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甲闘戦機 アイアンアームズ

作者:紙裏禮太
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小粒のオパール

 
前書き
 巨大なガイア大陸において、人類が息づき、生活し、巨大な帝国、「ガイア帝国」が出来、既に2000年近くが経とうとしていた。
 大陸暦、それはガイア帝国が成立した年を紀元とし、ガイア憲法にて唯一公式書類に記すことが許された暦である。
 大陸暦1936年。偉大な発明と呼ばれる、二足歩行戦機である「甲闘機」、そして飛行船ができ、ガイア帝国全体にくまなく航路が作られ、ガイア帝国が狭まって、早100年以上が経った。
 しかし、その甲闘機や飛行船を使い、定期輸送をする輸送船を襲う、いわゆる甲賊(あるいは空賊)が現れ始め、飛行船に頼り始めたガイア帝国の経済は徐々に甲賊により、脅かされ始めた。
事態を重く見た帝国議会は、帝国中から腕のあるフリーのパイロットにグレードを付け、「国家甲闘士」として認め、自治体が直接甲闘士と契約し、わざわざ陸軍を出さずとも、速やかにそして、効率的に甲賊退治をする法案が可決された。これが、「甲闘士法」である。
 

 
アレイア砂漠 セリウス方面

 ――砂漠。陽炎揺れる熱砂の平原の中、黒煙を上げつつ鋼鉄の二本脚で歩む甲闘機がある。
「ったく。全く砂漠ってヤツはどこ歩いても同じに見えるぜ。夜は寒いし、コンパスが無ければのたれ死んじまうな。」
俺は、蒸し風呂状態のコクピットで、今から50年前くらいに書かれた地図を開く。
「ふう。あと300キロくらい。ざっくり、2~3日くらいか。防塵フィルターを換えんでも済むかな。・・・しかし、暑いな。」
地図をぱたぱたさせて気休め程度の涼をとった。そして給水槽から水をブリキのマグカップへ汲み口に運ぶ。
「くっそう。タンクの水もエンジンの排熱と日差しででぬるま湯になってやがる。」

アレイア砂漠-セリウス地方 境界
 砂の平地に徐々に草木が混じるようになってきた。どうやら大陸南のセリウス地方へ足を踏み入れたらしい。
「ふぅっ。ようやく依頼があった街へ近くなってきたかな。この古ぼけた地図も捨てたもんじゃ無いな。」
二等甲闘士である俺はセリウス地方の小さな村から、甲賊討伐の依頼を受け、中央のガイア地方からアレイア砂漠を経由して村へ向かった。・・・正直、燃料代と砂漠を渡る際の、防塵フィルター代や、その他諸々の装備で赤字になるので、パスしようと思い、電信で連絡を入れたのだが、それらを持ってくれると、言ってきたので受けることにした。
・・・正直、甘い話だとは思った。

