。ランスは色々とうるさかったのだが、正直な所 男ばかりの町だから、と言う理由で そこまでしつこくはなかった。
「ふぅ……、それで ランスのヤツは何処に行ったんだ? 途中から静かになったが」
「さぁ? 『男ばっかりでむさい』とだけ言って、どっかに言ったわ。マリアやシィルちゃんを連れてね」
ユーリの隣で、ため息を吐いて、説明してくれたのは志津香だ。
このメンバーの中で ランスに言われてついて行くのは 限られてくる。ランスも(認めてはいないものの)それを判っている様だったから、2人に絞った様だ。
あとは単純に、町の住人(男)に色々と説明するのはメンドくさい、ユーリの仕事(勝手に) と言う事もあるだろう。
「……マリアがついて行くのに、よく黙認したな? 志津香」
マリアは、志津香にとって 親友だと言う事は周知の事実。付き合いの始まりは、ユーリの方が早かったが、幼き日より、育んできた時間を共に過ごした間柄では、カスタムの四魔女の皆の方が遥かに長い。
だからこそ、ランスの毒牙からは…… といつも考えている(口に出している)から、止めなかった事に意外性をユーリは感じていた。
「……マリアも子供じゃないんだから。自分の事は自分で決めるでしょ。それに、シィルちゃん1人じゃ大変そうなのも事実だし」
「それもそうだな」
ユーリは志津香の返答を聞いて 苦笑いをしていた。自分の事は疎い癖に、他人の事になると、それなりに発揮する感性。マリアの想いも少なからず知っている様子なのを見て、イラッと来たのは 志津香だが……、そこは静観した。
「ユーリさん」
そんな時、周囲の確認をしに 動いてくれていたかなみが戻ってきた。
「周囲を確認しましたが、カースAの残滓は 町の戦士達が片付けてくれているみたいです。……個体の1つ1つが相手であれば、如何に武器が通じにくくても問題ない様です」
「そうか。ありがとな。かなみ」
「いえ、大丈夫です」
す……っと、頭を下げて笑顔でそう言うかなみ。
正直な所 ユーリにはまだまだ休んでもらいたい気持ちもあった。デンに来た時は戦闘があるなど考えても無かったのに、結果として 大規模な討伐戦になってしまったのだ。だから、少しでも気休めでも、と想い率先して確認をして回ったのだ。
「お疲れ様。かなみ。わたしからも、礼を言うわ。……あんなのに、絡まれたくないからね」「ぅ……」
志津香も軽く苦笑いをしつつ、そう言う。
『絡まれたくない』と言う言葉は聞こえた様で、傍にいたアテンは、カースAに絡みつかれた事を軽く思い出してしまっていた様で、背筋をぞわっ…… と震わせていた。
因みに、同じく被害者であろう筈の、ジュリアは……。
『ジュリアちゃんも頑張ったよ~~♪』
『トマトだって、ですかねー! レンゴク・トマト! 今日も絶好調ですかねー!』
トマトとはしゃいでいる様子で、全く気にした様は無かったりする。
それなりの討伐戦の後に、はしゃげる所を見ると……案外只者じゃないのかもしれない……、と感じるのはユーリだった。
「え、えへへ。うん。大丈夫よ、志津香。忍者だから、身軽だしね?」
「ふふふ」
お礼を言ってくれた事が嬉しく、頭を掻きながら照れるかなみ。そんなかなみを見て微笑む志津香。
安心出来る皆を見るだけで、十分気が休まる……と言うものだ。随分と殊勲な男である。こういう面に置いては。
――もう少し、気づいて欲しい事があるんだけど……。
と、誰とは言わない、言う必要がないと思うが、兎も角不特定多数が 感じていたのだった。
「かなみさん。少し、怪我してますね。回復しておきます」
「あ、ありがとう。クルックーさん」
常にマイペースの彼女も……心の何処かでは想っている事だろう。
でも、クルックーもある意味ユーリ並に鈍い。――……自分の心については。
「さて、そろそろ 行こうか。……娼館の方にも顔を出してな」
「判りました!」
「判りました」
「ええ」
遊んでいるジュリアやトマトを引き連れて、一行は戻っていったのだった。
こうして、デンの町の戦いは幕を閉じた……と、思ったのだが、まだ終わってなかった。
いろんな意味で厄介な事が起きていたのだ。――……ランスの方で。
それは、ランス達の所での事。
