ソードアート・オンライン~隻腕の大剣使い~
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第23話家族からの擬似テレパシー
前書き
醤「こんにちは!今回から再び本編のストーリーに突入!」
ラ「現在の最前線は74層、もうすぐクォーターポイントだぜ!」
醤「剣の世界の物語は遂に終盤戦!最新23話、スタート!」
ミラside
2024年10月17日・第47層ライリュウ&ミラ家
デスゲームが始まってからもうすぐ二年が経つ。10日とちょっと前にあたしのお兄ちゃんが誕生日を迎えもう16歳になった。その日はあたしが手作りバースデーケーキを振る舞ってあげたけれどーーーケーキを一口食べた途端に顔中真紫色になって5日も目を覚まさなかった。原因は全くもって解らなかった。
ところで、今目の前にいるお兄ちゃんはどうしているのかというとーーー
「あの中分けのおっさん腹立つ~!食い物の怨みは恐ろしいんだぞキリト~・・・!」
「ちょっと落ち着いてよ~・・・ね?あっ、そうだ!今日クッキー焼いたんだけど食べ「いらん!」・・・」
昼間何かあったのか、すこぶる機嫌が悪い。しかも可愛い妹が焼いたクッキーすら食べようとしないレベルに。クッキーはどちらかと言うと恐怖に染まったような表情ではあるけど。何があったのか尋ねてみると、三時間ほど前ーーー
ライリュウside
同日、第50層・《アルゲード》
ヤバかった。ガチでヤバかった。先日のオレの誕生日、未来の作ったバースデーケーキを一口食べた瞬間5日も意識を手放していた。ひさしぶりの甘い物だったから完全に油断してた、完全に忘れてた。あいつの料理は料理ではない、悪魔の晩餐だということを。もうオレあいつを妹として見れなくなりそうだーーー思い出しただけで背筋が凍る。
気を取り直してさっさとエギルの店に今日の狩りのドロップ品の売却に行こう。それなりに高く買ってくれるはずだ。そう思いながら歩き慣れた通りを抜けて入り慣れたスキンヘッドのぱっと見おっかない商人の店の玄関のドアを開いたらーーーエギルの他に親友の《黒の剣士》もいた。
『ライリュウ』
「よう、エギルのおっさんに真っ黒々すけ。エギル、買取り頼む」
「名前で呼べこの野郎」
《黒の剣士》ことキリト。買取りをエギルに頼んだらキリトが先に来ていた為オレはキリトの次という事になった。それは別に構わないけどーーー何かとてつもない案件の最中みたいだな。
「そういえばライリュウ、お前とミラって《料理スキル》上げてるよな?もし良かったらこれで何か作れないか?」
「上げてるは上げてるけど・・・どれを料理したら良いんだ?」
キリトからの突然のお願い。どうやらエギルに買取りを頼もうとしたアイテムの中に自分じゃ扱えないレア食材があるらしく、オレに料理をしてもらおうと思ったらしい。ひとまずそのレア食材を見せてもらった。その名はーーー
「《ラグーラビットの肉》!?S級食材じゃんか!!」
「どうだ?出来るか・・・?」
S級食材《ラグーラビットの肉》、逃げ足が速く、そもそも滅多に姿を現さない兎型モンスター《ラグーラビット》を倒す事で手に入る超激レア食材。
だがここで問題発生ーーーそれこそ《料理スキル》の熟練度が足りないという超大問題。オレも未来も《料理スキル》は持っている。だがこの《ラグーラビットの肉》を扱えるほどスキル上げをしていない。オレじゃキリトとエギルの期待に応える事は出来ない。未来は超次元どころか別次元すぎる為論外。オレは首を横に降る事しか出来なかった。食べたい、食べたい!オレのこの喉にこの兎の肉を通したいィィィィィィ!!