セリウス地方ノクタヴァ村
「お待ちしておりました。チュウイチ=ヤマグチさん。」
甲闘機から降り、村役場へ通された俺は、村長の歓迎をとりあえず受けた。
「待たせたな。村長さん。とりあえず、水、そしてタバコをもらえないか?」
俺は渡されたタバコを口に咥え、火をつける。水は汲んでくるので、後ほど持ってくるとのことだった。
「さすがはセリウス産。タバコが美味い。んで、依頼を詳しく聞かせて貰おうか?」
村長の齢はおよそ50程度。白髪混じりの痩せた褐色の肌の男性。テーブルを挟んで対面しており、俺の方を見据えて話し始めた。
「はい・・・。ここ2年程前より、甲賊の襲撃を受けるようになりまして。」
「この辺りを牛耳る甲賊と言えば、黒鴉団とかいう新興組織だったな。強奪、暴行、拉致の甲賊らしい3本柱をベースに、最近は素早くこの辺を制圧し、凶暴で周辺の甲闘士も手を焼いているとか。」
「ええ、農作物、人手に至るまで奪っていき、村の活気も、富も次第に失っていく次第でして、しかも、甲闘機を抜きにしても、度々村に出て盗みなどを働くのです。」
このとき、ドアをノックする音が部屋に響く。
「村長・・・、お客様への水をお持ちしました。」
お盆の上に水が並々注がれたグラスが乗っかっている。それを持つのは、ロングのブリュネット、おそらく16くらい。この土地の人は褐色の肌が多い。彼女もその例に漏れず、褐色の美しい肌をしている。ただ、その整った表情は曇っている。
「おお、アリシア。お客様に差し上げてください。」
そのアリシアという女性は、俺の前にグラスを置こうとした。
「ああ、いい。直接手渡してくれ。」
「あ、はい。」
直接手渡された、グラスの水を飲み干した。
「ふう。うまい。もう一杯もらえるかな?」
俺は空になったグラスをアリシアに再び手渡した。
「・・・甲賊に狙われる理由が、この村にあるのか?失礼だが、お世辞にもこの村は栄えてるなんて言えないし、特別な産業もあるわけじゃなさそうだ。」
村長の表情が若干明るくなった。
「・・・それがあるんです。」
首をかしげた。
「ある?・・・なんだ?女を売る・・・とか言うなよ。」
「いえ、そんなんじゃありません。実は、3年ほど前より、この村よりさらに南に行ったところで、油脈が見つかりました。」
「油脈っ!?・・・そりゃあたいそうな物じゃ無いか。・・・しかし、3年前なら、既に大手の石油会社が利権を買って、この辺は既に栄えてる筈だが・・・?」
当たり前だ。3年も前に発見された油脈なら、既に掘削施設が出来上がり、営業を開始している。そして、この寂れた街にも関係者、オイルマネーが集まって栄えているはず。
「そうなのです・・・。ですが、油脈の場所が少々厄介でした。」
「厄介?」
「その油脈の場所は、隣村の境界上なのです。」
「境界・・・上・・・か。確かに厄介だな。それで、その隣村と甲賊がどう繋がるんだ?」
「当初は、話し合いで解決できると思ったのですが、油脈の場所、利益が利益なので、1年ほど平行線。そして、3年ほど前、小競り合いから軽い武力衝突が起きて、ケンカ別れをしまして・・・。」
「だから隣村と揉めていると?それで、隣村が雇った甲賊に対抗してくれと?」
「はい・・・。」
「そりゃあ、裁判所にでも相談するんだな。甲賊の排除は前金貰っちまった以上、きっちりやる。が、その油脈の権利云々は知らん。それと依頼料は1000ディル上乗せだな。」
俺は突き放すつもりでも無かったが、依頼料をさらに吹っ掛けた。
油脈の権利云々の事を知らされてなかったからだ。正直気に入らない。
「・・・分かりました。上乗せいたしましょう。」
その時、再びドアをノックする音が聞こえた。
「お水、お持ちしました。」
アリシアが、再び水を持ってきてくれた。
「ああ、ありがとう。」
俺は、直接手渡して貰ったグラスの水を一口飲んで、テーブルに置いた。
「失礼します。」
アリシアはそのまま部屋を去った。
「・・・あの子は、村長の娘さんかい?」
俺は、少しアリシアのことが気になり、聞いてみた。
「いえ、私の子ではありません・・・。彼女は、両親を以前にあった甲賊の襲撃で失ってしまったのです。」
「まぁ、甲賊が幅をきかせてるとこじゃあ、良くある話だな。首都のアルタイルじゃあ、そんな子供が群れをなして、つまんない犯罪を繰り返してその日暮らし・・・、なんてことが日常茶飯事だからな。」
「そうなのですか・・・。やはりアルタイルは怖いところです。しかし、私は、家族の居ない私にとっては、アリシアは娘のような存在なのです。」
「そうか・・・。彼女はまだ恵まれてる方なのかもな。・・・さてと。」
俺は立ち上がり伸びをした。
「チュウイチさん、どちらへ?」
「宿だよ。大体の話も分かったし、機体の整備もしなくちゃな。あちこち砂が入ってて大変なんだよ。」
「そうですか。宿まで車で送りましょうか?」
「いいや、結構だ。この村のことをもう少し知りたいから、歩いて行くさ。」