「いやー、やるわねー? いかすわぁ、ぼーや」
「がははは! 当然だ。オレ様なのだから! と言うより、この気持ち悪いヤツは、さっきとどめをさした筈なのに、なんでうねっているのだ?」
それは、突然の再会。
正直な所、ユーリにとっても、ランスにとっても厄介な人物と認定されていた者が、身動きを取れない状態になっていたのだ。
そう、カースAの残滓、残骸。
塵も積もればなんとやら~……と言う事で 本能の赴くままに貪る――と言えば、物騒でグロテクスだといえるのだが、実際はそうではない。塵も積もれば厄介になる。とある仕事の絡みでこの町に来ていた者の足にまとわりついた様だ。
かなりの量の触手が足に絡みつき、身動きが取れない様子。
「おーい、おいおーい。こっち、まだ残ってるわよーん? ぼーやの腕を見込んで、退治してもらいたいんだけどー?」
ランス達がやっつけたのは、周囲に群がっていた触手のみであり、足にまとわりついた触手には手を出してはない。勿論――狙ったのは言うまでもない事だろう。
「ぐふふ……、さぁぁて? どこかなぁ~、見えないぞ~~?」
「あ、あら? そういうハラなの。……お金?」
無料じゃ動かない、と言っているのは一目瞭然であった為、交渉に入ろうとした……のだが。
「ノー」
ランスは、流暢な発音で否定をして、首を左右にふる。
「判った、デートするとか?」
「ノーノー。安心しろ、ネカイおねーさんに、対価を払えなんて言わん」
「あ、あっちゃー……、うそつきの顔だわ……」
ランスの表情を見て、そう呟くのは――そう、《ネカイ》である。
もう少し、遅れてこの街に到着をしていれば、捕まる様な事も無かったのだが……、それは彼女の不運だろう。
「嘘じゃないぞ。こっちが勝手にいただくだけだからな! がははー、身動きが取れんネカイなど、レアじゃないか!」
「あ、やっ……!!」
手をわきわき、とさせながら近づくランス。
勿論、この場所にいるのは2人だけじゃない。
「ら、ランスさまぁ、可哀想ですよ…… あの触手は、とっても気持ち悪そうですし……」
「そーよ! 動けない女の子にイタズラするなんて、サイテー!」
シィルとマリアの批難、一緒に来ていた2人である。
「がははは! オレ様が助けてやったのだから、そのお礼を貰うだけなのだ。なーんにも間違えた事はしてないではないか!」
こうなってしまったランスを止めれる様な者は誰ひとりとしていない。――いや、ユーリや志津香を除いたら、無理だ。
「それよりも、まだまだ、ウネウネした奴らが後ろにいるぞ? シィル。マリア」
「うげっ!?」
「きゃ、きゃあっ」
丁度シィルとマリアを狙ったであろう、触手達が集まってきていたのだ。視覚的にも十分すぎる程、気持ち悪く生理的嫌悪感が強い。
チューリップを使おうにもかなり接近されてしまっているから、難しいから、シィルの魔法を頼り、距離を取ろうと奮戦した。幾ら本体が消滅してかなり弱っているとは言え、炎の魔法を得意とするシィルだから、炎に耐性がある触手にはやはり苦戦は必至だった。
「がははは~、しっかりやれよ~~、って訳で、頂こうかな。がはは」
「ちょ、ちょっと! ノー! NG、わたし、それNGだから! と言うより、彼女達、心配じゃないの!?」
「がははは。捕まったとしても、今のネカイの様に身動き取れない程度で、イジメられる程度だ。まったくもって、問題なーし!」
「そ、その間に、ぼーやみたいな男たちに彼女達が襲われちゃったら~?」
「速攻で殺すから、問題なーし!」
「あ、あははは……」
本当に問題ない様子だ。とても良い笑顔だから。
「で、でも ほんと、NGだから! 事務所的にっ……!」
「は? 事務所?」
「わ、わたし こう見えて事務所に所属してんのよねー、キース事務所、ってとこ」
「……って、それ冒険者ギルドだろうが。まぁ、事務所と言えばそうだが、それにあのハゲがなんだというのだ。萎えるような事抜かすな」
ネカイはどうやら、ギルドに入った様だ。それは判ったが、キースがそんなNGを出すとは思えないし、何より キースのNGは ランスには通じない。と言うより 誰にも通じないだろう。巫山戯て色々な事を言ってる男だから。