「キリトくん」
オレの精神が半ば暴走しそうになった瞬間、キリトの肩を軽く叩き声を掛ける女性が現れた。彼女は《閃光》の異名を持つ攻略組最大クラスのギルド、《血盟騎士団》副団長のアスナさん。初めて会った時とは比べ物にならないくらいに明るくなった彼女の後ろにはもう一人、中年の長髪の前髪を中分けにした見慣れない男がいた。
「シェフ捕獲・・・!」
「な、何よ・・・?」
いつの間にかキリトはアスナさんの右手を自分の両手で握っていた。その時アスナさんの後ろにいた男がキリトを睨み付けその手を放させた。
「珍しいなアスナ。こんなごみ溜めに顔を出すなんて」
「ムッ・・・」
何て事言うんだキリト。お前親しきエギルにもーーー間違えた。親しき仲にも礼儀ありって言葉知ってる?確かにエギルの商売は凄くあこぎだけど、ごみ溜めはないだろ。
「もうすぐ次のボス攻略だから、生きてるか確認しに来てあげてるんじゃない」
「フレンドリストに登録してんだから、それくらい解るだろ?」
「生きてるなら良いのよ」
何だこの二人、やけに仲良いな。しかもフレンド登録までしてるし。いつこんな仲良くなったんだ?アスナさんに至ってはフレンドリストじゃなくて直接会いに来てるぞ。
「そんなことより何よ?シェフがどうこうって」
「ああ、そうだった。今《料理スキル》の熟練度ってどの辺?」
そうだ、アスナさんは《料理スキル》を持っていた。彼女は趣味と実益を兼ねて《料理スキル》を上げてるから今はかなり高いはずだ。オレ達が期待を膨らませているとアスナさんはーーーフフンと笑った。つまりーーー
「先週コンプリートしたわ!」
その言葉にオレとキリトとエギルが短く驚きの声をあげた。すごいでしょ?と胸を張って自慢するアスナさんにキリトはすかさず本題に入るため《ラグーラビットの肉》を見せた。これには流石の《閃光》のアスナさんも驚く。
「取引だ。こいつを料理してくれたら、一口食わせてやる」
キリトの頼み方は随分偉そうだな。その頼み方が気に障ったのか、アスナさんがキリトの胸ぐらを掴み至近距離まで顔を寄せてこう言い放つ。
「は・ん・ぶ・ん!」
アスナさんの言い分はもっともである。頼みを聞いて激レアの肉を料理するのにその報酬がたったの一口。キリトにフェアという言葉を辞書で調べて赤線を引いておけと言ってやりたいところだ。キリトも渋々半分という条件を飲み込み、アスナさんも子供のように飛び上がる。
「悪いな。てな訳で、取り引き中止だ」
ーーーは?今コイツナンテ言ッタ?取リ引キーーー中止?
「俺達ダチだよな?・・・な?」
「冗談だよな?オレ達親友だよな?3分の1、4分の1とは言わないからさ。せめて味見くらい・・・」
「感想文を800字以内で書いてきてやるよ」
「そりゃねぇだろ・・・」
今思っていた事がエギルとシンクロした。スタスタと店を出ていくキリトとアスナさんと中年の男をオレは無言で見送った。感想文?フザケルナ。800字以内?書けるモンなら書いてみろ。オレにも頼んだじゃねえか。それなのにこの仕打ちか?いいぜ、オレがその肉料理してやるよ。グツグツと煮えくり返るオレの胃袋で釜茹でにしてやるよ。
まず始めに腰を低く落とします。次に右手を地面に付けます。最後にーーー
「待てやコルァァァァァ!!」
足に力を入れて思いっきり走る!以上、隻腕のクラウチングスタート教室でした。
あの三人は案外早く見つかった。それどころかエギルの店からそれほど離れていない所で立ち止まってた。その中の一人、アスナさんと一緒にいた中年の男は何かを訴えかけていた。内容はーーー
「アスナ様!コイツら自分さえ良ければ良い連中ですよ!こんな奴と関わると録な事がないんです!」
ビーターと関わるな。つまりそういう事だった。その会話が聞こえたのか、周囲のヤジウマがざわめき出す。
「おやおや、随分騒がしいな。中分けのおっさん」
「何だ貴様・・・っ!?」
「ライリュウ・・・」
「ライリュウくん・・・」
どうにも見てられない現状にオレは突入した。中分けのおっさんに声を掛けるとオレの顔を見てーーー一瞬固まった。まるで前にオレに会った事があるかのように。