俺は、村役場を出ようとした。出入り口の縁に寄っかかった男が話しかけてきた。
「おい、よそ者。」
明らかに友好的な話し口では無い。
「・・・何の用だ?」
「俺たちはな、お前のようなよそ者の力を借りないでも、あんな奴ら追っ払える。」
「そうか。その割には、結構荒んでるようだな。見た感じ、お前さんは自警団の人間かい?」
「・・・そうだ。俺たちは数百年前から、この土地を守ってきた。俺たちだけでな!」
「そういうのを時代遅れっていうのさ。お前さんのような人間、うん百人集めたって、甲闘機が群れをなしたら、烏合の衆さ。」
「なんだとっ!?」
俺は胸ぐらを捕まれる。・・・熱くて、無能な男だ。
「・・・放せよ。今、俺は7000ディルの男だぜ?お前さんらでは稼げん金だ。」
「テメェ!」
左頬に拳が一発。流石に至近距離。避けようもないし、なかなか良いパンチだった。吹っ飛んだ。口の中に血の味が滲む。
「気が済んだか?お前さんは丸腰の人間をぶん殴る事ぐらいしかできない。どんな敵が相手でも俺は戦える。金を払ってくれればな。それに、金を払ってくれれば、命だってかけられる。お前さんの数百倍役に立つ自信があるんだぜ?」
俺は血混じりのつばを吐き、立ち上がってその場を去った。男は追ってこなかった。

日中は装備の補給の指示を出し、貨物の整理を行い、なんだかんだで夕方になっていた。俺は、ようやく補給の指示も段落がつき、寂れて砂混じりの街を歩いていた。人もまばら、忘れられた街といった感じ。俺はタバコを吹かしていた。
「つまらない・・・、街だな。酒でも買って帰ろうか。」
と、酒屋へ向かう途中、4~5人くらいの騒がしい男の集まりがあった。
「いいじゃねえか、こっちにつきあえよ。なあ。普段の鬱憤を晴らさせてくれよなあ?」
いかにもな台詞。抵抗する女性は、声を上げない。柄でもないし、気が乗らないのだが、とりあえず声をかけることにした。
「お前さんら、そんな大人数でなにやってんだ?」
一人の男が睨む。
「何やってるのか、わかんねえのか?」
「野郎が4~5人固まって、女をいじめようとしてんだろ?クズ野郎だな。」
俺は煽った。
「ああ?てめえ、俺たちが村を守ってやってる自警団だと解っててやってんのか?」
よくよくみると、男達のジャンパーには自警団のワッペンが縫い付けられていた。
「ああ、解らんね。俺はこの村の人間じゃ無いから、お前達の事なんて、わかんねえな。」
俺は、そのまま腰に差していた45口径を抜いた。多勢に無勢。正直、はったりにも近い。
「て、てめえ!やる気か!?」
男も応戦しようと、懐に手を伸ばそうとした時、
「おい、バカ。やめろ!大きな騒ぎを起こすなって!団長にばれたらタダじゃ済まないぞ!」
別の男がその手を押さえた。押さえられた男は、収まりがつかない顔で、俺に捨て台詞を吐いた。
「ちっくしょう!てめえのその面、覚えたからな!」
男達は引き上げていった。俺は内心、ホッとし、銃を納め、女の方へ向かった。
「・・・あれ?お前さん、村役場にいた・・・」
「アリシア・・・です。あの・・・、ありがとうございました。」
「ほら、いきな。この時間は一人で出歩いちゃいけないよ。」
アリシアを見送る。
「しかし、自警団の奴らか・・・。どこもやさぐれた治安組織はあんなもんだな。」
複雑な気持ちを胸に酒屋に再び足を向け、酒を買い込んだ。