「な、萎えていいのよ?」
「そーんな訳にはいくか。散々生殺ししておいて」
「ひゃっ……!」
褐色の肌、黒光りするネカイの尻を撫で回すランス。
「ほう……ほほう~。よいぞ、よいではないか、やーーっと、好きに触れるわ」
「っ、ぅ………」
眉を潜めて、ネカイが身体を振るが、まるで解けない。足に絡んだ触手は思いの外多い集合体の様で、まるで意味を成さない様だ。
「がははは、無駄無駄。では、更に堪能するぞ~♪」
「あ……!」
指に力をいれた瞬間、ネカイに反応が強くあり、更に興奮させたランスは、タイツの上から揉みしだく。
「ほほほほ~、良い感触だ。さてさて、こっちはどうかなぁ~?」
「ひゃっ……!?」
くにゅっ、と更に一段階柔らかい秘部に指先を沈めて、そのまま 嬲るランス。まだ直接触れている訳ではないのだが、それでも弾力が強くあって、ランスは更に興奮させる。
「ちょ、そ、そこはだめだって……!」
「この期に及んで、何をおぼこいことを。いい加減観念しろ」
「う……で、でもねぇ……ほら、前みたいに、手。ううん、口とか胸とかで、気持ちよーくさせてあげるわよ??」
「いいや、却下だ却下! オレ様は好き勝手にやりたいのだー」
うひょひょひょ~~と奇声をあげながら、今度こそ ランスは いざ 本番! と下半身を露出させ、飛びかかろうとしたその瞬間だ。
「火爆破」
「うぎゃちゃぁぁぁぁ!!」
突如、ネカイを飛び越えて、炎の塊が襲来。
清々しいまでのカウンター、鮮やかな放物線を描きながら、ランスは吹き飛んでいった。
「やれやれ……、目的を違えるなっての。いや、ランスだから仕方がないか……。動けない状態のネカイがいたら」
「あ、あははは~ やっほー? 久しぶりねん、ユーリ?」
両足にまとわりついているカースAの触手を剥ぎ取って、投げると。
「氷の矢」
志津香の魔法が直撃。完全に凍ったカースAの触手は 何も動かなくなった。ナイス・コンビネーションである。
当然ながら、ランスは起き上がると同時に志津香に詰め寄った。ランスの魔抗値もそれなりに上昇気味なのである。……志津香の魔法も上昇していっているから、何とも言えないが。
「ぐぬぬぬ……! 志津香、よくもやったなぁ! 今日という今日は、貴様を抱いてやるぞ!!」
「馬鹿言ってんじゃないわよ。身動き取れない女の子になんて、さいてー」
「マリアと同じ事を! オレ様は助けてやるのだから、そのお礼をいただくだけだ!!」
「ふーん。それは良かったわね。私から渡すわ。魔法の指南として受け取れば?」
「だぁぁぁ! それは攻撃魔法だろうが! はっ!! いかん! ユーリの馬鹿が、ネカイを襲ってしまう!!」
「っ……!?」
そんな事は有り得ない。
が、志津香が少なからず、動揺してしまうのは判るから、その隙に。
「がははは! スキ有りだー! 今日こそ、いただきまーーす!」
「こ、このっ……!」
志津香の手を取り、魔法を撃てなくさせた。勢いのままに押し倒してひん剥こうとしたその時だ。
「……“スリープ”」
「ん……が…… Zzz zzz zzz」
ランスの頭に手を置き、唱えるのは眠りの魔法。炎で肉体的にダメージを与えた後に、眠らせて快復させよう、と言う事だ。――……表向きは、と言う事で。
「ったく……、ちょっと 魔法をかけるのを忘れてたら、これか。ほんっと、底なしだな。ランスは……」
普通は、そう所謂 性行為は 連続していれば……、体力が落ちる。身体が補填しようとする為だろうとされている。子孫を残そうとする機能故に、かなり緻密に作られている人間の機能なのだから、それを使い、消費し続ければ、他の機能そっちのけで 集中してしまう。ランスは別の様子だが、現医学ではそうとされている。
そして……あまり、信じたくはないのだが、色々とあるらしい。その行為はこの世界では……。
「まったくよ……。このバカは。で? やっぱり 掛けるの?」
「まぁな。そんな長々とは出来ないがな。戻らないといけないし」
やれやれ、と首を振りつつユーリは、ランスに向けて 手を翳した。