「おっさんさぁ、先代にちょっかい出すのやめてくんない?」
「先代だと?・・・そうか貴様!」
「《隻腕のドラゴン》ライリュウ。・・・いや、あんたには《二代目ビーター》って名乗った方が良いか?」
オレが発言した先代という単語、それに反応したおっさんの顔はさらに険しくなった。オレが二代目ならキリトは先代、その理屈は通るはずだ。
「二代目だと?ふざけるな!貴様らビーターのせいで!この二年で4000人ものプレイヤーが死んだんだぞ!解ってるのか!」
「ビーターのせい、ねぇ。確かに数十人はそうだろうな」
そうーーーこの二年で4000人のプレイヤーが死んだ。最初の一ヶ月だけでも2000人がこの世から消えた。その時はみんな元ベータテスターが悪いと言っていた。その時はアルゴがガイドブックを作ってくれたから何とかなったけど、その次はキリトのビーター。いつまで経っても元ベータテスターはーーー悪者なんだ。だったらーーー
「ビーターや元ベータテスターが悪者なのは認める。でも攻略じゃその悪者に頼ってるじゃねえか。貶すのか頼るのかどっちかにしろよ。そーゆー中途半端、オレ大嫌いなんだよ」
「なん、だと・・・?」
「あれ?自覚なかったんだ。矛盾って言葉辞書で調べろよ。赤線引いとけ。便利だぜ?辞書」
「貴様、いい加減に「そこまでよ」!?・・・アスナ様?」
アスナさんーーー今良いとこだったんだ。出来れば邪魔しないで欲しかったけどな。
「クラディール、副団長として命令します。ギルド本部に戻りなさい」
アスナさんはそれだけおっさんーーークラディールに命令し、キリトを連れてこの場を去った。オレもこの男から離れよう。こいつからは何かーーー嫌な物を感じる。
******
「嫌な物?何それ?」
「それが解らないんだよ」
未来の言葉には納得出来る返答は出来なかった。自分でも解らない。一つだけ解るのはーーー
「多分、どっかであいつに会った事がある。そんな気がする・・・」
そんな気がするだけ。会ったというよりは、剣を交えたような気もする。ムカつく奴だったら嫌でも思い出すのに。例えばそうだな、オレが12歳の時に留学して清々したけどーーー
【張り合いのある奴がいなくなってつまんなくなった・・・って所かな?竜】
「!?誰だ!?」
「え!?お兄ちゃんも聞こえた!?」
突然声が聞こえた。オレだけじゃない、未来にも聞こえていた。周りにはオレと未来以外誰もいない。誰だ?どこにいる?
【えぇ~忘れちゃった?この声。子供の頃よく勝負挑んだじゃん・・・僕が】
勝負?子供の頃?つーかさっきオレの本名ーーーあっ!
「まさか・・・龍星か!?」
「え!?龍星兄!?」
【あっはっは、やっと思い出した?】
神鳴龍星ーーー神鳴家長男でオレの3つ上の兄貴。幼き頃知能テストを受け、結果IQ218という名探偵の孫すら軽く上回ったバケモノレベルの天才。確か4年前にイギリスのケンブリッジ大学に留学したはずだ。
【解説ありがとう、弟よ】
「解説って何?」
何で心の中まで読んでんだ、お前界○神様?
【界○神様じゃないよ。アーガス社のSAOサーバーにハッキング仕掛けて二人の《ナーヴギア》に声を送ってるだけ。読心というより、謂わば疑似テレパシーだね】
何だ、SAOサーバーにハッキングか。龍星も随分とまあ技術上げたなーーーハッキング?
『SAOサーバーにハッキング!?』
【あはははは!まあそんなに長くは出来ないけどね】
いやそれすごいな!システムを乗っ取って自由に動かせるんだろ!?もはや茅場晶彦越えてんじゃね!?じゃあ全プレイヤーのログアウトは!?それが出来ればこれ以上死者が出ることもーーー
【自由に動かすことは出来ないよ・・・ログアウトも、こっちじゃどうにも出来ない。システムエラーになりそうなプログラムには手が付けられない。時間も限られてるし重要だけ話すよ。まずは・・・】
ログアウトは無理なのかーーーそれじゃあ今まで通り目指せラスボス撃破、攻略を進めるしかないのか。それにしても、重要な事って何だ?何かあったのか?