 サトジマ社製二式銀星エンジン。公称出力1800馬力。甲闘機向けのエンジンでは燃費の良い、バランスのとれたエンジンである。エンジン音が借りたガレージに響く。
「うん。調子は良いな。各種武装チェックも良し。吹き上がりも無い。砂も・・・まぁ、大体は取れた。」
ふと腕時計を見る。夜の12時。流石に、このエンジン音は周りに迷惑かと思い、エンジンの火を落とす。
「・・・弾薬チェックして寝ようか。」
弾倉に装填した127mm肩部キャノイック砲の弾頭を磨く。次に頭部の12.7mmの弾帯を確認する。
「弾を用意してくれるのは良いが、一部錆びてるんだよな。その分は磨かなきゃな。」
木箱の上に腰をかけ、ウィスキーのボトルを横に、暫く弾頭の錆を落とす作業をする。
「・・・そこで見てないで、手伝ってくれるのかい?アリシア君?」
暫く陰から見ていた、アリシアを放って置いたが、何とも見られるのは気になるので、声をかけてみた。
アリシアは恥ずかしそうに出てくる。しかしながら、表情は先ほど見た表情と変わらないように見えた。俺の隣に座った。
「どうやらこの村はよそ者が珍しいらしいな。」
「・・・あの、さっきはありがとう。ホントに、あのままさらわれちゃうかと・・・。」
「ああ、お礼なんて良いよ。気が向いただけだしな。サービスって奴だよ。」
話題を変えた。
「・・・お前さんの生い立ち、村長から簡単に聞いたよ。・・・奴らが憎いか?」
アリシアは俯く。暫く沈黙が続くが、軽くうなずいた。
「・・・憎いよ。お父さんと、お母さんが、目の前で・・・!あいつらも、あいつらを差し向けた隣村の人間も・・・!」
「そうか・・・。まあ、全部は無理だが、その憎しみの内、半分は晴らしてやれるかもしれない。」
「・・・。うん。」
「でもまあ、お前さんのような人間を俺は結構見てきた。無茶をするんじゃ無いぞ。もう半分の憎しみは、自分を壊すようなまねをしないことを祈るよ。」
「うん。あの、・・・がんばって・・・ください。」
アリシアは、立ち上がって、ガレージから出て行った。
「・・・まあ、俺が言えた立場でもないんだがね。」
俺はウィスキーの瓶を開け、直接呷った。昼間、殴られた時にできた口の中の傷が染みる。


 次の日、俺は黒烏団の様子を探るために、車を借りようと、村役場へ出向いた。俺が村長の所へ出向こうとすると、昨日のあの男が村長に詰め寄っていた。
「村長!あんな男に頼まなくても、我々自警団だけでどうともできます!あんな男に7000ディルも支払う必要はありません!」
村長が机に向かったまま答える。
「マドア君。君のその勇ましい言葉は聞き飽きた。もう3年。成果は上がってないじゃないか。甲闘機には甲闘機を。君たちの戦いぶりから感じた私なりの結果だよ。さて、君たちはさっさと狐狩りの準備でもしたらどうかね?」
「ぐっ!・・・失礼します!」
マドアと言う名前なのか。と、俺は思った、その矢先。村長室のドアが乱暴に開けられ、マドアが小走りで去って行った。俺はその背中を見て、村長室へ入った。
「朝っぱらから邪魔するぜ。村長。こんな小さな村でも、一枚岩じゃ無いようだな。」
「ええ、お恥ずかしい。彼は自警団の団長でマドアという男なのですが、この村をとても愛してくれていているのですが、どうも頭が固いところがあるようなので・・・。」
「ま、そういうヤツは陸軍に腐るほど居るぜ。自分だけで、部下に目が届かない奴がね。目も合わせたくないがな。・・・そうだ、用事はこんな話では無く、車を借りたいんだが。奴らのアジトと、装備を調べたい。」
「分かりました手配しましょう。」

