艦隊コレクション 天を眺め続けた駆逐艦
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第一海
「電、早くしないとおいていくわよ」
出撃ドックに響き渡る幼い声。それにこたえるかのように走ってくる一人の少女。見た目は普通なのだが、彼女の背中にあるものから、彼女が普通の存在ではないことが容易に想像することができる。
「電、遅いわよ」
「遅くなって、ごめんなさいなのです」
彼女たちは軍艦の記憶を持ち、軍艦の力を使って災厄と戦っている存在。私たちは彼女たちのことを艦娘と呼んでいる。
「電が遅いなんて珍しいね。何かあったのかい?」
そして、彼女たちがいるここは鎮守府と呼ばれ、艦娘たちは各地にある鎮守府に所属し、暮らしている。その中でもここは彼女たちを艦娘としてではなく、普通の人間と同じように生活できるようにした特別な場所。ほとんどの艦娘とは家と呼び、ここで生活しているのだ。
「・・・実は、髪の毛を結ぶのに時間が掛かってしまったのです」
第一海 接触!
「ひびき~、本当にこっちであってるの?」
彼女たちは、ショートランドより東に20kmほどの海域を航行していた。このあたりの海域は現在、大きな動きはなく、比較的安全ということもあって、駆逐艦のみでの航行も許せることになったのだ。
そして、彼女たちが出撃したのは、いまいるあたりで小規模な敵艦隊が出現したためである。
「姉さん。ちょっと黙ってて貰えないかな」
しかし、敵影は見えず、電探でもその所在をつかめずにいた。
「近海に現れるなんて珍しいわね」
雷の言う通り、泊地近海に深海凄艦が現れるのは本当に久しぶりで、気味が悪いね。
敵艦隊と言っても、編成は駆逐艦が4隻。それほど恐れるものでもないのです。
きっと本隊からのはぐれ部隊に違いない!
「電探に感ありなのです!」
「見つけたわ!」
雷と電の索敵は通常の倍以上だから、間違いないと思う。
「でもおかしいのです。この反応は・・・」
『艦娘だと?』
!!!!
どう言うこと?泊地の電探は深海凄艦の反応を出してたのに、電の電探では艦娘として反応した?
『私は深海凄艦ではないですけど、あなた方の味方でもありませんよ』
「響!雷!」
暁に声を掛けられて我に戻ったけれど、そんな私たちには魚雷が迫っていたのです。魚雷が近づくまで気付かないなんて、違和感を感じてしまうのです。
「その声は綾川ちゃんですよね?何でこんなことするのですか?」
「電?」
電が言った綾川ってあの綾川なのかな?甲型駆逐艦最終型の?
でも計画だけであって、建造はされなかったはず。そうなるとここにいるのは不自然だね。
一体どうなっているんだい?
「電、彼女たちは本当に艦娘なの?」
「はいなのです」
でも、綾川がいるということは他の同型艦もいるということ。そうなってくると脅威だね。
今日の電探の反応は四隻だったということは綾川だけではない。
もう近くまで迫っているかもしれない。そうなって来ると状況は最悪だ。
私たちがとるべきなのは一刻も早くこの海域から離脱すること。
幸いにもここは鎮守府からも近い。
撤退しているところが鎮守府に伝われば支援してもらえるはず。
「綾川ちゃん!何とか言ってほしいのです!!」
『・・・』
あれ?なんか様子がおかしくないかい?
彼女たちに敵対の意思があるならば私たちへの攻撃があれだけのはずがない。
それでも先ほどの魚雷攻撃からは何の攻撃も来ていない。
もしかして!
「みんな、この先に進むよ」
この先に彼女たちが知られたくない何かがあるから私たちを足止めしているに過ぎない?
そう考えれば、彼女たちが攻撃してこないこともわかる。
でも近づくといえば彼女たちも何らかの行動をしてくるはず。
それを見てからでも(本当に敵なのか)判断は遅くはないはず。
「でも、ひびきちゃん。あかつきちゃんといかづちちゃんは中破しているのです!」
「それでもここで確認しておかないといけないことなんだ」
「響姉、それは大事なことなの?」
近海でもまだ知らないところがあるかもしれない。
それがきっと彼女たちが隠していることに違いない。
「響!行くわよ!」
「暁姉!」
「あかつきちゃん!」
いつもなら戻ろうという暁が響きに賛同したことに驚いているようだけど、暁もそれなりに覚悟しているようで、いつも以上に真剣なまなざしであった。
それにより先ほどから静かだった無線から「プツン」と通信が切れる音が聞こえた。
「わかったのです」
この奥にあるのは大戦時に多くの軍艦が沈んだ魔の海域。
でも、そこに集まっているということはそこには絶対何かある。
綾川の行動がそれを絶対のものにしてくれた。
それにしても「人類の味方でもない」か。
「第一艦隊第一水雷戦隊出撃します」
『第六駆逐隊が進撃を始めました』
はぁ~、綾川は失敗したのか。やっぱり第六六駆は信用できないね。
今度は世古にでもやらせるかな。
「撤退するよ!」
綾川は艦娘を攻撃できないけど、世古は攻撃できるからね。
今日みたいなことにはならないね。
「世古!千鶴たちを連れて泊地周辺を警邏して」
『了解です』
さて、綾川の処分はどうするかな。
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