【遅くなっちゃったけど、16歳の誕生日おめでとう】
ああ、どうもありがとうーーー
「じゃねえだろ!今オレの誕生日関係ないよね!?誕生日っつーかむしろ死にかけたぞ!誕生日が命日になる所だったぞ!未来のバースデーケーキが最後の晩餐になるかと思ったぞ!?」
【そ、それは災難だったね・・・】
「どーゆー意味よそれ!?」
割りと冗談抜きで死にかけたぞ!あれをフィールドで食ってたら絶対死んでた!つーか未来の味覚再生エンジン死んでんのか!
【まあケーキの話はともかく。・・・見たよ、竜の左腕】
『!!』
やっと重要な話に入るかと思ったらーーーオレの左腕の話か。デスゲーム開始の時にアバター解除されて、アバターが現実の身体になって、女性プレイヤーの殆どがネカマで、ーーーオレは隻腕の剣士になって。本当に色々不便だったぜ。
【そこでだ・・・】
まだ言葉は続く。ーーー何だ?何をしようとしてるんだ?
【竜の左腕を・・・再生させた】
左腕のーーー再生?オレの左腕を再生?
「龍星兄それホント!?お兄ちゃんの・・・竜兄の左腕は再生したの!?」
龍星の発言に未来は興奮する。左腕の再生ーーーいや、出来る訳ない。あの通り魔事件の時の傷はもう完全に塞がった。塞がってなくても再生なんて出来る訳ない。変な期待させんなよーーー
【僕が大学で開発した新薬。それを竜の左腕に直接投与し、失った部位を復活させる。実はもう6月に投与自体はしてあるんだ。・・・強いドーピングみたいな副作用もあるけど、それは力のコントロールを覚えればいい】
ーーー次々とよく解らないことが頭に入ってくる。いや、解らなすぎて全く頭に入って来ないけど、ただ解るのはーーー現実のオレの左腕は復活したのか?副作用があるのは納得出来るけどーーー
【全然痛くなかったって言いたいんだろ?それは《メディキュボイド》の影響だよ】
『《メディキュボイド》?』
【医療用VRマシン《メディキュボイド》。現実からの五感を全てシャットダウンし、麻酔なしで手術が出来るっていう、謂わば《ナーヴギア》のセキュリティ超強化版さ。それに竜の《ナーヴギア》を接続したんだ】
つまり、オレの《ナーヴギア》は今《メディキュボイド》とやらに繋がっていて、現実の身体の痛みを感じないようにしてる訳か。なんだかよく解らない事ばかりだけどーーー
「龍星兄は竜兄を助けてたって事でしょ?」
【まあね。竜、お兄ちゃんに感謝しろよ~?】
「はん!誰が誰に感謝するって?」
龍星、お前は昔と全然変わらないな。イカれた発明品作って、その後その発明品が誤作動起こして、ドーピングの副作用なんかもそうだ。最後はどうなるんだっけ?ーーーありがとよ、兄貴。
【・・・そうか。じゃあそろそろ時間だし回線を切断するよ。パパとママも元気にしてるから心配しなくて大丈夫だよ。また通信が出来たら話そう】
「うん!竜兄の身体、よろしくね!」
「・・・厳重に保護しろよ?現実に帰るまでオレの左腕守ってろよ!」
【・・・ああ、約束す・・・】プツン
ーーーこれで完全に、兄とのテレパシーは終わった。兄貴の事は、正直あまり好きじゃなかった。好きと嫌いの中間って所かな。でも、これだけは言えるーーーオレ、家族が恋しいよ。
後書き
えぇ~後半からは完全にオリジナルストーリーになりましたが、やりたいネタも出来たので後悔はないです。
ここでまさかのオリキャラ投入。ライリュウのお兄ちゃんの紹介はフェアリィ・ダンス編まで行ったらやっていきたいと思います。
ご観覧ありがとうございました!次回もお楽しみに!
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