ノクタヴァ村から40km北 アレイア砂漠境界 荒野  黒鴉団アジト付近

 俺は、黒烏団アジトの側まで来ていた。腰に45口径の拳銃を差し、反射光で気取られないように、双眼鏡で奴らの甲闘機を覗く。
「甲闘機は3機か。一機はグムルか?もう二つは標準のシュミック。・・・甲闘機を3機揃えて整備できるとなると、わりかし大きい甲賊か。・・・陸軍払い下げの機体だな。しかし、旧式のシュミックはともかく、グムルはまだ現役の機体だぞ・・・?」
周りの賊の口を双眼鏡で覗いた。読唇術をできる限りやってみる。
「あしたのひる、むらへなぐりこみだから、しっかりやっとけ」
そう言っているように見える。俺はボトルに入った水を一口水に含んで、すぐ村へ戻った。
おっと、その前に仕掛けをしておかなきゃ。俺は、車のトランクから迫撃砲を取り出す。この位置だ。おそらく気づかないだろう。俺は迫撃砲の砲身に照明弾を装填し、時限装置に繋げ、時計を明日の日の出にセットする。
「おし、大丈夫だろう。」
狙いは明日の日の出。このタイミングは人間が最も油断しやすい時間帯。それに、薄い日の光が余計に狙いづらくさせる。俺は車を村へ走らせた。

ノクタヴァ村 村役場

「っていうわけだ。村長さん。明日の明け方。奇襲を仕掛ける。金の分は働いてみせるよ。」
村長に大体のプランの説明、万が一のプランを話していた。
「分かりました。万が一の際は、私たちがしっかり住民を逃がします。」
俺はタバコを口に咥え、マッチを擦る。
「ま、万が一は無いけどな。一応、リカバリプランが無いと大体の依頼者は不安がるからな。」
タバコに火を着け、ふかして、煙と一緒に大きく息を吐く。先ほどからドアの磨りガラスからちらちら見える影に話しかけた。
「なあ。部屋の外から立ち聞きはどうかと思うんだがね。」
ドアの向こうにいた人物が部屋に入る。
「・・・マドア君か。とにかくそういうことだから、チュウイチ君の邪魔はしないでくれ。」
村長が、マドアの行動を先読みして牽制をする。
「・・・分かっていますよ。私たちは万が一のプランの時に動かさせて貰いますよ。」
マドアの表情が明らかに朝一見た、誰にでもかみつくような表情では無くなっている。マドアは、俺を一瞥して無言で部屋を去った。
「なんか考えてる風な顔だな。アイツ。・・・まあ、万が一は無いんだけどな。」
半分まで灰になったタバコを机の灰皿で捻じ消し、村長室から去った。その姿をマドアが見つめていた。


ノクタヴァ村

 俺は昼食をとろうと、近くのレストランにいた。
・・・アリシアだ。アリシアが、ホールの仕事をしていた。眉一つ動かないいつもと同じ表情だが、客が去ったテーブルを拭く姿は熟れた物であった。アリシアは俺に気づいたのか、あるいは単純に客としてなのか、分からないが、オーダーを取りに来た。
「いらっしゃいま・・・、あっ。」
どうやら気づいていなかったらしい。普段の表情以外を初めて見た。
「やあ。こんなところで働いていたのか。」
「え、ええ。村長の家にお邪魔してるだけだと、悪いから・・・。それに・・・」
「それに?」
「動いてた方が気持ちが楽なの。」
「そうか・・・。んじゃあ、ウェイズドビーフのステーキを頼むよ。カクートのジュースも。」
俺は、嫌なことを思い出させたら悪いと思い、オーダーを頼んだ。
「あ、はい。かしこまりました。」
アリシアはオーダーを伝票に書いて、厨房へ走っていった。
「・・・。」