通常何度も、魔法をかけ続けていたら、耐性が出来る。耐性が出来れば、効力も薄くなるだろう。だが、この魔法は幻覚を使って、強く錯覚させる魔法であり、更に言えば 超一流の魔法使いの直伝のものだから、と言う理由だってあるだろう。
後は、ランスが単純だから更に効果覿面と言う理由もきっとある。
「へぇ~、そーんな事も出来るんだ? ユーリは」
そんな時だ。ネカイがやってきたのは。
「ああ、無事だったか」
「ええ、おかげサマ。どーもねん? ん~お礼……、してあげよっか?」
「いや、大丈夫だ」
苦笑いをしながら、手を翳していた時だ。
がっ! と言う音と共に……、一瞬だけの猶予。それは痛みを堪える為に設けられた刹那の時間帯。一瞬である、と言うのに……何が起きたのかはっきりと判った。
「いっっっ!!??」
「さっさとする!!」
それは、爪先を盛大に踏み抜かれた音。一瞬の猶予があった後、電撃が爪先から身体を貫いた様な痛み。
「な、何すんだよ!」
「うるさいわねっっ!! まだ、しなきゃいけない事、沢山あるんでしょ!!」
盛大に言い争う2人を見て、ネカイは口元に指を当てた。
「ははぁ~ん……、そゆこと……」
ニヤニヤと、妖艶な笑みを見せるネカイ。
「さぁ~て、ユーリ? お礼は 残念ながらフラれちゃったけど~~ 言ったわよね? つぎ会ったらって」
「はぁ?」
ランスに魔法をかけ続け、更に足を摩り、志津香と言い合う、と言う3つの行動を器用にしていた時に、ネカイが言った。
「ほらー、次はユーリの貞操、いただくわね~? ってさ♪ ま、今は盗賊止めて、ギルド所属だけどー。奪っちゃうのもありよね~~? ランスのぼーやに色々とされそうで、怖かったのは事実だしー。助けてくれて、ほんと惚れ直しちゃったのよぉ~?」
ユーリの首に抱きついたネカイ。
ため息を吐くのはユーリだ。以前の事を思い出した様だ。
「………今は止めてくれ。足が痛くなる」
「ふんっ!!」
志津香を抑える様に、先に手を牽制していた。ネカイが妙な事を言い出していた時から、もうお約束だけど、志津香の足には、魔力と殺気の様な気配が集中させていたから。……お約束だといえるのに、回避するのが非常に難しいのが、彼女の足技だ。
素早く動く事には慣れている筈のユーリも回避出来ないのだから、志津香の身体能力には舌を巻く……ユーリ限定な気がするけど。
「あっははっ! そーみたいねん? 可愛いじゃない。あなた」
「っ……、な、なんなのよ。あんたは」
「んー? わたし? わたしは、ユーリの職場仲間、ってとこかしらね?」
和やか……とは言い難いが、志津香に自己紹介を始めるネカイだ。
ランスに色々と魔法をかけている間々に、耳を傾けていたユーリは。
「ん? ああ。入ったのはキースギルドか。……リーザスじゃなくて、自由都市のアイスにまで来てた、って事か」
「ええ、そーよ? 冒険者だって、やりようによっちゃ、儲かりそうだしぃ。も、キースさんの話じゃ、ルイスって人は抜いてるって話」
ネカイが、何やらリングをくるくるとまわしながらそう言っていた。どうやら、チャクラム。彼女の武器の様だ。
「はぁ、ルイスは万年ビリだ。あいつ抜いた所で大した事にはならない、と言いたいが……ネカイは色々とあるからな。ラーク達がいなかったら、直ぐにトップにでそうな気がする」
「ほ~、それはそれは。影のエースに言われちゃあ、光栄よね~♪ ユーリとなら、がっぽり儲けれそうじゃん? 事実、ギルドでの物販充実するとかね~。ユーリグッズも、裏で根回ししないと手に入らないとかなんとか♪ めちゃ、価値があるらしいわよ~? それ、わたしがプロデュースしてあげよっか?」
「……誰にそう言われたのかは、訊かない。どーせ、あのハゲが面白おかしく言ったのわかってるし。何より、断固拒否。――ガチで1回燃やしてみるか、ギルド」
「わーん、それ、困るわー(棒)」
随分と楽しそう? に話をしているユーリを見て、志津香はやはり不機嫌気味。悪い相手ではない、と言う事は判るのだが、どうやら、とある属性を志津香は感じ取った。
つまり、敵に回すのは非常に宜しくない相手。――ロゼやミリと同種。
「ユーリさん。あらかた対応は終わりました……、って、どなたですか?」