――夜。俺は昼食を済ませた後、ホテルに戻って、軽く仮眠を取っていた。そして機体の最終チェックを行っていた。
「燃料は増槽まではいらんだろうな。多分すぐ決着がつくだろう。キャノイック砲と、頭部の機関砲のチェックは問題なし。・・・あとはMACSとブライヤディッシュ・パルムか。」
俺は左腕部に内蔵された火砲のチェックに入る。砲身はアルタイルで換えた新品だ。弾薬は散弾を装弾した。接近戦での打ち合いでは重宝する。続いて、右掌にある武器に徹甲杭を装弾する。接近戦での究極兵器。一撃でどんな的も屠れる。
「うん、よし。」
俺は燃料の補給も済ませ、時を待つ。

日の出までに狙撃ポイントへ移動を始める。キー・クランクをスターターに差し込んで、目一杯回す。暫く回し続けると、大きな咆哮の後、エンジンが徐々に回転数を上げ、機体後方の排気口から黒い煙が吹き出す。そしてエンジンのウォーミングアップが終わるまで、油圧計を確認する。
「よし。エンジンが目を覚ましたな。各部チェック・・・、脚部ハイドロ異常なし。腕部ハイドロも異常なし。武装もオーケー。・・・行くか。」
鋼鉄の脚は歩み始める。そして空が白み始める。
「・・・もう、夜が明けるな。」
俺はそう呟き、ポイントへ急いだ。

黒鴉団 アジト付近

 夜明けまであと10分程度。狙撃ポイントに移動していた。腕時計を確認する。ほぼ定刻通り。前日の仕掛けと同時に、キャノイック砲をお見舞いして、混乱したところを叩く奇襲戦法を取ることにしたので、何より一撃目が肝要となる。
コクピットでは、紙タバコを吸わないので、嗅ぎタバコにしている。手の甲に少量のタバコを出し、鼻から吸った。一息つく。
「さて。仕事の時間かな。」
キャノイック砲の安全装置を解除する。右肩部に折りたたまれていた砲身が、展開される。そして、コクピットの装弾レバーを引いて、薬室に弾を送り込んだ。

 夜明け。マスターアームを上げ、照準桿を操作し、照準を野ざらしで整備しているシュミックに合わせる。深呼吸をする。大きく吸って、吐く。吸って、吐いた瞬間、迫撃砲の発砲音が乾いた荒野に響いた。そして、その発砲音と同時にキャノイック砲のトリガーを引いた。
程なく、シュミックの胸部に命中し、まもなく炎上、爆発した。
そして打ち出された照明弾は、慌てふためいた黒鴉団の拠点を照らし出していた。

黒鴉団アジト 黒鴉団視点

「何事だ!」
頭目である俺は、奇襲に流石に慌てていた。
「頭目、襲撃です!」
「んなもん、見りゃ分かる!どこからで、どれほどの規模かって聞いてんだよ!」
「それが、分からないのです。照明弾の発砲音と同時で、方位も距離もさっぱり・・・。さっきの砲撃で、シュミック1機がやられました!それに、照明弾でこちらは丸裸です!」
部下の情けなさに歯噛みした。
「泣き言はもういい!俺のグムルは!?」
「はい、いつでも!エンジンスタートも問題ないです!」
「クソッタレ!俺が直接潰しに行ってやる!」

コクピットに入り、強引に機体を動かす。
「野郎・・・、どこにいやがる。なめやがって、ぶっ殺してやる!」
薄暗い中、辺りを見回す。

チュウイチ視点

「よおし、もう一撃!」
すぐに装弾レバーを引く。キャノイック砲の薬室から勢いよく薬莢が飛び出す。二撃目は、おそらく格納庫の中のシュミック。格納庫ごと叩き潰す形で、照準は格納庫へ。おおざっぱに。
「そら!」
トリガーを引く。豪快な発砲音から、間髪入れずにわか作りの格納庫が吹き飛んだ。黒鴉団の連中は慌てて散り散りに逃げていく。
かなり順調だ。が、一つの不安を抱えていた。
「しかし・・・、グムルが見えんな。逃げたか・・・?それに、ボチボチこっちに気付いても良い頃合いだよな。」
俺の心配をエンジンの音が包んでいた。

黒鴉団視点

「いたぞ・・・!」
俺は二撃目のマズルフラッシュを見逃さなかった。
「一機だけか・・・?フフフフフ・・・。たった一機にやられた訳か・・・。」
自身の情けなさと、怒りで笑いが漏れた。
「フフフ・・・。・・・ぶっ殺してやる!!」
グムルをマズルフラッシュのした方面へ走らせた。

チュウイチ視点

「本丸に殴り込むか・・・?」
俺は見えないグムルに不安を感じながらも、アジト内へ進入することにした。
「ん・・・?足音?」
鋼鉄の足音。グムルだ。
「いたな、大将首!」
すぐさま牽制代わりに、背部連装迫撃砲を発射した。

黒鴉団視点

「みいいいつけたぞおおおお!クソッタレ野郎がああ!」
俺は、襲撃した甲闘機へ一直線で向かった。
「そんな攻撃あたらねえんだよ!」
迫撃砲の弾幕を回避し、対甲闘機刀を振りかざす。

チュウイチ視点
「おいおい。まっすぐ来るか?」
流石に馬鹿正直にまっすぐ来られると慌てる。が、頭部の12.7ミリ機関砲で威嚇しつつ距離を取る。あまりに不用意過ぎる。と、思った瞬間、グムルの右手に鉈らしき物が装備されていることに気づいた。
「あいつ・・・。あんなのでやる気か?」
目には目を。なんてつもりは無いが、右手に装備されたブライヤディッシュ・パルムをアクティブ化し、キャノイック砲の狙いを付ける。

黒鴉団視点
「やる気か・・・?おもしれえ!」
鉈を一気に振りかぶった。
「おおおお!」

チュウイチ視点
「振りかぶりやがったな!」
咄嗟に前に出て、体当たりするような形で束の半径内へ機体上半身をねじり込み、振りかぶったままの右肩部に砲口を接触させた。これで鉈の直撃は避けられる。そこから反撃の一撃を浴びせる。
「てええい!」
ゼロ距離射撃。グムルの右肩部から先は、粉々になって吹き飛んだ。その衝撃は、相当な物で、吹き飛んだ右肩部分からオイルが血のように吹き出ていた。機体も漏れ出たオイルの影響か油圧不全をおこし、しゃがんだまま動かなくなった。
「ったく・・・、誘爆しなかっただけありがたく思うんだな。」
背中の信号弾発射筒を操作し、降伏勧告を意味する信号弾を装填し、発射した。

黒鴉団視点
「っちくしょう!」
油圧計を見る。油圧が急激に低下し、機体の姿勢制御すらままならない形になっている。
「ハイドロプレッシャーアラート・・・!くそったれ!」
コクピットにある油圧弁という油圧弁を締め、油圧低下を防ぐ。すると、油圧の低下が一時的に収まる、その瞬間信号弾の光が目に入った。
「白、白、赤・・・。降伏勧告・・・!?な・・・、めやがってえ!今更、戻れるかよ!」
各部の軋みがまるで猛獣の叫びのように響く。そして、片腕をもがれたグムルは再び立ち上がった。

チュウイチ視点
「動くのか・・・?」
流石にうろたえた。あそこまでオイルを失えば機能不全で動かないはず。何があのグムルを動かしているのか、不思議だった。
「とどめを刺すしか無いか・・・!」
その意気を買うわけではないが、こちらも接近戦でカタを付けることにした。