カースAの残滓がそれなりに暴れていた様で、リーザス解放軍の皆で散らばって対処していた。大体殲滅出来たので、かなみが戻ってきたのだ。
そこで見かけたのは、ネカイ。
妙にユーリに接近しているのが気になる大人な雰囲気をかなり出している女性。……露出度が高いのも、かなみにとってはかなり気になるポイントだ。10点上昇。
更に、度肝を抜かされる言葉が。
「ユーリの愛人でーす♪」
「……………………」
一瞬、自分の中が真っ白になった気がした。
ユーリが、ため息をして 『何を言ってるんだ?』と否定をしようとした瞬間。
「あ、ああああっ、あいじーーーー……っ!?」
かなみの絶叫が周囲に響き渡ったのだった。
色々とあったが、デンの街での用事は一通り終わりを迎えた。
この戦争が始まって、楽に終える事が出来る様な事は1つもない、とある程度覚悟をしていたのだが……、まさかヘルマン以外にも戦う相手が、それなりの大物と戦う羽目になるとは思ってもなかったのだが……、こちら側の被害がなく終われたのは幸いと言う所だろう。
ネカイの登場で、ユーリにとって色々と頭が痛い事になったのだが、それなりに説明をした所で ある程度は皆わかってくれた様だ。……志津香の足技、かなみが泣き顔、トマトがかなり敏感に反応したが、まぁ 大丈夫だろう。色々と楽しんでいたマリアや、ポーカーフェイスなクルックーは置いといて大丈夫だ。………根掘り葉掘り訊かれて、それなりには疲れた様子だったが。
そして、ネカイもそれとなく一緒に行動する事にした様だった。
ランスはランスで、幻覚魔法をかけたと言うのにも関わらず、娼館でのサービスを受けに行った様だ。
そして、そこでの一言が『……ミリより、変態がいた………』との事。何があったのかは、全員が訊かない事にした。それなりのトラウマになった様で、もう此処を利用する事はなさそうだった。
~オクの町~
一行はその後 ジオの町を通り、そして オクの町へと帰ってきた。
それなりに心配をしていたのであろうか、レイラ達が出迎えてくれている。
「よーす。レイラさん。帰ってきたぞー」
がはは、と笑いながらレイラに手を上げるランス。レイラも笑って応えていた。
「こっちは問題なく終わった。……そちら側には変わった事はないか?」
「ええ。大丈夫よ。まだ目立った動きは無いわ。それにしても、色々と手配してくれた兵士達が揃うみたいだけど……、随分な大軍ね。流石、と言った方がいいかしら」
それは、レイラも舌を巻くほどのもの。
一足先に、ヘクトミリバールが手配してくれていたらしく、もうオクの町に揃っている様だ。カースAの残骸と相手にしたり、ネカイが蒔いた種に苦慮していたりしている内に、到着したとの事。
「がははは! オレ様にかかれば、るろんたを捻り殺すよりも簡単な事だ。一声で集まったぞ? がははは」
ランスは、ランスでいつも通り。
だが、やはりこの男の影響力と言うものは本物だから、そこにも素直に舌を巻くレイラ。
「みたい、ね。流石はリア様の旦那様、って事かしら」
「だぁぁぁ! あいつとはそんなんじゃない!」
「え? でも、婚姻届、出したって訊いたけど?」
「リアが勝手に出しただけだ! オレ様が、1人の女に縛られてたまるか!」
レイラは、本気にはしていないだろう。……ただただ、ランスをからかっている様だ。経験の差、と言うべきだろうか、ランスが『さん』付けで話をしている所を見ても。
「ま、とりあえず 兵士たちの宿も用意してもらうね。部隊編成もしなくちゃならないし……」
「その辺りは大丈夫よ。しっかりとしておくから」
「おお、流石はレイラさんだな」
レイラは、増援部隊については、問題ない、と頷いていた。
だが、背後で愚痴をこぼす者もいた。
「……なんか、私達、普通に軍隊に組み込まれちゃってない? 私、帰りたいんだけど……」
「まーまー、これもツアーの一環だよー。ジュリアと、首都奪還の旅~~、なーんちゃってー」
主に愚痴を言っているのはアテン。
デンの町で助けられたのは良かったのだが……、なし崩し的に、部隊に組み込まれてしまった様だ。魔法力、即ち、戦闘力をそれなりに買われてしまった、と言う事だろう。
「はぁ……(なんか、ますます、めんどくさくなってきた……、ユーリって人とは色々と話して聞いて見たい事、あった程度なのに……)」