黒鴉団視点
「てああああああ!」
肉弾。まさしくその呼び方が正しかった。体当たりで状況を打開しようとしたのだ。
その後のことは一切頭には無い。

チュウイチ視点
「ブライヤディッシュ・パルムを使わせて貰うぞ!」
右手の平をグムルの胸部に当てるように体当たりを受け止め、操縦桿のトリガーを引く。すると、右手の平に内蔵された徹甲杭が超高速で打ち出される。それをまともに食らったグムルは10m程吹っ飛び、爆散した。俺はため息を一つついた。そしてグムルの残骸を見下ろす。
「ま、食い詰めた軍の脱走兵ってとこだったんだろうな。こいつは。軍に始末料を請求しなきゃな。」
タバコを手の甲にひとつまみ取り出し、鼻から吸った。

主力である甲闘機3機をすべて失った黒烏団。そして逃げていく団員達。もはやかつてのような勢いを取り戻すのは不可能だろう。
俺は村の連中が見えるように、成功の意味が込められた信号弾を高くに撃ち上げた。

ノクタヴァ村 村役場
「ありがとうございました。本当になんとお礼して良いやら・・・」
「礼はいらないよ。金をもらえたんだから、それで良いのさ。あ、散り散りになった奴らが、まだ外をうろついている。気をつけるんだぞ。それじゃ。」
金が詰まったバッグを片手に、村長室を出た。出たところにマドアが立っていた。マドアが口を開く前に俺が話す。
「なんだ、まだ黒鴉団を潰す算段でも立ててるのか。」
マドアは表情を変えずに返す。
「いや、別の算段を立てているさ。」
マドアが立ち去った。
「・・・薄気味悪い。何考えてるんだ、あいつ。」
俺は独り言を呟くと、村役場を出た。村役場を出たところに、アリシアがいた。
「あの・・・、無事に帰ってきて本当に良かった・・・。」
「まあ、あの程度の奴ら、無傷で潰して当たり前だがな。どうだ、気分は?」
アリシアが、目線を逸らす。
「ううん。まだわからないの。気分が晴れるとか、晴れないとか・・・。」
「そうか。ま、時間が解決してくれる。と思うしか無いだろうな。」
俺は、自分の甲闘機の元へ歩き出した。
「あのっ、お礼がしたくて・・・。このペンダントを受け取ってください。・・・さようなら。」
アリシアは、首にかけていたペンダントを俺に手渡し、走り去っていった。
「ああ、ありがとう。元気でな。」
ペンダントは小粒のオパールが一粒あしらわれた物だった。俺はそれを少しの間握りしめ、ズボンのポケットに入れ、ノクタヴァを後にした。


数ヶ月後 グレート・セントラル方面 首都アルタイル
 俺はノクタヴァでの報酬で暫く首都で休暇を取っていた。ガレージのハンモックに横たわりながらラジオを聴き、酒を呷っていた。
「続いてのニュースです。セリウス地方の二つ村の間で発生した紛争ですが、死者行方不明者を多数出し、少年・少女兵まで確認され、膠着状態が続いておりましたが、石油最大手のリディクティブ社が武力介入し、これを収束しました。リディクティブ社は、介入の理由を付近の巨大な油脈を理由と挙げており、これを開発しないのは、帝国しいては人類の発展を妨げるためと発表しております。近々油脈の開発を始め、3年以内に営業掘削を始めるとのことです。続いてのニュースですが・・・」
俺は呆然とした。
「・・・そうか。結局、そうなったんだな。」
ラジオを聞くために起こした上半身を、再びハンモックに委ねた。
「全く、バカなもんだよ。」
俺は、アリシアから貰った、ペンダントをポケットから取り出し見つめる。
氷が溶けかかったグラスに少々残ったウィスキーを呷る。
「今日の酒は苦くなりそう・・・だな。」 
 

 
後書き
とまあ、こんな終わり方になりました。
ここまで読んでくれた方が居るのでしたら、大変拙く、お見苦しい文章になったと思います。
大変申し訳ありませんでした。

話そのものは、西部劇的なモノをイメージして書きました。
こんなので良ければ、ちまちま書いていきたいな。と。

おわり。 
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