ため息が止まらないアテン。
話をしてみたい、と言うユーリに関しては、その強さもそうだが、名前が気になった様だ。
ゼスが誇る?存在。仲間殺しの危険物である、《アニス》をコントロール出来る存在。四天王の千鶴子以外にも、いや、それ以上に上手く扱える事が出来る男と同じ名前なのだ。
『アニスを扱える』それなれば、解放軍も余裕で扱えるだろう、と何故か納得できる程だから。
「(ミラクルとも気が合いそうだったりしたり………、いや 考えるのやめとこ。頭痛くなるわ……)」
ため息を吐きつつも、ジュリアをつれて、オクの町へと入っていった。
~解放軍司令本部~
オクの町に揃った軍勢。
その規模を考えたら、二正面での作戦が十分に決行出来るだろう。
「よしよーし。これで ヘルマンどもをたたきつぶせるぞ! がははは」
兵士の数が集まって、意気揚々のランス。
そこに、レイラが前に出た。
「そうね。募った兵士達が、約2500。解放軍と合わせたら、5000になったわ。北側のゴルトバ将軍の部隊とも合流出来たら、もっと良いんだけど……ノースの北、ヘルマンとリーザスの国境を抑えているみたいだから、なかなか難しいんだけど。あそこも必要だし」
「うむ。……ヘルマン本国からの援軍が押し寄せてきた時の牽制もある程度は必要じゃ」
青の軍が北側を抑えている。完全に安心は出来ないが、堅牢さを考えれば、リーザス軍の中でも随一の部隊。ガード職のエキスパートが揃った部隊だから、信頼は出来るだろう。
「ヘルマン国の情報はまだ入ってません。……ですが、安心は出来ません。警戒は強めておきます」
「うん。……信じてくださいね。絶対、見逃しませんっ」
真知子と優希が力強く答えてくれた。
エクス達の白の軍を合わせてのものだから、更に磨きが掛かっている。2人の能力もどんどん増している様だ。
「信頼出来るよ。……任せた」
ユーリは 2人を見て笑った。
それが、どれほど自分に力をくれるか……。どれだけ 安心出来るか……。
優希は勿論、真知子もそうだ。初めてあったあの日に守られて、助けてもらった日から、一番安心出来る微笑みになったから。
「う、うんっ! 頑張ります! ユーリさん!」
「ふふ。私達は私達の見せ場を作りましょうね」
だからこそ、彼女達も精一杯応える事を約束してくれた。
ランスが聞いてたら、それなりに茶々を入れてくるだろうけれど、生憎聞いて無かったのは、ある意味ラッキーだ。……ランスは部隊を確認(主に女の子を)していたから。
そして、始まる。
「よーし! 直ぐに行くぞ! 準備は良いな?」
ランスの一声に、其々のトップが立ち上がった。
「いつでも」
リックが、己の身体よりも遥かに長い剣を携えて、頷く。
「………待ちわびた」
清十郎が、2本の剣を腰に差し直し、……ぽきり、と指を鳴らせた。
「うん。……僕も大丈夫。助けないと」
「リア様を……、リーザスを……」
メナドとかなみの2人も覚悟を決めている。否、覚悟は元々あった。……改めて、入れ直したのだ。
「いよいよ 本番、ね。……位置的には、まだリーザスが残ってるけど」
「ははは。ほんと落ち着けてるなぁ? 志津香。自分に自分でツッコミ入れてるし。……ま、オレも腕がなるってもんだ」
「お姉ちゃんのサポート、」
「私も、頑張ります。……もう少し、もう少しです」
「チューリップの整備もバッチリ! 大きく吹き飛ばすよー!」
「トマトも、頑張るですかねー!」
カスタム組のメンバー達も気合十分だ。
志津香は、魔力を手に漲らせ、ミリも笑いつつも力が入りにくい身体を奮わせる。隣のミルに気づかれない様に。ミルはそんな姉を見て隣に立つ。ランも鼓舞する様に己の得物の剣の柄を握り締める。マリアも自分の兵器と仲間達を強く信頼し、勝ち以外を考えていない。トマトもそうだ。明るく前向きにとことんまでポジティブ。
「やーれやれ、皆気合十分って感じね~。頼もしい事で」
「私も、頑張ります」
「……神よ」
AL教徒のロゼ、クルックー、セル。
ロゼも、軽口を言ってはいるが、戦争も終盤。……刻一刻と終結に向けて進んでいる事くらいは察している。勝とうが負けようが、近日中に終わるであろう事も。だが、気持ちは大体は一緒だ。クルックーやセルも、信じて疑わない。AL教を、だけではなく 仲間達を。
一部だけを抜擢した。全員が同じ気持ちだ。
そんな皆を見て、ユーリは笑った。
「おにいちゃん……」
「ああ。……大丈夫だ。オレ達は」
傍にいるヒトミ。心配ゆえにいつも通りの笑顔ではいられないが、それでも強く感じる。皆の心強さを。そして、ユーリも勿論だ。
「―――フェリス」
「ああ」
少々前に、呼び出した悪魔フェリス。
まだ、日も昇っている段階だから、心苦しいが それでも引き受けてくれた彼女には感謝だ。ランスに呼ばれるよりはまだ良いだろう、と言う事で呼んだのだ。
「どーせ、ランスのバカに呼ばれると思うし、それに比べたら、何万倍も良い」
「はは……」
フェリスはそう言って、笑っていた。
ランスであれば、戦闘中に暇があったら、色々とやりそうだから、そう思っても仕方がないだろう。ユーリに貰ったメガネもいろんな意味で、フェリスは手放せない。――……どちら側に配置されるか判らないから。
そして、大体の皆の気概を感じ終えた後。
「皆、戦意が高いな。……これなら大丈夫だ」
ユーリは笑いながら、前に出て行った。
「さて、どう配分する? ランス。二手に別れる以上、戦力を考えろよ」
「判っとるわ! そのくらい! ううむ……」
珍しい事ではあるが、今回ばかりは真面目に考えている様だ。
それ程までに、戦闘が大きくなる事を、ランスも重々身にしみている。
そんな時、マリアがレイラの方を見た。
何かのアイコンタクトだろうか? とマリアを見ていた者達は思ったが、それは直ぐに判る事になる。
「ええっと、物は相談なんだけど、ランスくん」
「んん? どうした、レイラさん」
「ランスくんは、私と。……私達親衛隊のメンバー達と一緒に闘ってくれないかな? 私達は、サウスに行くつもり。……あそこは、親衛隊の第二次拠点、とも言われている程、親交があるのよ。……皆、口には出さないけど、正直不安は隠せれてないから」
ランスに近づいて、耳打ちをするのはレイラだ。
「ほほう?」
「皆、ランスくんには感謝してる。君のおかげで、魔人の呪縛から解き放たれたっていってもいいからね。そんな君と背中を合わせて戦えるんなら……、きっと、この子達も更に強くなれるから」
ランスに視線が集まった。親衛隊、金の軍、全員の目は信頼で満ちている様だ。
この戦いで、ここまでの視線を向けられた事はあっただろうか? それも、女の子限定で……。
「ランスにぃー、期待してるおーっ」
「私達も、よろしくお願いします。……魔法部隊、紫の軍もランスさんには期待をしています」
アスカとメルフェイスも同じだった。
リーザス軍の中でも、どちらかといえば少数だが、かなりの精鋭。
蹴散らされてしまったのは、相手が魔人だから、と言う理由が果てしなく大きいだろう。
「がはははは! そーんなに、英雄であるオレ様に期待しているのか。がははは! よーし! そこまでいわれては、やらねば、男が廃ると言うものだ! ……だが」
「もちろん。拒まないコは多いわよ? でも、この子達は結構、強いからねー……?」
「がーーーっはっはっは! 望む所だ。決戦よりも遥かに気合が入ったプレイをしてやろうではないか。全員まんべんなく!!」
トントン拍子で話が決まっていく所を見て、正直眼を白黒させていたユーリだったが、その間に、マリアと志津香に話を細かく聴かされた。
「……成る程な。悪い、随分と気をきかせた様だ」
「だーかーらー、私達の方が果てしなく大きいんだってば。ユーリさんは、気を回しすぎなのー!」
「そうね。……何でもかんでも、ゆぅが背負ってばかりじゃない。1人で無茶させない、って言ったでしょ」
マリアと志津香はそう言って笑った。
そして、話は続く。
「ランス殿。残りの采配じゃが」
「がはははは! てきとーにやっとけ。オレ様は、この娘達に色々と指南しなければならないのだ」
「はっ。では 我ら黒の軍は、ランス殿率いるサウス側へ行きます。地形的に考えても弓兵が多く必要となります故」
バレスの言葉を話半分……それ以下にしか聞いてなかったのだが、ランスは一瞬だけ考えた。バレスの部隊の弓兵達は 確かに優秀だった。高い位置から一方的に嬲り殺しにした ホッホ峽での戦いもそれなりに頭にあるのだから。
「オレ様にかすり傷1つ、つけたら、その髭毟り取るからな」
「心得ました」
と、言う事で大体が決定だ。
「で、ランスはそっち側で良いとして、カスタム組は ノース側に行くわよ? チューリップも地理的に山岳が多いサウスよりは ノースの方が良いし。多少こっちの戦力が少なくなっても、チューリップなら、挽回出来るしー!」
胸を張ってそういうマリア。
「そっちは、ユーリ、清十郎、リック、その3人がいれば、良いだろ。とっとと落としてこい」
無茶苦茶を言う男だと、普通なら思うだろう。
「はぁ………」
「くくく……、それはそれは…… 大分な激戦になるな」
「ええ。少数で一騎当千。道は険しいでしょう。ですが、お2人と一緒なら……」
本気で言っている訳ではないだろう、とユーリはため息。だけど、その気になりかけている2人。それを見て、やや引いてしまう。ランスも例外ではない。
「果てしなく戦闘バカ」
「もう、ランスが無茶言うから、本当に行くかもしれないじゃない! そんな、危ない事させないよ。まだ リーザス国内が残ってるんだから!」
「馬鹿者! ……オレ様よりも、あいつらに言え。流石のオレ様もたった3人でどうにか出来るとは思ってないわ!」
珍しくまともな意見だったから、思わずマリアは笑うのだった。
「じゃあ、シィルちゃん。どうせ、ランスに連れて行かれると思うけど、気をつけて」
「うん。しっかりね。皆とても強いから、皆のことも頼って」
「あ……、はい! 志津香さん、かなみさんっ!」
2人にエールを貰いながら、シィルはランス側に溶け込んでいった。
そして、ゆっくりとレイラがユーリの元へと来た。
「……レイラにも、色々と気を使わせた様だ。すまない」
「いえいえ。コレくらいさせて、って。今回の戦いを制したら、ある程度は余裕とゆとりが出来るわ。その時、一緒に飲みましょ」
「ああ。そうだな」
レイラのウインクを見て、ユーリも笑った。
そして、更に耳打ち。
「ちょ~っと頼みたいんだけどー……、ランスくんのことで」
それだけで、大体察するのはユーリだ。
「ああ。判ってる。終わったら、ランスに魔法は掛けるよ。……皆、陵辱された身だ。まだまだ傷も本当の意味では癒えていないだろ? 戦闘の傷に加えてそれ以上は酷だ」
「……ほんと、流石ね。改めて脱帽だわ。……マリスさんがあなたを心底欲してる理由、よくわかるってものよ」
大きくため息をはくレイラ。
その後は、軽く首を振った。
「もちろん、全員じゃなくたって良いの。確かに、傷口は浅くない。でも、ユーリくんが想ってる以上に、ランスくんの事、気に入ってる子も多いのよ。……汚れた身体を慰めてもらう、って子も少なからずいるわ。逆慰安、って所ね。安心したい様なのよ。だから、こんな大人数の偽記憶を作るのって大変だと思うし、時間もかかるから、少しだけ、お願いするわ。もちろん、全部終わった後にね」
「……ああ。そっちは考えてなかった」
シィルの事を思えば、快く、とは言えないが、気を貼り続けているのだから、それ以上を拒むのは可哀想と言うものだ。それに、何人来ようとも、ランスにとっての一番は……彼女なのは間違いなさそうだから、安心はしていいとも思える。
そして、戦いの火蓋は切って落とされる。未だ――かつてない程の戦いが
~人物紹介~
□ ネカイ・シス(03)
Lv22/24
技能 短剣戦闘 Lv1
キースギルドの新星であるネカイ。
ひょんな事から、デンへと仕事で向かったのだが、そのせいで、カースAに捕まって あわやランスの餌食になりそうだった所を助けられた。解放軍のメンバーを見て 『色々と面白そう』って事で しれっと、中に溶け込んだ模様。――ミリやロゼと良い飲み仲間になるのも時間の問題だろう。色々と意気投合するのも。
因みに、何が? とは言わないが……、ネカイはまだ………と言うのは、ロゼとミリにはあっという間に見抜かれてしまったとの事。
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